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It's a villains world

この世は、正義と悪が実在する世界。

かつて英雄、悪党、民草と呼ばれた者たちは、時代とともにヒーロー、ヴィラン、市民へと名を変えた。

ヒーローは陽の力を、ヴィランは陰の力を宿している。


これは、陰陽渦巻くこの世界の歴史を変えた、ヒーローとヴィランの物語。


街灯がぽつり、ぽつりと照らす夜道。

幼い少年が、父親の肩にまたがっていた。

少年は夜空を見上げながら、嬉しそうに言う。

「僕は大きくなったら、ビクトリーみたいなヒーローになるんだ!」

父親はそんな息子を見上げ、穏やかに笑った。

「そうか。お前なら立派なヒーローになれるだろうな」


四月――歓声が響き渡る。

「やっちまえ!キャプテンビクトリー!」

「正義の力見せてやれ!」

大勢の市民が見守る中、二人の男が向かい合っている。

一人は、正義のヒーロー――キャプテンビクトリー。

そしてもう一人は、スネイク団を率いる極悪ヴィラン――バジリスク。

その戦いを、テレビカメラの前に立つ女性リポーターが興奮気味に実況している。

「さぁ、本日も始まりました! 正義のヒーロー、キャプテンビクトリー対、スネイク団を率いる極悪ヴィラン、バジリスク閣下!」

ビクトリーには割れんばかりの歓声。

対するバジリスクには、容赦のないブーイングが浴びせられる。

しかしバジリスクはまるで気にする様子もなく、高らかに笑う。

「ハッハッハ! この町のすべてのティッシュをキッシュに変えておいたわ! 花粉症で苦しむ市民たちの光景が目に浮かぶ!」

「なんということを!許せん!」

ビクトリーが拳を構える。

「これでもくらえ!ビクトリースマッシュ!」

「ぐわぁぁぁぁ!!」

拳を受けたバジリスクが、勢いよく空へと吹き飛ぶ。

「覚えてろよー!」

「決まったぁ!ビクトリースマッシュ!本日もキャプテンビクトリーによって町の平和が守られました!強いぞビクトリー!ありがとうビクトリー!」

そして――  生中継が終了する。

「はい、オッケーでーす!お疲れ様でした!」

先ほどまでの熱気が嘘のように、現場の空気が緩む。

吹き飛ばされたバジリスクの着地点には、巨大なトランポリンが用意されていた。

ぽよん。

無事にトランポリンへと着地するバジリスクへ、スネイク団隊長の半三が駆け寄る。

「閣下、今日も良い飛びっぷりでした!」

トランポリンから降り、衣装についた埃を軽く払うバジリスク。

周囲では、スネイク団の下っ端・テッカーたちが、手際よく小道具を片付け始める。

「では八郎様、学校に遅れますのでそろそろ」

「分かってるよ、半三」

極悪ヴィラン、バジリスク。

その正体は――

蛇ノ目八郎。十六歳。高校一年生。

「……朝からヴィランやって、そのまま学校って結構しんどいんだけど・・・。」

ぼそりと呟く八郎をよそに、半三は当然のように答える。

「そりゃプロのヴィランですからね。我慢してください。」


数十分後。

先ほどまでテレビの生中継で「極悪ヴィラン」と呼ばれていた少年は、何事もなかったかのように教室の席についていた。

「じゃあ、中学のおさらいからいくぞー。」

教壇に立つ男が、黒板に三つの言葉を書く。

ヒーロー  ミドル  ヴィラン

八郎の担任であり、社会科教師の久保田健司。

生徒たちからは〝クボケン〟と呼ばれている。

「現在の社会は、大きくこの三者によって成り立っている。陽の力を宿すヒーロー、陰の力を宿すヴィラン。そして、その中間に位置する一般市民――通称〝ミドル〟だ」

クボケンは黒板に三角形を描き、それぞれを線で結ぶ。

「ヒーローはヴィランからミドルを守り、ミドルはヒーローを称える。そしてヴィランは、市民社会における犯罪の抑止力となる。この三者が互いに作用し、均衡を保っている状態を――」

