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新たな魔の手が動き出す

今回は真面目な話になっており、長くなるために、2部か3部になると思います。


 赤い絨毯が敷き詰められたその部屋は、どこかの社長室の様な、中央に立派なソファーにテーブル、窓際には重みのある大きな机があった。

 その部屋の主人であろう人物は、机の椅子に深く腰掛けパソコンのモニターを眺めていた。

 机の横に直立し、椅子に腰掛ける人物と話をするスーツ姿の男が恭しく言葉を発した。

「間もなくでございます」

「首尾の方はどうだ?」

「はい、それはもう万全でございます」

「そうか。こちらの動きは悟られるなよ。犬がこそこそ嗅ぎ回っているようだからな」

「心得ております。しかし、どんなに頑張っても、こちらの枝すら見つけられないでしょう」

「ふっ、確かにな」




「先生、少しは自重して頂かないと、今が大事な時期なんですから」

「大事な時期だからこそ、今動かねばならないんじゃないか」

「しかし、最近、先生を狙っている者がいるなどと、よからぬ噂が立っておりますので」

「狙いたい奴には狙わせておけばいい。この法案が通れば、その狙ってる奴が世間に狙われるのだからな」


 この男、衆議院平和安全党吉田貴文(よしだたかふみ)。今の政界を正すと公言。国民に大人気の若手議員である。

 今回、国民平等調査犯罪防止法なるものを勧めており、警察官僚も政治家や財閥などの人間にも、特別権限などを無視して、調査、逮捕出来るものである。もしこの法案が通れば、国や警察組織がひっくり返るとさえ言われていた。



 議事堂前には、カメラやマイクを持ったマスコミと携帯カメラや色紙を持ったファンでごった返していた。

 警官隊が人員整理をしている中、吉田議員が姿を現すとフラッシュや歓声が飛び交う。そして、吉田議員が人々の前に向かって歩いている途中それは起こった。

 突然空に現れたソフトボール代の火の玉が、吉田議員に向かって飛来した。

 辺りは驚く者、叫ぶ者様々だったが、素早く気が付いたSPなどが直ぐに議員の盾に入った。しかし、火の玉は人の間を通り、吉田議員の足元へ着弾する。それと同時に着弾場所から爆発が起こり、吉田議員を含め、その周りの人間をも吹き飛ばした。

 突然の出来事に、その場に居た人々は一時パニックに陥り、マスコミ各社もこぞって特番へと差し換えていった。




 その部屋は沈黙に包まれていた。聞こえる音は、紙に鉛筆で数字や漢字、英語など様々な文字を書く音だけである。

 時折聴こえる悲鳴や嘆き、男も女も額に汗をかき、絶望に満ちていた…





「おわらなーーい!!」

「もーやだ!大体ね、部活に青春を費やしている学生に対して、宿題を出す学校がいけないんだ」

「もぅ、みんなどうして毎日、少しずつやっていなかったんですか」

「だって~部活や遊びで、家に帰ったら睡魔と言う魔物が襲って来るんだよ」

「みんな遊び過ぎなんです!私や柚木ちゃんを見習いなさい!もぉ~貴司くんや政夫くんまで終わってないとは、思ってなかったですよ」

「ハハ…面目無い」


 8月29日、新学期まであと3日と迫ったこの日、甲斐家には夏休みの宿題を終らせるべく、5人の怠け者と2人の監視者が集まっていた!

 宿題を既に終らせているのは、愛莉と柚木の二人だけであり、このまま追い込めば志恩、貴司、政夫は間に合いそうなのだが、静香は微妙らしく猛に至っては絶望的である。

「今日やる予定の半分までいってない人は、お昼ご飯抜きで頑張って下さいね」

「愛莉様、それは俺に死ねと言っとるんですか?」

「大丈夫だよ猛くん、お昼抜いたくらいじゃ死なないよ! さっ柚木ちゃん、一緒にお昼ご飯作ろうか」

「うん、愛莉ちゃん料理教えてね」


 愛莉、柚木合作のランチは、柚木の料理練習も兼ねて作成されたので、品数が多く内容も凝っている。一同は食事を堪能し、至福の時間を堪能したあと、眠くなった眼を擦りながら、再び午後の勉強に取り組んだ。

