アイドルの1日 中編
何か話が脱線してますが、違ったお話も読んでみてください。
リサの警護に着いた志恩、犯人の罠を乗り越えやっと最後の撮影を終えた時、犯人が直接攻撃を仕掛けてきた。
リサを見失い、犯人を探す志恩。
犯人の攻撃に晒され追い詰められたリサ。そこで犯人が姿を現しリサへと迫ったとき、リサは犯人との出会いを過去の記憶に照らし合わせるのであった…
ユルデリアの街は高い城壁に囲まれており、東西南北にある大きな門で街の出入りを監視している。
アリサは雪道を抜けて、南門へと到着していた。
「おい女、この街へは何しに来たのだ」
横柄な態度で道を塞ぐ門番に、アリサは止められていた。
「はい、この街に調べものの用事があり、今日はこの街で宿を取りたいと思い訪れました」
アリサはにっこり微笑み、門番に説明した。
「ん~、この危険な雪山を女1人で越えて来たと言うのか?怪しいな。最近、この街を盗賊の集団が狙っていると御触れが出ており、その首領が女だと言う噂だ。お前、怪しいな」
アリサは困ってしまった。自分は強いから危険な山道でも1人で乗り越えてきた、と説明したとしても、逆に強いから怪しいと言われそうである。
アリサが考え倦ねていると、門の詰所から数人の兵士が出てきてアリサに詰め寄り出した。
アリサは困り果ててしまったが、ここで揉め事を起こす訳にはいかない。仕方なく引き下がり、一旦街を離れるしかないと思ったその時。
「どうしたお前達」
騎馬に乗った兵士が門で騒いでいるのに気付き、近付いてきた。
門番の兵士は声を掛けてきた騎士に気が付くと、直立の姿勢で敬礼をし、かしこまりながら話す。
「はっセトス様。門の通行人を調べていましたところ、御触書にあった盗賊団の一味かと思われる怪しき者がおりましたので、取り押さえようとしていたところです」
兵士の言葉を聞いたセトスと言う騎士は、兵士達が囲もうとしていた人物を睨み見た。そしてアリサの顔を見た時、慌てて馬を降り兵士達を掻き分けてアリサの元へと駆け寄り、騎士の礼を取った。
そして、アリサを囲う兵士達に向かい直ると大きな声で叱咤する。
「馬鹿者っ!こちらの御方はマリエス王女様の命の恩人であられる。無礼な真似はするでないぞ」
門番の兵士は道の両脇に下がり、片膝をついて謝罪と敬礼をとる。
アリサは人の割れた道を騎士セトスに導かれながら通るのであった。
‥アリサがユルデリアに到着する2日前、雪の山道をユルデリアにアリサは向かっていた。
この日は昼頃から急に吹雪き初め、視界が悪くなり、なかなか前に進めなくなったので、アリサは近くの岩場にある洞穴に身を潜め、吹雪が去るのを待っていた。
アリサが暖を取り、うとうとしていると、風の中に紛れ微かに馬の嘶きと人の悲鳴が聞こえた気がしたので、松明を片手に吹雪の中へと出て行く。すると、確かに吹雪の中、馬の鳴き声に混じり人の声も聞こえた。
音のする方へ向かうと、段々その正体が分かって来る。
そこには数名の騎士が背後の馬車を守る様に、前方を塞ぐ巨人2体と戦闘を繰り広げていた。
巨人の足元には既に2人の騎士が倒れており、残り3人となった騎士が、必死に防戦を強いられていた。
敵はフロストジャイアント2体。中級レベルの冒険者パーティーが1体を相手に丁度よい強さだ。
流石に魔法支援のない雪の中で、フロストジャイアント2体を相手にするのは、騎士5人であったとしても無理がある。既に3人となった騎士に勝ち目がないのは一目瞭然であった。
アリサは松明を前に翳し歌声の様な言葉を唱え始める。
『バーストブレス』
次の瞬間、アリサの持つ松明から蜥蜴の形をした炎が飛び、フロストジャイアントに命中すると巨人の体は炎に包まれ、雪の上に倒れた。
騎士達は「おおぉぉ」と歓声を上げると、もう1体の巨人は奇声を上げて騎士達を無視し、アリサへと走り出した。
アリサは次に足元の雪を素手で強く握り、氷の様に硬くなった塊を巨人に投げつけ呪文を唱えた。
『アイスバインド』
アリサの投げた氷の塊は、巨大な氷のロープとなって、巨人の体を束縛し動きを止めた。それを見た騎士達は、動けずもがいている巨人目掛けて剣を突き立て、フロストジャイアントを絶命させる。
