ミラクル・グッバイ その7
体調不良で遅れてました。
暗く静まり返る部屋の中、背が低く皮と骨だけの老人に見えるが、その眼光は鋭く、暗闇なのに全てが見えているかの如く、目をギョロギョロとうごかしている。
トゥルルルル~トゥルルルル~
「はい」
「俺だ、スカーその後、どうなってる」
「はい、最初の襲撃に失敗してしまい、対象が警備を固めてしまいましたが、次は確実に警備もろとも、対象を消してご覧にいれます」
「今週までに、奴をどうにかせねば、こちらの話が上手く行かぬのだ。早く始末しろっ、いいな」
ピッ プープープー
「ちっ、まさか佳澄がしくじるとは思わなかったぞ。その後、連絡も取れぬし、どうなっておるのか。まあいい、佳澄は私の元でしか生きられぬのだからな、妹の為にも、自分の為にもな‥ おいっドクロ」
暗闇の中、どこに居るのか分からぬ程、静かに溶け込んでいた白人の男。スカーは、何も見えない暗闇の中、まるで明かりが点いているかの如く、ドクロと呼ぶ男に向かって話し掛けた。
「例の仕掛けは上手く出来ているのか」
ドクロと呼ばれた男は、暗闇でもうっすらと分かる白い歯を口元に浮かばせながら笑い。
「勿論です。仕上げは私が直接行って、見届けて参ります」
スカーは満足そうに頷き、一言だけ声にした。
「行け」
「私達はタクシーで行くから、じぁね」
「ちゃんと探して来てね」
「・・・お前らも気を付けてな…ふぅ~なんでこうなるんだろう‥」
昼前に、リサのマンションを後にした志恩達は、
甲斐家に帰ろうとしたとき、愛莉が志恩にクリスマスプレゼントはどうなったのかと聞いたところから始まり、志恩がまだ買っていないことが発覚、志恩が今から買いに行くことになったのだ。
最初、リサも志恩と買い物に行こうとしたのだが、佳澄が狙われてることもあり、志恩は渋々リサに愛莉達と行動を供にすることをお願いしたのだ。
「へぇ~愛莉ちゃんの家って、下町の方なんだね」
タクシーの窓から、リサは街並みを眺めて言った。
「何にもないところですよ」
愛莉が答えると、リサは遠くを見つめるように、
「私の田舎は、山に囲まれた何にもない場所なのよ。だから、こんな都会生まれってだけで憧れちゃうなぁ」
「何言ってるんですか!リサさんはその都会の人達が憧れてる人なんですからね」
「ん~、今一つ実感ないのよね…」
リサの寂しそうな横顔を愛莉は不思議そうに見つめることしか出来なかった。
独り原宿に出てきた志恩は、愛莉が気に入りそうな物を物色しながら、彷徨っていた。
「全く、たかがクリスマスのプレゼントに、どうしてこんな遠くまで来て、苦労しなきゃいけないのか」
ブツブツと文句を言ってはいたが、何とか地元には無さそうな、可愛らしいマフラーと手袋のセットを購入。
「まっ、これで何とか納得して欲しいけどなぁ」
と、少し満足しながら駅へと向かう。
志恩が歩いていると、通り過ぎようとした雑貨店から、とても懐かしさを感じさせるメロディーが‥志恩は気が付くと、雑貨店に入っていた。
メロディーが聴こえた場所は、雑貨店の特設コーナーで、個人が作った1品物などが並べられてある所だった。その中でタバコサイズで木彫りの電動オルゴールが、先程のメロディーを刻んでおり、気が付けば、志恩は2個だけあったその小さなオルゴールを2つとも買っていた。
ーーまぁ誰かにプレゼントすればいいかなーー
などと、特に意識することなく、その場を後にするのだった。
愛莉達は、家の近くでタクシーを降りる。車を降りる所を狙われるのが一番危険と、佳澄からの提案があったからである。
その後、何事も無く家の前まで辿り着き、愛莉とリサは家に入ったが、佳澄は少し家の周りを見てくると1人で動いた。勿論、1人では危険だとリサが同行しようと言ったが、1人の方が動きやすいし、愛莉を1人にしておく方が心配と言われたからである。
佳澄は甲斐家から少し離れ、周りに人気がないのを確認すると、数少ない電話BOXを見つけ中へと滑り込み受話器を上げる。
