愛莉の長い1日 前編
全然終わらず、1話に書き終わりませんでした。
後編は短いので、2、3日中には…
都心の高層マンション。その最上階にはペントハウスがあり、幾人かの大人達が激しい雨音を窓に当たる雨粒で聞いていた。
部屋の中には大きなベッドがあり、そこには1人の男性が横たわる。男性の側には少し年齢はいっているが、まだ美しさの残る女性がベッドに横たわる男性の手を握り、椅子に腰掛けていた。
ベッドの周りには病院で見掛ける器材が幾つか並んでおり、白衣を着た男性2人と同じく白衣を着た女性が1人立っている。
ベッドに横たわる男性は、自分の口を覆っていた酸素吸入器を外す。
「あなた、どうしたの?」
隣に腰掛けて手を握っていた女性が問い掛けるとベッドに横たわる男性はか細い声で話をする。
「すまんな、こんな身体になってしまって」
「いいんですよ、そんなこと。早く良くなって下さい」
「もう無理なのは分かっている。私の事より、私が死んだ後のお前の事が心配だ」
「何言ってるんですか。私は大丈夫ですから」
女性は涙を堪えながら、笑顔を作る。
「聖美の事はすまなかった」
「あの事故はあなたのせいではないですよ。あの子もそう言う運命だったんだわ」
「お前1人にしてしまうが、会社の事は頼む。それと、遺書は弁護士に渡してあるから宜しくな」
「そんな縁起でも無いこと言わないで、今はゆっくり休んで下さい」
「ありがとう…」
バタン ダダダ ガタガタ
「いったーい」
「なんだなんだ、休みだって言うのに朝から騒がしいな」
家の階段で尻餅を着いている愛莉に志恩が呆れた顔で覗き込んでいる。
「もぉ~急いでるのっ!早くしないと無くなっちゃう」
今日は愛莉が好きな服ブランドの新作が出る日らしく、朝から並んで買いに行くようだ。
「志恩じゃま、私もう出掛けるから、お昼は勝手に食べてね」
「はいはい、いってらっしゃい。おいらはもうひと眠り」
愛莉は用意を済ませると、颯爽と家の玄関を飛び出して行った。
外は木枯らしが吹いていて、街の木々も紅葉に色を変え、既に散り初めている。行き行く人の中には、すでにマフラーで体を暖める人も見掛けられる。
そんな寒空の下、カラッと晴れた街中を通り足早に駅へと急ぐ愛莉の姿があった。
愛莉は電車を乗り継ぎ、渋谷へと向かう。日曜日の電車は比較的空いており、座りながら目的地へと向かう事が出来た。
渋谷に着くと、愛莉は我慢が出来ずに走ってしまう。信号を渡り人混みを通り抜け、目的のお店が入る建物が見えてきた。既に並んでいる人が何人も居て、愛莉は気持ちが抑え切れなくなっていた。
キキー
「きゃっ」
車は愛莉の寸前で止まり、尻餅を着いた愛莉は目をぱちくりさせながら驚いている。
そして車からは手に白い手袋をはめた初老の男性が出てくると、愛莉の傍に駆け寄り心配そうに尋ねる。
「お嬢さん、お怪我はないですか?立てますか?」
気持ちが焦って信号を無視してしまった愛莉は、逃げ腰に成りながら申し訳ない顔をして応える。
「ごめんなさい。急いでしまって、信号を守らなかった私が悪いです。怪我はないみたいですし、どこも当たってないので大丈夫です」
そう口早に愛莉は応え、立ち去ろうとする。
すると、車の後部座席から1人女性が降り、真っ直ぐに愛莉の元へと小走りに駆け寄り愛莉と真正面に向き合う。そして、その女性は愛莉の顔をマジマジと見つめた次の瞬間、バッと愛莉を抱き締め「聖美」と呟いた。
愛莉は「えっえっ違います、わたしは愛莉です」と、右往左往しながら叫んだ。
少し間を置いてその女性は「ごめんなさい、そうよね」と言って愛莉を離した。
パッパー パッパー
車のクラクションが鳴らされ、愛莉達は囃し立てられる。
その女性は愛莉の手を握り「お願い、少しだけ私に付き合って貰えないかしら」と、車の中へと誘導してくる。愛莉はその女性の瞳に涙が溢れているのに気付き断りずらく、誘われるがまま車に乗車した。