戦いが終わると、馬車から1人の美しい女性が降りてきてアリサの元へと駆け寄った。
「私はユルデリア国第1王女マリエス・ミューゼルと申します。この度の助勢心から感謝致します」
騎士の1人も王女の側に付きアリサへの感謝を述べた。
「貴殿の助力には感謝しきれぬ。あのまま貴殿が現れなければ、姫様を含め我ら一同、助からなかっただろう。本当に感謝いたす」
気が付けば吹雪は止んでおり、微かな陽射しさえ感じられた。
アリサは王女達に次の村まで同行し、先を急ぐ王女一行を見送ったのだった。
セトスに案内され城下町まで入れたアリサは、セトスと別れ街で情報収集しようとしたのだが、セトスの強引な勧めにより王城へと連れて来られてしまった。
城の客間へと通されたアリサは、ふかふかなソファーへと腰を落ち着け、お茶を飲みながら待たされる。
暫くすると中央の扉が開き、美しいドレスを身に纏った女性がセトスやメイドを引き連れ現れる。その姿を改めて確認すると、アリサはその女性が数日前に山道で助けたマリエス王女で在ることに気が付いた。
アリサは立ち上がり礼を取るが、王女は「かしこまらずに」と言って共にソファーへと腰掛けるのだった。
王女はアリサに感謝の言葉を改めて述べ、御礼をしたいと言い出すがアリサそれを断った。それに、この世界でアリサの求める物などないのだから。
その時、アリサはフと思い出したように王女に申し出るのだった。
「王女様にお聞きしたいことがあるのですが」
「固いわよアリサさん、マリエスでいいわ。それで何を聞きたいのかしら」
「はいマリエス様、実はこの国に居ると言うシャーマン、ネルビスと言う人物をご存知ないでしょうか?」
「名前だけは聞いたことが有りますが、詳しくわ…」
少し考える素振りをしてからセトスを呼び寄せた。
「セトス、ネルビスと言うシャーマンのことを何か存じませんか?」
セトスは片膝を着いて腰を落とし、王女に視線を合わせてから話をした。
「はっ、そう言った名前の者には心当たりが御座いませんが、シャーマンでしたら1つ心当たりは御座います」
「それはなんです」
「湖に浮かぶ唯一の島に人嫌いのシャーマンが住んで居ると噂では聞いたことが御座います。しかし、島に辿り着き実際その人物に会った事のある者は未だ居りません」
王女とアリサは不思議な顔をした。
「セトスさん、なぜその島に行った人物が居ないのに、そこにシャーマンが住んで居ると言われてるのでしょう?それにそんな島なら、誰かが探索しているのではないですか?」
王女もアリサの言葉に頷いた。
「それは島に上陸した者が居ないからです。何故ならば、その島と言うのがいつも不思議な霧に包まれており、いくら島に近付いても辿り着けないのです。宮廷魔術師などの話では、強力な精霊達によって結界が張られており、近付く事が出来ないのだろうと…。そして、シャーマンが住んで居ると言う噂は、昔、湖で漁をしていた老人が突然の嵐に船が転覆し、溺れて気を失ったところをシャーマンに助けられ湖の島で介抱してもらったと言う者が居たらしいです。それ以外に島を訪れたと言う話はないようですが」
アリサは何かを掴んだ様でセトスに感謝の言葉を述べ、そろそろお暇すると言ったのだが、暫くユルデリアに滞在するなら城の客室をと、王女から強引に勧められ、その日は城に泊まることとなった。
その日の夕食後、アリサは王女と遅くまで会話を楽しみ、ベッドへと落ち着いた。
しかしアリサは城に入ったときから城内部の不穏な気配を感じており、夜が更けると城内を調べ始めた。まず、『シャドーインビジブル』で影に姿を隠し、人の目に映らなくして動いた。
一通り城内を見て回ったが、それらしいところは無かったので、アリサは部屋へ戻ろうとテラスの側を通り掛かった時、人の気配を感じ柱の陰に隠れた。
「手筈通り動いております。後10日程で全ての準備が整います」
「よし分かった、こちらも準備を済ませておく。これでこの国もおしまいだな…しっ」
テラスの影が通路へと振り返り叫んだ。
「そこに居るのは誰だっ!」
