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スーパーマンを探して 前編

謹賀新年。

年末忙しく、全く書けませんでした。年始は少しづつでも書いていくつもりです。

今回は後編で本編と繋げていくので、前編は番外編のような話になってます。すいません。

 外はすっかり冬になり、風が吹くだけで身震いをしてしまう。

 そんな寒空の下、志恩は夕食の買い出しを終え、家路に向かう。今日は愛莉が部活で遅いので、志恩の食事当番であった。何を作ろうか頭の中で整理しながら間もなく家に着くという時、家近くの電信柱の陰で、辺りを見回している小学低学年位の男の子が隠れていた。

 志恩は背後からゆっくりと近付き「どーしたの?」と肩をポンポンと叩いた。

 すると少年は「うわぁー」と叫び声と共に跳ね上がって驚き、その拍子に道の端にある排水溝に落ちてしまい、びしょ濡れになってしまう。

 志恩は「あちゃあ~」と申し訳なさそうに片手で自分の顔を覆い、少年の姿を見つめた。



 その後、志恩は少年を家へと招き入れ、シャワーを使わせ洋服を洗って乾燥機に掛けた。

 少年には自分の昔の服を貸し与え、リビングで温かいココアを飲ませ暖を取らせる。


「ごめんな驚かせちゃって」

 志恩は晩御飯の支度をしながらキッチン越しに少年に声を掛けた。

「別に大丈夫だよ。僕が勝手に驚いただけだから…」

 少年はココアをすすりながら、少し申し訳なさそうにソファーで膝を抱えて座る。

「そうだ、まだ君の名前を聞いてなかったね。俺は甲斐志恩、志恩って呼んでな」

 それを聞き、少年はうつむき加減で応える。

「僕は神田大悟(かんだだいご)

「大悟か良い名前だな。それで大悟、なんであんな所に隠れて居たんだ?」

 志恩の質問に大悟は少し悩んだ表情をしたが、暫く黙った後、意を決した顔をしてから話し出す。

「秘密を守れるなら、志恩に話してあげてもいいけど、誰にも言わないって約束出来る?」

 志恩は少し驚いたが、少年の真剣な表情を見てから「もちろん」と頷いた。

「うんとね、実はこの近くにスーパーマンが隠れ住んで居るんだ」

 少年の言葉に志恩は驚きつつ聞き返した。

「スッスーパーマン?」

 少年は人差し指を1本口に当てて「しーー」と志恩に訴える。

 志恩は口に手を当て、うんうんと頷いてからもう一度少年に尋ねた。

「スーパーマンがこの近所に住んでいるのかい?」

 少年は少し声のトーンを落とし話を続けた。

「そうだよ。僕は2回も見たんだ。夕方だったからハッキリと正体は分からなかったんだけど、道を走りながら突然宙に浮いて飛んで行ったんだ」


「・・・・」

 志恩は言葉を失い、頭を抱えてしまう。


「僕の言ってること信じてないでしょ?」

 大悟は少し不貞腐(ふてくさ)れた顔を志恩に向ける。しかし志恩はそんな大悟に、真面目な顔で応えた。

「いや、俺は信じるよ。その人は事件を解決するために飛んで行ったんだと思うよ」

 大悟は志恩の言葉に笑顔を取り戻す。

「それで大悟は、そのスーパーマンを見つけてどうするんだい?」

「お願いするの。僕のお父さんを助けてもらうんだ」

「大悟のお父さんは何か困っているのかい?」

 大悟は少し落ち込み気味に話を続ける。

「うん、最近お父さんはいつも遅くに帰ってきて、困ったどうしようって、ずっと言ってるの。僕がどうしたのって聞くと、ごめんなってしか言わなくて‥」

 ーー多分、大悟のお父さんは仕事でトラブルを起こして困っているのだろう。だから帰りも遅いのだと予想出来る。しかし仕事のトラブルはスーパーマンでは解決出来そうにないな。

