スーパーマンを探して 後編
短目になりました。
この季節は日が落ちるのが早く、既に辺りは暗闇に覆われていた。
車の行き交う大通りから路地裏に入り、志恩は自転車を必死に走らせる。何か嫌な予感が志恩の胸を大きく締め付け、志恩は下唇を強く噛み締め何もなくてくれ…と願いながら。
異世界で何度も体験した自分の直感をこの時志恩は、信じたくなかった。
神田家のマンションに視界に入り近付くにつれ、志恩は居ても立ってもいられなくなり、自転車投げ捨て宙へと舞い、神田家のベランダへと降り立つ。
カーテンは閉められてあったが、中の光が微かに漏れる隙間を見つけ覗く。そこに見えたのは、数人の人影と、胸に包丁が刺さる麻衣の姿であった‥。
大悟は、首をじわじわと絞められながら薄れ行く意識の中で、姉が刺され父がロープを首に巻かれ行くのを見る。しかし強い意思を持って堪えながら、心の中で叫んでいた。
必ずスーパーマンが来る。僕はお兄ちゃんとも約束したんだ、信じるって…
そして意識が無くなる間際、少年は大きな音と男達が倒される姿を感じ取るのであった。
ボンッ
バシャーン
ベランダの窓ガラスが破裂し、カーテンが破片を受け止めながら大きく靡く。部屋の男達が一斉に振り向いた時には、志恩の指先から伸びる光の一線に頭を貫かれ、明、大悟、麻衣を掴んでいた男の頭部が弾ける!スーツ姿の男と棒立ちの巨漢が1人残ったが、志恩の存在を確認すると襲いかかった。
志恩は巨漢の男の腕をかわし、懐に潜り込み、そして一言呟くと男は腹に大穴を空けて壁まで吹き飛んだ。それを見たスーツの男は、恐れおののき、背中を向けて玄関へ駆け出す。が、志恩の魔法により動きを止められ立ち尽くした。
志恩は動くものを全て仕留めた後、急ぎ神田親子の元へと駆け寄り、回復の魔法を唱える。
麻衣は胸に刺さった包丁を抜いた瞬間に反応があったので素早く処置すると命を取り留め、大悟は僅かに息があったので救えた。しかし父親の明が、息を吹き返す事はなかった‥
医師ではない志恩でも、幾多の死を見てきてはいる。多分、首の骨が折れているのだろう。僅かな可能性に掛けて魔法の処置を施すが、この世にない魂を呼び戻す事は出来なかった…
志恩は暫の沈黙に佇んで居たが、直ぐに気を取り直し葛城へと連絡を取る。
その後、葛城達が神田家のマンションを訪れた時、その壮絶な光景に驚きを隠せなかった。
救急隊員に運ばれる子供達に連れ添って志恩が出ていくのを三上巡査が止めようとするが、葛城警部補が三上の手を掴み首を1度左右に振り止める。
葛城には志恩の今の気持ちが理解出来、そして今はそっとするしかない事が分かるのであった。
その後、病院で目を覚ました大悟は、傍らに居た志恩にスーパーマンが助けに来てくれた事を嬉しそうに語ったが、話が父親と姉の事になった時、志恩は掛ける言葉を見つけられず沈黙してしまうのであった…
麻衣は自分が助かった事に余り実感が沸かず、逆にあの夜のことが夢だったのではと現状を把握するのに時間を要した。しかし、徐々に落ち着き話を理解していくと、父親の死を受け止め涙をながし泣きじゃくった。気丈に見えても、まだ14歳の少女なのだから…
後日、葛城達と会った志恩は、先日の1件について語り合う前に冷静さを欠いてしまったことを謝罪する。
大悟と麻衣については、母方の親戚に引き取られる事となり、近々街から離れるそうだ。
神田家を襲った男達は当初の推測通り、田辺と関係を持つ総武一家だった。葛城達は明日、捜査令状を取って乗り込むそうだ。無論、志恩も今回は同行させてもら事にしたが、葛城から手は出さないでくれと釘を刺されてしまう。
