愛莉の長い1日 後編
仕事に追われて遅れました。
一応、この話は終われました。
戦闘シーン多目なので飽きずに読んで頂ければ幸いです。
防火シャッターを叩く音が聴こえ、社長室に居る愛莉の耳にも、敵が近付いて来ている事を感じさせた。
愛莉と清子は手を握り合いながら、モニターに映る防火シャッターの数を見つめるしか今は出来なかった。
志恩達が非常口の階段を登り始めると、上の方から階段を駆け下りてくる足音が幾つも響いて来た。
その音が近付いて来るのを感じると、志恩達は近くの階へ通じる扉を開き中へと入ると、鍵を閉め4人はバラバラにそのフロアへと散開した。
このフロアは会議スペースになっており、大部屋が1つ、中部屋が3つ、そして小部屋が6つの会議室を迷路の様な廊下が繋げている。
ドアノブを破壊し、武器を持った敵がフロアへと突入する。敵は3組に別れ、フロアの捜索へと入った。
敵の1組が大きな部屋へと入ってくる。この部屋は、学校の教室を縦に3つ繋げた大きさで縦長の部屋になっており、前と後ろの2つに扉があった。
敵は大きなスクリーンモニターが壁に掛かる部屋の先頭とおぼしき入り口から、3人が飛び込む様に転がりながら突入し、物の影に向けて威嚇射撃。それが終わると、スクリーンの壁に3人並び戦闘体勢を維持した。
数秒の沈黙が流れ、敵が次の行動に移ろうとした時、突然天井に嵌め込まれたプロジェクターが動きだす。
スクリーンの前に居た敵は一瞬視界を奪われ動揺してしまい、そこへ2つの赤い筒が飛んで来たのを確認もせずに射撃する。敵が自分達のミスに気が付いたのは、その飛んできた物体を銃弾が捉えた時だった。
撃ち抜かれた物体は、穴の空いた部分から白い粉を霧状に噴出する。そう、彼らは消火器を撃ち抜いてしまったのだ。
辺りがプロジェクターの光と消火器の粉で視界を奪った時、素早く駆け寄る影。
彼らが駆け寄る存在に気付いた時には、1人は銃を持つ手が腕ごと切り落とされ、もう1人は喉を槍の様な刃が貫いていた。その存在に気付いた1人が銃を構え撃つが、喉を貫いた敵を盾に向かってくる相手に銃弾は届かず、そのまま投げつけられた盾代わりの仲間にぶつかり床に倒れる。
その男が最後に見たのは、両刃の槍を持った鬼が光の煙の中に立っている姿であった。次の瞬間、自分に覆い被さる仲間の体ごと、心臓を刃で貫かれていた。
別の場所では、他の敵が3人で一つの部屋に入った。そこは学校の教室程の部屋で中に人の気配は感じなかったが、机や椅子の物陰に向けて発砲する。
銃撃が終わり静けさが戻った次の瞬間、扉の陰から動く人影が敵の1人を剣で貫き、剣を引き抜く勢いで後ろに立つ男の首をダガーが貫いた。
残った1人は銃を敵に向けたが、切り返す剣で銃を叩き落とされた。
男は素早く後ろへ下がると、腰から大きなサバイバルナイフを抜き構える。
志恩は剣を片手に下段で構え、ナイフを構える男に斬りかかる。何度か剣とナイフが火花を散らすと、志恩は下から上へと剣を切り上げ敵がナイフで防いだ瞬間、もう一方に持っていたダガーを相手の眉間へと投げつけ相手を絶命へと追いやるのであった。
小部屋が並ぶエリアに隠れていた葛城と三上は、2人の敵と銃撃戦を行っていた。
辛くも敵を倒した葛城と三上であったが、三上は足に、葛城は肩に銃弾を浴びてしまい、戦闘継続が出来ない状態であった。
志恩と隆二は葛城と三上をそのフロアに残し、上へと向かう。
志恩と隆二が更に階を上がって行くと、突如危険な気配を感じ身を伏せる。
二人が階段の上を確認すると、そこにはコンバットスーツに身を包んだ大きな体格の男が仁王立ちしていた。
男は志恩と隆二の手に持つ武器を見ると、白い歯をむき出しに口元が笑い、右手に持つ拳銃をホルダーにしまうと腰から警棒を引き抜きひと振り、警棒の長さは実に1m弱、ちょっとした剣となった。
そして、男は左手で手招きすると近くにあった扉を開けて、そのフロアへと入って行く。
