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体育祭 1

体育祭、何かが起こるか?

純奈先輩の行く末は?

 目覚ましの音で目を覚まし、カーテンを開く。

 窓から射し込んでくる陽射しは、とても気持ち良いものだが、その日の彼には、駄目なのかと言う落胆の光に見えた。


「志恩。起きてるなら早く手伝って」

 朝から元気な声がよく通る。

 愛莉は今日のお弁当の用意を早起きをして作っていた。


 今日は待ちに待った球技大会の朝である。昨日の夜は、てるてる坊主を逆さにぶら下げたり、天気予報を何度も確認したが、やはり雲一つない良く晴れた天気であった。


 志恩は台所に降りると、そこには大量のお弁当のおかずが、それも同じものばかり並んでいた。

「こんなに同じおかず作って飽きるし、食べきれるのか?」

 そんな呆れ顔の志恩に対して、またですかと言わんばかりの表情で、愛莉は寝ぼけ(まなこ)の兄へと怒鳴りつけた。

「いつもいつも、話を聞いてないの?昨日みんなで話したじゃない。一人一人おかずを作って、皆で合わせたお弁当にしようって」

 志恩は違うことばかり考えていて、そんな話をしていたような気がすると今更ながら思い出した。

「ずっと(うわ)の空で聞いてないと思ったから、志恩の分は私が作っておいたわ、早く用意を済ませて手伝ってよ」

「ありがとう、出来た妹を持って、お兄ちゃんは幸せだよ」

「はいはい、早く顔洗って」


 志恩は用意を済ますと愛莉の手伝いをし、雲一つない空の下、学校へと向かうのであった。




 学校には体育祭の準備をするため、既に多くの生徒が登校していた。


 青空ヶ塔高校の体育祭は各学年A~F組のクラス毎の競技と学年合同の競技でポイントが配分さる。学年合同の競技では1年D、2年D、3年Dの混合チームが、代表D組となる形で、代表A組~F組で争われる。そして、1年A、2年A、3年AがAチーム、1年D、2年D、3年DがDチームと言った形で優勝チームを決めるのである。

 同学年の競技では、リレー等の陸上競技で争われ、学年合同の代表チーム戦では、野球やサッカー、バスケットボールなどの球技で争われる。

 全ての競技において重複参加は禁止とされており、余った生徒は補欠として参加が義務付けられている。勿論、球技においては男女別々での参加である。




 晴れ渡る天気の下で体育祭は開催された。

 体育館、校庭全てを使い各競技がスタートする。

 志恩は野球部の補欠として登録しているが、実質何もすることがない立場である。その為、校庭をウロウロとしながら、色々な競技を見学していた。


 太陽が暑さを強めながら徐々に頭上へと移動している中、各競技は次々と消化されていった。

 志恩の目から見ても、B組はどの競技でも強さを見せ付けていたが、志恩達のD組もチームワークの良さを武器に、好成績を収めていた。


 そんな中、志恩の視界に入ってきたのは、人気のない校舎裏へと向かう数人の生徒の姿。ハチマキの色でB組とD組の生徒であったのは確認出来たが、雰囲気が普通ではないのはすぐに分かり、足早に後を追いかけた。


