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ミラクル・グッバイ その5

※2018.2.13誤字修正。補足、頭に付けたし。

「見つけました、はい、今は警察(さつ)が五月蝿いので、静かに動きます」

「ーーーー」

「へい、わかりやした」





 志恩達3人はランチを済ませ、また、動物達の中へと楽しみに行くのだった。

 午後の最初に訪れたのは、ふれあい広場。ウサギやヤギなど、親しみ易い動物が、放し飼いであちらこちらに見られる。

 餌を売っている小屋で愛莉と佳澄に餌を買って手渡した。

「わぁーい、これあげていいの?楽しそう」

 愛莉は嬉しそうに受け取り、佳澄は「えっ」戸惑いながら受け取る。

 動物の近くに寄って行くと、動物の頭数比べ、今日は入園者の数が少ないせいか、ご飯にありつきたい動物達が餌を持つ愛莉と佳澄に群がってきた。

 愛莉は「ダメダメ、並んで並んで」と動物に話し掛けながら動物達に取り囲まれて行く。

 佳澄は餌の篭を抱き抱えながら立ち尽くしていたので、愛莉に「佳澄さん、座ってご飯あげるんだよ」と勧められ、恐る恐る腰を下ろす。すると足下にはウサギが集まり、肩までリスが駆け登ってくる。

 佳澄は腕を伸ばしながらあたふた固まってしまう。そんな姿を志恩と愛莉は微笑ましく観ていた。

 そして、ウサギが膝を登って腰から、リスは肩から首元へ、潜るように服の中へと入り込む‥「キャッ」「えっ」「あんっ」佳澄の服の中を冒険する動物達、佳澄は愛莉へ顔を向け、かすれるような声で「たったすけて…」と訴えるが、愛莉も動物に揉みくちゃにされ、ヤギが道を塞ぐ。

 志恩は愛莉に「志恩、笑ってないで佳澄さんを助けてあげて」と怒鳴られてしまったので、やれやれと佳澄の傍まで行き、「佳澄さん、大丈夫ですか?」と声を掛けた。

 「あの、ちょっと、これ、服の動物、取って貰えませんか」と言うので、う~んと志恩が悩んでいると「早く!取って、くっ下さい」とせっつかれる。

 志恩は「はいはい」と先ずはウサギを引っ張り出す。

「あっえっちょっと…」

 次に動き回るリスを‥ムニュッと掴む…


「ムニュッ?」


 佳澄はちょっと顔を赤らめながら「そこは違います‥」と冷静に言われ、志恩も動きを止めてしまった。

 志恩が下を見ると、ウサギが黒の二つのお椀の付いた布を(くわ)えており、志恩の手には服の上からでも分かるとても柔らかい感触が…


「このスケベ大将!」 ばしゃっ


 志恩は頭の上に愛莉の餌の篭を逆さまに乗せられ、動物達の群れに呑まれていくのだった‥


 その後は、楽しく愛莉と佳澄は小動物に餌をあげておりましたとさ…



 志恩のお楽しみ事件?から移動し、今度は3人で猛獣エリアに到着。

 しかし、なんと、みんな寝たきり‥

「つまんなーい、全然動かないよ~」

 愛莉は、ガラス越しにドンドン叩くが、分厚いガラスは反応しない…

「しょうがないだろ、みんな暖かい場所の動物なんだから、こんな寒い日になかなか動き回らないよ」

 愛莉はつまらなそうに、頬を膨らませていた。


 ーーしょうがないな、少しサービスしてやるかーー

 志恩は、人から見えない位置に移動すると、(ひょう)に『チャーム』[魅了]の魔法を試みた。モンスターにも効くのだから、動物にも効くよな‥などと安易な考えではあった。

 志恩が、ガラスの前でつまらなそうにしている愛莉の横に並んだ時、魔法の効果が出始める。

 豹は木の根元でそっぽを向いて丸くなっていたが、突然、耳がピンッと立ち、ムクッと立ち上がる。そして、周りをクルッと見渡し志恩を視界に捉えると、スタスタ足早で近付いて来ると、ガラスに立ち上がり「にゅあ~あ」と鳴いた。