 志恩は大悟の話からそんな事を考えていた。



 ぐぅ~


 そんな時、大悟のお腹が鳴った。

「お腹空いたか?今、うちもご飯作っているんだけど、食べて行くか?」

 志恩の言葉に、大悟はお腹に手を当てて下を向いたが、次に顔を上げると顔を左右に振り。

「うーう、いらない。僕んちでもお姉ちゃんがご飯作ってくれてるから」


 ピーピーピー


 ちょうど乾燥機のタイマーがタイミングよく鳴る。

「よし、洋服も乾いたみたいだし、お兄ちゃんが家まで送ってってやるか」

 そう言って大悟を着替えさせると、志恩は大悟の家まで送って行く。


 大悟を送りながら話を聞くと、大悟の家は志恩の家から10分ほど歩いた先にあるマンションの5階で、父と姉の3人で暮らしている。母親は大悟を産んだときに亡くなっており、姉が母親代わりに食事などの家事をしているそうだ。

 マンションの下まで送ったところで別れようとしたが、遅くなったのでお姉ちゃんに怒られると大悟に懇願され、事情を説明して帰ることとなった。


 ピンポーン


 チャイムを鳴らしてから、大悟はドアの鍵を開けそっと扉を開く。扉の先には1人の少女がエプロン姿で仁王立ちしていた。

「こーらー大悟!こんなに遅くまで、どこで遊んでいたの」

 怒鳴られた大悟が扉を閉じて志恩の背後に隠れる。今度は志恩が仕方なく扉を開くと「こらー」と怒鳴られてしまった。

 少女は怒鳴った扉の向こう側にいる志恩に気が付くと、顔を赤面させあたふたとしてしまう。志恩は申し訳なさそうな顔で扉を開いて、後ろに隠れる大悟と共に玄関に入った。

「すいません、突然おじゃましちゃって」

 志恩の言葉におろおろしながら、少女は応える。

「いえ、こっちこそすいません。大悟かと思ってどなっちゃって」


 少女の名前は神田麻衣。中学2年、志恩の高校の近くにある中学校に通っている。黒髪が肩より少し下まであり、14歳とは思えない程しっかりとした顔つきとしゃべり方である。細身でその歳の女子にしては背がやや高く160は有りそうだ。

 志恩は事情を説明し、大悟を怒らないでやってくれと麻衣に説明し、神田家を後にする。

 志恩は麻衣の顔が少し腫れているのが気になったが、しっかりしてそうな麻衣の振る舞いにそれほど気にする必要はないのかと思う。


 勿論その後、料理をし掛けたままで家を出た志恩は、帰ったとき愛莉に怒られるのであった…




 それから数日経ったある日、志恩が自転車での帰り道、公園の側を通ると公園の奥で数人の女子が何か(たむろ)しているのが見え、気になって自転車を止めた。

 よく見ると、女子達は近くの中学の制服を着ており、1人の少女を数人で足蹴(あしげ)にしている。

「おいっ、何やってんだ」と志恩は叫びながら少女達に駆け寄った。

 少女達は志恩に気が付くと、舌打ちをしながら蜘蛛の子を散らすように走り去り、(うずくま)った少女だけがその場に残され、志恩はその女子中学生に声を掛けた。


「きみ、大丈夫?」


 少女は志恩の言葉を聞き流す様に。

「大丈夫です。気にしないで下さい」

 そう言って顔を上げた時、お互いに声を上げた。


「「あっ」」


 そこに居た女子中学生はこの前出会った大悟の姉の麻衣であった。

 麻衣は少しバツが悪そうな顔で下を向き。

「恥ずかしいところを見られちゃいましたね」

 と、(ほこり)を払いながら立ち上がった。

「どうしてこんな事に‥」

 志恩には元気でしっかり者の麻衣が虐められているとはとうてい思えず、尋ねた。

「私が悪いんでしょうがないんです」


 麻衣の話では父親が汚職をして、今裁判をしており、それがニュースで流れたせいで学校で(いじ)めにあっているそうだ。

 だが、麻衣は父親がそんな事をする人間でないと信じており、だからこそ虐められても気にしてないそうだ。

 志恩は健気(けなげ)な麻衣を救ってやりたいが、人の家庭の事情までは救えないと悔やまれるのであった。


 その日は麻衣と大悟を甲斐家の夕食へ招待し、愛莉にも紹介をした。

「へぇ~、志恩さんと愛莉さんて、同じ学年なのに歳の違う兄妹ってなんか不思議だけど、素敵で羨ましいですね。それに愛莉さんってとっても綺麗だから、一緒に居たら恋人同士に見られて、異性が寄って来なくなっちゃいますねフフ」

