表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑谷中学吹奏楽部  作者: taki
1
PR
22/272

伊久馬の憂鬱

部活の休憩時間になり、伊久馬は第二音楽室の床に体育座りして休むことにした。

パーカッションなんかやりたくない。面白くない。ママに言ったら、何とかトロンボーンにしてもらえるだろうか。怜のように足が悪ければ、トロンボーンになれたのだろうか。パーカッションは立って演奏することが大半だ。ペダルを踏んで演奏する楽器もある。つまり、足が丈夫な奴から配置されるのだろう。伊久馬は座ったまま、右足で左足の甲をぐりぐりと踏みつけたが、痛みに耐えかねてやめた。伊久馬の気持ちを見透かすように、直樹が話しかけた。

「足がどうかはともかく、雁谷君はリズム感がいいんだと思うよ。仮入部でタンバリン叩いていたとき、先生が褒めてたじゃん」

伊久馬はチラリと直樹の顔を見た後、第二音楽室の後方を見た。銀之丞がふざけてドア枠にぶら下がり、チンパンジーの真似をして部員達を笑わせているところだった。音羽はというと、うつろな表情で窓の外を見ている。この女の先輩はピアノが上手いので有名らしいが、パーカッションも輪にかけて上手い。しかも、皆の前で勝手にシンバルを叩けるほどすごく度胸があるし、誰とも群れないで一人の世界に浸っている。近づきがたく、得体が知れないと思った。

「僕は別に、いいと思いません」

伊久馬は謙遜しつつ、涙目になっていた。もう、家に帰りたい。ママ。

「そのうち、だんだん好きになるよ」

直樹が伊久馬の隣に座りこみ、励ました。

そうだろうか、と伊久馬は疑問だった。パーカッションに決まってから、腕立て伏せやスクワットの練習ばかりさせられて腹が立った。集中力がつくからと、校庭で走らされたりもする。これじゃ運動部と変わりないじゃないか。

「俺も本当はサックスがよかったのに、フルートにさせられた時はすごく嫌だった。しかも、サックスになった奴は半年でやめた。でも、今はフルートがすげー好きなんだ」

「へえ」

伊久馬は少しだけ直樹に興味を持った。この先輩も自分と同じような境遇だったとは。

「フルートじゃなくて、パーカッションになってたら、それも多分、好きになってたと思う。要はさ、今の練習を一生懸命頑張れば、次の練習もさせてくれるだろうし。どんどん好きになってくもんだよ」

「…」

伊久馬は黙って聞いていた。何やら鼻の奥がつうんとする。

「銀、あんな奴だけど、すげーいい奴だし、俺なんかより明るいし面白いし。梅ちゃんが先輩だったら、すげー面倒くさいことになってたよ」

「えっ、そうなんですか」

伊久馬は梅子の話に興味を示した。あの陰気でチビデブな女の先輩である。

「そうだよ。俺、部長やってんじゃん。梅ちゃん、副部長だろ。いつも『部長なんだからもっとしっかりして』とか『部屋片付けて』とか『時間守って』とか。あなた、俺のお母さんですかって思う」

直樹が困惑したような顔をして言うと、伊久馬が吹き出した。

「本当だ。お母さんみたいですね」

「うん。だからさ、銀の後輩でいる方がいいよ。銀って怒ったとこ見たことないし。…朱雀さんも、そんなに悪い人じゃないと思うよ」

直樹は音羽が入って来てくれたことが嬉しくて、おまけ程度にフォローして言った。

「そうなんですか」

伊久馬は、少し離れたところでまだ窓の外を見ている音羽を見ながら言った。

「梅ちゃんなんか怒ってるとこしか見たことないよ」

直樹が、梅子が起こった時の顔を真似しながら言った。

「さすがお母さん。ギャハハハ」

伊久馬は明るい声で大笑いした。何だか、パーカッションも悪くない気がしてきた。

「誰の話、してる?」

低い声が頭の上から降ってきた。直樹と伊久馬が前を見ると、太くて短い足がそこにあった。

「お母さんって誰」

梅子が再度問いかけると、二人は猛スピードで廊下を駆けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