女性の名前は鳳清子、パッと見は40歳は越えているが美しさと気品があり、優しい顔立ちでどこかの奥様的な印象だが、キャリアウーマンの様なスーツスタイルに身を包みスラッとしたスタイルをしているせいか、どこか会社のお偉いさんの様なイメージもあった。
車が走り出し暫くすると、先程の初老の運転手が清子に声を掛ける。
「清子様、このあと会食のご予定ですが如何なさいますか?」
すると清子は即答で。
「今日の予定は全てキャンセルしてちょうだい。理由はなんでも構わないわ」
「畏まりました。では、これからの行き先は如何なさいますか?」
「そうね、静かにお茶が出来てご飯も食べれるところがいいわ」
「畏まりました」
運転手は車を止めて携帯電話で少し話すと、すぐに車を発進させた。
愛莉は清子の勢いに圧され、ただ聞くだけしか出来なかった。
目的地に着くまでの間に、清子は愛莉にザックリとだが身の上話をしてくれた。清子は今年、18歳になる愛娘、聖美を事故で亡くし、その後すぐに夫を癌で亡くしたそうで、今は夫と一緒にやっていた会社を取りまとめて忙しくしているそうだ。
そして清子は携帯電話の写真を数枚愛莉に見せる。そこには楽しそうに笑う愛莉の写真が写っていた…いや、それは多分亡くなった聖美さんだと悟る。その様子に清子は静かに1度瞼を閉じ頷く。その写真に写る聖美の姿は、愛莉でさえ見間違う程よく似ていた。
車は大きなシティホテルの地下へと入り、そこから降りてエレベーターで高層階へと進む。
エレベーターの扉が開くと、そこはレストランフロアーとなっており、景色が一望出来た。エレベーターから清子と愛莉が降りると、素早く二人の前に整ったスーツ姿の中年男性が現れ、深くお辞儀をした。
そして、その男性が頭を上げて愛莉を見た瞬間、1歩後退りして驚きの表情をする。その様子を見て清子は男性に一言伝える。
「彼女は愛莉さん、娘では無いわよ。早く席に通してくれるかしら」
それを聞いた男性は「失礼しました。どうぞこちらへ」と言って、奥の席へと二人を案内する。
愛莉達が通された席は、他に比べ1段上がった場所にあり、窓際で角の特別な席だとすぐに分かった。更に、ランチの時間にも関わらず愛莉達の席周辺には誰も居らず静まり返り、少し離れた席に他のお客と思われる人達が見掛けられた。
愛莉と清子は席に着き、会話する。
「軽く何か食べてからお茶にしましょうか?」
「はい、私は何でも構いません」
清子は先程のスーツの男性に色々とメニューを見ずにオーダーをしていた。
「あの~」
愛莉は少し身を細め、畏まった声で聞いた。
「このレストランのこの場所はお高いんじゃないですか?私なんて座っていたら、申し訳ないです」
その話し方に清子はフフフと少し笑い、愛莉に答えた。
「大丈夫よ、このレストランはうちの会社が経営しているから、直接はお金が掛からないわ。それにこの席の周りは貸し切りにしているから、静かに話が出来るわよ」
凄い事をサラッと言ってしまう清子に愛莉はただ相づちを打つしかなかった。
愛莉と清子は食事を楽しみ、その後のティータイムへと時間を移していた。
すると愛莉達の元へ1人の女性が近付く。
愛莉はその女性の顔を見たとき思わず「あっ」と声を出してしまう。その声に女性も愛莉の顔を不思議そうに見るが、暫くして全てを理解したように頷き、清子へと向き直った。
「社長、遅くなりました。今日のスケジュールは全てご病気と言うことで変更致しました」
「長谷部さんご苦労様。あなたは彼女の事をご存知なの?」
「はい、以前政治家秘書をしていた時、彼女のお兄様にお世話になり、その時1度彼女にも会っております。改めて会って気付きましたが、本当にお嬢様に瓜二つですね」
そう、彼女は以前吉田議員の秘書をしていた長谷部紀香である。吉田議員死亡後、政治家秘書を辞め仕事を探しているときに人伝の紹介で鳳清子の秘書になっていた。
「二人がお知り合いなんて、とても素敵な偶然ね」
清子は嬉しそうに笑った。
「それと頼まれていた物をお持ちしました」