 愛莉は、驚きと喜びで面白い顔をしてしまう。


 ーー志恩は豹に3人は大好きな家族、と魔法を送っていたのだーー


 その後、珍しい豹の行動にお客さんが集まりだしたので、寂しがる豹を尻目に愛莉達はその場を後にした。

「なんか、急になついて来て、可愛かったね」

「そうだな、愛莉の事を仲間とでも思ったのかね」

「う~ん、それは喜ぶところなのかな…」

 複雑な顔をする愛莉を見て、志恩と佳澄は笑っていた。


 それから暫くライオンやトラを観ていたが、寒さのためにみんな小さくなっており、観覧者も少なくなっていた。

 途中の休憩所の椅子で3人は休憩を取り、志恩と佳澄はトイレへ行き、愛莉は荷物番をしていた。


「あぁ~あ、あの豹さん以外みんな丸まって動かなかったな~。もっと猛獣らしいのいないのかな」

 愛莉がぶつぶつ愚痴を溢していると……

「そうそう、あんな風にリアルに近くで見ると迫力あるよねぇ‥‥えっ?」

 ベンチに座る愛莉の前方には、2匹のトラがヒタリヒタリと、人間が歩く通路を愛莉に向かって近付いて来ていた。

「なっなんで…」

 愛莉はベンチから落ちそうになるのを寸前で堪え、立ち上がり、後退(あとずさ)りした時、後から「グルルルー」と言ううなり声が聞こえ振り向く、するとそこには立派な(たてがみ)をしたライオンがノソリノソリと近付いていた。


「ヒイッ」


 愛莉は思わず大きな悲鳴を上げそうになるが、口を手で抑えグッと堪えた。そして、左前方のトラと後方のライオンから距離を置こうと、右前方へと後退りしていく。

 静かに動いている為か、向こうもジリジリとしか動かない。

 そして、猛獣から距離を取った時点で、愛莉は一気に走り出す。それに応じて、トラとライオンが走り出した。

 愛莉は、どこか隠れるところを探しながら走り、トイレを見付け、逃げ込もうとしたその時、トイレ横で泣きじゃくる女の子を見付けた。

 愛莉は、トイレの入口を横切り、座り込む女の子を抱き上げ再度走り出しす。しかし、相手は素早い動物、直ぐ様追い詰められてしまった。

 愛莉は女の子を抱き締め「助けて」っと叫び、グッと堪え、トラ攻撃に備えた次の瞬間。


 グガー


 バサッ


 ドスン


 グッと堪えていた愛莉は、襲われることのない状況に薄目を開け、恐る恐る音のする方向を見てみると、トラと愛莉の間に一匹の豹が立ち塞がっていた。

「えっ、キミはさっきの豹ちゃん」

 豹は、愛莉を守る様に、トラを威嚇している。その背中には、トラの攻撃と思われる爪痕を赤く残して…

 豹は必死に威嚇を繰り返し、トラは近付くに近付けずただ吠えていた。

 愛莉は「ありがとう」と、小さく声を掛けながら、豹の背中を見守っている。

 しかし、トラの牽制の爪に豹の脚や体も徐々に傷付いてゆき、愛莉が涙ながらに見守っていると、愛莉の背後から、「グルル~」と唸り声が… 振り返れば、そこには先程のライオンが近付いて来ており、愛莉は女の子を抱き締め祈るのだった…志恩。

 後方から近付くライオンが愛莉目掛け、一気に間合いを詰めるジャンプをした‥次の瞬間、ライオンの真上に人影が走り、ライオンの背中に飛び乗ると同時に、首元へ鋭い一撃、ライオンはその勢いのまま、愛莉の横にダイブするように土煙を出しながら倒れた。

「佳澄さん!」

 ライオンに覆い被さるような姿で、佳澄が体を起こし「危なかった」と立ち上がる。そして、ハッと気が付きトラと豹へと振り返ると、トラは2匹共地面に寝そべっており、豹の(かたわ)らには志恩の姿があった。

