45.待ちぼうけ
授業が終わって俺は一目散に自宅に向かう。
一香の事が心配で仕方がなかった。
アパートの階段を駆け上がり一香の部屋のインターフォンを鳴らす。
……が、何度鳴らしても出てこない。
もう先に駅に向かってるんだろうか?
時計を見ると15時だった。
駅までは30分はかかるし、急いで自分の部屋に戻った。
テーブルの上に置いておいた一香へのプレゼントと……
チケット、チケット。
危ない、忘れるところだった!
どんなに部屋が散らかっていようとも大切に引き出しの中にしまって置いたから探し回る事は無い、そう思っていたのに……
(無い……無い!! どこにも無い!!)
時間が無情にも過ぎていく。
そこら中の引き出しを引っ掻き回しながら記憶を辿るが見つからない。
(……嘘だろ?)
俺は呆然とその場に立ち尽くす。
コンコンと玄関をノックする音が聞こえた。
(大家さんかな……? なんだよ、この忙しい時に)
玄関を開けると朝のデジャブだろうか?
真っ白な顔をして羅々ちゃんが立っていた。
「ねぇ、お願い、クリスマス私と一緒にいてよ……」
弱々しくすがりつかれても、俺にはどうすることもできない。
「無理だ。もう一香と約束してる」
羅々ちゃんには申し訳無いけどもう構っていられない。
強引に扉を閉めようとしたが……
「うう、痛たた……」
急に座り込んでお腹を抱え出した。
「おい、どうした?」
あまりにも顔が白かったから具合が悪そうには見えたけど……
「お腹……痛い」
よっぽど痛いのか玄関から動かない。
「分かった!! 中に入れ!」
昨日母さん達が片付けてくれたおかげでソファーが空いていた。
「とりあえず、落ち着くまで横になってろ。今羅々ちゃんの家に連絡するから、番号教えて!」
紙とペンを彼女の前に差し出した。
(クソ、これじゃ遅刻だ!! 一香にも連絡しなきゃ)
自分のスマホを手に取った。
何度呼び出しても出ない。
「羅々ちゃん、連絡先書いてくれた?」
覗いてみると何も書かれていない白い紙がそのまま置いてあった。
「おい、なんで書いてないんだよ!?」
見ると明らかに寝たフリをしている。
(はぁ……本当に参った……)
時計の針はちょうど16時を指していた。
(一香……、ごめん……)
なんとか連絡をとりたい……
電源でも切っているんだろうか……?
◇◆
(高倉くん……何かあったのかな……)
約束の時間になってもなかなか現れない。
(もうちょっと待ってみようかな)
駅では待ち合わせをしているカップルが笑顔で次から次へと入れ替わっていく。
16時半になってさすがに不安になってきた。
連絡しようと思ってスマホを探したが見つからない。
(あれ? 映画館に置いてきちゃったかな……)
学校も休んじゃったし一人でいると悶々と羅々ちゃんの事を考えてしまう。
そんな時間に耐えられなくて、気晴らしに少し早く家を出て今日は映画を見てからここに来た。
探しに行きたいけど……この場を離れてその間に高倉くんが来ちゃったらどうしよう……
私は結局身動き取れずにひたすら高倉くんの到着を待っていた。
(もう17時半……美術館閉まっちゃう……)
もらったチケットを見つめながらなんだか悲しくて、不安で泣けてきた。
「あれ? 一香ちゃん?」
突然肩を叩かれて振り返った。
「……桃ちゃん!」
私は急に堪えていた涙が一気に溢れて桃ちゃんに抱きついた。
「相葉さん?!」
隣で男の人の声がする……と思ったら城田くんだった。
「……なんで二人がここに……」
私は訳がわからず交互に二人の顔を見遣る。
「実は私たちあれから仲良くなって……、今日城田くんがデートに誘ってくれたんだ」
桃ちゃんが頬を染めながら城田くんに視線を送る。
「そうなんだ。一香ちゃんの事桃ちゃんに相談してるうちに……な」
城田くんはそう言って包み込むように桃ちゃんを見つめていた。
「……そっか、ごめんね、デートの邪魔しちゃって」
私は慌てて桃ちゃんから離れた。
「ねぇ、今日高倉くん、一香ちゃんと逢うってニコニコしながら言ってたのにまだ逢えてないの?」
明らかに様子がおかしかった私を桃ちゃんは心配そうに覗き込んだ。
「実は……4時に待ち合わせてたのにまだ来ないんだ。スマホも映画館に置き忘れてきちゃったみたいで……はぁ」
あぁ情けない。
なんでこんなに私って馬鹿なんだろう!!
「えぇ?! もう一時間半も経ってるじゃん! 城田くん、高倉くんの連絡先知ってる?」
桃ちゃんは慌てて城田くんに聞いてくれた。
「いや、分かんねーよ。何気にアイツの連絡先知ってる奴って少ないと思うぜ?」
あんまり友達と連絡取るタイプじゃないもんなぁ。
もうだめだ……もう半分諦めかけていた。
「そうだ! 一香ちゃん高倉くんとおんなじアパートに住んでんだよね?」
桃ちゃんが思い出したようにぱぁっと顔を輝かせた。
「今から行ってくるよ、高倉くんの所!! ね、城田くん!」
「あぁ、って言っても、もう6時になるぞ?」
18時を告げる駅のロータリーに設置された鐘が鳴りだした。
「桃ちゃん。約束してた美術館、18時までなんだ。私映画館に寄ってスマホ探したらもう帰るよ」
これ以上待っても……来ない気がした。
もしかしたら……羅々ちゃんにあの写真のことで脅されてるのかもしれない。
桃ちゃんと城田くんに別れを告げて、私はとぼとぼと映画館へ向かって歩きだした。
イルミネーションが綺麗な街並みは、今の私にはちょっとキツかった。
みんな幸せそうな顔をして、恋人達は寄り添っている。
私と高倉くんも……
一瞬でも夢見てしまった自分が本当に惨めだった。
いつも以上に冷たく感じる空気は、呼吸をするたびに微かな痛みを感じさせる。
「はぁ、やっと着いた……」
大きなクリスマスツリーの電飾がキラキラと光る映画館の入り口に、どこか見覚えのある後ろ姿が見えた。
(……高倉くん……? どうしてここに……??)
夢……?!
目が覚めたらいなくなったりしないよね……?
「……高倉くん……、高倉くんっ!!」
白い息とともに、ありったけの大きな声で彼の名前を呼んだ。