そう言って差し出された紙袋を清子は愛莉に受け渡す。愛莉は不思議そうに受け取り、清子が頷くので中身を確認した。すると中には、今日並んで買おうとしていた洋服数着と欲しいが高いので諦めていたバックが入っていた。
愛莉は目を輝かせ嬉しさを溢すが、ハッと我に返り紙袋を返そうとする。
「こんな高価な物受け取れません」
清子は少し困った顔をする。
「今日の迷惑料と思っていただけないかしら」
愛莉は頭を左右に激しく振り。
「いえいえ、車に飛び出して迷惑を掛けたのは私の方ですから、ここまでしてもらっては申し訳ないです」
清子は更に困った表情になり、長谷部を見る。すると長谷部が愛莉に話す。
「愛莉さん、これを貰うことが愛莉さんが迷惑を掛けた償いと思って頂けないかしら」
「えっ?」
「愛莉さんがこれを喜んで受け取って、笑顔で居てくれる事が清子社長の一番嬉しい事なのよ」
愛莉は暫く考えてから、紙袋を受け取り、目一杯の笑顔で御礼を言った。それを見て清子も笑顔で喜んだ。
愛莉は紙袋を持って立ち上がると。
「あの、折角貰ったので、今着替えて見て貰ってもいいですか?」
愛莉の言葉に清子は嬉しそうにウンウンと頷いた。
そして愛莉が荷物を持ってトイレに向かい姿が見えなくなるを確認すると、長谷部は清子に近づき耳元でボソボソと話す。
清子は険しい形相で話を聞いてから「分かりました、気を付けます。あなたも今後の対応を考えて置いて」と言い、長谷部は「畏まりました」と返した。
その後、愛莉が着替えて戻って来ると清子は笑顔を取り戻し、話を花を咲かせた。
「さて、愛莉もいない事だし、タイミング的にはちょうど良かったな」
志恩は昼過ぎに出掛けて行った。
外はコートを着ている人が居ても違和感を感じない寒さになってきていた。
志恩は動きやすいジャンパーを上に羽織り、向かった先は下町の工場が並ぶエリア。途中、隆二と落ち合い、二人で日曜の休みで静かな1件の工場へと足を踏み入れる。
そこには30過ぎの体格の良い坊主頭の男が1人椅子に腰掛けていた。
男は志恩達が現れたのに気が付くと、椅子から立ち上がり二人の方へと向く。それを見た隆二が先に声を掛けた。
「お待たせ、シオンも連れて来たぜ。例の物は出来ているか」
男は志恩をじっと見つめてから、志恩に抱き付いた。
「シオン、久しぶりだな。少し見ない間にスッカリ小さく子供になっちまったな!はっはっは」
志恩も男とバグをしながら暑苦しい顔を見せ。
「久しぶりだなアンドリュー。小さく成ったんじゃなくて、若返ったって言ってくれよ」
彼の名前は安西龍一、異世界転生者の1人である。異世界ではアンドリューと名乗っており、戦士としてのスキルを多少持つが、異世界では鍛冶屋として生活していて、志恩達の武器の手入れや製作などもしてくれていた。
志恩達は暫く昔話に花を咲かせてから本題へと話を移していく。
「これが頼まれていた物だ。そしてこっちがおまけだな」
そう言って取り出した物は、形は悪いが少し大き目の指輪が2つ。表面にはこの世界にはない文字が目一杯刻まれている。それと1m程の筒状の棒、両端を捻ると両側に刃が飛び出し、切る突くの攻撃が可能となる。筒には指輪と同じ文字がびっちり刻まれていた。それと2つ折りに出来るショートソード、これにも文字が彫ってある。そしてダガーが3本であった。
「凄いな、ありがとうアンドリュー」
「なーに、大したこたぁねぇよ。それに材料があったから、出来たような物だしな」
今回造って貰った武器の素材は、葛城の協力で飛行機事故の残骸から、使えそうな異世界とリンクした材料を提供してもらったのである。
志恩は指輪をはめるが、残念ですそうな顔をする。
「折角造って貰ったから、試してみたいが今日は満月なんだよな…」
《前にもお話したが、満月の日は地球の現代では夜中の0時から24時間体内の魔法の力が失われてしまうのであった》
「アンドリュー、手間賃はどれくらいだ?払える額にしてくれな」
隆二が聞くと、安西は手の平を横に振り。
「なに言ってんだよ。これはこっちの世界では趣味の1つだ。料金なんて要らねぇよ」
志恩は安西と握手を交わし、感謝の気持ちを伝えた。
