第二十話・人間関係をブッ壊せ!監獄宮殿を弱体化
その日──美魔女の小屋で、壁に貼られた監獄宮殿の人物相関図をロベリアが短い木の棒で示して言った。
「ここ、ここの別々の役職で癒着した繋がりをブチッ切れば、監獄宮殿は弱体化するぜ」
シナモン紅茶を飲みながら、ロベリアの説明を聞いていたメリメが言った。
「宮殿に居た時に、庭を並んで歩いているのを数回だけ見たコトしかない……親戚同志の二人だな名前は知らない……見た目はガリとデブだったぜ、こんなヤツだ」
メリメが紙にサラサラと、中年親戚二人の容姿を描く。
メリメが描いた絵を見て、アルケミラが言った。
「確かに対照的に痩身の親戚と、恰幅がいい親戚ですね」
「オレに気を使って、言葉を選ばなくてもいいぜ……ガリとデ……」
「今回の計画を進めるためには、関係を断ち切る二人の名称を決めておきましょう……どうせ、本人たちには知らされないのですから。何か言い呼び名はありますか? ゲッカコウさん」
今回の計画のために呼ばれた、人を不仲にさせる【危険な快楽のゲッカコウ】が言った。
「あたしが決めてもいいのぅ、それじゃあ見た目から痩せている方は〝トリガラガイコツ〟太っている方は〝ノブタメタボ〟か〝デブガマガエル〟で」
「デブガマガエルは、さすがに可哀想なので……ノブタメタボと、トリガラガイコツにしましょう……これは悪口ではありません、関係をブチッ切ったら……その時に、裏で勝手なニックネームをつけていたコトを手紙で詫びましょう」
部屋の片付けをしながら話しを聞いていたワスレナが心の中で。
(別に本人たちに、酷いニックネームを伝える必要ないのに……知らぬが仏なのに)
そう、思った。
ロベリアが、トリガラガイコツとノブタメタボの人間関係を、ブチ切るにはどうしたら、いいのかメリメに訊ねる。
「トリガラガイコツとノブタメタボが一緒に、監獄宮殿の外に出てくるのは天気がいい月一回だけ……その機会を狙うしかないが、どこに行っているのかわかるか?」
「おうっ、知っているぜ……なんでも、孔球とか言う野外スポーツに、二人で馬車に乗って出かけているそうだぜ」
「孔球?」
「短く切り揃えた草原に開けた穴に、変な形の棒で打った球体を入れて競うゲームだぜ」
ロベリアが言った。
「狙うのはその時だな……監獄宮殿を弱体化するために、人間関係をブチッ切ってやるぜ……なぁ、メリメ」
「おうっ、やってやるぜ」
◆◆◆◆◆◆
晴天の孔球日和──監獄宮殿から、装甲馬車に乗って出てきた、トリガラガイコツとノブタメタボは、馬車の中で談笑をしながら孔球場へ向かった。
「今日は負けませんよ……あなた、もう少し食べて太りなさい」
「ワタシも、負けませんよ……あなたは、もう少し運動して痩せなさい」
「はははっ、これは手厳しいですな……ガリガリさん」
「いえいえ、モチモチさんこそ──これからも、監獄宮殿内のコトはよろしく」
皮肉たっぷりに、言葉の応酬をしながら孔球場に到着したトリガラガイコツと、ノブタメタボは球打ちゲームに興じた。
すでに、孔球場の随所には十三毒花の数名が潜んで、妨害の機会を伺っていた。
トリガラガイコツとノブタメタボが、回っているコースの前グループは、やたらとノロノロしたプレイでトリガラガイコツとノブタメタボをイラつかせる。
「ずいぶんと、プレイが遅いグループだな」
前方グループには変装をした。
【風変わりなヘリコニア】
【魅力ある金持ちラナンキュラス】
【恋するダテ男ストレリッチア】
【人間嫌いのアザミ】
【黄金の大陽ヘリクリサム】がいた。
ヘリクリサムの一打で打った木製球体が、見事な放物線を描いて飛んでいく。
「〝心技体ナイスショット我が一打草原コロコロ草の陰〟字余り……まあまあの飛距離か」
アザミが緊張した面持ちで、木を削って自作した孔球打撃棒を勢い良く振り下ろして、地面に木製の球体をめり込ませる。
「なにか違う、フォームが違う……前に飛ばさなければ」
ヘリコニアは、球体を前方に飛ばさずに地面を掘っている。
ストレリッチアが打った球体は、空中で真っ二つに割れて飛んでいき。
ラナンキュラスは、ゲームには参加しなくて、監獄宮殿から来たガリとモチの財布から引き寄せた罰則金を手の中に出している。
後方に控える、トリガラガイコツとノブタメタボはイラつきをつのらせる。
「早くしろ!」
「ノロマ!」
やっと、自分たちの番になって、打とうとしたノブタメタボに、変装した【粘着のシレネ】が、孔球打撃棒を手渡す。
グリップの部分に、嫌なネットリとした粘液質の物質が付着していた。
「なんだ、このネットリするモノは! 不快だ交換しろ!」
「お気に召しませんか……グリップの滑り止めですが」
「いいから、別のモノに換えろ」
シレネは手から粘度を自在に変化させた、粘着液を出すコトができた。
打った球体は、草原を転がって地面の孔に入る。
「よしっ」
ノブタメタボが、喜んだ次の瞬間──球体は孔から、放り出されるように外に飛び出てきた。
「なにぃぃぃ⁉」
孔の中には、地面に潜ったジャスミンの妨害が待ち構えていた。
◇◇◇◇◇◇
