文化祭と再会 前編
後編はすぐに出来ます。
空気の乾燥が肌寒さをよけいに感じさせる外の風に身をさらしながら、自転車通学をする志恩と愛莉の姿がある。
秋深し、この季節になると、どの高校でも大学でも盛り上がっくるのが学園祭。志恩の学校も例外ではなく、今年も準備に追われる学生達の姿が目についた。
志恩の高校生では、各クラスと希望する部活の出し物で学園祭を盛り上げていた。
志恩のクラスの出し物は、お化け屋敷、メイド喫茶、休憩所と言う極端な候補の中から多数決で、メイド喫茶に決まった。なぜって?そりゃあ、志恩のクラスは美人が多いからである。女子は票が別れたが男子の殆どが、メイド喫茶に票を入れていた。志恩の希望は勿論、休憩所であったのだが…
そして、志恩の頭を悩ます事態がこのあと起きるのである。
それは、今年の体育館での出し物をやるクラスや部活が全く無く、学校の文化祭実行委員会としては、学外からの呼び物のメインとして体育館での出し物は必須と考え、今年は普段体育館を使う部活に対して、強制的に体育館での文化祭参加を促すのであった。と、ここまでは志恩に関係のない事だったのだが、剣道部の出し物がミュージカル風演劇と言う無謀な物になり、参加者として志恩の名前が強制的にいつの間にか入っていたのである。
志恩は愛莉のいつも通りの泣き落としに遭い、引き受けざるおえなくなったと言う‥
志恩と愛莉は自宅へ帰り夕食後、台本の読みあわせをしていた。
「あぁ愛しのロミオ様、あなたの事を想うと胸が締め付けられる程、いとおしい」
「・・・あっおれ。おぉぉ愛しのジュリエット、君への想いで僕の胸は‥胸は張り裂けそう、だ」
「・・・もぉ~」
愛莉は立ち上がり腰に両腕を起き、志恩を覗き込むような前屈みの姿勢で頬を膨らませる。
「ちょっと~志恩、真面目にやってる?」
志恩は愛莉と目線を反らせ、横を向きながら反論した。
「だってさ、こんなことしたこともないのに、急に振られても困るよ。それに俺は剣道部じゃないんだよ、それなのに主役をやらせるなんて」
「しょうがないでしょ。剣道部男子はみんな身長が高過ぎて私とじゃ、釣り合わないんだからさ」
「だったら、女子に男装でもさせればいいんじゃない。宝塚とかだって、女同士でやっているんだし」
志恩の言葉に、愛莉は目に涙を浮かべて叫ぶ。
「そんなに私とやるのが嫌な訳?」
志恩は狼狽え、必死に取り繕う。
「いやっそうじゃないけど」
「今、嫌って言ったわね」
「いやいや、その嫌じゃないよ。今のもだけど…」
「じゃあ、やるの?やらないの?」
「勿論、喜んでやりますよ」
「そう、じゃあ続けましょう」
その直後、愛莉は笑顔へと変わった。
「えっ今の涙って演技・・・」
愛莉は台本で顔を隠し、少し悪い顔をすると。
「じゃあ、演技の練習しよっか」
「・・どこの?」
「クライマックスのキスシーンから」
「キスシーンね…キッキスシーン!」
ドタドタ
志恩はソファーから滑り落ちた。
「する振りだろ?そんなの練習する必要ないだろ」
「何言ってんの、本当にするのよ。兄妹なんだから、恥ずかしがる事ないでしょ」
「いやいやいやいやいや、兄妹とか関係なく、大衆の面前でそれはねぇ」
「なら、今は誰も観てないから平気よ。練習しましょう」
「いやいやいやいやいや」
「台本に書いてあるんだから、やるしかないでしょ」
志恩は台本をバラバラと捲る。