安西は志恩と隆二に改めて話をする。
「そう言えば、禁忌の魔法を使って、大量のマジックアイテムを持ち込んでる奴が居るって噂を耳にしたぜ、気を付けろよ」
志恩は少し考えに耽り。
「やはりそうか、その辺を調べてみないとな‥」
志恩と隆二はそれから少し話をしてから、その場を後にした。
帰り道、愛莉から連絡が有り、夕飯は食べてくる。そして帰りは遅くなるけど、長谷部も一緒に居るので心配要らないと言ってきた。ここで何故長谷部なのかと複雑に思ったが、知っている女性の大人が居るなら問題ないだろうと安心し、志恩も隆二とゆっくり夕食を食べて帰ることにした。
ここはホテルの最上階。ピアノの生演奏が流れ、フロアーは少し薄暗く窓からの夜景がきらびやかに照らし出されいる。
愛莉は深紅のドレスに身を包み、シャンパンの様に見えるジンジャーエールをシャンパングラスで飲みながら、清子とディナーを楽しんでいた。
「愛莉ちゃん、今日は本当にありがとうね。おばさん、夢の様な1日だったわ」
「私の方こそ、プレゼントまで貰って母親ってこんな感じなのかなって思えて、最高の1日でした」
娘を失った清子、母を知らない愛莉。二人は誰から観ても仲の良い親子に見えただろう。
楽しい時間は過ぎるのが早く、時刻は大分回っていた。
車で送られている車中。
「大分遅くなっちゃったわね、愛莉ちゃん。ごめんなさいね」
「いえ、私も楽しくて遅くまですいません。そうだ、このドレス聖美さんのですよね、お返しします」
「いいのよ、貰ってちょうだい」
愛莉は真剣な顔で答えた。
「いえ、これは大事な娘さんの形見、おいそれとは貰えません。ですが、また清子さんと着る機会があれば、その時お貸し下さい」
清子は愛莉の気遣いに涙を浮かべて微笑み。
「ありがとう、じゃあ最後に娘の物を保管してある会社の社長室まで付き合って貰えるかしら」
「はいっ、喜んで」
ビルの保安室。幾つもの監視モニターが映し出されている。
「くっくっく、狙い通り来たわよ」
「ああ、これでお仕舞いだ」
愛莉と清子は鳳の自社ビル最上階にある社長室へと来ていた。
「さっ愛莉ちゃん、着替えたら明日もあるから急いで帰りましょうね」
「はい、ありがとうございます。今着替えますね」
そう言って愛莉が背中のチャックに手を掛けた時。
ガチャン
突然部屋の電気が消えた。
外からのビル明かりが室内を照らし出している様子から、電気が消えたのはこのビルだけのようだ。
愛莉と清子は不安を感じ、一先ず取るものも持たずにエレベーターへと向かった。
エレベーターに到着した二人だが、エレベーターのランプは消えており、ボタンを押しても反応しない。
二人は急いで、非常階段へと向かい一先ず下に降りようとしたのだが、その時階下から上へと駆け上がってくる数人の足音が聞こえた。
愛莉は階段の隙間から下の方を覗くと、駆け登ってくる人間の手に銃らしき物が握られているのが見え、その事を清子に伝えると、清子は愛莉の手を引っ張りフロアーへと戻った。そして扉に鍵を掛けると、社長室へと戻り柱の陰にある非常ボタンを押しす。するとけたたましい警報音が鳴り、廊下の方でシャッターが閉まる音が幾つも聞こえた。
そして清子は愛莉の手を握り、真剣な顔をした。
「ごめんね愛莉ちゃん、おばさんのせいで愛莉ちゃんを危険な目に捲き込んでしまったわ。でも安心して、どんなことがあってもあなたは私が守ってみせるわ」
愛莉は勇気を振り絞り。
「大丈夫よ清子さん。私は強いし、それにどんなピンチでも必ず助けてくれるヒーローが私には付いてるから」
愛莉は携帯電話を取り出し、志恩へと連絡を取った。
「あーあ、俺も早く二十歳になって、堂々と酒を飲みたいぜ」
「まぁ、当分無理だな。心がオヤジな分、辛いところだよな」
「うるせぇ」
志恩と隆二が、居酒屋でオヤジトークをしていると1本の着信が鳴った。
「おっ愛莉からだ。迎えに来いとかじゃねぇだろうな。はい、お兄さんですよ、どうしましたか?」
「志恩、助けて。殺されちゃう」