 志恩は、佳澄と目を合わせ(うなず)くとその場を後にした。

 その後すぐ、園内放送がけたたましく繰り返される。それは動物が園内に脱走したので、速やかに建物や安全な場所への退去を呼び掛けるものだった。

 園内放送により、動物園は一時パニックの様になったが、すぐに安全が確認されたとの放送が入り、人々は徐々に秩序を取り戻していった。

 志恩達3人は、人々の混乱に乗じて動物園を後にするのだった。






「ちょっと~、今日はこのあとオフなんだから、帰ってもいいでしょ」

「頼むよぉ~お偉いさんとの会食で、ちょこっとお酌をしてくれるだけでいいからさぁ~」

「お・こ・と・わ・りします。そんな事して仕事貰おうとは思いませんからっ!」

「そこを何とかさぁ」

「さようなら、今日は勝手に帰りますから」

「一人で帰ったら、ファンに揉みくちゃにされてパニックなっちゃうよ」

「大丈夫です。慣れてますから」


 バタン…





「凄い人混みだね、はぐれないでね」

 愛莉は志恩と佳澄の手を両手に握りながら人混みに呑まれていく。

「今、放送で安全だって言ってるから、すぐに治まるよ。手を放すなよ」

 志恩、愛莉、佳澄は、動物園から出て来たが、動物園から逃げ惑う人々に巻き込まれ、揉みくちゃになっていた。

「ちょっと…あっ…きゃっ…しっ志恩…」

「うわぁ!あっ愛莉…」



「ふぅ~。人混みは何とか抜けたけど、愛莉達とはぐれちゃったよ。二人は一緒にいるかな…」

 人混みを抜けて、道端の草むらの側に避難した志恩、その背後から‥

「なぁ~に、この人混みは!逆に見つかり難くていいけど、移動しずらいったらありゃしないわ」


 ドンッ 「きゃっ」


「あっすいません」

「いえ、こちらこそ、すいません」

「・・・・」

「・・・・」

「しっシオン?」

「あっアリサ?」


 志恩と亜里沙は人目に付かない場所で、そこに居る訳をお互い話す。

 志恩は謎の女性の素性を調べるために、妹と3人で動物園へ …なぜ動物園なのかは何となく誤魔化しておく… そして、亜里沙は公開録画のコンサートをやり終え、逃げるように帰っているところだと説明。

「でも、こんなところで会うなんてビックリだよねぇ。ところでその妹さんは?」

「あっ忘れてた‥早く探しに行かないと」

「もぉ~」




「ふぅー。何とか抜けたけど、志恩とはぐれちゃったね、佳澄さん」

「そうね、早く合流した方がいいかもしれないわ」

 愛莉は、キョロキョロと辺りを見回しながら志恩を探す。その隣では、佳澄が周りを鋭く警戒していた。

「これだけ人が多いと、全然見つからないし、携帯も通じない。何処か分かりやすい場所に行って、メールだけ打っとくね」

「そうしましょう」

 佳澄は愛莉と繋ぐ手を力強く握り、辺りを警戒しながら愛莉の後を付いて行った。


 人混みを抜け、動物園横の公園へと愛莉達は避難してきた。

「何とか抜けられましたね。志恩には連絡入れておいたんで、暫くすれば来ると思います」

「そう。ゆっくり座って待ちましょうか」

 二人は近くのベンチに腰掛けるが、佳澄は直ぐに立ち上がり厳しい顔をし、愛莉に耳打ちをする。

「いい、愛莉ちゃん。私が合図したら後ろへ逃げて、決して振り返らずに、人の多い場所に逃げて志恩くんと合流してね」

「えっどう言う‥」

 愛莉が言葉を続けようとしたが、ガラの悪い男達が迫って来るのに気が付き、言葉を飲んだ。

「へっへっへ、やっと見付けたぞ、覚悟して貰おうか」

 ガラの悪い男達の先頭に居た男が、佳澄に向かって言葉を投げ掛ける。

 佳澄はジリジリと愛莉を(かば)う形で後退りし、タイミングを見計らい「今よ」と愛莉に合図を送る。愛莉が「でっでも佳澄さんは…」と佳澄の事を気に掛け動きを止めるので、佳澄は「足手まといよっ」と怒鳴る。

 愛莉は一瞬、ビクッと成り、空かさず走り出し、それと同時に佳澄は男達へと向かっていった。

 佳澄は男達の攻撃を右へ左へとかわしながら蹴りや掌底打ちなどで、男達をなぎ倒し、後から羽交い締めにされると、そのまま相手の頭上へと捕まった状態でジャンプをし、相手の腕が離れた瞬間、両膝を相手の延髄へ畳み込みなぎ倒す。