三角形の中央に文字を書き込む。

三つ巴の均衡。

「こう呼ぶ。世界史にも出てくるから覚えておけよー。」

淡々と授業を進めるクボケン。

その声を聞きながら、目をこする寝不足の八郎。

「蛇ノ目」

「はい?」

「聞いてるか?」

「聞いてます。」

「ならよし。」

何事もなかったように授業は続いていく。


「なぁ蛇ノ目。今日も貸してくれるよな?」

授業中、後ろの席から小さな声が飛んでくる。

八郎はおとなしい性格と見た目から、クラスの不良たちに目をつけられていた。

「……また?」

「いいじゃん。友達だろ?」

「友達だったんだ、僕たち」

「細けぇこと言うなって」

小さくため息をつく八郎。

「分かったよ」

「話が早いじゃん」

何も言い返さない八郎を見て、不良たちは満足そうに笑う。

そして放課後。

「ちょっと、あんたたち!」

八郎を囲んでいる不良たちの前に、一人の少女が割って入る。

一ノ瀬結衣。八郎とは幼い頃からの付き合いである。

「また八郎からお金取ろうとしてたでしょ!」

「うるせぇな、お前には関係ねぇだr――」

数分後。

「……す、すみませんでしたぁ!」

不良たちが一目散に教室から逃げていく。

八郎はその背中を見送りながら、ぽつりと言う。

「相変わらず強いね、結衣」

「八郎も八郎よ! たまには本気で怒ってもいいのに!」

「……そうだね」

「絶対思ってないでしょ!」

八郎は聞こえないふりをして、鞄を持ち上げる。


保健室。

「本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だってば」

八郎は結衣に半ば強引に連れてこられ、野薔薇菜々子の診察を受けていた。

菜々子は八郎の顔や腕をひと通り確認すると、呆れたようにため息をつく。

「怪我はなさそうね」

「だから大丈夫だって言ったのに」

「そういう問題じゃないの。絡まれたならちゃんと先生に言いなさい」

「はーい」

「返事が軽い」

八郎は気のない返事をしながら、鞄を手に取る。

「じゃあ、ありがとうございました」

「はいはい。気をつけて帰りなさいよ」


下校途中。

八郎の隣を歩いている結衣が、ふと思い出したように口を開く。

「ねぇ八郎。覚えてる?」

「何を?」

「小さい頃、私が川で溺れた時」

八郎が結衣を見る。

「八郎、飛び込んで助けてくれたでしょ?」

「……そんなことあったっけ?」

「もう!あったの!」

結衣は少しむくれたあと、前を向く。

そして、どこか懐かしそうに笑う。

「あの時の八郎――」

少し間を置いて、

「本物のヒーローみたいだった」

八郎の足が、ほんの少しだけ止まる。

「…………」

「八郎?」

「いや。なんでもない」

再び歩き出す。


――ヒーロー。

かつて八郎も、本気で憧れていた。

いつかキャプテンビクトリーのような、立派なヒーローになりたいと。

だが、その夢を諦めなければならない理由があった。

八郎の父――蛇ノ目七瀬。

〝ヴァイパー〟の名で、この国のヴィランたちを束ねていた男。

そして四年前――

ヴァイパーは、突如として姿を消した。

父のいなくなった今、八郎はその後を継ぎ、バジリスクとして生きている。


八郎と結衣が並んで帰っていく。

その後ろ姿を、少し離れた路地の陰から見つめる者たちがいた。

昼間、結衣に叩きのめされた不良たちだ。

「……一ノ瀬のやつ、なんであんなに強ぇんだよ」

「そういや聞いたことあるぞ。あいつの兄貴、ヒーローやってるらしい」

「ヒーロー?」

「ああ。確か――キャプテンビクトリー」

三人の顔が引きつる。

「そりゃ勝てねぇわ……」

しばらく沈黙が流れる。