「もぉ~麻衣ちゃんはお世辞が上手ねぇ~」

 愛莉はニコニコしながら照れているが、嬉しそうである。

 そんな麻衣に志恩は声を掛ける。

「麻衣ちゃん、気を使わなくていいからね」


 ガツッ


「イタッ」

 テーブルの下で、愛莉の蹴りが志恩の(すね)に炸裂したのであった‥


 楽しい夕食の時間も終わり、後片付けは愛莉に任せ、志恩は麻衣と大悟を送って行く。

 彼らの住むマンションのまで送りながら、道中、志恩は二人に声を掛けた。

「こんなしっかりした子供を育てたお父さんが、汚職とかしてるわけないよ。俺も信じているからさ、麻衣ちゃん」

 そして大悟には耳元で小声で話す。

「スーパーマンにあったら、大悟のお父さんの事をお願いしておくよ」

 すると大悟は笑顔で「うんっ」と返事をした。


 志恩は1人、家に帰る途中、葛城刑事に電話を掛け大悟の父親の事を調べてくれるようにお願いするのだった。






「おいっ!例の件、後始末はついて要るんだろうな?」

「はい。もしもの時も手筈は整っております」

「くれぐれも、こちらまで面倒が来ぬようにな」

「勿論でございます」

「うむ」




 その日、家に帰った大悟と麻衣は、珍しく早く帰って居た父親と鉢合わせする。

「なんだ二人共、こんな遅くに二人して出掛けていたのか?ご飯の支度もしてないようだが」

 父親の珍しく早い帰宅に、二人は驚きの表情を見せる。

「ごめんねお父さん、今日は友達のお家でご飯をご馳走になっていたの。お父さんはご飯食べてないの?だったらすぐに作るけど」

 麻衣は申し訳なさそうに、父親に応える。しかし父親は怒った様子ではなく、真剣な面持(おもも)ちで二人をテーブルに座らせ、暫しの沈黙を作る。

 麻衣は父親が何か大事な話があるのだと察し、父親の言葉を待つが、大悟は父親に何か怒られるのではないかとモジモジ落ち着きのない仕草をしていた。

 父親は気持ちの整理が着いたのか、ゆっくりと話始める。

「麻衣、大悟、お父さんな仕事で大変な事になっているだ。麻衣はテレビとかで理解していると思うが、このままだとお父さんお巡りさんに捕まって、お前達と離れ離れになっちゃうんだ。だけど、お父さんはお前達の事が心配でそんな事にはなりたくない。だけど、本当の事を話すと仕事もお金も全て失って苦労すると思う。それにこの街にも住めなくなってしまうと思う、それでもお前達とは一緒に居られるからそうしたいんだ、どうだ?賛成してくれるか?」

 麻衣は父親の顔をじっと見つめながら目を潤ませ。

「当たり前だよ。私はお父さんの事信じているし、一緒に居られるならどんな場所や家でも構わないよ」

 大悟は怒られた訳ではなかったので少しホッとし、話の内容を理解した訳ではないが、1つだけはハッキリしていた。

「僕もお父さんとお姉ちゃんが居るなら何にもいらないよ!」

 父親は二人の後ろへ回り、両腕で二人を抱き締めながら涙を流すのだった。



 麻衣は次の日から、自信を(みなぎ)らせながら、学校へと通う。いつも麻衣にちょっかいを出しているクラスメイトが、今日も麻衣の机を囲んで嫌がらせの言葉を突き付けて来るが、麻衣はそんな言葉を意に介さず、逆に言葉を突き付けるのであった。

「あなた達、近い内にお父さんの疑いが晴れたら、これまでの事、謝ってもらうから覚悟してなさい!」

 力強い麻衣の言葉に、イジメをしていたクラスメイト達は何も言えずにおずおずと引き下がって行く。

 麻衣は自信に満ちた顔でその日を1日過ごすのであった。




 麻衣と大悟の家ではその日、父親が早く帰り夕食を作ってくれる約束になっていたので、麻衣は学校が終わると急いで家路を急いだ。

 今日は学校の委員会などで、少し遅くなってしまったが夕食には問題ない、大悟も既に帰っている筈なので、間に合えば家族3人で夕飯の用意が出来ると麻衣は楽しみでしょうがなかった。

