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悪の門 The Villains Gate  作者: ばく
第二章 開かれた門
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隠し玉

大吾と牛鬼の戦いがひと段落した頃――。

八郎は一人、清水へと向かっていた。

来た道の方から感じる大きな陰の気配に、仲間たちの身を案じる。

だが、もう引き返すことはできない。

目的地までもう少しというところで、八郎が前方に無数の陰を感じ取る。

道の先には、丑の部下と思われる小鬼たちが待ち構えていた。

八郎が距離を取ろうと一歩下がる。

しかし――気づけば周囲にも小鬼たちが現れ、完全に取り囲まれていた。

その数は、百を超えている。

バジリスクの力を使えば、倒すこと自体は難しくない。

だが、ここで陰を消費すれば、この先に待つ童子との戦いに大きく影響する。

ならば。八郎が叫ぶ。

「出番だよ!半三!!!」

「やっと俺の出番ですね!待ってました!」

どこからともなく、八郎の前に半三が姿を現す。


――時は、昨日の朝へ遡る。

約束の集合の日。

誰よりも早く蛇ノ目家へ戻ってきたのは八郎だった。

「ただいま!半三、留守番ありがとう」

「一番乗りですね、八郎様。皆様はまだいらっしゃってないようです。少し休憩されては?」

「いや、それより半三に用があって早く帰ってきたんだ」

「俺に……ですか?」

八郎が朝早く蛇ノ目家へ戻ってきたのは、半三に確認しておきたいことがあったからだった。

二人が縁側に腰掛ける。

「明日は遂に丑との干支合戦。おそらく相手は、生死を問わず攻撃してくると思う」

八郎が半三を見る。

「半三。君には君を待つ者がいる。それに、人間へ戻れる可能性だって残ってる。僕は巳の長として、そんな半三を危険な目に遭わせることはできない」

「つまり……明日の干支合戦、俺に参加するなと」

半三が黙り込む。

しばらくして、顔を覆うガスマスクに手を触れる。

「八郎様、覚えてますか?俺にこのガスマスクをくれた日のこと」

「もちろん、覚えているよ」

「俺がヴィランとして働いてるのを娘が知ったら悲しむって、八郎様がくれたんですよね」

半三が静かに手を下ろす。

「でも俺、実はもう娘に話してるんです。俺がヴィランとして働いてることを」

八郎が半三を見る。

「娘はそれがどういうことか、まだよく分かってないんですけどね」

半三が膝の上で拳を握る。

「俺はここで働いて、ここに必要とされて……ヴィランとしての自分に誇りを持つようになったんです。だから、娘にも話すことができた」

半三が俯いたまま続ける。

「八郎様。俺なんかを気遣ってくれて、ありがとうございます。でも――」

顔を上げる。

「巳の仲間として、どうか俺も干支合戦に連れていってくれませんか?」

八郎がしばらく半三を見つめる。

「……分かった。今更、野暮なことを言ってすまなかった」

半三の握り締めていた拳が、ゆっくりと緩む。

「だけど、半三を死なせることができないのも事実だ」

真剣な表情のまま八郎が話す。

「おそらくみんなも、僕と同じ思いだと思う。半三を干支合戦に参加させると聞いたら、反対するかもしれない」

少し考えたあと、八郎が続ける。

「だから、半三の思いを汲んだ上で、みんなには内緒にしておく」

「………」

「そして今から、半三には自分の身を守るための技を一つ覚えてもらう」

「い、今からですか!?」

「そう。今から」

八郎が真っ直ぐ半三を見る。

「今日中に覚えられなかったら、半三を干支合戦に連れていくことはできない。それだけは譲れないよ」

「…分かりました。絶対に覚えてみせます!それで、その技ってのは?」

「僕の得意とする技――陰武召喚。陰を使って無生物を召喚する技さ。武器や道具を召喚して、戦闘を有利にすることができる。コツを掴めば、二、三日で習得できるはずだよ」

「ち、ちょっと待ってください!二、三日じゃダメじゃないっすか!?」

一気に不安になる半三。

「まあ、普通ならね」

「普通なら?」

「よく考えてみて。半三の能力は?」

「武器を生成する……?」

「そう。正確には、火薬を使う銃火器を生成する能力だね。だから半三は、すでに陰武召喚に近いことを能力としてやってるんだ。ただし、二つには大きな違いがある」

「違い…ですか」

「半三の能力で作れるのは銃火器に限られる。でも陰武召喚なら、イメージさえできれば銃火器以外の無生物も召喚できる」

半三が話を聞きながら頷く。

