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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一〇三話 谷

 なんだかんだ言って、私もそれなりに場数は踏んでいる。

 今更そこら辺の野良モンスター一体に気負ったりもしない。それに今回は多分出番もないだろう。

 対するはロックベア。体高三メートルほどはあるだろうか、硬い岩の鎧を纏った熊である。

 戦闘経験はある。その自重を活かした体当たりこそ脅威ではあるが、動きは鈍く距離をとって戦えばそれ程苦戦を強いられるようなこともない。ただ硬くタフなので、面倒ではあるが。

 しかしそれも、ココロちゃんの火力があれば問題にもならない。

 オルカが注意を引いて、ココロちゃんが一気に勝負を決める。それで済む話だろう。


「それじゃぁ、早速仕掛ける」

「ココロもスタンバイしますね」


 オルカとココロちゃんが勇ましく先んじた、その時だった。

 不意にソフィアさんが二人を静止する。


「あ、すみません。ちょっと待ってください」

「「!」」

「? ソフィアさん、どうかしました?」


 思いがけない呼びかけに、些か出鼻をくじかれキョトンとしているオルカたち。

 何事かと問うてみると、彼女はふむと少し逡巡し、言うのだ。


「どうやら、ロックベア程度ではミコトさんが出る幕はないようですね。しかしながら私もオレネさんも、なるべく皆さんの活躍が見たいのです」

「まぁそうだね。特に私は、可能なら舞姫の活躍が見たいよ」

「ということですので、一つ縛りを設けてもよろしいですか? 難しいようなら無視してもらっても構いませんが」


 そう言って私たちの顔を順に眺めるソフィアさん。

 私を含め、冒険者組は特に嫌がるでもなく、ひとまずその縛りとやらの内容を聞くことにした。


「どんな縛りがお望みなんです?」

「特に難しい話ではありませんよ。出来れば皆さんには、一人一回以上モンスターに攻撃を加えた上で討伐してほしいのです」

「なるほど……オレ姉からは、舞姫を駆使して戦うってことでいい?」

「だな。あの硬いロックベアに、舞姫でどう攻めるのか興味はあるね」


 全員が一度は攻撃を加える。そうすることで、スキル大好きソフィアさんもほっこり、武器職人のオレ姉も良い刺激を得られるかも知れないってわけだ。

 更にオレ姉謹製のオリジナル武器、舞姫は片手剣を四本風車状に合体させた斬撃武器だ。硬いロックベアとは相性が悪いが、そこをどう攻めるのか興味があると言う。

 私たちは二つ返事でそれらの要望を呑むと、再度打ち合わせを軽く行い、そして動き出した。


「それじゃ、仕掛ける」


 そう言って飛び出したのはオルカ。自らがヘイトを買うことを念頭に置き、地形や立ち位置を考慮した上でベストなポジションを瞬時に割り出すと、素早く移動。弓を引き絞り、関節部をめがけてアーツスキルを放つ。

 関節は往々にして柔らかいものだ。そうでなくては機動性に大きな支障をきたすような体の造りになってしまうから。

 ご多分に漏れず、オルカの矢はロックベアの腕関節に突き刺さり、直後鏃が小爆発を起こした。

 痛みと驚きにロックベアが暴れだし、すぐさまオルカの姿を捉える。

 怒り任せにそちらへ突っ込もうとしたところで、すかさずその足元へ小さな影が迫った。


「ココロ、行きます!」


 私たちが観戦している位置まで優に三〇メートルほどは離れているというのに、ココロちゃんがフルスイングした金棒の風切り音、そしてロックベアの膝を砕き、千切飛ばした破砕音は耳を劈かんばかりにこちらまで届いていた。

 軸足を損ない、堪らず前のめりに倒れていく奴へ、続いて襲いかかったのはクラウである。

 彼女は打ち合わせ通り姿勢を崩したロックベアの下へと潜り込むと、黒盾をがっちり構える。

 落下してくるとてつもない重量のロックベアをものともせず、正面から受け止めてみせた。ばかりか、黒盾の効果で飛び出した幾本もの棘は、その硬い岩の鎧や表皮をものともせず刺し貫き、幾つも胴体へ風穴を空けたのである。

