46.僕と君の新しい道
「一香……!?」
高倉くんが一生懸命私を探してくれている。
ようやく互いが視界に入った後、私たちはゆっくり歩み寄った。
あと一歩で触れるくらいの距離まで近づいて、お互いの顔を確認するように見つめ合った。
「高倉くん……、もう……来ないと思ったよぉ……」
高校生にもなって声を出して泣いてる自分がいる。
彼の顔を見たら我慢できなかった……
「ごめんっ、ごめんな……」
そう言って高倉くんは大切なものを扱うように優しく私を引き寄せて抱きしめてくれた。
静かに……静かに時が流れていく。
もう、この温かさを感じる事なく、私たちは終わってしまうかと思っていた。
「……どうしてここが分かったの?」
なかなか涙が止められない。
「来る途中、清水さんと城田に会ったんだ。一香、ずっと待ってたけど、スマホ探しに映画館に戻ったって聞いて……慌てて直でこっちに来た」
髪を撫でてくれる大きな手が私の心も優しく包み込む。
「色々あったんだ……、ここに辿り着くまで。本当に待たせてごめんな」
両手を私の頬に当て、親指でそっと涙を拭ってくれる。
私は一所懸命首を横に振った。
「高倉くんに何かあったんじゃ無いかって……朝も羅々ちゃんとの事があったし、もう来てくれないんじゃ無いかって本気で思ったの。でも……逢えて本当に良かった」
ズルズルと鼻を啜る私を笑顔で見つめてくれる。
「こんなに冷たくなって……待っててくれてありがとな」
信じて待ってて良かった……
そっと差し出された高倉くんの手をとり、私たちは映画館の中へ入っていった。
◇◆
あんなにしっかり下見までして今日という日を計画していたのに、羅々ちゃんのおかげでめちゃめちゃになってしまった。
過ぎてしまった事を今更どうこう言ったところで時間は巻き戻せないが……
このままじゃ一香に申し訳なさすぎる。
羅々ちゃんは結局あのまま仮病を決め込み、ソファーの上で石のように動かなかった。
どうにもならなくて、俺は一か八かで、この前連絡先を交換したばかりの佐久間さんに助けを求めて電話をしてみた。
事情を話したらすぐに駆けつけてくれて、俺の代わりに羅々ちゃんに付いててくれる事になった。
羅々ちゃんに関してはもう正直二度と関わりたくないと思っている。
何せ最悪な事に、彼女の鞄から美術館のチケットと、前に一香が忘れていったイルカのチャームの付いたボールペンがチラッと見えた時はさすがに俺も本気で怒ってしまった。
しかも羅々ちゃん曰く、どうやら俺の卒アルを見た時点で恋心は冷めていたらしい。
それだけでも十分失礼だが(まぁ、もはやどうでもいいが)、一香に負けたことが悔しくて、ごねたはいいけど俺が頑なに羅々ちゃんを受け入れないものだから引くタイミングを逸してしまったそうだ。
その上佐久間さんが到着すると、たまたま一緒にいた男性の友人に一気に惹かれてしまったらしく、帰り際俺の顔を見ることもなくその男を追って外へ出ていった。
はぁ……
まぁ、いいんだ。
今こうして一香と笑って一緒にいられるんだから。
とんだ茶番劇が前半猛威を奮っていたが、ここからは絶対に挽回してやる!
一香にどんな時だって、俺を信じて笑顔でいてもらえるように……
「ねぇ、ここから見えるイルミネーション、すっごい綺麗だね!」
映画館の屋上から見える街の景色は、たくさんの宝石を散りばめたような美しさだった。
ゆっくり眺められるようにベンチがいくつかあったが、ここはあまり知られていない穴場なのかもしれない。
俺たちの他に数組のカップルしかいなかった。
「一香、渡したいものがあるんだ」
そう言って彼女をベンチに座らせた。
コートの内ポケットに忍ばせていたプレゼントを彼女の前に差し出した。
「これ……いいの?」
一香はまた泣きそうな顔で俺を見つめている。
「開けてみて」
悴んだ手をはぁっと温めながらリボンを解いている姿を見ているだけで、俺は幸せだった。
細長いケースをパカリと開けると、屋上を照らしていた照明に反射して青くキラリと光った。
「素敵……!」
そっと手に取ったネックレスはあのお土産よりも遥かに美しい輝きを放つサファイアのネックレスだ。
「まだ今の俺じゃこの位しか買えないけど……」
一香の首にそっと手を回し着けた。
「初めて自分でバイトして買ったんだ。一香は自分の働いたお金でいつも手料理作ってくれただろ? 本当に凄いって、尊敬したよ。感謝の気持ち、少しでも返したかったんだ」
彼女はキラキラした瞳で嬉しそうにずっとネックレスを見つめている。
「それと……羅々ちゃんが持ってたネックレスは……」