アリサは素早く通路脇へと逃げ込み、その場を後にする。逃げるように部屋へと戻ったアリサは、ベッドへと潜り込み今の出来事を考えてみた。
ーー声の主は2人、1人は女だった。10日後、この国で何かが起きるかも知れない‥
アリサは不安を胸に、浅い眠りに就いた。
次の日、王女と共に朝食を食べ、アリサは城を後にした。用事が済んだとき、また王女を訪ねると約束を交わし。
アリサが向かったのは、昨日聞いた湖に浮かぶ島である。
小舟を1艘譲ってもらい、島へと向かう。アリサは水の精霊に働きかけたので、漕がなくとも舟はどんどん進んで行った。
目的の島に近付いた時、アリサは気付く。大きな精霊力を感じ、侵入者を否定していることを。
アリサは精霊使いだからこそ分かるその力の大きさに、一瞬心が折れそうになるが必死に堪え、霧の立ち込める深い空に向かって言葉を発した。勿論、風の精霊語で。霧に関する精霊魔法は風の精霊による仕業である。
暫くすると、霧の中からうっすらと大きな影が現れた、その姿を見た時、アリサは自分の行動に後悔すらしてしまった。
「ほう、我に話し掛けるとは恐れ知らずであるな。しかし久しい人の姿は愉快だ」
勿論、普通の人には分からない言葉だが、アリサには理解出来る。そう話掛けてきたのは、ゆうに5mは越えるであろう人の姿をした精霊であり、アリサはその姿を知っていた。
それは本の想像画だが、風の精霊神である4大アネモイの内、北風ボレアースの姿であった。
気が遠くなるのを必死で堪え、アリサはボレアースに話し掛けた。
「お願いがあります。この先に居るシャーマン・ネルビスに会わせてもらえませんか?」
「ほう、ネルビスを訪ねて来るとは、酔狂な娘だな。我を倒せば、直ぐにでも会えるぞ」
アリサは立っているのさえやっとの気持ちだったが、必死に言葉を絞り出した。
「それが無理なのは分かります。ですから、何か別の条件でここを通して頂けませんか?」
ボレアースは少し笑った様な表情をした後、1つの指輪をアリサの手の平に渡す。
「その指輪には、我の魔力が閉じ込めてある。それを嵌め、我が魔力に耐え抜く事が出来たならば、ネルビスにそなたが来たことを伝えてやろう。しかしネルビスが会うかどうかは我には分からぬ事だがな。そして、その指輪の魔力はそなたの命を奪うやも知れぬ、それでも良ければ身に付けてみるがよい」
そう言って、ボレアースはアリサを見据えた。
アリサは少し躊躇い考えたが、ボレアースを真っ直ぐ見ると、笑顔を返し「後戻りは出来ません」そう言って指輪を嵌めた。
次の瞬間、アリサにとてつもない激痛と虚無感、そして、全身の血液が沸騰するような感覚に襲われ、意識を失いそうになる。しかし唇を強く噛み締め、必死に堪えた。
「指輪を外せば、直ぐにその苦痛から解放されるぞ」
ボレアースの言葉がアリサの心を揺らし、指輪を付けていない手が指輪に掛かる。その瞬間、アリサの脳裏に異世界に来てからの12年と言う辛く悲しく、しかし楽しくもあった思い出が駆け巡り、意識を取り戻し叫ぶ。
「絶対諦めない」
そう叫んだ後、アリサは意識を失い小舟に倒れ込んだ。
「もうお止め」
その言葉と共に霧が晴れていき、アリサを乗せた小舟の目の前には東京○ーム程の大きさの島が現れ、水際に1人の女性が立っていた。
ボレアースは水際に立つ女性に話し掛けた。
「姿を現すなど、珍しい事もあるものだな」
「そなたこそ力試しをさせるなんて、どう言う風の吹き回しだい」
そう言って、小舟を側まで呼び寄せると地面から現れた小人にアリサを自分の小屋まで運ばせた。
アリサは悪夢に魘されながら目が覚めた。
アリサが目覚めたのはベッドの上で、暖炉には火が焚かれており、山小屋の様な場所に居た。辺りを見回し、テーブルに1人の女性が居ることに気が付く。その女性は顔が4、50代に見え身長も高くほっそりとして人間の姿をしている。しかし人ではないとハッキリするのは、耳が細く長く尖っているところだ。そう、エルフ族である。エルフは成人までは人と変わらない歳の取り方をするが、成人に成ってからは400年程同じ姿をしている。アリサの前に居るのは更に歳を重ねたエルフであるから、年齢は想像出来ない。
アリサは身だしなみを整え、話し掛けた。
