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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第一〇一話 被り

 時刻は大体一五時を過ぎたくらいだろうか。まだまだ元気な日差しを感じながら、私たちは大通りを歩いていた。

 そう言えば季節感なんてあまり意識したことはなかったのだけれど、私がこの世界にやってきた当初に比べると、些か気温が上がっているような気がする。夏が近かったりするのかな?

 そうなると、フードに仮面っていう完全防備の私はこれからのシーズンきついかも知れないな。

 ぼーっとそんな事を考えている傍らで、ココロちゃんたちがこれからの予定を話し合っていた。


「ダンジョン籠もりで結構な物資を消耗しちゃいましたからね。この後は買い出しを行いましょう」

「異議なし」

「私は防具屋を探さなければ。譲ってもらった装備だと、やはり斑があるからな。良い品を扱っている店ないし、職人が見つかると良いのだが」

「あ、それならオレネさんのお店なんてどうでしょう?」

「でも、オレ姉のお店は一応武器屋」


 オレ姉の話題が出たことで、ふと何か頭に引っかかるものを感じた。

 オレ姉関連で、そういえば何か忘れていることがあるような……オレ姉と言ったらヘンテコでかっこいい武器……私にしか使えないような……。


「あ。」

「? ミコト、どうかした?」

「ヤバい。ちょっとヤバいかも」

「?? ミコト様、何がヤバいのです?」

「オレ姉にオーダーを出しておいた装備の一つに、盾があったんだけど……二人共覚えてる?」


 それは私が【換装】のスキルを覚えて間もない頃。

 スロット一つ一つにテーマを設け、それに沿った装備を詰め込もうという話が持ち上がったのだ。

 当時出た案は、バランス型、機動型、防御型、遠距離火力型という四つ。

 バランス型に関しては、適当に使いやすい装備をセットして現在も運用しているけど、その他に関してはだいぶグダグダになっている。

 というのも、当時は換装スキルの使い勝手が悪く、登録作業なんかも結構面倒だったのだ。

 現在はウィンドウから、ストレージに入れてある装備品を参照して自由にイジれるようになったため、特化したセットというのは最強装備詰め合わせのスロットくらいのものだろう。


 オレ姉に、その辺の事情を説明し損ねていたなと、今になって思い至った。

 そしてそれに加えて、防御型スロットの作成に関してオレ姉へ依頼した装備品。そのコンセプトというのが……。


「確か、大盾でしたよね」

「……棘が飛び出す仕組み、とか言ってた気がする」

「む? 棘が飛び出すと言ったら、まるで私の黒盾のようだな」

「「…………」」

「……と、いうことなんだけど」


 私たちは誰からともなくパタリと足を止め、どんよりとした空気を放ち始めた。

 この話が持ち上がった時、オレ姉は、それはもうウキウキしながら張り切っていたものだ。

 一体今、どれくらい制作が進んでいるのかも分からないけれど、このタイミングで黒盾の存在が知られようものなら、一体どんな反応をされるのか。正直怖いと言うか、申し訳ない。


「あと、機動型のオーダーは、ニンジャトーが良いってミコトの要望が……」

「うぐ……種類こそ違うけど、刀、手に入っちゃったもんね……気まずいな」

「でもでも、黙っていたらそれはそれで良くないですよ!」

「何だかよく分からないが、傷は浅い内に対処するべきだと思うぞ?」

「……そ、そっすね」


 なんて話をしていると。

 不意に背後から、馴染みのある声がかかった。


「おお! ミコトじゃないか。仕事の帰りかい?」

「「「‼」」」


 噂をすればなんとやら。オレ姉の登場である。

 武器のメンテナンスなんかで、顔を合わせる機会はそこそこあるのだけれど、今は何とも間が良いのか悪いのか。

 私、オルカ、ココロちゃんはぎこちない動きで彼女に振り向くと、揃って会釈を返したのだった。



 ★



「な、な、なんじゃそりゃぁぁぁ‼」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」


 所変わってオレ姉のお店。

 あの後私たちは、すっとぼけることも出来ず、かと言ってズバッと言い出すことも出来ず、煮え切らない反応を案の定見咎められてしまい、あれよあれよとお店まで同行することに。