「はははっ、次はわたしが打つ番ですな」
トリガラガイコツがショットした球体は、強風に煽られて林の中に落ちる。
「なんだ、今の風は?」
実はこの時──片側の林の中に【夜の星イブニングスター】が潜んでいて、眠りながら大ウチワを扇いで風を起こして妨害していた。
その後も、砂場と粘着した池に落下した球体は、シレネがあらかじめ含ませておいた、粘液でなかなか球体を砂場や池から外に出すコトができなかったり、ヘリコニアが地面の下から芝生をボコボコに変えていた。
打った球体は、使い魔のカラスに持ち去られたり。
挙げ句の果てに、前グループがボコボコにした場所で球体を打とうとした時に、運悪く天候の急変で、豪雨が発生して稲光が雲に走る中で、ゲームはフラストレーションを抱えたまま中断された。
雨で濡れた体から湯気を出しながら、ノブタメタボが言った。
「まったく、なんて日だ……アクシデントだらけの一日だ」
体を両手で押さえて震えながら、トリガラガイコツが言った。
「まったく、細身の体には、この雨はこたえる……食事でもして気持ちを落ち着かせますか」
「そうですな」
トリガラとノブタは、孔球草地にある食堂を兼ねた建物に入って食事を注文した。
食事が出てくる間、トリガラガイコツとノブタメタボは、監獄宮殿一族の邪魔ばかりしてくる、メリメ・クエルエルについて話していた。
「まったく、わたしたちが何をしたっていうんだ……たかが、首を斬り落としただけじゃないか」
「その通りですな、斬首して恨まれるのは不愉快ですな……それこそ逆恨みというモノです」
植木鉢の陰に隠れて話しを聞いていたメリメは。
「首を落とされただけでも十分な理由だぜ……ふざけやがって」
そう小声で呟きながらも、飛び出して行ってガリとモチを素手で、大地の彼方までぶっ飛ばしたい衝動を必死に抑えた。
この食堂は、計画最後のとどめを二人に刺す罠が仕掛けられていた。
やがて、配膳係に扮したゲッカコウが料理を運んできて、テーブルに料理皿を置く時に……一言、ターゲットの二人に訊ねる。
「お二人は、ある共通した球技の熱烈なファンだそうですねぇ……どこのチームを応援しているんですかぁ?」
事前の調査で、二人が推しているチームは激しいライバルチームだと、ロベリアの調べで知っていた。
二皿目の料理を持ってきた時、トリガラガイコツとノブタメタボは、互いが推しているチームを支持する激しい口論を繰り返していた。
ゲッカコウが、また一言余計なコトを訊ねる。
「お二人が信仰している宗教はなんですかぁ?」
「推しているアイドルは誰ですかぁ?」
三皿目の料理皿を運んできたゲッカコウが、とどめの質問をする。
「監獄宮殿の派閥や、政党の中で支持をしている政党はどこですか?」
トリガラガイコツとノブタメタボは異なる考えに、激しく怒りを互いにぶつけ合って罵り合う。
「ふざけるな! おまえが、そんなヤツだとは思わなかった!」
「それはこっちのセリフだ!」
そして、さらに関係を悪化させるためにジャスミンが、こっそりとトリガラガイコツに取り憑いて口を動かして悪口を言う。
「おまえの、身内はバカとマヌケばかりか」
怒るノブタメタボ。
「な、なにを言う! 自分のコトはいくら悪口を言われても耐えられるが、身内の悪口は言うな!」
今度は、ジャスミンがノブタメタボに取り憑いて口を動かす。
「おまえの、かーちゃんでーべそ」
「なぜ、そのコトを知っている? わたしの母親と何かあったのか!」
ストレスと怒りに食事を中断した二人は、顔をそむけて会計へと向かった。
会計しようと財布を出して、中を見たトリガラガイコツとノブタメタボの顔色が青ざめる。
「金が無い⁉」
会計係の変装をしたアルケミラが、冷ややかな口調で言った。
「食い逃げですか?」
「失礼な、確かに財布の中には金があった……ロッカーに預けた時は」
トリガラガイコツとノブタメタボが、互いを疑いの目で見る。
少し離れた席で食事をしていた【魅力ある金持ちラナンキュラス】が、札束をアルケミラの会計に差し出して言った。
「お困りのようですので……わたしが立て替えます」
ガリとモチが、自分たちの金を出して、支払ってくれたラナンキュラスに礼を言った。
「すまない……監獄宮殿には、このコトは」
「いいんですよ、わたしのお金ではありませんから」
建物から沈んだ表情で出てきた、トリガラガイコツとノブタメタボの前に踊り子姿のゲッカコウが現れ。
「元気出してください……あたしのダンスを観てください」
そう言って、ゲッカコウは不仲の舞を踊る。
その途端、ガイコツとノブタが取っ組み合いの喧嘩をはじめた。
「絶交だ!」
「二度と顔を見たくない!」
不仲になった二人は、別々の道を帰っていった。
◆◆◆◆◆◆
「カッカッカッ……ただいまぁ、監獄宮殿のヤツの人間関係をブッ壊してやったぜ」
黒ユリ森の美魔女の小屋に帰ってきた、メリメにアマラン・サスが言った。
「どう、孔球の草原の天候は魔法で悪天候になった?」
「おうっ、悪天候になってガリとデブが慌てて木の下に逃げたぜ……カッカッカッ、人間関係のブッ壊し成功だぜ」