「台本に?何て書いてあるんだ?」
ーージュリエットの歌が終わり、ジュリエットは毒を飲む。
ーーロミオはジュリエットの横たわる体を抱き抱え、顔を近付け、照明が落ちる。
「・・・・おいっ」
「あら、キスシーン読んじゃった。てへっ」
「こらー」
志恩の苦難は続く‥
クラスの出し物に関しては、食べ物の手配や教室の飾り付け、メイド服の作成などで志恩の出番は特に無く、それよりも演劇の台詞を覚えるので一杯一杯だった。
そんな折、葛城からの連絡で志恩の住む近くで事件が起きていることを知らされる。
事件の概要は、銀行の現金輸送車が襲われ、その際に輸送車を襲ったのが見たこともない化け物だったと言うこと。そして、警備をしてた者が地面に埋もれていたり、溺死していたそうだ。
付近の防犯カメラを分析し犯人とおぼしき人物達を特定、隠れ家を突き止めたのだが、相手の武器が分からない事から被害を拡大させる訳にもいかず、志恩達の協力の元、犯人逮捕に踏み切りたいそうだ。
その日の夕方、志恩と隆二は葛城と三上、その他6課の刑事と間野刑事を含めた総勢7人で犯人の潜伏先と思われる廃棄工場へとやってきた。
シェリーは用事が終わり次第、合流するとの事だった。
学校の体育館程の廃棄工場は隣に大きな公園があり、材料の保管も出来ていたようで敷地も充分あった。工場内は殆ど片付けられており、幾つかの壊れた機械があるだけで殺風景だ。1階と2階に事務所らしき部屋が付いていて、両方に明かりが点いている。
志恩達はまず、1階の事務所らしき部屋へと向かう。
工場内は静けさに包まれており、外から吹き込む風が工場の汚れた窓ガラスをカタカタと揺らす。中央付近には大きな水溜まりがあり、志恩達は水音を立てない様に、回り込む形で進んだ。
そして1階の事務所に1番近い水溜まりの端を静かに踏み込んだ時、それは起こった。
突如、水溜まりの水が竜巻の如く舞い上がり、その竜巻から水の塊が次々と志恩達を襲う。
襲われたのは志恩、隆二、葛城、三上の4名で、後の刑事は少し離れた物陰に隠れていた為、攻撃の対象にはならなかった。
志恩と隆二は持っていた武器で攻撃を防いだが、葛城と三上は志恩の魔法で守られていたとは言え、攻撃を喰らった勢いで吹き飛ばされ、倒れ込んだ。
葛城と三上は他の刑事により物陰に避難させられた。
水の竜巻は、徐々に人とも獣とも言えぬ形をゆらゆらと形成する。
志恩と隆二は水の化け物との戦闘に突入。
敵は水の塊を二人に飛ばし、時折水を鞭の形に変え攻撃してくる。志恩は敵の攻撃を剣で打ち砕き防ぐと、魔法の刃で攻撃を加える。隆二は攻撃をかわしながら、槍で攻撃の鞭や体と思わしき部分を切り裂いた。
大きな音を立て戦っていれば、勿論犯人達には志恩らの侵入は気付かれてしまう。
犯人達は1階の事務所から出てくると、志恩達の闘いに少し目を向けていたが、直ぐに反対の出口へと走り去る。それを観ていた後ろの刑事達は、急いで自分達の入って来た入口へと戻り、工場の外を回って犯人追跡を開始した。
志恩と隆二は必死に闘っていたが、時間が掛かり過ぎている事を加味し、志恩が決着を急いだ。
志恩が数歩下がり詠唱に入る。隆二は志恩が何も指示せずとも、志恩の前に立ち援護に入った。
そして志恩の「よしっ」と言う言葉を背中に受けると、素早く右へと転がり伏せる。
志恩は右手を前に突き出し左手を添え、唱えた。