 志恩が校舎裏に着くとB組のおそらく3年生が、D組の1年生と2年生を壁際に囲み怒鳴り付けている様子だった。

「おいっお前ら、次の競技わざと負けるように動け、もし勝つような事があったらどうなるか分かってるんだろうな」

 3年生の髪を少し染めた、スポーツはやって無さそうだが体格のいい生徒が息巻いている。

 1年生の志恩と同じクラスの生徒が、震えながらも3年生に言い返した。

「駄目だよ、僕らが手を抜いたら、同じクラスのみんなに申し訳ないよ」

「あ"!」

 間髪いれずに唸った3年生が手を上げ掛けた時、サッカーボールが3年生の頭に直撃。

「痛ってぇ。誰だー」

「はーい、俺でーす」

 近くに有った竹菷(ほうき)を手に持った志恩が悪びれた様子もなく近付いて行く。

「てぇめえもD組かっ!」

 目を血走せながら振り返る3年生を無視し、志恩はD組の生徒に話掛けた。

「もうそろそろ、自分達の競技が始まるでしょ。早く行って、ここは俺一人で充分だから」

 それを聞いて「でも~」と、どうしていいのか分からない素振りのD組生徒に志恩が「早くっ」と叫ぶと、生徒は一斉に校庭へと走り出す。

 それを見て、3年生が止めようと手を伸ばしたが、素早く志恩が手に持った竹菷でその手を叩き落とした。

「いってー、このくそガキ嘗めやがって」

 そう言って次々と志恩に掴み掛かるが、志恩は軽いステップで攻撃をかわし、竹菷で撃退する。

 そうすると、志恩を囲む様に3年生達は動いた。

「お前ら、一斉に襲い掛かれ」

 ーこりゃ不味い。志恩がどうしようか考えた時。


「こらっお前達、何しているのっ」

 長くすらりと伸びた生足を見せ付けた短パン、ピチピチのTシャツにジャージの上着を羽織ったシェリー先生が現れた。

 志恩は予め、校庭裏へと向かう途中『テレパス』でシェリーを呼び出しておいたのだ。


 3年生は志恩の囲いを解き、すごすごと散っていった。

「まあまあのタイミングかな」

 志恩はシェリーの肩を叩くとそのまま校庭へと引き返す。

「ちょっと~先生を気軽に使うなっちゅうのっ」

 シェリーは頬を膨らませながら愚痴っていた。




 お昼休みになり午前の競技を全て終わらせると、全校生徒が一斉に昼食を取り始めた。

 志恩達は皆で集まって円形に座ると、各々が作ってきたおかずを円の中心に並べ、昼食を取るのであった。

 みんなが連絡を取り合って作ったので、同じ物は無く、多種多様なおかずが色とりどりに並んでいた。

「「「いただきまーす」」」


 午前中の競技では、B組とD組とF組が好成績を修めており、このままいけば午後はこの3チームでの上位争いとなりそうだった。

 自分のチームが好成績だと、食事で集まって居て話も盛り上がっていく。

 しかし、何かが可笑しくないか?


「美味しい。これは海堂さんが作ったの?あら、こっちは変わってるわね。加藤くんも作ったのね!器用よね。んっ!こっちも美味しい。有森さんが作ったこれ素敵、いい奥さんに成れるわよ」

「・・・おいっ、なんで部外者が居るんだ」

「あら志恩くん、先生を部外者扱いなんて寂しいわ」

 そう言って、いつの間にか隣に座っていたシェリーが志恩に抱き付く。

 そんなことをして、黙ってないのが麗香である。

「ちょっと先生、何やってるんですか」

 そう言って志恩の腕を引っ張り奪い返す。

 そんなやり取りを笑いながら、みんなが食事を楽しんでいた。志恩を白い目と心配そうな目で見る、2名を除いて…






 昼食を終えた志恩は、顔見知りが誰もいない校舎の影でブツブツと1人、会話をしていた。

 勿論、本当に1人で会話している訳ではない。昨晩、シェリーに連絡を取り、体育館での魔法のアイテムの使用について話したり、3年の豪徳寺が白石を狙って悪巧みをしている話などをしていた。


「今の点数の状況、昼休み前にちょっかいを出してきた3年生。たぶん、このままいけば午後に何かしらの動きがあると思う。そこにアーティファクトの使用が有れば、色々と面倒になる。警戒の方、宜しくな」

