第二十ニ話・女王の他国侵略を思いとどまらせろ!
ロベリアが、驚いた口調で言った。
「火器軍を除いた八万の軍勢……マジかよ」
メリメが腰に手を当てて移植された、狼の耳をピクッピクッと動かす。
「それで、いつ攻め込むんだ?」
「それがですね……実はウチも迷っているんですよ」
苦笑しながら、困り顔をする女王カラン・コエが言った。
「少し長くなりますが、ウチの話し聞いていただけますか?」
カラン・コエ女王は、結婚して王家の城に入って数ヶ月後に……城から追放されて、しばらく諸国を流浪させられたと辛い日々を語った。
「王家はウチの食生活の何が気に入らなくて『城から追放するから、とっとと飛び出せ女王』をやったのかわかりません、それでも根性で……数年後に城に戻ったウチは、ウチを城から追放した憎き者たちを容赦なく城から叩き出して、森のケダモノのエサにして──城を乗っ取って旦那もまとめて愛人と一緒に、城から叩き出してやりましたわ……ざまぁ」
女王は、嫁入り前から好物でオヤツのたびに食べていた、串刺イモリの黒焼きをかじりながら『城から飛び出せ! 女王さま!』と、言った。
城から手当たり次第に邪魔な連中を叩き出して、城を乗っ取った女王の身の上話が終ると……女王カラン・コエは、軽くタメ息を漏らした。
「邪魔者をすべて追い出して、数年間はスッキリと過ごせました……しかし、最近は退屈なのに加えて、城からクソ旦那王子と愛人を叩き出した時の怒りが、やたらと思い出されて」
アルケミラが軽い口調で言った。
「更年期障害ですね」
アルケミラの言葉を無視して、女王は会話を進める。
「気晴らしにちょい、他国でも侵略したら、少しは気分もスッキリするかと……」
メリメが言った。
「そんな理由で侵略されたら、たまったもんじゃねぇぜ……何か侵略開始を思いとどまらせる方法はねぇのか?」
少し考えて、女王カラン・コエが言った。
「実は旦那王子と、その愛人を城から叩き出した直後に産気づきまして……ウチは子供を出産しました」
「それは、めでてぇな、男の子か? 女の子か?」
「それが、良くわからないのです……性別が不安定で、男になったり女になったり」
カラン・コエは、さらに城で生まれた子供は、生後一週間で何者かに、城から連れ去られた行方不明だと語った。
「生きているのか、死んでいるのか……生きていればどんな子供に成長しているのか……それさえわかれば、侵略する気持ちも無くなるかも知れませんが……そんな性別が変化する子供なんて、探し出すのは不可能ですよね」
メリメ・クエルエルが腰を手を当てて、狼の尻尾を振りながら高らかに笑う。
「カッカッカッ……オレ、女王の子供を知っているかも」
◇◇◇◇◇◇
数時間後──女王国にいた、マリー・ゴールドがシノビの諜報網で捜し出されて、女王の前に連れてこられた。
女マリーが、自分の胸を揉みながら言った。
「なんだよ、こんな場所にウチを連れてきて……よし、胸は膨らんでいる、股は平らだ……今のウチは女だ」
メリメが言った。
「拐われて育てられた子供と、女王の親子の再会だぜ……喜べ」
キョトンとした表情のマリーの背中を、押すジャスミン。
女王の腕の中に抱かれたマリーの体は、男体化していた。
「おおっ、生きていた……城から拐われたウチの我が子」
「お母さん……ウチの本当のお母さん? てめぇが、愛人ママを城から追い出した張本人の正妻女王か!」
女王から離れたマリーが、レイピア剣を抜いて構える。
「ウチを監獄宮殿で、育ててくれた愛人ママがいつも話していた『おまえは、ある城から追放された愛人が、悔しさと嫌がらせから生まれて一週間の、おまえを連れ去って監獄宮殿で愛を注いで育てた』と……ウチの母親は、育ててくれた愛人ママだ」
しばらく、マリー・ゴールドを見つめていた女王が、あっけらかんとした笑顔で言った。
「そっか、まぁ生きて再会できただけでいいや……スッキリしたから他国への侵略なんて、どうでも良くなった」
「ウチも、実の母親の所には戻らない……メリメ・クエルエルを置い続ける、それがウチの生きがいだ」
何がなんだかわからないまま、女王の他国侵略は阻止できてイキシア国は守られた。
その時──監獄宮殿のお邪魔兵士たちが、部屋になだれ込んできた。
「親子の感動の再会の、邪魔するんじゃねぇ! 人間嫌いのアザミここは頼む」
「承知」
倭刀を鞘から抜いたアザミが奇妙な動きで兵士たちを、死なない程度になぎ倒していく。
「踊れ……ランバダリズム剣」
兵士と腰を密着させたアザミが、ダンス剣法の奇妙な動きの中──女王は二度と他国への侵略を考えるコトは無かった。
「カッカッカッ……女王の気まぐれ侵略、阻止成功だぜ!」




