↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/68

ミラクル・グッバイ その終

 冷たい風が船の上を吹き抜ける。


 志恩は、海に浮かぶ残骸をただ、見つめる事しか出来なかった…



「志恩、傷に(さわ)るよ」


 船のデッキで、1人静かに海を見詰める志恩の傍に、愛莉が寄り()う。


 先程までは、多くの船客がデッキへと出て来ており、海で起こった爆発の跡を眺めていたが、冬の寒さに皆、部屋へと戻って行った。


 今回の事件を船客には、船内に停めてあった車が炎上したため、急遽、海へ排出し、その後爆発した為に起きた事故と発表。一事はテロだの海難事故だの、パニックになったが、船長の落ち着いた指揮や船員達の素早い動きにより、混乱は直ぐに治まったのだった。


 今、海上には、海上保安庁の船がオーシャンマリーナ号を取り巻き、事故の調査や処理をしている。



「愛莉‥自分の力の無さに、腹が立つよ」

 そう言って、寄り掛かっていた落水防止の柵にガンッガンッと拳をぶつける志恩、それに驚いた愛莉が急いで止めた。


「そんなに自分を責めないで、シェリー先生だって言ってたじゃない、素敵な笑顔で最後はお別れを言ってたって、志恩は普通の高校生なんだよ、怪我だって負ってたんだし、精一杯やったんだって」


 愛莉の言葉に、志恩は心の中で何度も繰り返し叫んでいたのだ。


 ーー違う、俺には力があった。チャンスもあった。俺の甘さや弱さが…



 志恩は思い返す‥

 由依は今日、元の体に戻り人生最良の日を迎え、その後突然、最後の肉親である姉を亡くすと言う不幸に見舞われた。

 部屋に戻って、最初の報告を受けた時、由依は、あまりの事に気を失ってしまった程だ。無理もない、まだ年端も行かぬ少女には、ショックが大き過ぎたのだろう。

 志恩は事件後の事を悩んでいた。由依に本当の事を話すべきか、嘘をついて誤魔化すべきか。シェリーと相談したがやはり、死んだ者は生き返らない、だったらいつまでも隠し通せるものではない、だったら早い段階で正直に話し、それを乗り越えて貰わねばならないと…



 今、この船には、葛城警部補、三上刑事、ヤス刑事が駆け付け乗船し、事件の後処理をしている。

 その後、志恩はドクロが倒れた場所へ戻ったのだったが、ドクロの姿はなく、大量の血痕だけが残されていた。

 葛城には事件のあらましを説明し、それを受け、葛城達が悪徳組とロシアンマフィアを取り調べ、その結果、見付かったのは拳銃等の武器だけだった。結局、銃刀法違反の現行犯の罪で逮捕はしたが、それだけで終わりそうである。


 葛城刑事には、由依のその後に付いて相談とお願いをしておいてある。前に佳澄さんから聞いた話しでは、今まで稼いだお金は、貯金して由依に預けてあるそうだ。期間が短く若かったとしても、殺し屋の稼いだ貯蓄だ、由依が大人になるまでお金には不自由しない額は有るだろう。



 志恩は海上で作業をしている海上保安庁の船の灯りを目に映しながら、ただ佇んで居た。


「くしゅんっ」


 志恩に寄り添う愛莉のくしゃみで志恩は意識を現実に戻した。


「ごめん、風邪引いちゃうね、戻ろうか」


 志恩の言葉に、愛莉は上目遣いに志恩の顔を望み見て「志恩は大丈夫?」と、心配そうに尋ねた。


「ああ、しっかりしないといけないよな。もう大丈夫だ。みんなの所に戻ろう」


 愛莉は寂しげな笑顔を向け頷いた。

「うん」

 志恩は愛莉に肩を借りながら、みんなの待つ部屋へと戻るのだった。





「お帰りなさい、志恩さん」


 部屋へ戻ると、最初に声を掛けて来たのは、笑顔で出迎えた由依の姿であった。


 志恩は一瞬、どう反応していいのか、覚束無(おぼつかな)い態度を取ってしまった。


「あっあぁ、ただいま‥」


 志恩の返事の仕方に、由依は改めて志恩を見詰めて、照れ臭そうに話し出した。


「色々心配掛けちゃってごめんなさい。私、さっきお姉ちゃんに叱られちゃったの」


「えっ?」

 志恩は由依の言葉に戸惑う。


「あっごめんなさい、夢の中でね」

 由依の答えに、志恩はうんうんと頷いた。


「お姉ちゃんに言われたの。私の体にはお姉ちゃんが一緒なんだって。だから、お姉ちゃんから貰ったこの命で、お姉ちゃんの分も幸せに生きた証を残して行くんだって。それと、私が今、挫けたら、周りの人にも心配させて迷惑を掛けてしまうから、しっかりとしなくちゃいけないって」


 由依は、気丈な態度で笑顔を作ってみせた。しかし、志恩には、その瞳の奥に、深い悲しみの涙が隠れているのを見えた気がした…




 それから志恩達は、軽く仮眠を取り、朝を迎えた。

 正午前に船は帰港する予定だったのだが、船での朝食ビュッフェが行われている時には、既に入港準備に取り掛かっていた。


 船を降りる前に、志恩は由依を佳澄が隠れて居た部屋へと案内をし、佳澄の荷物を渡す。

 由依は、その場で佳澄の荷物を確認し、その中で唯一心当たりのある物を見付けた。それは、昔、由依が佳澄にプレゼントした十字架のネックレス。佳澄がいつも無事であるようにと、願いを込めて送った物だ。


「もぉ、御守りなんだから、肌身離さず持っておかないと効果がないのに‥」

 そう言って、由依は十字架を握り締め、泣き崩れるのだった…


 その後、由依は葛城の親戚の家に下宿する形で、田舎の学校に通う事となった。


 悪徳組は、組長がその後暗殺され、若頭が跡を継いだが、弱体化の一途を辿っている。


 佳澄を使っていた暗殺組織は、その後の足取りが掴めないまま、志恩にも接触してくることは無かった。

 しかし、その後、6課の調査で、葛城達が追っている組織と繋がりが有ることが判明したのだが、それ以上は、向こうからの動きがなければ、情報が掴めない状況になっていた。



 志恩は自宅へと帰り、自分の部屋のベッドへ沈む様に倒れ込んだ…

 今は、少しでも気を間明和(まぎらわ)す為に眠りたかったのだ‥


 深い眠りの中、佳澄と由依の笑顔が思い浮かぶのだった…


次回は人物まとめを書いた後、新たな話へと…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。