 志恩がシェリーと『テレパス』での会話をしていた。

「分かったわ。魔力感知の方は警戒しておく。でも、人的動きに関してはそっちで動いてね」

「そのつもりではいるが、おおっぴらに動けないから、何かあったらさっきみたいに呼ばせて貰うよ」

「先生使いの荒い生徒ね」


 そして志恩は何ヵ所か電話をしていた。…念には念を入れて。




 校庭では既に、多くの競技が始まっており、期待の多い二人三脚の準備等もされていた。

 志恩が3年生の待機場所を通り過ぎると、後ろから急に手のひらで目隠しをされる。

「だ~れだ!」

 「・・・」言葉にならない。声からして女性であるのは分かるのだが、それ以上に背中に密着する柔らかい感触が声以上に女性だと知らしめていた…

「美人の先輩ですね」

 志恩が答えると、純奈は手を放し、その手をそのまま志恩の体の前に回すと、ギュっと背中から抱き付いた。

「大正解~」

 志恩の視界が開けると、そこには魔物の巣に1人で突撃し敵に囲まれた時の様な視線を一身に浴びていた。

「あのぉ、先輩。少し離れて貰えると、助かるんですが…」

「あら、志恩くんは私のスキンシップがお嫌だったかしら?」

「嫌じゃないですが、多くの生徒の視線がありますので・・」

 純奈は辺りを見回し、志恩から離れると普通に志恩の正面へと向き直った。

「どうしたんですか、白石先輩」

「あら、他人行儀でつまらないわね。純奈でいいわよ」

「では、純奈先輩。どうしたんですか?」

「うちのチームが頑張ってるからね、嬉しくって。このまま勝てれば、例の話も解決はしないだろうけど、急な無理は言ってこなくなるだろうし。志恩くんもD組なんだから頑張ってね」

 純奈は嬉しそうに志恩の両手を握った。

「まぁ、俺は補欠だからあまり貢献はしないんですけど、応援は頑張ります。それに体育祭が終われば、必ず純奈先輩の悩みも解決しますよ」

「気休めでも、志恩くんが言うと元気が出るわね!ありがとう」

 そう言って、純奈は走って行った。残された志恩も急いでその場を後にした。刺すような視線を身体中に受けながら…




 志恩も、自分の持ち場の野球のベンチに戻ってきた。野球は5回までの同点ありで行われていて、既に5回表で対戦チームはB組と負けられない戦いであり、2対2と接戦していた。

 志恩が悠長に眺めていると頭の中にシェリーからの声が飛んできた。今、魔力の流出を多数感知したとのことで、注意を払い辺りを見回しと、打席に立つB組の生徒の指には、デザインだけで一目で分かる指輪が装着されていた。

 ピッチャーは野球部員でエースでは無いけれども、そこそこのボールを投げていた。そして今、振りかぶってボールを投げる。難しいボールに見えたが、バッターボックスの生徒は難なくバットを振り抜き、芯でボールを捉えた。ボールはピッチャーに向かって襲い掛かり、それを防いだピッチャーの腕に当たり、その場に落ちる。その間にランナーは1人ホームベースまで戻り、バッターだった生徒は2塁へと進んでいた。

 そして、マウンドではピッチャーが腕を抑えて蹲ってしまい、駆け寄った生徒等に連れられてマウンドを降りていった。どうやら強襲したボールによって、腕を痛めたのだろう。

 そして何故かマウンドに志恩が呼ばれ、ボールを渡される。

「いやいや、僕に何をしろと言うんですか?」

 3年生の少し体格のよい先輩が志恩を睨むような目で1度見てから、他の生徒にも聞こえるように話す。

「俺は空手部なんだが、うちの青木が近くに1年の甲斐が居たらそいつを使えって言ってたんで、ここはお前しかいないと思ってな」

「なっ」・・・青木はここで俺に仕返しでもしようとしているのか…

 仕返しではなく志恩を認めているのだが、志恩は分かってはいてもひねくれた解釈をしていた。だが、これでみんなが納得してしまい、マウンドには志恩とキャッチャーで参加していた猛が残されていた。

 猛とどうするか話そうとすると…


「志恩くーん!私の為に頑張ってねー」


 その純奈先輩からの黄色い声援に、近くにいる全ての男子からの殺意が志恩へと注がれるのであった・・・


 2対3で最終回、ここはもう1点も与えられない状況になっていて、ランナー2塁3塁でノーアウト。まさに絶体絶命の状況である。

 猛には構えてくれればそこに投げるから、信じて構えておいてくれと伝えて、スタンバイする。

 次のバッターも指にはアーティファクトを装備していたので、ならばこちらも遠慮はいらないと魔法を唱えた。

 先ずは身体能力を高める魔法を使うと次に。


『ジョブチェンジマスターレンジャー』


 狩人のスキルを使えるようにした。狩人には投擲と言うスキルが有り、ナイフや石を標的に当てると言うものである。本来は動くモンスターや動物に当てるためのものなので、動かないグローブなどは百発百中である。


 まずは1投目を思い切り投げてみた。ボールは志恩も驚く物凄いスピードでキャッチャーミットを捉えるが、キャッチャーミットから球が弾かれ、後ろへと転がってしまった。

 猛は急いでボールを追い志恩が素早くホームカバーに回ったので、点数が入ることは防げたが、バッターは1塁まで走り満塁と言う逃げ場のない状況になってしまった。


 猛は志恩に近付き「ごめん」と言ってきたが、まさかあんな豪速球が出るとは、志恩さえも分からなず、キャッチャー経験のない猛がまともに捕れるはずもない。が、ここはなんとしても抑えたい。