 家に着いた麻衣は「ピンポーン」とチャイムを鳴らし、自分の帰宅を報せながら持っている家の鍵を玄関扉の鍵穴に差し込み捻る。


 ガチャッ


 いつもと違う音に違和感を感じつつ、ドアノブを回す…しかし、扉は開こうとはせず入り口を固く閉ざした。

 ーーあれ?お父さんが居るから鍵を開けて私の帰りを待ってたのかな?

 麻衣はそんな思いに喜びを感じながら、再び鍵を回すのであった。今度は施錠が外れ、扉は静かに麻衣を迎え入れた。


「ただいまー」

 麻衣が玄関をくぐり帰宅の声を発するが、家の中から誰の返事も聞こえなく、それどころかいつも1人で帰宅している時の様に物音すらも聞こえなかった。

 どうしたんだろう?何か2人で買い物にでも出たのか、はたまた驚かせようと息を潜めているのか。

 麻衣は色々な考えを巡らせながら、明かりの点いた台所に行ってみる。そして、そこで驚くべき光景を目する。

 そこには、体格の大きな男達に捕まり抑えつけられている父親と大悟の姿があったのだ。


「お帰りお嬢ちゃん。待ってたよ」

 眼鏡を掛けてスーツ姿の男が、不気味な笑い顔をしながら男達の間から現れる。

「なっなんですか、あなた達は?お父さん、大悟…」

 麻衣は父親と大悟の元へと歩み寄るが、口を塞がれながら父親は首を必死に左右へと振る。

「さぁお嬢ちゃんも揃ったことだし、仕上げに入ろうかね。ヒッヒッヒ」

 眼鏡の男がそう言うと、いつの間にか麻衣の背後に男が現れ、麻衣の体を掴んだ。

「えっ何するの、放して」

 麻衣は男の拘束から逃れようとするが、自分の倍近い体格の男から逃れる(すべ)はなく、口にはタオルを当てられ、話すことも出来なくなってしまう。

「よし、直ぐに始めろ」

 眼鏡の男が他の男達に指示すると、冷たい目をした男達は、動き出す。

 父親の首にロープを巻き付け天井のフックに回し引っ張り出し、父親の首を絞めて行く。

 麻衣は涙を流しながら叫んだが抵抗虚しく何も出来ず、そして次の瞬間、麻衣の胸に冷たく鋭い痛みが襲い掛かる。麻衣が見たのは、いつも料理に使う自宅の包丁が、自分の胸に赤く冷たく刺さるのを、涙の向こう側に映る姿だった。

 父親は涙を流しながらもがくのだが、抵抗虚しく首にロープが食い込み、苦しみの向こうに見えるのは、娘の胸に刺さる刃物と首を絞められながら苦しむ息子の姿だった…





 プルプルプル~プルプルプル~


「はい、どうしました?」

「よかった、すぐ繋がって。実は君がこの前調査を依頼した神田明(あきら)の件、ビンゴだよ!明が横領したとされる金の流れがどうもおかしくて調べてみたら、ある代議士とそれに取り巻く奴等に流れているが分かった。その代議士と関わっているのが、どうも社長の田辺らしく、明はその濡れ衣を着せられているみたいだ。ただ、本人が黙秘しているので話が進まないらしく、証拠が出るまで逮捕には至ってないようだ。だが、このまま逮捕が長引けば田辺の身辺にも調査が入るかも知れず、田辺が大人しくしているとは思えない。それに田辺の背後にいる総武一家が昨日から騒がしく動いているとの情報も得ている。警察は何か起きてからじゃないと動けないから、君の方で神田親子を保護して欲しい」


「・・・・プッツーツーツー」

 ーー何か胸騒ぎがする…


 志恩は夕食の買い物を止め、急ぎ神田親子のマンションへと走り出すのであった。








後編は来週末くらいには上げたいです。

ちょっと話がずれてますがなんとか合わせていきます。前回の異世界の話はどうだったでしょうか?

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