その様子を見た隆二は志恩の肩を叩くと、その男の後を追いフロアへと入り、ゆっくりと扉を閉めた。
志恩は何も言わず隆二を見送り、先を急ぎ階段を駆け登った。
最上階の扉へと辿り着いた志恩は、警戒をしながらフロアへと侵入する。
最上階は非常灯が赤く点いており、遠くで金属を叩く音が響いていた。
志恩は音のする方へ静かに走り出す。途中、幾つもの破壊された防火壁を潜り抜け、やっと人影を見付けた時には既に破壊音は消えており、大きなソファーのある部屋にハンマーと斧を持った男が3人立っていた。
男達が志恩に気付くと、不気味に笑い武器を構えて襲い掛かってきた。
ハンマーや斧の一撃は受け止めるだけで吹き飛ばされてしまう程の威力があり、志恩は必死に攻撃をかわす。連携の取れた連続攻撃に、志恩は押され気味だったが連携が取れているからこそ、そこにチャンスを見出だす。
ハンマーが振り下ろされた瞬間、志恩は両足でハンマーに飛び乗り志恩の重さで敵は前のめりになり、透かさずその敵の喉元へ剣を突き刺し、引き抜く勢いで後ろへバク転、志恩の背中をスレスレで斧が通過した。志恩は着地すると同時に、斧を振り切った敵の足へダガーを投げつけ命中、一瞬動きを止めた隙に、大きく振りかぶったもう一人のハンマーを持った敵の胸元へ飛び込み腹を一閃、そのまま背後に回り背中を一刀両断し、敵を沈めた。
足に傷を追った敵は斧を両手に持ち変え、小振りに攻撃し掛けてくる。志恩は剣で斧の攻撃と斬り交えるが、徐々に足の出血と痛みで相手の動きが鈍くなり、隙を突いて志恩の剣が相手の胸を貫き敵は絶命した。
敵を倒した志恩はその部屋を見回し、愛莉の姿は見当たらなかったが、ソファーには愛莉の物と思われる着替えだけが残されていた…
「うぅー寒い。ブルブル」
「どうなってるのよあなた。もっと簡単に済むんじゃなかったの?」
「そのはずだったんだ。高い金を払って、奴らを雇ったんだから。清子の奴がしぶといのがいけないんだ」
鳳ビルの屋上で寒さに震えている二人のよく肥えた男女は、鳳源次、鳳グループの専務で今は亡き誠司の弟である。その横に居る女性は源次の妻の芳枝である。
下の騒ぎが治まるまで、屋上のヘリポートで隠れていた。その時…
ガタッ
ヘリポートの端にあるハッチが開き、2つの人影が姿を現した。1人はスーツ姿の女性、もう1人は赤いドレスを纏った女性、そう清子と愛莉であった。
その姿を見た源次と芳枝は、顔を見合せてからにんまりと笑い、ヘリポートへ現れた2人の元へと進み出て、風音の強い屋上で声を張り上げた。
「とうとう追い詰めたぞ、この泥棒猫が」
その声の主に気付いた清子は、愛莉を後ろにかばう姿勢で返事をする。
「やっぱり、この騒ぎはあなた達だったのね」
「うるさい、兄の財産は俺の物だ。どこの馬の骨ともしれぬ女に奪われてたまるかっ」
「そうよ、清子。あんたは黙って会社を源次に譲れば良かったのよ」
清子は少し呆れた顔をした。
「そんなだから、誠司さんはあなた方に会社を任せる事に反対だったのよ。少しは反省して真面目に成れば、私だって少しは考えたのよ」
源次は顔を怒りで塗り潰し、叫ぶ。
「偉そうに言うな。俺はやりたいようにやるんだよ。お前さえいなくなれば、俺が会社をついでやる。心置き無く、兄貴の後を追うんだな」
源次はそう言うと、手に持っていた手榴弾の1つのピンを抜くと「ハッハッハ」と高笑いをし、手榴弾を愛莉達へ向けて放り投げた。
清子はそれを見て愛莉を庇おうとするが、愛莉は清子の脇をすり抜けると、転がる手榴弾を源次に向けて蹴り返す。
それを見た源次は声が詰まり咳き込むが、既に2発目の手榴弾を握っていた為、そのピンを思わず抜いてしまい、手榴弾を放り投げ逃げるのであった。
愛莉も急ぎ清子の元へと逃げた。
ボンッ
最初の爆発で源次と芳枝は吹き飛ばされ、ビルから弾き飛ばされた。二人はビルの屋上からパラシュート無しのダイブをする。