 志恩は「ドンマイ」と猛の肩に触れながら、魔法を唱えた。


『ファイテイングスピリットエンチャント』[闘志向上]


 そして能力向上の魔法も掛けておいた。そして最後に猛に伝える。

「俺を信じてミットを構えてくれ、必ずその場所にボールを投げるから」と…


 そして次のバッターがバッターボックスにスタンバイする。純奈先輩は必死に応援してくれるが、周りの選手からは少し諦め気味な空気を感じた。

 志恩はボールを握り、第1球を投げた。

 バッターは余裕の表情で構える。


 バンッ


「「えっ?」」


「・・・ストライク!」

 審判さえも状況を理解するのに数秒を掛けてしまった。

 志恩の手から放たれる豪速球に、バッターは動く事さえ出来なかった。

 猛も今度は意気揚々とボールをしっかりキャッチャし、次のバッターもあっさり終わり、気が付けば攻守が入れ替わっていた。

 

 次のDチームの打線は、残念な事に下位打線からであるが、体育祭レベルで打線も何もないのだが、チャンスと言えばチャンスであった。バッターは7番から、このチームのピッチャーは1番バッターだったので、1人でも塁に出れば志恩まで打席が回ってくるのであった。

 時間もお昼を回ってからだいぶ経っており、残っている試合には観客が増え始めていた。

 この回に1点以上取って同点か勝ちに出来れば、D組としては大いに有利な展開になる。ここは何としても点数が欲しいのだが、相手のピッチャーの指には既に指輪が装着されており、投げる球には手も足も出ずツーアウトになってしまった。

 9番はキャッチャーの猛、しかしいくら猛の運動神経が良くても、剣道と野球では世界が違うし、相手は魔法のアイテムを使用している。こんな状況で勝機があるとすれば、猛にも魔法のアイテムを、それも相手よりも性能の良いものを装備させたくらいでなければ、勝負にならないだろう。

 志恩は猛を祈る気持ちで応援した。

 1球目ストライク、2球目ストライク、そして最後の1球。今まで速すぎて動けず、バットを振らずに見ているだけだった猛がバットを振った。それも素人の志恩から見ても信じられないスピードでバットを振り抜いき、ボールは1度地面で跳ね上がりサードの選手がキャッチャした。

 そしてもうひとつ信じられない事が!時間的に1塁までしか進めない筈なのに、猛は既に2塁に立っていた。その時志恩は思い出す、先程猛に自分が魔法を掛けていたことを・・


 そして迎えるは志恩の打席。純奈先輩は一生懸命志恩の名前を叫びながら応援しており、志恩はその声援に応えようと手を振ろうとした…が、一瞬動きを止めてしまった。

 志恩の視界には、純奈先輩の隣で口をへの字にして腕組みをして立っている愛莉の姿が…


 志恩は気を取り直し、バッターボックスへと立ちピッチャーを睨む。そして唱えた。


『ジョブチェンジ!マスターファイター』


 志恩は戦士としての能力を向上させ、飛んでくるボールの芯を構えた(バット)で切り裂いた。

 ボールはピッチャーの頭上を越えて、遥か校舎の彼方まで飛んでいき、試合は終了した。

 言うまでもないが、志恩がダイヤモンドを回ってホームベースを踏んだ先で1番に待っていたのは純奈先輩であり、純奈は志恩に抱き付いて喜び、その場に居た全ての男子の殺意を志恩は一身に受けることになったのだった。





 残す球技はサッカーだけとなり、大きく全体の点数が動く残された競技となった。現時点の順位はB組とD組がほぼ同じ点数で1位を争っていた。このサッカーの勝利チームが優勝となりそうであった。同点の場合は、その他の陸上競技での小競り合い勝負になる予定だ。


 B組はA組とD組はC組と最後の試合を行っていた。A対Bは2対1とA組リードで前半戦が終わろうとしており、C対Dは1対1のまま既に前半戦が終わっていた。

 何か仕掛けてくるならここしかないと、志恩は警戒し、シェリーも校庭に出てきていた。




すいません、ちょっと長くなりそうなので途中で切りました。すぐに続きも仕上げます。

次回、純奈先輩の貞操は守られるのか!?騒ぎの結末は!

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