 全員が集中し始めた頃、志恩の携帯が電話の着信音を鳴らした。

 志恩は着信者を確認すると、さっと立ち上がり部屋の外へと向かう。猛はどこの女だ~などと茶化し、それを聞いた柚木は心配そうな顔で志恩を目で追った。


 電話は葛城からのもので、大事な話があるのでいつもの喫茶店に来て欲しいとの事だった。

「なんだ志恩深刻な顔をして、どこかの女の子にでも告白されたか?」

「えっそうなんですか志恩くん?」

「なんでそんな話になるんだよ!」

 猛は貴司に頭を叩かれ、変なことは言うなと怒られてた。

「この前知り合いになった刑事の人から、話があるから来てくれって」

 この宿題地獄から離脱出来るとあって、少し嬉しそうに苦笑いしたがら志恩は

「警察の人間に呼ばれたんじゃぁしょうがない、ちょっと行ってくるよ」

「志恩が行くなら、俺も行かなきゃな」

「なら、私も~」

 猛と静香は、素早く立ち上がって訴え、それを鋭く伸ばされた愛莉の腕が二人を制止した。

「志恩、刑事さんは誰に来てくれって言ってきたの?」

「ん?…俺一人で来て欲しいって言ってたな」

 猛と静香は力なく崩れ落ち、志恩は少し申し訳なさそうに

「帰ったら、徹夜で頑張るね」

 と言い残し、部屋から立ち去る。往生際の悪い猛は立ち上がり

「でも俺達仲間だし、志恩1人で行かせるのは心配じゃないか!」

 猛の発言が終わるか終わらないかのタイミングで、愛莉が机を叩いた!


 バンッ


「………」


「さっ続きを初めますか」




 志恩が秋葉原駅からカフェムーンに向かう途中、やたらと制服警官が目についたが、何かイベントでも有ったかな?などと、呑気にカフェへと向かって歩く。

 カフェムーンに着くと、深刻な面持ちの葛城と三上が、既に奥のテーブルで待っていた。

「ども、遅くなりました」

「いや、急に呼び出したりして悪かったね」

「いえいえ、助かったと言うか、息抜きに出れて良かったですが、8月の終わりは学生にとって一番忙しい時なんですよ!」

「大変な事態になっているのだが、ニュースは観てないかね?」

「すいません、昨日からテレビを付ける余裕すらなくて」

「そうか、今ならテレビを付ければどこでもやっているが、取り敢えずこの映像を観てくれ」

 そう言ってパットに映像を映し、志恩に見せた。

 その映像は、国会議事堂をバックに歩いてくるスーツ姿の男性が数名、スーツ姿の女性も1人映っていた。周りのフラッシュや雑音が聞こえる中、頭上から突然火の玉が中央を歩く男性の足元に落ち、爆発を起こす。そこで映像が乱れて終わっていた。

「どうかね志恩くん、君から観た見解を聞きたいんだが」

「俺を呼び出している時点で、検討はついているんでしょ?それに、葛城さん達が動いているってことは、そう言うことでしょ」

「まあそうなんだが、今のを見て何か気付くことはあるかね?」

「あれは日本語で言うとファイアーボール、中級レベルの魔法ですね。威力を見ると、あれが目一杯なら大した事はないですが、最低限の力であの威力だった場合、ちょっと厄介ですね」

「なるほど、それで誰がやったのかわからないかね?」

「誰と断定は無理ですが、攻撃魔法は基本、自分の視界に捉えた人物しか攻撃出来ないので、あの場に居た人間になります。それに、ファイアーボールの基本射程は20m、あの威力を維持するなら、最長でも40mが限界ですね」

「君だったらどうかね?」

「僕でしたら、魔法の発動体が有れば視界に納まる200mくらいなら、同じ威力で撃てますね。しかし、僕を基準に考えると東京のビルの高さをスカイツリーと比べるようなものですよ」

「そうだな、取り敢えずあの場に居た半径20m以内に居た人物を第一容疑者、次に40m以内に居た人間を第二容疑者として、当たっていこう」

 葛城は三上にそう指示すると、三上は直ぐに外へと連絡を取りに出ていった。


「それと志恩くん、この事件が解決するまで捜査一課から1人、一課と六課の連絡係として刑事が来ることになっていて、我々と行動を共にする事も出てくると思う。その際、君の事は秘密にしてあるので、気を付けてくれ」