そして最初の爆発で弾き飛ばされたもうひとつの手榴弾は、清子と愛莉の側へと弾かれ爆発する。
ボンッ
清子は愛莉を抱き締めたが、二人は爆風で飛ばされてしまい、ビルの端へと転がされる。
清子は愛莉を庇った為、身体中が傷だらけになり倒れ。
愛莉は傷が少ないが爆風により、ビルの端から転落してしまった‥
扉を閉めた隆二は、外のビル明かりで薄暗いフロアを見回す。
このフロアは中央が広々と何もなく拓けており、窓際に幾つかそれほど大きくない部屋が設置されていた。
そしてフロアの中央には、警棒を剣の様に構えた敵が、静かに立っている。
「待たせちまったか?お前が闘いたがってるのは分かるぜ。久々に本気の俺が相手してやるよ」
隆二は挑発的な台詞を吐くと、自分の武器である両刃の槍を構えた。
それを見た敵は、雄叫びを挙げながら隆二に向かって駆け出す。敵の初撃は隆二の槍に受け止められ弾き返され、隆二の追った突きの攻撃をかわす。仰け反りながらかわした敵は、隆二の槍をそのままの姿勢で蹴り上げようとするが、隆二は素早く身を槍ごと引き、かわす。
再び2人は少しの距離をおき対峙した。
2人は何度も押しつ押されつの攻防を繰り広げ、お互い1歩も退かなかった。
そんな2人の耳に2回の爆発音が聞こえ、敵はニンマリと笑い攻撃を仕掛けてくる。隆二はその攻撃を防御して、今度は敵を大きく弾き飛ばした。
2人の距離が開いた時、隆二が叫んだ。
「そろそろ急がせて貰うぞっ!」
そう言って、槍を片手に背中に隠れる程振りかぶり姿勢を低くする。敵は少し見ていたが、隆二に向かって間合いを詰めてきた。
敵が動き出すと同時に隆二の体が光に包まれ、その光が槍へと全て移った時。
『千手斬』
隆二の叫びと共に放たれた一撃は、光の切り口となり一瞬で千の斬撃に変わり相手の体を通過した。
敵は防御の姿勢で斬撃を耐えきった、かの様に見えた次の瞬間、細切れの肉片と化し武器もろとも床へ落ち、肉の塊と化した…
愛莉は辛うじて屋上の縁へと掴まり、落下を防いだが傷付いた腕で風に揺れる自分の体は支えきれず、徐々に指が離れていく。
「志恩、た、す、け、て」
そして、言葉虚しく愛莉の手は離れ宙に舞った。と思った時、愛莉の腕を辛うじて掴んだ人物が居た。
愛莉は掴まれた腕の主を見る。そこには血を滴らせながら、必死に愛莉の腕を掴む清子の姿があった。しかしその体は愛莉を庇った爆風で傷だらけになっており、腕から腕へ血が伝わり落ちてくる。
「おばさま、ありがとう。でも、その手を離さないと、傷付いた体では二人共落ちてしまうわ」
清子は痛さに堪えながら叫ぶ。
「嫌よ、絶対に離さない。2度も娘を喪う位なら、一緒に落ちた方がましよっ」
清子は血で滑る手を必死で握り絞めている。
そんな清子を見て、愛莉は優しく微笑んだ。
「清子さん、ありがとう。今日私は記憶にないお母さんと会えた様な時間を過ごせて、とっても楽しかったわ。だからこそ、私もお母さんを犠牲にしたくはないのよ。それに私なら大丈夫。絶対に奇蹟のヒーローが助けてくれるから」
愛莉はそう言うと、ビルの壁を蹴り清子と握る手を離した。愛莉の体は宙に舞い赤いドレスがはためいた。
「ありがとう。お母さん…」
愛莉の言葉に涙で清子は雄叫びを挙げた。
「いやー、だめよー、聖美ーーー」
清子は宙を掴む様に身を乗り出し、叫び続けて落ちそうになる。そのまま追い掛けて落ちるのかと思われた時…
清子の頭上を飛び越え、空へと飛び込む影が清子の視界に入った。
「えっ」清子は赤く宙を舞いながら落ちていく愛莉の後を、空を泳ぎながら追い掛ける影の姿に目を奪われ、気が付くと2つの姿は暗い闇の底に消えていた。
愛莉は背中に感じる風圧により、まるで優しいベットに埋もれている気分だったが、恐ろしさに目を閉じていた。
しかし自分の名前が呼ばれた気をしたのか、うっすらと目を開ける。そして暗い空の彼方から自分に近付いてくる影が在ることに気が付き、目を見開いた。
