第九八七話 触るな危険
魔王城跡地へ向かう道すがら、進路上に存在するモンスターにはむしろ、積極的にエンカウントを仕掛けていく私たち。
先程のリリに触発されたのか、なんだか皆新たに得たスキルをこれみよがしに実戦披露しており。
今回はレッカがメインアタッカーとして、新スキルを存分に振り回していた。
特殊スキル【炎帝】。
炎帝というと、確かそんな二つ名を持った冒険者さんが居たような、居なかったような……まぁ、それとは全くの無関係で。
レッカの得たそのスキルは、彼女をいよいよ炎使いとして、一つの境地へと至らしめるような、そんなスキルだった。
先ず特筆するべきは、『熱・炎ダメージ吸収』という効果だろう。
自らの生み出した炎や熱ですら、彼女自身を回復させる助けとなるのだから、自己回復能力に於いてはチームミコバトの中でも、もしかしたらトップに躍り出たんじゃなかろうか。
しかし炎帝の真骨頂は、やはり焼くことにあり。
自身に迫るあらゆる攻撃に対して、炎帝の力は『炎属性』を押し付けることが出来る。
つまるところ、彼女は飛んでくる攻撃すら焼いてしまうのだ。結果としてそれらは、炎や熱を帯びた状態で飛来することとなり。
熱・炎ダメージ吸収の能力を有するレッカは、結果として敵による攻撃の殆どを、自身に都合の良いものへと変じさせてしまうわけだ。
無論、属性相性だとか出力の関係だとかで、何でもかんでもとはいかないものの。それでもあらゆる戦闘でアドを取り、マウントを仕掛けるのがレッカのスタイルと言えるだろう。侵略すること火の如しとは正にだ。
現在彼女と対峙しているのは、所謂ロックゴーレム。体を岩で構成した、ロボットめいた巨人。
ただし、魔王城跡地付近に存在しているだけあり、強者であることは間違いないだろう。
それにしても、サイクロプスといいロックゴーレムといい、体の大きなモンスターが割と居るものだ。質量こそパワーなのか。ある種の真理ではある。
されどそんなロックゴーレムは、自らの巨大な体躯を活かして突っ込んでくるわけでもなく、小賢しくも魔法により生み出した岩塊を次々に発射。【ロックブラスト】ってやつだ。
皆の中より前に出て、堂々たる立ち姿を晒すレッカへ向け、彼女の身体の半分ほどもある岩砲弾が、四つ五つと凄まじい勢いで迫り来る。
が、しかし。
それらはレッカとの距離を詰めるに連れ、急激に赤熱。そして、激突。
「ぶっ!!」
驚くべき事態。そして大惨事。
なんと勢いそのままにレッカまで届き、激しく衝突した五つもの岩塊は、しかし。さながら爆ぜた水風船のように液状化して、滅茶苦茶に飛び散ったではないか。
一見すると、即死していてもおかしくないような悲惨な有様。
されど当のレッカはと言うと、溶岩と化した真っ赤などろどろを身体に受けたにも拘わらず、精々がパイ投げでも食らった程度のリアクション。溶岩をぶつけられた人間の反応とは、到底思えなかった。
っていうかそれより問題なのは、飛沫である。彼女に勢いよくぶつかり、弾け飛んだ溶岩の飛沫が、後方の私たちめがけて降り注いだのだ。
『ぎゃー! バカじゃないの!?』
『障壁! 障壁展開!!』
『なんて迷惑な~! 髪が焦げるとこでしたー!!』
『ゴ、ゴメンじゃん! 事故だよ事故!』
後方からしこたまブーイングが鳴り、緊張感もへったくれもない。
それでも油断なくロックゴーレムから視線を切らないレッカは、全身を溶岩でベチャベチャにしたまま、愛剣を煌々と灼熱色に輝かせ、駆け出した。
その様はあたかも、一塊の火の玉が如く。それを脅威と感じたか、レッカの正面に地面より生成されたるは、壁。分厚い岩壁である。
しかしレッカは止まらない。クイズ番組で、マルバツが描かれた紙の壁を突き破るあれ。彷彿とさせたのは、正にその様。
岩壁に勢いよく衝突し、突き破るレッカ。触れた箇所はどろりと溶解し、絶対触っちゃダメ感が尋常じゃない。