すると一人が、何かを思いついたように口元を歪める。

「だったらさ――本物のヴィランに任せるってのはどうだ?」


薄暗い部屋。

派手な化粧台の前で、一人のヴィランが鏡を覗き込んでいる。

その名は、レイニー・レイリー。

まだ正式なプロとして認められていない、アマチュアヴィランである。

「こんなかわいいボーイたちに手を挙げるだなんてぇ。ひどい女の子ねぇ」

不良たちの話を聞きながら、レイリーは唇に口紅を引く。

「任せなさい。私がその娘に、お仕置きしてあげるわよん」

「マジっすか! お願いします!」

喜ぶ不良たち。

しかし、レイリーの関心はすでに彼らから離れている。

――一ノ瀬結衣。

その兄は、キャプテンビクトリー。

レイリーの口元がゆっくりと吊り上がる。

「……これは使えるわねぇ」

ただの仕返しで終わらせるつもりなどない。

ヒーローを倒せば名が売れる。

名が売れれば、プロのヴィランへ近づける。

狙う相手は――キャプテンビクトリー。


それから間もなく、結衣の姿が突然消える。

同じ頃、キャプテンビクトリーのもとへ一通の果たし状が届く。

指定された場所は、人気のない廃棄場。

「結衣!」

ビクトリーが駆け込む。

積み上げられた廃材のそばに、気を失っている結衣の姿がある。

その前に立っているのは、レイニー・レイリー。

「やぁっと来たわねぇ、正義のヒーローさん」

「貴様……! 妹をどうした!」

「安心して。まだ何もしてないわよん」

レイリーは楽しそうに笑う。

「あなたをここへ呼ぶために、ちょーっと借りただけ」

「結衣を巻き込んだこと、後悔させてやる!」

ビクトリーが拳を構え、一気に間合いを詰める。

「ビクトリースマ――」

「遅いわねぇ」

レイリーが軽く身をかわす。

「なっ!?」

次の瞬間。

ドゴッ!

レイリーの拳が、ビクトリーの頬を真正面から捉える。

「ぐはっ!」

勢いよく地面へ転がるビクトリー。

――起き上がらない。手ごたえのないビクトリーに呆れるレイリー。

「……本当にこの人、プロのヒーローなの?」

しかし完全に意識を失っている。

「拍子抜けねぇ。まあいいわ。キャプテンビクトリーを倒したとなれば、私の名前も一気に――」

その時。

コツ。

何者かが地面を踏む音がする。

レイリーが振り返る。

廃材の影から、一人の人影がゆっくりと姿を現す。

「……誰?」

制服姿の少年。

蛇ノ目八郎。

八郎は気を失っている結衣を見る。

「結衣を取り戻しに来た」

「なーによあんた?」

「結衣を返せ」

「嫌って言ったら?」

八郎がレイリーを睨む。

「後悔するぞ?」

「……生意気な坊やねぇ」

その時、八郎の背後から二人の足音が近づいてくる。

「八郎!」

久保田健司と野薔薇菜々子が現れる。

レイリーが二人を見る。

「今度は何?学校の先生?」

二人の身体を、黒い陰が包む。

「……え?」

「バジリスク様。ここは我々にお任せください」

「……バジリスク?」

レイリーが八郎を見る。

「まさか……あんた……」

八郎は小さく息を吐く。

「いや、僕がやる。こいつは僕を怒らせた」

八郎の足元から黒い塊が湧き上がり、その身体を包み込む。

陰が弾ける。

そこに立っていたのは――バジリスク。

レイリーが一歩後ずさる。

「な、何よ!所詮ビクトリーに吹っ飛ばされる程度のヴィラン、それなら私の出る幕はないわ!やっておしまい!」

物陰から不良たちが姿を現す。

頬には口紅のキスマーク。

瞳には意思の光がない。

レイリーの能力――『悪魔のキッス』。

キスした相手を服従させる能力である。

無言のまま、不良たちが一斉にバジリスクへ襲いかかる。

次の瞬間。

ドンッ!