「例えば銃を出すだけなら、わざわざ陰武召喚を使う必要はない。最初から銃を持っていれば陰を消費することもない」

「確かに」

「戦闘では陰を残しておくことも重要だからね。どうせ陰武召喚を使うなら――」

「持ち運べないような、大きなものが良いってことですね」

「その通り」

八郎が頷く。

「そこで、一つ確かめたいことがあるんだ。とりあえずやってみようか」

「はい!」

「まず、いつもの能力で銃を生成してみて」

半三が手をかざす。

すると、難なくその手に銃が現れる。

「じゃあ次は、水鉄砲をイメージしてみて」

「水鉄砲っすか?やってみます」

半三が今度は水鉄砲を思い浮かべる。

その手に現れたものは――。

「あれ?」

握られていたのは水鉄砲ではなく、先ほどと同じ銃だった。

「やっぱりこうなるか」

「どういうことです?」

「陰武召喚で一番大事なのは、召喚する物を正確にイメージすることなんだ」

八郎が半三の持つ銃を見る。

「重さ、大きさ、形。そういうものをしっかり想像できないと、思った通りの物は召喚できない。普通の人が銃を正確にイメージするのが難しいようにね」

「なるほど……」

「三濃力の想像力に通じるものがある。だから普通は、そのイメージを作るのに時間がかかるんだ。でも半三は違う。水鉄砲をイメージしたのに、銃が出てきた。半三の中では、無生物を召喚しようとすると、そこに自分の能力である銃火器の要素が加わるみたいだ」

半三が手の中の銃を見つめる。

「良くも悪くも、半三の能力が陰武召喚に影響してるってことだね」

「じゃあ俺、水鉄砲すら出せないってことっすか?」

「まあ、そうなるね。でも、悪いことばかりじゃない」

八郎が笑う。

「見方を変えれば、身近な物をイメージするだけで、それを戦闘に使える武器へ変えて召喚できるってことだからね」

「………!」

「じゃあ――」

八郎が半三を見る。

「さっき言ったような、持ち運べないほど大きな物をイメージしたらどうなると思う?例えば――」

八郎が口元に笑みを浮かべる。

「車とかね」


――そして現在。

小鬼たちに囲まれる中、半三が前へ出る。

「陰武召喚!巳式軽戦車!」

光と共に、八郎と半三の前へ一台の戦車が姿を現す。

突然現れた鉄の塊に、小鬼たちがたじろぐ。

「八郎様!乗ってください!」

「うん!」

二人が戦車へ乗り込む。

「流石だね、半三!これなら小鬼の群れも突破できる!」

「八郎様のご指導のおかげです!じゃあ飛ばしますよ!」

戦車が勢いよく走り出す。

行く手を塞ぐ小鬼たちを掻き分けながら、清水を目指して突き進んでいく。

だが――次々と小鬼たちが戦車へ飛びつき、車体を覆っていく。

走る速度が徐々に落ち始める。

「流石にこの量だと、動けなくなるのも時間の問題っすね……」

「僕にできることはあるかい?」

「いや、八郎様は陰を取っておいてください」

半三が操縦席の横へ手を伸ばす。

「こんなこともあろうかと、緊急用スイッチを用意しました!」

そこには、いかにもと言ったベタな赤いボタンがついていた。

「それでは、ポチッと」

半三がボタンを押す。

戦車の上部から赤いサイレンが飛び出し、けたたましく鳴り響く。

その直後。

ガタン、ガタンと車体が激しく揺れ始める。

戦車にしがみついていた小鬼たちが、次々と引き剥がされていく。

「隊長ー!八郎様ー!大丈夫ですかぁ!?」

聞き覚えのある声が響く。

現れたのは、周辺に潜んで合図を待っていた巳の下っ端――テッカー軍団。

武器を手に、小鬼たちを戦車から次々と引き離していく。

「よっしゃ!ここからは俺たち戦闘員の腕の見せ所だ!気張っていくぜ!」

「イエッサー!」

半三が戦車の大砲を小鬼たちへ向ける。

轟音と共に砲弾が放たれ、小鬼たちを吹き飛ばす。

「八郎様!ここは俺たちに任せて、先に進んでください!」

八郎が半三とテッカーたちを見る。

「……分かった。半三、みんな、ありがとう!」

「時間外手当つけてくださいね!」

八郎が戦車を降り、清水へ向かって走り出す。

その背後では、まるで戦国時代の合戦のように、小鬼たちとテッカー軍団の武器が激しくぶつかり合う。

その音を背中に感じながら――八郎は遂に、童子の待つ清水へと到着する。


このエピソードはpixivで挿絵付き版も公開しています。

キャラクターデザインが見たい方はこちら!

pixiv:【https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=29575172】

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