『フォーカスエクスプロージョン』
次の瞬間、志恩の掌から光の塊が発射され、妨げる水の攻撃を弾き飛ばしながら水の化け物の懐に当たると、激しい爆発を小さい範囲で起こし、水の化け物は炎に包まれ蒸発した。
志恩は隆二に手を差し伸べ引っ張り起こすと、二人は犯人達の走り去った出口へと向かい、正面の公園へと追い掛けて行くのであった。
ピキッ、この時志恩は指輪に走る亀裂を知る由もなかった。
犯人を追い掛けた刑事達は、威嚇射撃をしながら犯人達を池の中央に浮かぶ休憩スペースへと追い詰める。
公園の周辺は予め配備していた警官隊に囲まれており、公園内の一般人は避難させられていた。
その事に気が付いた犯人は、最後の手段に出る。持っていた試験管程の筒の栓を抜き、夜空へと投げ捨てる。投げられた3つの筒からはそれぞれ、大量の水、土、風が吹き出し、水は池へ、土は対岸の地面に、風は夜空へと消えた‥次の瞬間、池からは巨大な水の蛸、空には人とも言えぬ風が形取り、大地からは土の人形が現れた。
この時志恩は確信する。今、現れたのはこの世界には存在しない筈の精霊達であると。そして、制御されぬまま、ただ召喚されてしまい、暴れ狂うモンスターになってしまっていると…
志恩は葛城達に、自分達でも防ぎきれるか分からない為、急ぎ避難するように指示を出す。
志恩の無理かもしれぬと言う言葉を聞いた葛城は、事の重さを察知して急いで待避した。
残された志恩と隆二は無言で頷くと、1番近くに居た土の精霊へと攻撃を開始する。
土の精霊ノームは、志恩達の攻撃を硬い体で跳ね返し、石礫を投げ掛けて攻撃する。攻撃をかわし、必殺の一撃でノームの腕を切り落とすが、暫くするとノームの腕は再生してしまう。それでも、魔法の武器や魔法で攻撃しているため、ノームにはダメージは負わせていると信じ、攻撃し続ける。
水の精霊は形から見て、水の上位精霊クラーケンである。池の中央にいる犯人達がクラーケンを威嚇している為、そちらに動いている。
風の精霊シルフは周りの樹や小屋、自動販売機などを破壊していたが、ノームと闘う志恩達に気が付くと、志恩達へと攻撃を仕掛けてくるのだった。
ノームとの闘いでも手に余っていたところへ、シルフの攻撃も加わり、志恩と隆二は防戦一方となってしまう。
クラーケンは水で形作った吸盤の足を犯人達の上へと振り下ろすと、一瞬で犯人達は休憩スペースにある石の屋根ごと、ぺしゃんこになってしまった。
ノームとシルフに押され気味の二人の元へクラーケンも近付いて来るのが志恩の目に入った。
志恩は敵の攻撃を防ぎながら、隣の隆二に叫ぶ。
「俺の最大の呪文は雷だが、相性的にクラーケンに効くか分からない。だが、このまま何もしなければ、殺られるしかない。少しだけ、時間を稼いでくれ」
「勝ち目のない必殺技か。仕方ない、それでもやるしかないかっ!」
志恩は魔法の詠唱に入り、隆二は志恩の守りに入る。しかし、一対一でもやっとのところを二対一となり、志恩の魔法が完成する前には三対一となってしまい、クラーケンの水爆弾で志恩と隆二は吹き飛ばされてしまった。
倒れた志恩は隆二の腕を持つと。
「このままでは無駄死にだ。ここは一旦撤退するぞ」
「仕方ないな」
そして、石礫と鎌鼬と水の塊が同時に志恩達へと襲い掛かってきたので、志恩はテレポートで脱出しようとした。その時。
バシィーー!!!