「分かりました、気を付けます」


 暫く話をしたあと、葛城は仕事に戻った。

 志恩は隆二と今回の事件について話したが、現状では警察の仕事でしかないと諦め、帰ることにした。


 志恩は帰ってからテレビを観たが、どこも番組も葛城と話をしていた事件で持ちきりだった。

 愛莉には、大したことは話していないと誤魔化しはしたが、そうそうに宿題を済ませ真剣に何かを考えている志恩の姿に、愛莉は疑問を感じていたようだ。


 次の日も甲斐家では、夏休みの宿題をみんな揃って追い込みを掛けていたが、志恩は夜中の内に今日の分は終わったと、朝早くから出掛けていた。

 最初に志恩が向かったのは事件現場であるが、国会議事堂と言うこともあり、大きく規制線が張られており、近づくことすら出来なかった。だが、丁度そのタイミングで葛城と出会うことができ、

「よお志恩くん、偶然だね」

 よそよそしく話しかけて来た葛城に目を向けると、志恩が面識のない人物を連れ添って現れた。「どうも、始めまして。君が警察の事件が好きな葛城さんの甥っ子の志恩くんだね?」

「えっ?あっ、はい、そうです」

「僕は、葛城刑事の下で働かせてもらってる間野康彦って言うんだ、気軽にヤスって呼んでくれていいからね」

 間野刑事がそう言うと、葛城は間野に見えないように志恩へアイコンタクトを送り、志恩は静かに頷き。

「そうなんですか。僕は高校で事件研究会って部活をしている甲斐志恩って言います。何か有れば、教えてください」

 と、話を合わせた。

 

 葛城の口添えで、事件現場を見ることが出来たが、分かっていること以上のことは知ることが出来なかった。

「へぇー甲斐くんて、結構本格的に事件現場とか見るんだね」

「えぇ、今の学生は本格派思考なんで」

 何かやりずらかったが、爆発の跡や規模を見ながら、志恩なりに魔法の方向や強さを調査していた。


 志恩が帰ろうとしたところ、間野刑事が志恩の話を聞きたいと言い出し、葛城刑事が断るのも変なので3人で話をしていくことになった。

「志恩くんは、この事件どう思う?やり方が派手だし、テロの可能性はあるかな?」

「さぁ~どうですかね? その辺はプロの刑事さんの方が、すぐ分かるんじゃないですか」

「じゃあ、あの変な炎と爆発はどう思う?」

「なんですかね?何処かの国の新型兵器か何かですかね?」

「ネットでは、あの火の玉を超能力や魔法じゃないかって、騒がれてるんだよね」

「へぇ~ファンタジーな話で盛り上がっているんですね」

「そうなんだよ。でも、僕はそのファンタジーな話が一番有力だと思うんだよ」

「間野刑事は、刑事なのにロマンチストなんですね」

「いやいや、最近超能力や魔法の有力な目撃情報が関東各地で報告されているんだよ!だから僕達が…」

「間野刑事っ!それは」

「そうでした。すいません、葛城刑事。甲斐くん、また君の意見をどこかで聞かせて下さいね」


 そう言って、二人はその場を後にした。

 葛城刑事のいる第6課は、魔法や超能力など不可思議事件を取り扱うのが、警察内部での活動内容になっており、その第6課の事は警察内部だけの秘密となっている。

 間野刑事は、この事件を不可思議事件として、第1課から派遣されて来たのだろう。志恩は全ての内情を知っているが、建前は普通の一般市民なのだから、間野刑事は捜査内容をペラペラ喋りすぎではないかと思われた。


 ともあれ、今の段階では志恩の出る幕はないので、一旦帰って宿題を終らせるのが今の志恩の優先事項であった。



 その夜、葛城から大事な用事があると電話があり、そのあと家まで車で迎えに来た。愛莉は、あまりいい顔をしなかったが、親に上手いことお願いねと託し、葛城と出掛けて行った。

 葛城の話では、あの事件で爆発に巻き込まれた被害者の内、SPの3人は吉田議員を庇い直撃にあったために全員死亡。吉田議員はSPに守られたとは言え、爆発の直撃を身近で受けて重体、今はICUで治療を受けている。秘書の男性は死亡、辛くも男性秘書が盾となり、女性秘書は重体で吉田議員と同じ部屋のICUで治療を受けていた。

 そして、吉田議員の容態が急変し危ない状況になっており、志恩の力を頼りたいとやって来たのだと言う。

 本来ならば、志恩の力に頼るのは世の中の流れを変える事に成りうるので避けたいところだが、そもそもの原因が魔法の力である以上、それは自然の摂理に反していないだろうとのことだ。それに、今の日本で吉田議員を失う訳にはいかないと、政府の意向らしい。