 すぐさまクラウとココロちゃんは飛び退り、それと入れ替わるように私が仕掛けていく。


「じゃぁ仕上げ、行くよ!」


 先日、黒太刀を調べている過程で判明した事柄に、黒太刀の効果を別の攻撃手段にも乗せることが出来る、というものがあった。

 完全装着の効果で、武器の持つ特殊能力は私にとって、着脱可能なスキル、みたいな扱いになるらしい。だから、黒太刀を装備しさえしていれば、その特殊能力の恩恵を受けるのに攻撃手段は問わない、と。

 これを受け私は、思いついてしまったのだ。

 もしかして、アルアノイレにも同じ理屈が通じるんじゃないか、と。


 アルアノイレは足具だ。再生能力と、不可視の爪を繰り出す能力を持っている。

 私はこれまで、不可視の爪を発動するための条件として、アルアノイレを装備した状態で蹴り技を繰り出す必要があると思っていた。それも、発動を念じながらだ。いわゆるアクティブスキルみたいな扱いだね。

 それでしか発動できないと思い込んでいたものだから、他を試していなかったのだけれど。

 もしかすると、剣を振る際に不可視の爪の発動を念じたとして、起動するんじゃないのか、と。

 そう思って先日実験したのだ。

 その結果が今、私の目の前にある。


「な……なんじゃありゃぁぁ!?」


 後ろからオレ姉の叫びが聞こえて、サプライズが成功したような心持ちになり、私は踊るように舞姫を一振りしてはストレージに放り込み、反対の手で一振りしてはストレージへ。そうして軽くなった腕を最短で構え直し、振るう瞬間舞姫を一本取り出すと、また振るって不可視の爪を発動させるのである。

 見えざる爪は一振るいするごとに、深々とロックベアの体表を五本の爪で削り取り、それが目にも留まらぬ速度で次々に繰り出される。


 ロックベアは為すすべもなくただ断末魔だけを残し、あっと言う間に黒い塵へと還ったのであった。

 それを確認し、私は残心を解くと皆へと向き直る。


「よし、打ち合わせどおりだったね」

「流石にコアは破壊できなかった」

「まぁ縛りもありましたしね」

「次は狙ってみよう」


 なんて私たちが簡単に感想を言い合っていると、妙にソフィアさんやオレ姉が静かなのに気づいた。

 そちらに視線を向けてみれば、二人は目を丸くしたまま固まっているではないか。

 また大袈裟な反応をするものだと苦笑しながら、私は二人へ声をかける。


「えっと、こんな感じでよかったかな……?」

「ミ、ミコト……今の、何をしたんだい?」


 動揺したような声音とは裏腹に真剣な目でそう問うてくるオレ姉へ、私は不可視の爪について、延いては完全装着による応用について語って聞かせた。

 彼女はそれを聞くなり、ブツブツと何やら思案し始め、ついでソフィアさんが食って掛かって来る。


「ミコトさん、それに関しては私聞いていませんが!」

「ああえっと、つい最近発見したことだったので」


 ブーブー言うソフィアさんを宥めつつ、私は改めて二人へ感想を聞いてみることにした。

 私達自身では普段どおりの戦闘なのだけれど、客観的に見てみると何かツッコミどころと言うか、弱点や不手際なんかが目についたかも知れない。

 そういう指摘が得られたなら、もっと最適化が捗ると期待したのだけれど。


「皆さんの実戦は久々に目の当たりにしましたが、正直驚きました。ロックベアと言えば、多くの冒険者が嫌がる相手なのですけど、それをこうも一方的に、しかも短時間で仕留めてしまうとは……」

「戦術、武具、そしてスキル。どれをとっても見事なもんだね……惜しむらくは、舞姫の素の性能じゃ、もう今のミコトには不相応だってことだろうね。こりゃ、装備開発に加えてグレードアップも考えなくちゃならないみたいだ」


 と、二人して深く感心したようにコメントを述べてくれた。

 しかし私たちは、普段からやっているようなことをこなしただけなので、高く評価されてもイマイチ実感が伴わないと言うか、なんだか甘口だなぁと感じてしまう有様。

 もしかすると黒鬼や暴走したココロちゃんとやり合ったせいで、感覚が大分バカになっているのかも知れない。

 少し気になったので、一応ソフィアさんへ問うてみた。


「ちなみにソフィアさん、ロックベアって冒険者ランクで言うと、どの辺の人達が相手にするモンスターなんです?」

「ロックベアは、確かに動きが鈍いため脅威度自体はそれほど高くありません。が、何せ硬い上にHPも高いですからね、しかもドロップアイテムに際立った価値があるわけでもない。なので、多くの冒険者が避ける相手です。十分な火力のあるBランク上位から上の人なら、遭遇すれば狩ったりもしますけど、そういう人達はもっと強くて良いものを落とすモンスターを狙いますね」