そして愛莉は涙を宙に巻きながら笑顔で両腕を開き、その影が自分とぶつかる距離まで近付くと、ギュッと抱き締めたのだった。
「もぉ~大分遅刻だぞっ!」
「へへっギリギリ間に合ったんじゃない」
「ありがとう、志恩…」
愛莉の意識はそこで消えた。
志恩は気を失った愛莉を抱き締め、近付く地上を睨んだ。
ーー何とか愛莉だけでも助けたい。今出来うる事は、持っている剣を使い地上に落ちる瞬間、持てる最強の技を地面に叩き込み、落下速度を弱らせ、自分がクッションとなり愛莉を庇えば、無傷とはいかなくとも、愛莉の命は助けられる。その時、俺も生きていられたら奇蹟かな‥
落下速度が増す中、胸元で眠ってるかの如く静かな愛莉の顔を見ながら志恩は手に持つ剣に力を集め集中する。
地上が近付き、志恩の手に持つ剣が光輝く。
そして、志恩は愛莉を抱え込み剣を振りかぶり、必殺の一撃を地上へと放とうとした…ふわっ
志恩と愛莉の体は空中に停止する‥いや、僅かだが下へと下降はしているが、余りに遅い落下速度の為、空中に浮いている様に感じるのであった。
志恩は地上に立つ大きな胸の谷間に気付いた…違った、地上に立つ仲間の魔女の姿を捉えた。
「いやいや、危なかったわね。あと1分違ったらぺしゃんこだったじゃない。あんまり無理しなさんなよ」
丁度この時、時計の針は0時1分を指していたのだった。
志恩とシェリーは愛莉の傷を癒すと、近くに居た長谷部さんに愛莉を託し、二人は物陰から屋上へと飛翔する。
屋上で清子の傷を一瞬で癒すと、清子はおろおろと驚いたが、空を飛んで現れた二人を見たときに比べれば、大した動揺ではなかった。
清子には愛莉の無事と秘密保持の話を軽くしておいた。清子は愛莉の無事を聞き大粒の涙を流し、秘密保持に関しては、うんうんと何度も頷いてくれた。
清子を伴って階下へと降りる途中に隆二と出会い、そのまま4人で葛城と三上に合流し、二人の回復を行った。
後はエレベーターで1階へと戻り、事後処理を警察と清子に任せると、志恩は愛莉と共に清子の車で家まで送って貰った。
深夜の帰宅で父親に怒られそうになったが、運転手の栗林さんが、事情を上手く説明してくれたので、何とか怒られずに済んだ。
愛莉を部屋のベットに寝かた(ドレスだけ脱がせ下着姿で)。愛莉は朝まで起きなかった。
こうして愛莉の1日は平和?に幕を閉じた‥
今回の事件の首謀者と思われる2人は、潰れたひきがえるの様にビルの裏手の道で発見された。
今回雇われた傭兵[ブラックヘル]は、国際手配されている殺し屋集団だったのだが、源次達がどこでコンタクトを取り、雇うことが出来たのかは未だに不明のようだ。
愛莉は事件の後、たまに清子に呼ばれ食事をしていた。その際、志恩も紹介され清子と話をしたのだが、なんと、清子の娘の聖美は異世界事件の飛行機事故で死亡していた。
だが、驚くのはそれだけではなかった。愛莉には内緒で清子と話をしたのだが、志恩は異世界で聖美に偶然会っていた。そして、その際聖美のお腹には子供が居たのだ。産まれる日と再転生の日時を計算すると、その子は1歳になっているはず。
その事を葛城に聞いてみると、なんと事故現場に身元不明の1歳の赤ちゃんが発見されており、今は病院で預かっているとの事だった。
清子はその話を聞き半信半疑ではあったが、志恩の魔法を目の前で見ている為、信じ去るおえなかった。
その後、DNA鑑定でその赤ちゃんが聖美の娘だと分かり、葛城の計らいで法的に聖美の子供として清子が育てる事となり、清子は子供に聖美と名付け、新たな生き甲斐を見付ける事が出来たのであった。
愛莉は清子に聖美の子供が見付かった事を、事情は理解していないが、心から喜んだ。
今回は今までと少し違ってお話頑張ってみたのですが、如何だったでしょう。
次回、文化祭の始まり。ここまでがプロローグだったをお送りします。