「あの、もしかして、ネルビス様ですか?」
アリサが気が付いたのを見て、エルフが振り返り答える。
「様など止してくれ、如何にも私はネルビスだ。そなたは何故私に会いたかったのだ?」
アリサは起き上がり、ネルビスの向かいに座り、話を返した。
「ご存知だと思いますが私は精霊使いです。そして私は仲間と冒険をしてその力を使ってます。冒険の目的は世界をより良くして、平和をもたらしたいからです。しかし、冒険を重ねる毎により大きな敵に遭遇するので、仲間を守るため、世界を救う為に私の力をもっと高めたいのですが、今以上にするためにはどうしたらよいか分からず、神に近きシャーマンの噂を聞きつけ教えを乞いたいと訪ねて来ました」
そこまで述べたアリサの顔をネルビスは暫くじっと眺めていたが、突然大きな声で笑い出した。
アリサはちょっと馬鹿にされた気分になったが、大人しくネルビスの笑いが治まるのを黙って待っていた。
ネルビスは笑い終わると真面目な顔をして、アリサに話した。
「いやいや、すまん。お前さんが平和だの世界を救うだのを口にし、その言葉に嘘偽りが欠片も無いことに、驚き笑ってしまった。ワシには精霊の力により嘘が通じんのじゃが、その事を知っていようがいまいが、大抵の人間は言葉に少なからずの嘘が混じってしまうのじゃが、お前さんにはそれがまったくなかった。だからのぉ、嬉しくて笑ってしまったのじゃ」
アリサは貶されてるのか誉めらているのか分からず、表情に困ってしまう。
「お前さんは優れたシャーマンであり、精霊にも好かれておるようじゃ。人に教えるなどワシはしたことがないが、お前さんが望む答えは叶えてやろうと思うぞ」
それを聞いたアリサは素直に喜び、御礼を言った。だが、ネルビスはちょっと困った顔をしてから話を続けた。
「しかし、ワシがお前さんに伝える事は既に余りないと思うぞ。お前さんはシャーマンに必要な精霊との契約をすでに済ませておるのじゃからな」
そう言ってアリサの手を指差し、アリサは指された手を見ると、風精霊ボレアースから受け取った指輪がまだ指に嵌まっていた。
「その指輪がまだ指に付いておると言うことは、お主はボレアースと既に契約を結んでおると言うことじゃ。ボレアースは風の最上位精霊であり、それ以下の精霊は、風は勿論、地水火風その他全てを精霊は既に呼び出せば従うであろう」
アリサは少し驚きながら、自分の指に嵌まる指輪を眺めた。
「後は細かな魔法や精霊の種類をここにある本で学べばよい。ワシから教えることなど、何もないと思うぞ。満足するまで、ここで学んで行けばよい」
そう言って、暖炉に掛けてあった鍋からスープを皿によそい、アリサに勧めてくれた。
こうしてアリサは暫くの間、寝る間も惜しんで本を読み漁り、分からない事はその都度ネルビスに尋ね色々な事を学んでいった。ネルビスもアリサの素直な性格を気に入り、何でも話してくれた。
アリサが島に来て8日程経った時、ネルビスはアリサを呼び寄せ難しい顔をした。
「アリサ、お主にお願いがあるのじゃが聞いて貰えるか?」
アリサは少し驚いた顔をしたが、直ぐに返事をする。
「勿論です。ネルビスの頼みならば何でもおっしゃって下さい」
「そうか、すまんな。実は最近、ユルデリアの街に不穏な気配を感じておって、特にここ数日嫌な予感がするので、調べて何かあれば解決して欲しいんじゃ」
それを聞いたアリサはここに来る前、城で聞いた話をネルビスにし、盗賊団がユルデリアを狙っていると言う噂が有ることも話した。
ネルビスは俗世に関わりを持ちたくはないが、ユルデリアに何かあっても困ると話した。昔ネルビスはユルデリア国が建国して間もない頃、ユルデリア国王ミューゼルと契約を交わし、ネルビスに湖の島をくれる代わりにユルデリア国を厄災から守ると約束したそうだ。もう数百年も前の話なのだが、ネルビスは気に掛けているそうだ。
その事を聞いたアリサはネルビスに別れを告げ、いつかまた教えを乞いに戻ってくると約束をして島を後にし、ユルデリアの中心ガルデンブルグ城を目指すのであった。
次回、アリサはユルデリアを救えるのか?そして、敵の正体は?現在のリサはどうなってしまうのか?