「そう言えばミコト、あんたって今ランクはどれくらいなんだい?」

「え、Dランクだけど」

「「「「「…………」」」」」


 急にシンとした皆の反応を見て、私は首をかしげる。そう言えば最近ランクとかあんまり気にしてなかったから、ちょっと自信がなくなってきた。

 私はソフィアさんへ視線を向け、確認する。


「あれ、Dでしたよね? 違いましたっけ……?」

「え、ええ。合っています。ミコトさんはDランク冒険者です」


 ざわっ。

 ソフィアさんの返答を皮切りに、総ツッコミが起こった。

 そう言えばそうだったとか、バカなアリエナイだとか、ギルドの見立てはどうなってるんだとか。

 当のギルドスタッフであるソフィアさんも、これには頭を抱えてしまった。

 私もそろそろ上がらないかなーとは思っているけれど、ランクが低くて困るのなんて一部の危険なエリアやダンジョンへの進入制限がかかるくらいのもの。後は依頼の内容も変わってくるか。

 だけれど幸いにも、ココロちゃんがAランク冒険者であることから、そこまで依頼に困るようなシチュエーションには出くわさないし、そもそも通常の依頼より常駐依頼をメインにしているから問題になりにくいというのが大きい。

 進入制限と言えば、ちょっと前はそれで大分困ったものだが、抱えていた問題の解決した今となってはランクアップを急くわけでもなし。

 そう言えば、冒険者になってまだ三ヶ月くらい? だったっけ? カレンダーがないから何とも言えないのだけれど、多分それくらいだ。

 あんまり早く昇級を繰り返しては、変に目立ってしまうからと遠慮していたような気もする。

 そう考えると、やっぱりゆっくりでいいかな。なんて思っていたんだけど。


「ミコトさん。街に帰ったらすぐ昇級試験を手配します。必ず受けて下さい」

「え、いや、でも……」

「流石にその実力で、Dランクを名乗られてはギルドとしても拙いです。何より、ミコトさん自身が変な目立ち方をしかねませんよ」

「それは拙い!」


 ということで、ひょんなことから昇級試験に挑むことが決まったのだった。

 ともあれそれも、オルカの修行のほうが優先だ。暇ができたなら優先して当たることにしよう。

 そんな具合に話も絶えぬまま私たちは移動を再開し、目的の狩場までおおよそ丸三日。

 思いがけず長い道のりにはなったが、特に退屈をするようなこともなかった。

 道程で時折起こる戦闘は、結果として様々な関連話題へ結びつき、更には冒険者活動なんていう話の種に事欠かない職業柄、移動中も休憩中も話が途切れることもなく。

 斯くして退屈とは無縁のまま、ついに目的地である狩場へ至ったのである。


 そこは、左右を切り立つ断崖絶壁に隔てられた、巨大な渓谷であった。

 崖の高さは優に数十メートルもあり、谷底には延々と続く大きな渓流と、幅の広い岸がところどころ散見できた。

 そして何より私たちの注目を集めたのは、岸辺を徘徊する巨大なモンスターの影たち。


「あれはまさか……ゴーレム!?」


 それは岩で出来た人形、あるいはロボットのごとく、モンスターと言うには酷く無機質な姿をしていた。

 距離があり、しかも俯瞰からの観察なので正確な大きさは分からないが、恐らく一体一体が五メートルほどもあるのではないだろうか。遠近感が狂いそうなサイズ感である。

 そんなものが谷底にチラホラと徘徊しており、某巨人の姿が脳裏を過る。


「そう。通称『ゴーレムの谷』と呼ばれるここは、その名の通りゴーレムのポップするエリアとなります」

「つまり、私たちの修行相手っていうのは……」

「火力不足に悩むオルカさんにとっては、歯ごたえがあって良い相手だと思いませんか?」


 そう言ってソフィアさんは、薄い微笑みのまま私たちを見たのである。

 挑発的とも取れるその発言を受け、オルカを始めとした私たちは、一様にやる気を掻き立てられるのだった。

うぅむ。微スランプです……。

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