第一八一一話 迷宮公認!
さて、敵が強ければ強いほどに期待してしまうのが、戦利品の豪華さというもので。
過去に類を見ないほど巨大だったライバル個体を撃破し、難敵を打ち破ったという確かな手応えと達成感に浸っている私たちにとって、ドロップアイテムへの期待というのも相応に大きなものである、というのは言うまでもないだろう。正に巨山が如き期待感よね。……まぁ、期待しすぎると肩透かしが怖いから、自制心も大事なのだけど。
して、そのドロップアイテムはと言えば、例によって自動的にPTストレージへ回収されており。ウィンドウを開けば直ぐにでもその内容をチェックすることが可能、という状態である。
良くしたもので、誰も抜け駆けなどはせず、よく躾けられたお犬様よろしく、足並み揃えてGOサインを待っているのが現状だ。
「で、もう見ていいの? まだなの!?」
「もう我慢できないのぜぇ!」
「ぱわっぱわっ!」
「ガウーラー!」
今か今かと、なんて形容詞がこんなに当てはまることもなかなか無いだろう。それくらい前のめりになってソワソワしている面々。かくいう私も待ち切れないのだけど、自分以上に目を血走らせている彼女らを横目にすると、不思議と冷静になれる気がする。
んで、こういう場面において号令権を握っているのは言わずもがな、我らがイクシスさんであり。さながら引率の先生が如く、皆がきちんとウィンドウチェックを実行できそうな状態にあることを確認した彼女は、いよいよもって許可へ踏み切ったのである。
「よろしい、では此度の戦利品を確認してみようじゃないか。PTストレージウィンドウ、展開!」
瞬間、一斉に開かれる各々のウィンドウ。私が皆へと共有しているへんてこスキルであるため、全員が息を揃えてアクションを起こせば、何となく直感的にそれが理解できてニヤけそうになる。
が、私もドロップアイテムは気になっているからね。ニヤつくのはそれを目の当たりにしてからでいいだろう。
というわけで、皆と同じタイミングでウィンドウを展開したなら、アイテム一覧の中から見慣れぬ名前を素早く探し当てた。
するとそこには……。
「『適合因子【例外】:ミコト』……なんぞこれ」
見つけた名前はずらり十と四つ。「適合因子」なるフォーマットに副題が付き、最後にメンバーの名前が添えられているという不思議な品である。
一体何なんだこれはと、自分の名前が付いたそれを取り出してみたなら、現れたのはなんとも奇妙な品であり。
材質は恐らく金属。大きさは八センチくらいのスティック状……そう、ちょうどフラッシュメモリのような感じ。片側の先端が端子のような形状になっているのも特徴か。ボディはチカチカと微細な光を放っていて、何処かホビーめいてもいる。暗がりで眺めたら綺麗かも。
して、これは……どういうアイテムなんだろうか。実物を目の当たりにして尚、誰もが首を傾げてしまう。
すると必然、皆の視線が向かうのは、鑑定が得意なイクシスさんのところ。彼女であれば何か分かるんじゃないかと、静かに期待が集まった。
どうやら既に、鑑定作業は開始されているようだ。彼女の手にも、私のそれとよく似たスティックが握られており、それを凝視するイクシスさん。表情は至って真剣だ。武器愛好家の彼女は、基本的に武器以外のアイテムに対してあまり関心を寄せないのだけど、そんな彼女があんなに引き締まった表情で鑑定に集中しているだなんて……もしやこれ、武器なんだろうか?