一香がピクリと反応した。
やっぱり気にしてたんだな……
「遊園地で、あれ一香見てただろ? 凄く綺麗だったんだ。青く光るガラス玉と一香の笑顔が……。思わず手に取って……気がついたら買って帰ってた。ずっとあれを見るたびに一香の笑顔を思い出してさ。幸せな気持ちになったんだ。でも突然羅々ちゃんが来て勝手に持ってかれちまった。だから俺がプレゼントしたものじゃないんだよ」
なんか猛烈に恥ずかしい事言ってんな、俺。
クリスマスの特別なこの空気感に完全に呑み込まれちまってるのかもしれない。
一香の顔を見たら……耳まで真っ赤になっていた。
「そんなに褒められたら……私調子に乗っちゃうよ?」
クスクスと微笑んで俺を見つめる。
「俺だけ恥ずかしい事いうのは不公平だし……なぁ、一個聞いてもいい?」
あんなにニコニコしていたのに急に不安な顔をする。
コロコロと表情が変わる一香が可愛くて仕方がない。
「な、なに??」
「一香の部屋の俺の絵……、アレなんで中学校の時の俺なの??」
どうせ書くなら今の自分の方が良かったのに。
そう思ったけど、まず理由を聞きたかった。
「み、見たの?!」
彼女の顔が凍りついた。
「勝手に見たのは悪かったけど……」
そこはちゃんと反省してる。
「だって……大好きだったんだもん。初めて私に笑いかけてくれた時の表情……。私嬉しくて嬉しくて……。あれ書いてた時、高倉くん羅々ちゃんと仲良くて……大好きって気持ちの行き場がどこにもなくて……だから私の高倉くんへの想いがいっぱい詰まってるの!」
一香……
「あ、ごめんなさい……、でも高倉くんは嫌だったよね。私無神経だった。ホントにごめんなさい! あの……お願い、友達辞めないで!」
一香のこんな慌てた顔も大好きなんだ。
「……もう勘弁してくれ……。俺おかしくなりそうだよ。友達は……もう辞める」
あぁ、情けないけどもう声が震えてる。
「えっ……そんな……!」
「もう友達じゃない。俺の彼女になって欲しい」
あの時の俺を大好きって言ってくれる一香なら、泣いてる情けない自分も許してくれるだろうか……?
「今のって……」
俺より一香の方が先に涙が溢れそうだな……
「だから……一香が大好きって事だよ!!」
お互いの目から温かい涙が零れ落ちる前に思いっきり抱きしめ合った。
「高倉くん……これ夢かな……?」
俺の胸の中で一香が囁く。
そっと顔を上げ見つめた一香にゆっくりと唇を重ねた。
「夢なんかじゃないだろ……?」
遠くから聴こえてくるクリスマスソング心地よく耳を擽る。
片時も視線を逸らさない一香の瞳に吸い込まれるように俺はまた彼女の唇に想いを乗せた。
◇◆
一年前は一香とこんな風に時を過ごす日が来るなんて想像も出来なかった。
何でもない日曜日、俺はいつものように朝から一香の部屋に居座っている。
二人の座る席は初めて俺がここに来た日よりもグンと距離が近づいた。
同じ雑誌を二人で覗き込んでは次の日帰り温泉の場所を決めるのが最近の俺たちのブームだ。
この居心地の良い部屋で、きっと来年も再来年も過ごすんだろう。
「あの絵、いい加減しまえよ!」
必ず視界に入るところにあの時の中学時代の俺の絵が飾られている。
「いいじゃない。時々自分の事『僕』って言ってたあの時に戻ってくれないかなぁって、今でも思うんだから」
「嘘だろ?! あんないいとこなしの頃の俺の何がいいんだよ?!」
「陽ちゃんに言ってもどうせ分かってくれないから私だけの秘密!!」
一生交わる事なんてないと思ってたんだ。
大嫌いだった君と。
でも今こうして僕たちは手を繋いで新しい道を歩き始めてる。
これからも二人で一緒に見たことのない景色を見に行こう。
僕と君ならきっとどんな困難な道でも沢山の色を散りばめながら歩いていけるから……
完
今まで不定期更新の中読んでくださった方、本当にありがとうございました。
『なろう』を始めてから早くも一年経ちますが、もう少し何かメッセージを込められた作品を書きたいと思って始めた作品でした。
結果何がどのくらい読み手の方に伝えられたかは未知なるところですが、少しでも心に残していただける所があれば本当に嬉しいです。
何しろ経験と知識不足で読みづらいところも沢山あったかと思いますが、最後までお付き合いいただけた方、感想を書いてくださった方、ブクマ、評価してくださった方、本当にありがとうございました。どれだけ支えになったか知れません。感謝の気持ちでいっぱいです。
次作は全く考えておりませんが、またいつかお逢いできたら嬉しいです!




