夏休み
夏休みが始まった。連日猛暑日が続き、セミがやかましく鳴き続けた。あちこちでヒマワリや朝顔が咲き、緑谷町をを彩っていた。
吹部達は午前中から集まり、勉強に励んだ。テストでは毎回5教科ともほぼ満点をマークする錬三郎が、落ちこぼれの健治や怜、まりあの面倒を見た。落ちこぼれほどではないが、大幅に成績が下がってしまった直樹と銀之丞、伊久馬のことは響が担当した。ほかのメンバーは深刻なレベルではないため、公彦が中心になって一緒に勉強することになった。二年生と一年生が混じって勉強することは、互いにメリットがあった。復習になるし、予習にもなる。何よりみんなで一緒に頑張っているという一体感があり、和気あいあいと過ごすことができた。
「こんにちは」
そう言ってドアを開けたのは、健治の母とまりあの母だ。ちょうど健治が黒板に向かい、数学の公式を説いているところを見て、健治の母は喜んだ。
「みんな、アイスが職員室の冷凍庫に入れてありますからね。あとで食べてね」
まりあの母が言うと、歓声が上がった。
翌日は部活が休みの日だった。琳太郎も雛形も学校に来ないので、吹部達は錬三郎の家を訪れた。蔵に初めて入った者はこの特設スタジオに感激した。先に何回も来ていた直樹はちょっと先輩づらして、照明の位置や譜面台の場所を案内する。みんなで先に勉強をした後、楽器を吹き始めようとしたところ、恵里菜と史門の母が差し入れに訪れた。今日はフライドポテトとハンバーガーだった。さらに、錬三郎の祖母手作りのプリンも出された。
その翌日も、そのまた翌日も、吹部達は学校に行ったり錬三郎の家に行ったりしながら過ごした。それぞれ予定もあるので全員が揃うことはなかったが、いつも大体まとまって行動していた。保護者達もパラパラと差し入れに訪れてくれ、お互いに少しずつ親しくなっていった。
「俺、すごく賢くなった気がする」
ある日、健治が唐突に言い出したので、梅子がミルクティーを吹いた。
「なんだね。いよいよ暑さで脳みそが蒸発したのかね」
公彦は容赦なく言い捨てた。
「だから俺、すごく賢くなった気がするんだよ」
響のせいでこの頃、だいぶハートが強くなった健治は繰り返し言った。
「オー! ハロー、ケンジ。ハウアーユー?」
銀之丞が下手くそな英語で話しかけてきた。
「アイムファイン、サンキュー、アンデュー?」
健治も負けずに英語で返す。
「アイムジャスト、ソーソー、オーケーイ、ユーアー、ジーニアス、ベリーベリージーニアス、オーマイガー」
銀之丞がまた返した。
「とても中二の英語レベルに思えない」
響がボソッと呟いた。
「いいんじゃない。堂々と話せれば」
梅子は言いながら、吹き出したミルクティーをティッシュで拭き取った。
「練習はきついけど、みんなでいると楽しくていいっすよね」
大輝がそう言って新しいティッシュを差し出した。
「ありがとう。なんかコンクール前の雰囲気じゃないよね、これ」
まだ下手くそな発音で英会話する男子達を眺めつつ、梅子は力なく笑った。