イクシスさんの集中を乱さぬようにと、固唾を呑んで結果を待つ周囲。果たして彼女の鑑定スキルは、この「適合因子」とやらをなんと解説するのか。ソワソワしながら鑑定結果の発表を待っていると……。
「……なる、ほど。どうやらこの『適合因子』なるアイテムは……合成素材のようだな!」
「「!」」
合成素材。つまりはアイテムに合成することで初めて真価を発揮するタイプの、特殊な素材アイテムってことだ。
これを受け、皆のリアクションは様々。今すぐ効果を確かめることは難しそうだと知り、ヤキモキするメンバーもあれば、単純に胸を躍らせるものもあり。また、新たなスキルが得られるんじゃないかと期待していたスキル大好きさんなどは、スンッと虚無を表情に貼り付けている。
「合成素材……ミコトが獲得してた、アレみたいなもの?」
「あ。そう言えば確かにあったね、どの試練の隠しボスを倒したときだったっけな。装備を進化させるための特別な素材アイテムを得たんだよね」
「ああ、正にそれと同系列と言っていいだろう。ただし今回の進化素材には、各々の個性を加味してあるらしい」
「? それは、どういう意味なのぜ?」
どうやら単なる合成アイテム、というわけではないらしい『適合因子』。
思わせぶりな物言いにて再度皆の耳目を集めた彼女は、いつになく興奮した様子で語り始めた。
「鑑定結果によれば、今回我々が受けてきた三つの試練、そしてボスとの戦い。それらを迷宮が観測し、観察し、その結果生み出されたのが先程戦ったライバル個体であり。奴らとの戦いの結果すら踏まえて結実したのがこの、適合因子という素材アイテム、ということらしい」
「つ、つまりどういう事ぱわ……??」
「要するに……迷宮公認の『専用装備』が作れるってことなんじゃないの?!」
「ガウゥ!?」
「せ、専用装備……!」
専用装備。ゲームで言うなら、特定のキャラクターのみが装備できるっていう、制限付きの装備アイテムであり。なればこそそれにまつわるエピソードや、性能面にも特別な設定が盛り込まれていたりするという、色んな意味でスペシャルな装備である。
しかし専用装備というのであれば、例えば意思ある装備も同様の肩書に相応しいだろう。なにせ持ち手を装備自身が選び、使用者と共に成長するのだから、特別な専用装備以外の何物でもない。
ならば今回の適合因子はそれらとどう違うのか。何がすごいのか。
それが、『迷宮公認』って部分にあるわけだ。
「迷宮が、我々一人一人の能力や戦闘スタイル、学習し成長する様子すら観察し、データをまとめ、装備の合成進化アイテムとして結実させた、と」
「それが、適合因子……!」
「さらに言えば、思い入れのある装備に合成してやることで、能力面のみならず精神的な意味合いにおいても特別な一品を作り出すことが出来るわけだな!」
「何よそれ、そこまで行ったらもう……自分の分身みたいなものじゃない!」
装備が、自分の分身……そう言えば最近使ってなかったけど、【身具一体】だなんてへんてこスキルがあったっけ。もしやシナジー効果に期待が持てる……?
ともあれ、私も皆も適合因子というアイテムがどういったものかは、概ね理解できたようだ。
ってなると気になってくるのが、適合因子の後に付いている、副題のような文字。
私の場合は「適合因子【例外】:ミコト」。
例外……例外って何さ。明らかに異色っぽいのだけど。効果の内容がさっぱり想像できなくて怖いなぁ。
ちなみに他の皆はどんな感じかと言うと……
■ 鏡花水月
・適合因子【例外】:ミコト
・適合因子【影随】:オルカ
・適合因子【鬼力】:ココロ
・適合因子【終式】:ソフィア
・適合因子【不壊】:クラウ
・適合因子【変成】:ゼノワ
■ 蒼穹の地平
・適合因子【万象】:リリエラ
・適合因子【負圧】:アグネム
・適合因子【聖域】:クリスティア
・適合因子【侵蝕】:クオ
■ ねんらじ
・適合因子【灼熱】:レッカ
・適合因子【共鳴】:スイレン
■ レジェンズ
・適合因子【継承】:イクシス
・適合因子【剛力】:サラステラ
────こんな感じ。
なんか二つ名みたいでかっこいいよね。……私、例外扱いされてるけど。
して、これらのアイテムを実際装備に合成するとどうなるか、についてなのだけど。その点に関してはイクシスさんの鑑定を持ってしても分からなかったらしい。分からないというより、合成先との兼ね合いもあって不確定なんじゃないか、とのこと。
「こ、こうしちゃいられないぱわ! 早く帰って合成するぱわ!!」
「ああ、そうだな! そのとおりだ!!」
「いや待て待て、母上まで乗るな! 帰る前にやることがあるだろう」
正しく居ても立ってもいられないと言った様子で、すぐにでもどこぞへ走っていきそうな一部メンバーたち。そこには武器愛好家のイクシスさんも含まれているっていうんだから困ったものだ。がしかし、こういう時頼りになるのがクラウであり。
彼女が窘めてくれたおかげで、どうにか我に返ることが出来た面々。かくいう私も我を忘れかけていたわけだけど。
しかし意識を引き戻されたのならば、皆の視線は自ずと一点へと向かっていった。
そうさ、ライバル個体の撃破に際し、虚空より現れたる一枚の扉だ。
きっとこの先に、私たちが迷宮へと踏み入れた最大の理由が待ち受けている。
本題を果たす時が、ようやっとやってきたのだ。