そんな人の姿をした怪物が、猛スピードを帯び自身めがけて突っ込んでくる。果たしてロックゴーレムの心境たるや……。
心眼を介して、私は確かに感じた。恐怖を懐いていらっしゃる。ゴーレム系は殊更感情なんて希薄なのに。
『いくぞいくぞおらー! 一緒に熱くなろうぜー!』
ノリノリである。愛剣をぶんぶん振り回し、ドタバタと威嚇するように駆けていく。レッカが止まらない。
勢いそのままに、ロックゴーレムの右足にタックル。ドバッと溶解し、原型を失ってしまった。ぐらりと身体が傾く。
奴の右足を突き抜け背後を取った彼女は、急停止がてらひょいと跳躍。華麗な宙返りを披露しながら、ストンと飛び乗ったのはロックゴーレムの頭の上。
そこで、真っ赤に輝く愛剣をズブリ。奴の脳天へ遠慮躊躇いの一切もなく、えいと突き立てたのだ。
次の瞬間である。
ドバッと弾けるロックゴーレム。頭部を中心に次々と身体が溶解し、かと思えば黒い塵へと変じていく。
なんとド派手で物騒な勝ち方だろうか。こちらまで伝播する熱気に煽られながらも、彼女の勇姿を見届けた私たちは……チームミコバト内にまた一人、敵に回しちゃダメな娘が増えたんだなと。そう強く実感するのだった。
★
「……ここだ。間違いない」
道中遭遇するモンスターの尽くを屠りながら、ぞろぞろと歩みを進めることしばらく。
イクシスさんのその声に、私たちはピタリと足を止めた。
魔王城跡地。そこは、だだっ広い平らな土地だった。ともすれば長年放置されたグラウンドのようですらある。
どこぞより種でも飛んできたのだろう。あっちこっちに草が群れており、その上をヒュルルと冷たい風が横切っていく。冬だものね。
すっかり色が落ち、冬仕様の緑が虚しさを感じさせた。
それでいてどうしようもなく目を引くのは、遠景。あっちこっちに見える抉り取られたような地形。おそらくは古い戦いの痕跡。
つわものどもが夢のあと、なんて言葉がしっくり来そうな光景だった。
大厄災により、たくさんの戦いがあった。多くが犠牲になり、それでも魔王を退けんと、本当にたくさんの人が力を振り絞ったんだ。
それら全てが、この場所への道を作り。イクシスさんたちはその上を駆け抜け、魔王討伐という大願を果たした。
謂わば、想いの終着点。懸けられた命の集う場所。
そう考えると、ただのガランとした平地だなんて思えない。不思議と背筋が伸びてしまうような、慰霊碑の前に立った時の如き気分にさせられる。
しばし、誰も何も言わず。何かを噛みしめるように。或いは何かに耐え忍ぶように。
じっと、黙ってその光景を眺め続けた。
かつてはここに、魔王城と呼ばれたお城型のダンジョンがあったらしい。
攻略され、跡形もなく消え失せてしまったそれ。しかしこの開けた土地を目の当たりにしたなら、さぞ巨大な城だったのだろうと見当がつく。
であるならば、つまり。ここは謂わば、イクシスさんの旦那さんにして、クラウのお父さんが逝った場所ってことだ。
それを思うと、何も言葉が出てこない。
今この場で口を開くことを許されているのは、当時を知るイクシスさんやサラステラさんのみ。誰がそう決めたわけでもないのに、皆が一様に感じているルール。
そんな暗黙の決まり事に則るよう、ようやっと口を開いたのは他でもない、イクシスさんで。
「ふぅ……よし。それじゃぁ皆、少し探索してみようじゃないか。もしも何か怪しいもの、気になるもの等発見したなら、念話で連絡するように」
「あ。もしかしたら魔王城攻略当時、回収しそびれたアイテムが残ってる可能性もあるぱわな。つまりお宝探しぱわ!」
続くようにサラステラさんの口から告げられたその内容に、現金なもので皆の目がキランと輝く。
それはそうだ。魔王戦当時の品が未回収で落ちているとしたら、値段云々はともかくとしても、歴史的価値の高い品であることは間違いない。