精霊達の攻撃は途中で弾かれ、消えてしまった。
「あらあら、男同士で手を握り合いながら泥だらけで、何をしてるんだい」
「やっと来たか、おせーぞ」
「まだ行ける。3人で反撃といくかっ!」
志恩と隆二が武器を杖代わりに立ち上がると、臨戦態勢に入った。
しかしシェリーは防御姿勢のまま、動こうとはせず、志恩と隆二を止める。
「ねえねえ、いくら3人だからって、あんな狂った精霊を3匹も相手出来るわけないだろ。それに1匹は上位精霊だよ。いくらなんでも無理ってもんさ」
「無理と分かっていても、俺達がやらなければ誰がやるんだ。あんなものを野放しにしたら、どれだけの被害が出るかわからないぞ」
志恩は傷付いた体を起こして、叫び奮起する。
それを聞いてもシェリーは動こうとはせず、志恩にゆっくりと語る。
「誰も倒さないとは言ってないよ。ただ、私達では無理だと言ったんだよ」
「俺達が無理だったら、誰が相手を出来るんだ。あそこまで狂った精霊を治められる者なんて、俺達以外に1人くらいしかいないだろ」
「だから‥」
何度か攻撃を繰り返していた精霊達の動きが止まっていた。そして、何処からともなく、歌声の様な言葉が風に乗って聞こえてくる。それは理解出来ない言語だが、心地よい言葉で静かに聞き入っていた。
その歌声は池の中央から聴こえており、目を細めると池の上に人影が見えた。
ノームは崩れ土に還り、シルフはそよ風となって空に消えた…
クラーケンは池の上を歩く人影の道を作り、その人物が岸に揚がると、そのまま池の底へと消えて行った。
「お久し振り、シオン、リュウジ」
すらりと整ったスタイル。腰迄伸びた真っ直ぐな黒髪。ハーフと思わせる整った目鼻立ち。笑うと少しエクボが出来る呆気なさ。
そこに現れたのは『精霊王の姫』の異名を持つ、アリサこと北条亜理沙。志恩達勇者の1人である。
志恩は少し泣きそうな顔に成りながら、亜理沙に歩み寄る。
「アリサ、君の事をずっと探していたんだよ」
亜理沙は少しうつむきながら、志恩に話した。
「私もシオンの事は、ずっと気にはしていたんだけど、どうしても会いに行けない理由があったの。分かるでしょ?」
「分かるでしょって…分からないよ。なんで会えないんだよ?」
亜理沙は言葉に困り、隆二とシェリーは呆れた顔をしている。
「今日来たのは、シェリーにシオンの命が危ないかもしれないから、今日だけどうしても来て欲しいって言われて来たの。確かに危なかったわ、来て良かった。でも、そろそろ行かないと」
亜理沙の言葉に、志恩は理解出来ていない顔をするしかなかった。
「どうしてもう行ってしまうんだい?隆二とシェリーはアリサの居場所を知ってたのか?」
隆二は志恩の肩を掴み。
「まあ、すぐに分かるさ。取り敢えずアリサは行きな、俺達も葛城さんのところに報告に行かないとな」
亜理沙は「またすぐ会える」と言い残し、走り去ってしまった。
志恩は納得いかないまま、隆二とシェリーに連れられ、その場を後にした。
犯人達の持っていた筒は、精霊を閉じ込めおくことが出来るマジックアイテムだった様で、犯人宅から2つの筒が見付かり、葛城が6課で保管することにした。
精霊はこの世界ではあまり永くは存在出来ない様で、結界やアイテムの中などでなければ、1日程しか姿を保てないようだ。
こうして、犯人死亡により凶器に使われたマジックアイテムの出所は分からないままだが、事件は解決したのであった。
そうそう、謎が解けず納得いかない志恩であったが、隆二にテレビの歌番組、ドラマ、映画、コマーシャルを観せられ何も言えなくなった‥
北条亜理沙、芸名『一条リサ』。歌手としてデビュー。出すシングルは毎回オリコン1位。ミリオンシングルも数多く、最近は内面から出る大人っぽさと色気が話題を呼び、ドラマや映画、バラエティー等でも幅広く活躍している。
出し方に困ってしまい、こんな感じになっちゃいました。
次回は文化祭ですが、すぐに書き上げます。