 男達は攻撃にためらい、動きが止まる。佳澄は息を整えながら、相手の出方を待ったその時。

「はい、はい、はい。お嬢ちゃんそこまでだ」

 そう言って、佳澄の背後から男が姿を表す。その腕には…

「佳澄さんごめんなさい。私の事は気にしないで逃げ‥」


 バシッ 「キャッ」


 愛莉の言葉を遮り、男のビンタが飛ぶ。

「ぴーぴー騒ぐんじゃねぇ。おらっ、この(むすめ)がどうなってもいいのか?大人しくしろっ」

 愛莉が捕まる姿を見て、佳澄は下唇を強く噛み締めたが、その力を抜いた時、腕を下ろし攻撃の構えを解くのだった。

 男の蹴りが佳澄の腹にめり込み、佳澄が少し屈むと、今度は拳が飛び、佳澄の体は後方へと吹き飛ぶ。

「止めてー!佳澄さん、私のことは気にしないでっ!」


 「うるせぇー」 バシッ 「キャッ」


「その子に手を出すなっ」

 佳澄が叫ぶ。

 地面に(うつぶ)せる佳澄に男の蹴りが飛び、佳澄は転がる。

 必死に堪え、立とうとする佳澄の髪を男は鷲掴みして引っ張り起こし、殴り始め、佳澄の口から血が飛び散った。

 その姿を見て、愛莉は涙を流し「止めて」と言うが、男達は見向きもしない。愛莉は最後の力を振り絞り叫んだ。


「しおーーん」


 パシッン


 佳澄の顔を殴っていた腕が掴まれ、動きを止める。

「すまん、遅くなった」

 そこに現れたのは、志恩の姿であった。

「やっろうー」

 腕を掴まれた男は、佳澄を鷲掴みしている手を放し、志恩に殴り掛かったが、志恩は掴んでいる腕を自分方へ引っ張り、相手が体勢を崩したタイミングで突き出した顔面へ肘打ちをお見舞いして吹き飛ばした。

「お前ら、たっぷりと礼させて貰うからな、覚悟してろよ」

 志恩が啖呵を切ると、志恩に一発をお見舞された男が立ち上がり「てめぇ、後ろの女がどうなってもいいのか」と叫び、囚われの愛莉を指差す。

 が、そこには呆然と立ち尽くす愛莉とその肩に手を添えるマスクにグラサンにニット帽の怪しい出で立ちの亜里沙が立っていた。

 男は「なっ!」言葉に詰まってしまう。

「何を見ればいいのかな?さぁ、お前ら覚悟は出来てるだろうな」

「たかがクソガキが増えただけだ、野郎共、やっちまえ」

 男達は、一斉に志恩へと襲い掛かった‥



「もしもし葛城さん。はい、悪徳組の奴等ですね。はい、お願いします」


 志恩達は、周りの人が通報した警官達に保護され、近くの警察署に連れて来られ事情聴取をされそうになるが、駆け付けた葛城警部補により、佳澄の手当てをしてもらい釈放された。


 愛莉は佳澄の側で、泣きながら何度も謝っていた。

「ごめんなさい佳澄さん。私のせいでこんなに怪我をさせてしまって…グスッ」

 佳澄は愛莉の頭に手を乗せ、優しく撫でながら、

「いーえ、これは愛莉ちゃんのせいじゃないの。逆に、痛い思いをさせてしまって、私こそごめんなさい」

 そして、佳澄は優しく微笑んだ。


 愛莉は泣き止み落ち着いたところで、思い出したかの様にバッと顔を上げると、志恩の隣に立つ怪しい出で立ちの人物の前へ行き、

「どなたか存じませんが、先程はありがとうございました。あなたは志恩の知り合いの方ですか?」

 亜里沙は、突然の接近に動揺しながら、

「えっえぇ、ちょっとした知り合いかな‥」

「・・・・」

「えっその声‥」

「えっ」

「えっ」

 二人はサングラス越しに見つめ合い…

「もしかして‥


 

次回、愛莉、驚き❗

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