43.激動な一日の始まりに……
「お帰りなさい、陽一」
いつもは誰もいない暗い部屋に電気がついていた。
玄関を開けると母さんが顔を出す。
「なんだよ、来るんなら連絡くらいしてくれよ」
昨日今日と俺は生まれて初めてのバイトをしてもうヘトヘトになっていた。
とは言ってもその日限りの日雇いだが。
昨日はクリスマスケーキ工場、今日は商店街の人気洋菓子屋でケーキを売った。
もう、甘いものは見たくもない。
「拓哉が学生証、陽一の部屋に置き忘れたって慌てててね。拓哉には部屋の鍵絶対渡すなってアンタ言ってたでしょ? だから私が責任もって取りに来たんだけど、ほんとに散らかってたわねー相変わらず。片付けるの大変だったわよ!」
助かるけど……今日はもう母さんに絡んでる元気がない。
頼むからもう帰ってくれ。
「でもこんなに遅くまで何やってたのよ? 全く一人暮らししてるからって10時過ぎまで遊び歩いてたらダメよ!」
父さんにはこっそり社会勉強すると許可をもらっていたが、母さんにはバイトをやってた理由を根掘り葉掘り聞かれるのが面倒で俺が働いていたことは全く知らない。
俺は荷物をドサリと床に置いて『あぁ』と、とりあえず返事だけした。
「せっかく今日可愛い子が来たのに〜! 陽一にあんなに可愛い彼女がいたなんてねぇ、母さんびっくりよ!」
その言葉で疲れ切っていた頭が急に覚めた。
「一香の事、部屋に上げたのか??」
ヤバイだろ!
とんでもなく散らかってたのに!!
「あら? 一香ちゃんって名前じゃなかったわよ? 確か……水谷さんって子。物凄い美人さんね〜!」
一気に血の気が引いた。
俺のいない間に羅々ちゃんをこの家に上げたのか?!
「なんで勝手なことすんだよ!? まず彼女じゃねぇし!!」
母さんは驚いた顔で『でも陽一の彼女だって言ってたわよ?』と訳が分からないような顔で慌てている。
「はぁ……。で、何しに来たんだよ、あの子」
ただ遊びに来ただけ……?
あぁ、嫌な予感しかしない。
「昔の陽一の事知りたいって言うから卒業アルバム見せてあげたのよ! 大変身したじゃない? あんた自分の彼女に何にも話してなかったのね」
「だから彼女じゃねぇって言ってんだろ!!」
つい声を荒げてしまった。
ずっと隠し続けて来た事を、一番言っちゃいけないやつに知られてしまった……
でも逆にあんな巨漢だった俺を軽蔑して離れてくれるかもしれないか。
「あ、そうか、一香ちゃんって子が彼女なのね? だから拓哉が水谷さんのこと最初『一香ちゃん』て間違えて呼んでたのかぁ」
母さんは一切動じず掌に拳を落として一人納得している。
「拓兄? どう言う事だよ? まさか拓兄もここに来てたのか??」
「そうよ? だってこんな散らかってる部屋じゃ、母さん一人じゃ見つけられないもの。忘れた本人がいた方が早いでしょ」
「はぁ……」
そう言う問題じゃねーんだよっ!!
そういや拓兄が泊まりに来た時、俺が寝言で一香の名前叫んでたのまだ覚えてたのか……
女の子の名前は一度聞いたら忘れないって言ってたけど、ほんとに恐ろしい奴だな……
で、自分が彼女だって言ってる羅々ちゃんの事を一香と間違えたってわけだ。
羅々ちゃんだってこの前チラッと会ってると思ったが……
もうそんな事考えたって時間は戻らない。
くそっ!!
もう、頭の整理が追いつかない。
もっと強く家に来る前には連絡しろって言っとくべきだったが、……後悔先に立たずだな。
「頼む、今日はもう帰ってくれ」
そう口にするのが精一杯だった。
俺が一香にちゃんと気持ちを伝えられるまでは……
頼む、何事も起こらないでくれ……!!
◇◆
24日当日。
一枚壁を隔てた隣にいるはずの一香に……ついに気持ちを伝える日が来た。
駅前で16時に待ち合わせをしているから学校が終わって着替えたら、すぐに駅前に向かう予定だ。
美術館が18時で閉館してしまうのであまり時間がない。
そのあとはゆっくり外で食事をして……イルミネーションを見に行く予定でいる。
下見だってバッチリ済ませた。
計画にぬかりは無い。
温泉以来、俺は今日の事しか正直頭になかった。
一香の喜ぶ顔が見たくて……
彼女に自分の今出せる想いを全て捧げたくて、自分で稼いだ金でプレゼントも買った。
羅々ちゃんの事も、他の女の子の事も……
ちゃんと一香と付き合う形をとってからの方が、何を言われても言い返す説得力があると思ってじっと堪えていた。
昨日の朝の俺の反応に一香どう思ったんだろうか?
彼女の不安そうな顔を一刻も早く払拭してやりたい。
これで一香の気持ちが離れてしまったら……
いつになく相当焦っている自分に戸惑っている。
逢いたい。
早く、彼女に……
少し早かったが今日も彼女と一緒に登校しようと玄関のドアに手をかけた。
勢い良くドアを開けた途端、目の前に羅々ちゃんが立ちはだかっていた。
「一緒に学校行こう!」
そう言って俺に怖いくらいの満面の笑みを向けていた……