 そうしてあっけなくゲロった結果が、これである。


「おま、嘘だろおま……ようやく満足の行く出来に仕上がりつつあったんだよ!? それが、なんだいこの盾は!?」

「ええと、その、何だかすまない……」

「むむむぅ……っていうかあんたは誰なんだい。なんとなく一緒につれてきちまったけど」

「ああ、ええと、私はクラウという。先日からミコトたちと行動を共にしている冒険者だ」


 完全に巻き込まれただけのクラウに些か毒気を抜かれたオレ姉は、何とも微妙な表情で彼女と軽い自己紹介を交わす。

 簡単な名乗りを終えたところで、テーブルにでんと置かれたクラウの黒盾を改めて眺め、溜め息を零すオレ姉。


「私が必死に考えた棘の機構を、まさか特殊能力であっさり実現させちまうなんて……これだからダンジョン産は!」

「えっと、あの……なんというか。ついでと言っては何だけど、コレも見てもらいたいかなぁ……なんて」


 毒を食らわば皿まで……ではないけれど、この際だからまとめて黒太刀も見せてしまおうと、私は換装にてそれを装備。

 鞘から引き抜いて、オレ姉に刀身を見せた。

 一瞬眉根を寄せて、何のつもりかと訝しそうにしたものの、すぐにハッとする。


「ミ、ミコト……あんたコレ、まさか……」

「えっと……うん。忍者刀と同じ、日本刀って類いの剣。太刀っていうんだけど……」

「~~~~っ」


 そうして再度、オレ姉の絶叫が響いたのである。


 どうにかこうにか彼女を宥めすかし、私は黙って土下座の姿勢。

 勿論、ダンジョンから盾や刀が出てきたのなんて、全くの偶然に他ならないわけで。

 悪気があったはずもないため、謝るというのもおかしな話なのかも知れないが。さりとて、今まで密かに試作品づくりに取り組んでいてくれたオレ姉に対し、別口でそれっぽいの手に入っちゃいましたー……なんて、流石にあんまりだろう。

 そう考えると、私はゴリゴリと床に額を擦り付けずにはいられなかったのだ。


 ようやっと落ち着きを取り戻したオレ姉は、深い溜め息を一つつき、たっぷり間をおいた後、分かったから顔を上げなと言ってくれた。

 それでも、いたたまれない思いは消えないわけだが。


「ほんとにごめんね、オレ姉の武器はオリジナリティが売りだっていうのに……」

「……まぁ、仕方ないさ。誰が悪いって話でもないしね……換装スキルの変化に関しちゃ、もう少し早く教えてくれても良かったとは思うけど」

「うぐ。ごめん……」


 ようやっと少しは溜飲の下がったオレ姉。くしゃくしゃと髪をかきながら、天井を仰いだ。

 あああああと、何とも気の抜けた声を出す。


「しかしどうするかね。ネタが被ったってんじゃ、このまま完成ってのも芸がない。っていうか気が済まない」

「忍者刀に関しては、同じ刀でも運用方法が全く違うから、そのまま制作を進めてほしいんだけど」

「うーん……それもなぁ。どうせあれだろう? その黒い太刀? ってのにも特殊能力が付いてんだろう?」


 思わず、目が泳いでしまう。なんとなくオルカたちの方へ視線を向けると、無言で目をそらされてしまった。

 仕方がないので、おずおずと今日判明したばかりの特殊能力を彼女へ告げると、再び深い深い溜め息が返ってくる。


「あんた……そりゃ……はぁぁぁ……」

「えっと、なんかごめんね……?」


 黒太刀の所有者である私からしても、その特殊能力は破格の性能だと驚いたものだ。まぁ、一般的な特殊能力付きの武具っていうのを、私はいまいちよく知らないため本当に破格かは分からないのだけれど。

 しかしオレ姉の反応を見るに、やっぱり凄いものらしい。


「私だって、相応の素材さえあれば特殊能力の付与くらい出来るってのに……」

「え、そうなの?」

「ああ。尤も、どんな能力が付くかまでは分からないが、力のある素材を元に装備を制作すれば、特殊能力を引き出して装備に付与させることは可能さ」


 しかしそれには、相応に鍛冶師の腕前が要求されるらしい。

 生半可な実力の鍛冶師が、分不相応に力の強い素材を扱って武具をこしらえたところで、特殊能力の付与はもとより、武具としての品質としても酷いものになってしまうとのこと。

 そこをオレ姉は、特殊能力を付与させる自信があるのだという。


「えっと……それならさ、一度計画を見直さない? 私も結構戦い方に変化があったし、それに応じて試作品に手を加えてもらうっていうのは……ダメかな?」

「またあんたは、サラッと無茶なことを言うね……まぁ、ダメではないけど」

「だったら、私たちで特殊能力が付けられそうな素材を採ってくればいい」

「そうですよ! もしかしたら、その素材が新しい武器のアイデアをくれるかも知れませんよ!」


 オルカとココロちゃんの後押しもあり、オレ姉はふむと考え始めた。

 武器の制作を依頼してからもう、一月と言わず時間が経っている。その間オレ姉は、コツコツと試行錯誤を繰り返し続けてくれていたのだ。

 それをまた一から見直そうだなんて、たまったものじゃないだろう。私も提案しておいてなんだが、怒鳴られたって仕方がないとは思う。

 それでもオレ姉は、新しいアイデアにこそ貪欲な人だから。渋い顔こそすれ、嫌だとは言わなかった。

 少しの逡巡後、オレ姉は思い立ったかのように私の顔を見て、言ったのだ。


「それならまず、ミコト。あんたが実際に戦闘をしている所を見せてくれないかい? いつもの模擬戦じゃなく、モンスター相手の実戦ってやつをさ」


 斯くして、私たちはオレ姉を連れてフィールドワークを行うことになったわけだが。

 しかし近々にて、丁度いい予定が控えていることに思い至った私たちは、試しに一つの提案を行うことにした。

 それ即ち、ソフィアさんが直々にオススメの狩場へ案内すると豪語して聞かない、道案内という名の強制視察。

 それに際しては、当然魔法やスキルの披露はもとより、オレ姉が見たいという実戦もガッツリ行うことになるだろう。


 この提案に対し、果たしてオレ姉は二つ返事で承諾の意を示したのであった。

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