 吉田議員を救えるかどうかは、志恩にも正直分からないと葛城には納得はしてもらっている。

 志恩を乗せた車は、都内の大きな国立病院に到着した。表の入り口には、マスコミ各社が待機していた為、裏口からの到着となる。


 警察の管理体勢が整った病院の中を、志恩達がICUへと向かう。ICUの近くに行くと、もう夜更けだと言うのに小さな子供が1人泣きながら立っていた。

「どうしたんだ僕。誰かとはぐれちゃったのかい?」

「違う!僕のお母さんが、ここで闘ってるんだって」

「僕のお母さんは、お医者さんかな?」

「違うよ、僕のお母さんは、偉い人の手助けする人のなんだ、今は怪我をして闘ってるって」

 葛城刑事が、そっと志恩の耳に小声で話した。

「志恩くん、この子は多分、吉田議員の第二秘書長谷部紀香さんのお子さんじゃないかな?今、吉田議員と一緒に、ICUで治療を受けているんだよ」


 こんな小さな子供が、母親の無事を祈ってずっと起きているんだ。志恩は胸に痛く刺さるものを感じずにはいられなかった。


「ねえ、僕のお名前は?」

「長谷部健太」

「よし健太、お母さんはきっと無事に健太の元に帰ってくる。だから、絶対に諦めちゃ駄目だぞ!」

「うん、そんなの当たり前だよ!でも、どうしてお兄ちゃんがそんなこと分かるの?」

「それは、お兄ちゃんのお仕事が勇者だからだよ。勇者は子供の願いを叶えるのが仕事なんだ」

「凄い、お兄ちゃんは勇者なんだね!約束だよ、勇者のお兄ちゃん」

「ああ、任せておけ」


 志恩は治療室用の滅菌着に着替え、治療室へと入っていった。吉田議員の周りには医師が数名、救命に手を尽くしており、志恩の目からもかなり危ない状況なのは分かった。

 その少し離れたベッドには、大人の女性が救命処置を施され横になっている。多分あれが長谷部紀香なのだろう。

 志恩が頷くと、葛城は部屋の医師や看護士に退室するよう促した。医師達は、吉田議員を殺す気かと猛反対したが、国家命令と言い退室させた。

 エコー音が響く静かな治療室の中には、今にも死にそうに魘されている吉田議員と、少し離れたベッドに秘書の長谷部、無菌白衣を着た葛城、三上、志恩がいるだけである。

 志恩は直ぐに吉田議員の元へ近づき、状態を確認し吉田議員の胸の中心に手を添える。そして静かに魔法の詠唱に入った。

 志恩の手から光が降り注ぎ吉田議員の体を光が包んでいく、その光が収まると、今まで荒い息をしていた吉田議員は穏やかな顔で眠り始めた。それに伴い、それまで激しく鳴っていたエコー音も、今は静かに一定のリズムを奏でている。

 葛城はそれを見ながら、これがもし公になれば、世界がひっくり返る治療法になると、恐ろしさを感じていた。

 吉田議員は体力的にダメージを負っていた為、直ぐには起きなかったが、既に怪我は完治しているとのことだったので、葛城が起きるよう手を尽くしていた。

 その間に、志恩は長谷部紀香の治療をしようとしたが、魔法の乱用はやめた方がいいと、葛城に止められた。しかし、健太との約束があり、長谷部紀香も魔法と言う世の中の摂理に反した被害を受けた者なのだからと、治療を施した。


 話せるようになった吉田議員と長谷部秘書には、姿をくらますよう要請した。

 吉田達には身近な人間に魔法使いがおり、吉田達を狙っていて無事だと分かれば、またすぐに命が狙われる危険があると説明してある。魔法については信じがたいと言われたが、事実、自分達が死の淵から助かったことから、信じざるおえなかった。

 無事を知らせたい人が居ると言われたが、ここに居る3人以外は誰にも報せることは出来ないと、断った。

 長谷部紀香には、子供の事を知らせたが、今勝手に動けば、議員の身が危険にさらされると理解し、黙って従うのだった。

 今ここには、議員の吉田、秘書の長谷部、刑事の葛城と三上、そして、刑事見習いと言う設定の志恩が居る。誰が犯人で誰が犯人の手先なのか分かっていない現状では、この5人しか今は信用出来なかったのである。


 その日、病院からは吉田議員と長谷部秘書の姿が消えた。

次回、追跡者、犯人は誰だです。


早目に仕上げます。


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