トゥルルルル~トゥルルルル~
「誰だ」
「連絡遅れました。佳澄です」
「ふっ生きておったか、それで」
「はっ、ターゲットを襲撃中、事故に遇いターゲットを取り逃がしました。連絡手段が破損し、怪我も負っていて連絡が遅れました」
「そうか‥まぁよい。ドクロを次の作戦に動かした。お前も合流して、速やかに始末しろ。次はしくじるなよ」
「はっ、次は必ず」
「よし、明日の朝、必要な装備と指示を持っていかせる」
「はっ」
プープープー
佳澄は、受話器を起くと深く考え込む。その顔には複雑な思いが見え隠れしていた…
「お邪魔しまーす。へぇ~ここが志恩の生まれ育った場所なんだね」
「そんな大した場所じゃないですよ。それにうちの実家は、山と畑と家畜に囲まれた、電車も走ってない場所なんですよ」
「んっ!そうなんだ。ただ、志恩がここで生まれ、学び、育ったんなぁ~って思ってね」
リサは優しい眼差しで言葉を紡ぎ、家の中へと上がった。その横顔を愛莉は、えも言われぬ思いで見送り、心に何かが引っ掛かる気持ちになるのだった。
「あの‥リ、サさん」
「?」
「いえ、別に…」
愛莉はリサに聞きたい事が喉まで出かかったが、どうしても言葉に出来なかった…
それは、今は聞いてはいけない様な、そんな心の叫びを感じたからかもしれない。
愛莉とリサは、リビングでお茶をしながら、佳澄と志恩が戻るのを待った。
真里亜はその日、早目に保育所を出て教会へ行く予定だったのだが、1人の子供の両親がなかなか迎えに来れずに、大幅に遅刻してしまい、保育所でシスターの服に着替えて教会を目指していた。
「もぉーどうて子供のお迎えを忘れちゃうかな。ハァハァ。仕事の方が大事ってねぇ、信じられないわ!ハァハァ」
息も切れ切れに走りながら愚痴を溢す真里亜。そんな彼女の目の前で事故は起きてしまった。
車椅子の少女が横断歩道を渡っていたが、路上の空き缶が車輪に挟まり、横断歩道の真ん中で立往生してしまいあたふたしている。そこへ若者の運転する車がかなりのスピードでクラクションを鳴らしながら突っ込んで来た。
車椅子の少女は焦ってしまい、余計動けなくなっている。車椅子の少女に迫る車、二車線の道でスピードも落とせず、あわや少女にぶつかると思いきや、直前で反対斜線にはみ出し少女をかわした。
しかし、惨事はこのあとだった。
反対車線を走っていた車が、飛び出してきた対向車に驚きハンドルを切り、反対車線へと飛び出したが前方には回避出来ない距離に車椅子の少女の姿が‥
誰もが、車椅子の少女が車に轢かれると思ったその時、全身黒のローブに頭に真っ白のベールを被ったシスターが少女の前に立つと、少女の体を抱え車が衝突する瞬間、物凄い力と早さで車のボンネットを叩き、それと同時にジャンプ、少女を抱えたまま突っ込んで来た車を回転しながら飛び越える。さながら、映画のワンシーンの様に辺りはゆっくり時間が流れたかの如く見えた。
そして、綺麗な着地を決めたシスターは恐怖でしがみつく少女の背中を優しく撫で、ホッとしたのだが、それも束の間。
最初の若者が運転していた車は反対車線のガードレールに突っ込み反対車線を塞いでしまい、反対車線を更に走っていた車がそれを避けきれず、車の後部に接触、ハンドル操作を失いながら着地したばかりのシスターと少女へ襲いかかった。
シスターは少女を自分の胸元へ抱え込み、小さく身構えた。
バシィー
ガシャン
プーーーーーーー
シスターはゆっくりと目を開け後ろを振り返ると、そこには頑丈なガラスにぶつかった車をガラスの反対側から見ているような光景だった。
車はシスターの手前でボンネットを潰して止まっていたのだ。
「お怪我は御座いませんか?シスターマリア」
真里亜は、そう言って手を差し伸べる少年の顔を見たとき、この状況を理解したように口元を緩め、
「あら、ご親切にどうも。勇者シオン」
二人は固く、手を握るのだった。
あと数話、短期間で終わらせます。『今回の話ね』
次回、再開、そして…