黒い塊が炸裂し、不良たちの身体がまとめて宙を舞う。

「……え?」

レイリーの表情が固まる。

バジリスクの周囲を、不定形の黒い塊が蠢いている。

バジリスクの能力――『アギト』。

形も硬さも、バジリスクの意思ひとつで自在に変化する。

「な……何なのよ、それ……」

バジリスクが一歩踏み出す。

『刑具召喚』。

黒い陰から巨大な刑具が姿を現す。

「処刑No.9――回転ノコギリ」

「ちょ、ちょっと待って!!」

レイリーが逃げようとした瞬間、地面を這うアギトが一気に伸びる。

黒い塊が両腕と両足へ絡みつき、その身体を地面へ縫い止める。

「なっ……動けない!」

高速で回転する刃が、身動きの取れないレイリーへ迫っていく。

「ごめんなさい!謝る!謝るからぁぁぁ!!」

刃は止まらない。

「いやぁぁぁぁぁ――!!」

バタッ。

レイリーが白目をむき、そのまま気を失う。

その直後。

ピタリ。

回転ノコギリが、レイリーの目前で止まる。

「…………」

バジリスクは気絶しているレイリーを見下ろし、ため息をつく。

「やれやれ。とんだ茶番だよ」

黒い刑具とアギトが、静かに消えていく。

その様子を――結衣はぼんやりと見ている。

霞む視界の向こう。

倒れているビクトリー。

気絶したレイリー。

そして、その間に立つ少年のヴィラン――バジリスク。

「これは……夢?」

結衣の意識が再び遠のいていく。


「一ノ瀬。大丈夫か?」

声に目を開ける。

「……先生?」

目の前にはクボケンと菜々子。その横に、八郎がいる。

「結衣、大丈夫?」

「八郎……」

結衣が身体を起こす。

少し離れたところでは、レイリーが倒れている。

そして――キャプテンビクトリーも。

「お兄ちゃん!」

結衣が慌てて駆け寄ろうとする。

「大丈夫だ」

クボケンが制する。

「ビクトリーがレイリーを倒した。少し疲れて気を失ってるだけだ」

「……お兄ちゃんが?」

「ああ」

八郎も頷く。

「ビクトリーが助けてくれたんだよ」


しばらくして、ビクトリーが目を覚ます。

「ここは……?」

「さすがですね。レイニー・レイリーを見事に倒すとは」

クボケンの言葉に、ビクトリーが倒れているレイリーを見る。

「……私が?」

「ええ」

「そうか! やはり正義は勝つということだな!」

「……まぁ、そういうことですね」

八郎が答える。

「ハッハッハ!」

ビクトリーが満足そうに胸を張る。


帰り道。

結衣は一人、先ほどの出来事を思い返していた。

――本当に、お兄ちゃんが倒したのかな。

意識を失う直前、確かに見た。

レイリーと戦っていた、バジリスクの姿を。

そしてなぜか――

あのヴィランが、自分を助けてくれたような気がする。

結衣は立ち止まり、振り返る。

そこにはもう誰もいない。

「……バジリスク」

小さくその名を呟き、再び歩き出す。


人気のなくなった廃棄場。

レイリーがゆっくりと目を覚ます。

「もう……何なのよ……」

身体を起こしながら、バジリスクが立っていた場所を見る。

「やっぱり――」

レイリーの口元が、ゆっくりと吊り上がる。

「悪役十二支の一人だけあるわね」

レイニー・レイリーの新たな標的は――

バジリスクへ。

このエピソードはpixivで挿絵付き版も公開しています。

キャラクターデザインが見たい方はこちら!

pixiv:【https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=28956310】

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