まして勇者一行に由来する品となれば尚の事、興味を持つ人は多いだろう。お宝っていうのも、あながち間違いではないと思う。
であるならば、これを機に見つけて回収しておきたいところ。
「みんな、もしそれらしいお宝を見つけたなら、ストレージに入れる時は他のアイテムとごっちゃにならないように気をつけるんだよー」
そのように注意を促し、私も捜索を開始。と言っても、実際やることと言ったら検索機能に適当なワードを入れて実行するくらいのもの。
付近に落ちているアイテムを検索してみたなら、確かにそれらしいものがチラホラと、早速マップに表示され……そして凄い勢いで回収されていってる。
どうやら他の皆も検索機能を利用したらしい。考えることは皆同じ、か。
私も手近なものを幾つかストレージに取り込んだなら、あっという間に宝探し終了である。何ともまぁ、あっさりしたものじゃないか。宝探しってもっとこう、草の根分けて地道にやるものなんじゃないの? 私が言えた義理じゃないけどさ。
取り敢えず回収した品が、ストレージ内のアイテムとごっちゃにならないよう、使ってないマジックバッグにまとめて入れておくとしよう。
鑑定などはまぁ、帰ってから行うこととして。
「皆、やたら手際が良いな……それで、肝心な『怪しいもの』は何か見つかったか?」
「見渡すかぎり、それらしいものはありませんね」
「ってことは、それって見渡しても分からないくらいに小さなものなのだ?」
「もしかしたらまだ、この場所に存在していない可能性もあるのです」
「若しくは拾ったアイテムの中に、何かしら特別な品が紛れているか……」
「そうであるなら、既に回収が済んだということでしょうか」
「回収が不可能で、ぱっと見じゃ分からないものだった場合、もうちょっとよく調べる必要がありそうだけどね」
「ふむ、ならば目標を『ぱっと見じゃ分からない怪しい何か』として、今一度皆で探してみようか」
イクシスさんの号令で、今度こそ皆して探しものを行う。
もしそんな怪しげなものがあるとするなら、草木や岩陰なんかに隠れている可能性が高いよね。
それにしたって、然程背の高い草が茂っているわけでもなし。よく燃えそうな冬色の草むら。
流石に燃やし尽くして捜索、だなんてそんな物騒なことはしないけども。しかし、探しものをするには難儀しそうではある。
そうこうしていると、不意に念話がチラホラと飛び交い。
『何でしょうかこれー。何かやけにでっかい足跡がありますね~』
『あ、こっちにもありますね。この形状からして……』
『気をつけて。空から何か近づいてくる』
『噂をすればってやつ?』
オルカの警告に空を見やれば、確かにこちらへ迫ってくる影が一つ。
それは段々と輪郭をくっきりさせていくにつれ、ぐんぐんとシルエットを巨大化させていった。はじめは米粒ほどだった影が、今や巨大な旅客機みたいなサイズ感でもって、私たちを空中から見下ろしているのだ。
その姿たるや、まぁなんとも。
『がっつりドラゴンだ……』
『脅威度は赤の五つ星。それでいて先程対峙したどのモンスターより、とても強い力を感じます』
『もしかしてここら一体のヌシでしょうか?』
『ギャウー』
『足跡からして、もしやここを根城にしているってことなのだ……?』
『ほぅ、それは聞き捨てならんな』
僅かに、イクシスさんの気配が剣呑さを帯びる。
どうやらこの場所を我が物顔で占領しているかもしれないドラゴンが、癪に障ったらしい。
普段はあんなに温厚というか、気の良い彼女が苛立っているっていうのは、それだけこの場所がイクシスさんにとって思い入れ深いってことだ。
サラステラさんなんて既に臨戦態勢だしね。
ドラゴン側にしても、ここが本当に奴の縄張りなら、そこを荒らした私たちは排除するべき敵以外の何物でもないだろう。
一触即発。激突は免れそうにない。
誤字報告感謝です!




