表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンデレ吸血鬼への罪滅ぼしのため、私は下僕へと成り下がった  作者: 椿


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/17

もしもの姿

 それは至福の一時だった。朝から晩まで、煩わしいことは何もない。


 「むぅ~……お姉ちゃん、休憩しようよぉ」


 「じゃあ、このページが終わったらね。そうしたら、おやつ食べましょう」


 「やった! 雪子ってば、料理とか菓子作りは異様に上手いんだよねー」


 未来と一緒に勉強をしたり、雪子さんと映画を見たり、皆と一緒にご飯を食べたり……思い描いていた通りの、夢のような時間。


 「何よ、そんな顔して。何か文句でもあるの?」


 「別に良いけどさぁ……こんなに手の込んだコーヒーを淹れるのに、なんで全部台無しにするみたいに砂糖爆盛りなの……?」


 「これが一番美味しい飲み方だからよ。未来だって、ミルクと砂糖を入れるじゃない」


 「いや、カップ一杯に角砂糖三つはやり過ぎでしょ……溶けきってないじゃん、それ」


 「この底に溜まった砂糖が良いのよ。糖分を取ってるって感じがするわ」


 仲睦まじくする二人を眺めながら、私は笑っている。心の底から、本当に笑顔を浮かべられていた。


 ……その度に、誰かの顔が朧気になっていく。とても大切な、誰かのことを。


 私は、何か大切なことを、忘れてしまった、よう、な……


 「胡桃」


 「ふぇっ!? あ、あれ……? 私、寝てた……?」


 「そのままで良いわ。楽にしていて」


 気が付けば、私はソファで横になっていた。頭を雪子さんの膝に乗せ、髪を梳かされている。私はそんな状況に一抹の違和感を感じつつも、その心地よさに流されていた。


 「明後日にはまた学校ね。そうしたら、元の生活に戻らなくちゃ」


 「…………そう、ですね」


 嫌だ、と……そう思った。口には出さずとも、私はありえない妄想を繰り返し続けている。このまま未来と雪子さんと一緒に暮らせたら、なんて……


 「ふふっ……そんな顔しなくても、また来れば良いじゃ無い。貴女は部活も入っていないし、休みの間はこっちに来たって良いのよ?」


 「でも、そしたらお父さんが……」


 「あいつのことは心配しなくて良いわ。胡桃のためなら、分かってくれるわよ」


 くらくら、くらくら……視界が揺れる。瞼が重くなって、頭がぼんやりとしていく。


 「良いのよ……何も心配しなくて」


 何だか、雪子さんの言葉が前よりも質量を持っているような気がした。何かを囁かれる度、それは確かな重さを持って、私の中に沈殿している。


 その度に誰かの顔がよぎっていく。もう名前も思い出せないその人。とても大切な人だったような気がするのに……もう、何も思い出せない。そんな異常にすら、気が付かない。


 頭が、痛い……身体が、気怠い……私は、一体どうしてしまったのだろう……?


 思考が纏まらない。何かを忘れていると言うのに、その異常に何ら違和感を持てない。ただ、喉に小骨が刺さったような不快感だけがずっと消えないのだ。


 「何も考えなくて良いんだよ。ただ、一緒に溺れようね」


 「ぇ……? ぁ…………」


 「そうよ。違和感なんてない。不快感なんてない。胡桃は何も……忘れてないわ」


 脳に響いていく。どうして、私はベッドで横になっているの?


 分からない。ここに来てから、突然意識が飛ぶことが何度かあった。そうして、私はその明らかな異変に対して、疑問を持つことすらなかった。


 ……あぁ、そうだ。私は、すっかりと毒されてしまったのだ。


 頭を茹だらせ、溶かされ、トロトロにされた。その状態では雪子さんと未来の愛を拒むことができなかった。だからこそ、私はこんな状態に陥ってしまったのだろう。


 きっと、これが最後だ。今の状況を異常だと思うことも、何かを忘れてしまったと思うことも、その全てがこれで終わりだ。私は何もかもを受け入れ、大切にしていたはずのものすら、なくしてしまう。


 これが、私に相応しい罰なのだろうか……? 震えるほど熱い快感を受け止めながら、私は意識を沈めていった。


           9


 眼が、覚めた。私はゆっくりと身体を起こすと、隣で眠る未来の頭を撫でた。サラサラとしていて、凄く気持ちが良い。思わず、夢中になって触り続けてしまう。


 「ん、ぅ……? おねぇ、ちゃん……?」


 「あぁ、ごめん。起こしちゃった」


 目を擦りながら、未来が起き上がる。私はそんな可愛い妹に対して、いつも通りハグをした。


 「ふぇっ!? お、お姉ちゃん!?!?」


 「なぁに、未来。そんなにビックリして」


 「い、いやだって、きゅ、急に抱き着いてくるから……!?」


 「変な子ね。いつも通りの、姉妹のスキンシップじゃない」


 まぁ、そんな未来も可愛いけれど。


 ひとしきり未来を愛でた後、リビングへ降りていく。朝食を並べている雪子さんへ、同じように朝の挨拶をした。


 「おはようございます、雪子さんっ♪」


 「っ!? び、びっくりした……お、おはよう、胡桃」


 「今日もお綺麗ですね。エプロン姿、とっても可愛いです」


 纏められた金髪と、黒い無地のエプロン。普段はキリッとしているのも相まって、その家庭的な姿は、とても素敵だった。


 「そ、そう……ありがとう」


 「何かお手伝いしましょうか?」


 「もう終わるから、座って待っていて頂戴」


 「分かりました!」


 イスに座って待っていると、未来も降りてきた。何故か困惑した表情を浮かべる未来は、雪子さんを引っ張っていくと、何かをコソコソと内緒話を始めた。一体、どうしたのだろう?


 「雪子! なんか朝からお姉ちゃんがおかしいんだけど!?」


 「前に言ったでしょう? 胡桃の罪悪感と、贖罪の欲求を忘れさせたって。あの子は元々、明るくて元気な子だったんだから」


 「だからって! こ、こんなに積極的なお姉ちゃんは……! 何というか、頭がバグる!」


 「二人ともー? なーに話してるのー?」


 「「っ!? い、いや! なんでもない(わ)!」」


 全くもう……二人とも、どうしちゃったんだろ? 私は首を傾げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