志恩の顔は一気に変わった。隆二も命を分かち合い闘った仲である、すぐに空気を感じた。
「どこにいる、状況は?敵は何人だ?」
「ここは日本橋の鳳ビルの最上階。相手は10人は居ると思うけど分からない。拳銃持ってた」
「分かった。そこにはな プツ ツーツーツー ちっ切れた。隆二」
隆二は既にお会計を済ませ出る準備をしていた。
「何も言うな、行くぞ」
流石分かってるな、と無言で頷きタクシーへと乗り込む。タクシーの中から葛城にも応援要請を忘れはしなかった。
「あっ切れちゃった。あれ?圏外。どこにも繋がらない」
清子は非常モニターを睨んでいた。
「あっ、最初の防火扉が破られたわ。このままだと1時間ももたないかも」
愛莉は両手を組んで力強く祈った。
ーーお兄ちゃん助けて。
「おいっこのシャッター開ける方法ないのか?」
「無理ですね、ここのシャッターは独立の非常電源になっていて、外部からの解除が出来ないみたいです」
「ちっ。爆弾には限りがある。いざってときに困るから、シャッターは斧とハンマーで叩き壊すしかねぇな。急いで取り掛かれ」
キィー、ガチャ、どうもお気を付けて。
志恩達は目的地のビルまで到着した。ビルの下には既に警官が集まっており、非常線を張っている。
志恩達がビルに入ろうとすると警官に止められてしまい入ることが出来ず、苛立ちを覚える。
「警官倒して突破するしかないか」
志恩が危ない発言をしているとビルの中から駆け足で女性が近付いてきた。
「お巡りさん、その二人はビルの関係者です。入れてあげて下さい」
そこに現れたのは志恩も隆二も面識のある、長谷部紀香であった。
彼女の話では、最上階の社長室に社長の清子と愛莉が居るらしく、襲っているのはおそらく、この間亡くなった会長の弟、源次の手の者で会社の全権を持っている会長の妻、清子を亡きものにして会社を我が物にしようと企んでいるそうだ。
会長の鳳誠司は弟の横暴を見抜いており、妻が困らないように遺書をしたためて、全権を妻に遺したのだが、それが強行手段を取らせる結果となり裏目に出てしまったと言う訳だ。
志恩は隆二に、今日は魔法が使えないからいつも以上に命懸けだなと呟き、何時ものことよ、と隆二は皮肉った。
二人が途中まで電力の通じるエレベーターに乗り込もうとするとタイミングよく葛城達が現れ、そして志恩と隆二に防弾チョッキを投げ渡す。
「今日はヤバい日なんだろう、気を付けろよ」
志恩、隆二、葛城、三上の4人はエレベーターで途中階まで向かう。
エレベーターの中で志恩は葛城に聞いた。
「よく今日がヤバい日だって覚えてましたね?」
「それはさっき、魔女に聞いたんだよ」
「なるほど」
チーン
エレベーターの扉が開き、志恩達は警戒しつつ、廊下へと散らばる。
志恩達は警戒しながら進み、非常階段へと着く直前、三上の叫び声で全員が足並みを止めた。
三上が指し示す先を見ると、志恩も映画などで観たことがある対人地雷クレイモアが設置されていた。
全員は近くの部屋へと隠れ隆二が近くで拾った鉄片を投げ爆発させる。この事により、相手は此方の接近に気付いたのと、相手がプロであることが分かった。
志恩達は益々気を引き締めるのであった。
コンバットスーツの一団。リーダーと思わしき男が命令をする。
「防火扉の破壊に3名残り、あとは階下の侵入者を排除する」
この戦闘集団に似つかわしくない男女。男は小太りで少し頭が剥げており、この場に合わないダブルのスーツを着ていた。女は男同様に小太りで顔の弛みとは逆にキツイ目鼻立ちをしている。二人は戦闘集団のリーダーらしき男に愚痴を言う。
「まだ時間が掛かるのか?下からも何か来ているようだし、ここは危険なんだろう?私達は屋上のヘリポートに隠れているから早く目的を達成してくれ。あと何か武器を貸しといてくれ」
そう言った後、リーダーらしき男から、手榴弾を2つもらい屋上へと向かった。
男は舌打ちをしてから、階段を下っていくのであった。
次回、後編。最大のピンチ。主人公が死んだらお話終わるのかな…をお送りします。