当日、幸い試験休みと言うこともあり、志恩は葛城達に昼間から合流することが出来、そのまま総武一家の屋敷へと乗り込んだ。
屋敷は昔風の塀にか困れており、お寺か何かを思わせる雰囲気である。そんな塀を道沿いに辿り、表門へと到着する。入り口はお寺か道場の様に大きくはないが両開きの門構えとなっており、横に1枚扉の出入り口も付いていた。
葛城達は令状を片手にチャイムを押すが一向に反応がない。監視カメラも付いているので此方が分かっているはずなのだが‥
これだけ大きな屋敷なのだから、誰も居ないことはないだろうと、暫く待つがうんともすんとも返答がない。不審に思った葛城は、横の勝手口を押すと扉は内側へと静かに開き、恐る恐る中を覗くが誰の気配も感じなかった。
葛城は中へと入り大きな声で呼び掛けるが何の反応もない。仕方なく玄関まで警官隊を進め、玄関の扉を開き声を掛けようとした瞬間、突然玄関から飛び下がり警官隊へ警戒体制とらせた。
「玄関に死体が転がっている。警戒体制のまま、至急応援要請を行え、この場所を警戒しつつ内部へ2班に別れて探索に入る」
緊張した声で指示を下し、葛城は行動を開始。志恩は葛城に単独行動の許可を貰い、1番に屋敷へと潜入する。
玄関の死体は背後からひと突きで殺されており、素人の仕業には見えない。奥へと進むにつれ、所々で鮮やかに殺された死体が転がっていた。
この時代に、ここまで手際よく重火器を使わずに仕事をこなせるのは、軍隊の特殊部隊しかいないと思われるが、志恩にはもう一つ心当たりがある。そう、異世界のスキルを使った者の犯行である。
志恩は一通り調査したが犯人の気配はなく、警官隊も死体以外、何も手掛かりは見付けられなかった。
総勢24人の死体が発見され、実質総武一家は壊滅した。
その時、ふと志恩は大事な事を思い出した。
志恩は葛城に急いで田辺社長と連絡を取るように言い、葛城もそれを聞いて気付き行動に移る。
しかし時既に遅く、田辺は自宅で死体となって発見された。何の手掛かりも残さずに…
その後、志恩は事件解明のため警視庁第6課へ葛城と供にやって来ていた。
しかし手掛かりはなく、ナイフのみの鮮やかな犯行に行き詰まっていたが、志恩には1つだけ心当たりがあり、その事について葛城と相談をしていた。それは勿論、桜井澄礼の事である。
澄礼はその後消息が分からず、警察でも追って貰っていたが何の手掛かりもない状況であった。
志恩は何の進展のないまま、時間が過ぎてしまうので、1度家に帰ろうと捜査6課を後にし部屋を出てエレベーターへと向かう。
志恩がエレベーターの前に着いたとき、花の甘い嗅いだ事のある匂いを感じ、振り返る。そこには通路を反対方向へと歩く女の後ろ姿。
志恩は叫んだ「スミレ!」
すると、その女は非常階段へと走り出し、志恩は反射的に追い掛けた。女は非常階段の扉を開け中へと逃げ込み志恩も後を追う。
志恩は扉を抜け、女の逃げた先を音を頼りに探る。足音は階段の下から響き、志恩も階段を駆け降りた。
階段を最下層まで降り扉を開けると、そこは地下駐車場となっており、志恩が到着したときには、坂を登るバイクの後ろ姿を見送るしかなかった。
流石に素早い。しかし、なぜ奴はここに居たのか?それに、どうやってあそこまで侵入出来たのか?志恩は悩んでも答えが見当たらず、やはり奴を捕まえなくては… と、決意を新たに持つのだった。
中途半端に終わってしまいました。
次は少し長編でキャラをもっと活用して行きます。
次回、クリスマスの奇跡。