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未定  作者: 苺タルト
7/7

第7話


…眩しい…ここは…どこ?

 向こうには原っぱ…懐かしい匂い。

 

 「…すねぇ!」

 

 誰かの声がする。

 とても懐かしい声は…誰?

 声のする方に走っても走ってもそこに行けない。


 楽しい光景。

 ここは原っぱだ。

 誰かと追いかけっこしている。

 あっ、転んだ。


 「明日姉、大丈夫?」


 誰かが手を差し延べている。

 誰かさんの顔は?

 誰かさんの手は大きくて温かい。

 記憶にある感触…。

 見上げると逆光でよく見えない誰かが微笑んでいる。

 誰?

 誰かの頭で差し込む光が消えると、啓輔がいた。


 「明日姉!」

 

 

 

3年後


明日香は目を覚ますと涙が溢れていた。

啓輔と再会するまで、よく見ていた夢。

ずっと誰だかわかんなかった。

遠くの君が啓輔とわかったとき、啓輔は自分にとって特別な存在だと思った。

その夢を、啓輔と離れてからほぼ毎日見ている。

アフリカにいても、ケニアにいても、毎晩・・・。

2年の任期を終えた明日香は、地元には戻らず京都で暮らしていた。

初めは転々としていたため親にすら居場所を教えていなかった。

ようやく落ち着いたのが京都だった。

週に1回は電話を入れてる。

嬉しそうに話す母の話しは2時間も3時間もかかる。

大地は結婚して子供が生まれて実家を二世帯に建て直したそうだ。

今度お祝いを贈ってやらなくては。

母は決して自分の居場所や啓輔のことには触れなかった。

啓輔がTVにあまり映ってないことには気づいていた。


幸せにはなれなかったのかな・・・


明日香は涙を拭いて、コーヒーをセットして顔を洗いに洗面所に行った。

4.5畳一間と台所・トイレにお風呂がついた部屋に一人暮らし。

清水の御茶屋で働いている。

今日も朝から仕事。

明日香お気に入りのブレンドが落ち終わる頃、朝食も出来上がっている。

トーストにヨーグルト。

いい生活はできない。

アフリカやケニアは子供がお金を稼いで家族を食べさせていく。

あるフィリピンの町では、ゴミを集めて生計を立てている。

目の当たりにしてきた明日香にとって、今の生活でも贅沢でありがたいと思った。

これも成長だろうか。


今日もいいお天気。

修学旅行生が多いけど、清水はなかなかいいとこだった。


「ありがとうございましたぁ!」


明日香はお茶を飲んでいた茶碗を下げに表にでた。

見上げると、雲ひとつない晴天だった。


啓輔・・・元気にしてる?

今日はこんなにいいお天気だよ。


ホッとするのもつかの間、茶碗とお皿をまとめてお店に入ろうとした。


「おねぇさん、こっち向いて。」

「え?」


店の前の小道でカメラを構えている人がいた。


「やっとみつけた。」


聞いたことある声・・・。

カメラを提げ、立ち上がったその人は、


「啓輔・・・・」


啓輔だった。

ジーパンにTシャツ。

キャップをかぶって、

首にカメラをぶら下げている。


「明日姉!」



店内に入った啓輔は、お団子とお茶のセットを注文した。


「お待たせいたしました。」


明日香は啓輔の前にお団子とお茶をだした。


「いいとこだね。」

「そうでしょ。」

「仕事何時まで?待ってていい?」

「お店閉まるの17時なの。」

「いいよ、写真撮りながら時間潰すから。」

「わかった。」


もう会うことないと思ってた啓輔が、目の前にいる。

おいしそうに食べるお団子も、笑ったときの頬の上のシワも・・・

もう、見れないと思ってた・・・・

声も聞けないと思ってた・・・



17時に店じまいをして外に出ると、啓輔が立って待っていた。


「お待たせ。」

「行こうか。」


3年ぶりに二人で歩く。

なんだか照れくさくて、シーンとしてしまう。


「疲れた?」

「ううん。店主のおばちゃんいい人でね、お客さんがいないときは休憩させてくれるんだ。お団子もほら!あまったのくれるの。」


明日香はあまったお団子の包みを見せた。


「お団子おいしかった。心がこもってるんだ、あのお団子には。」

「ひとつひとつ丁寧に作ってる。あの年で一人で仕込みやってんだよ。」

「たいしたもんだ。」


明日香は、夜になるとお店や電灯できらきらする川へ啓輔を連れてった。

啓輔は何枚も写真に収めていた。

明日香は川をボーっと見とれながら、今日の疲れを癒すのが日課だった。


パシャッ・・パシャッ・・


啓輔を見ると、カメラのレンズは明日香の方に向いていた。


「ヤダ、撮んないでよ。」

「綺麗だよ。」


キザだけど、ちょっと胸がキュンとなってしまった。


「どうやって探したの?」

「バイクで日本縦断。」

「日本中探したの?」

「うん。」


明日香は何も言えなかった。


「元気だった?」

「うん。」

「ここはどのくらい?」

「1年はいない。」

「そっか・・・」


沈黙があった。


「明日姉のそばにいつも一緒にいてくれる人はいる?守ってくれる恋人とか・・・旦那さんとか・・・」


明日香は首を横に振った。


「好きな人は?」

「好きな人はいるよ。」

「そうだよな・・・どんな人?」

「自分に正直で、真っ直ぐな人。」

「なら安心だ。」

「誰にも居場所教えてないのに、ここまで日本中回って会いにきてくれた人なの。」


明日香は啓輔を見た。


「それって・・・オレ?」


明日香は黙って頷いた。

啓輔はゆっくり明日香を抱きしめた。


「会いたかった。何度も忘れようとしたけど、できなかった。日本に帰ってるって聞いて探すことにしたんだ。」



明日香が旅立った後、きららとの縁談も破談にし、事務所も辞めた。

新しい事務所に入ったが、きららとの破談が尾を引いて、なかなか仕事がもらえず引退してしまった。

母ゆかりも、啓輔の明日香への想い入れに観念し啓輔を自由にした。

明日香が日本に戻っていると明日香の母から聞いて、貯金と、バイクとカメラを持って、日本中を明日香探しの旅をしていた。


「俺・・・自分のことばっかで。明日香も俳優も両方ほしかったんだ。どこかでかあさん裏切れない自分もいて。そしたら全部失った。失ったら・・・・何よりも明日香を失ったことが一番ツラいことに気づいた。」

「あたし、逃げたの。啓輔からも自分からも。あたしがいなきゃ、おばちゃんも、啓輔も困惑しないで済むって。良い方に行くって、言い聞かせて。日本に帰ってきて、ブラウン管に啓輔の姿がなかったとき、あぁ駄目だったんだって思った。結局誰も幸せになれなかったんだって・・・・」

「これから幸せになれるよ。」

「啓輔・・・」

「一緒にいよう。」


明日香は首を横に振った。


「あたし・・・そんな資格ないよ。」

「明日香?」

「あたし、サイテー人間なんだ。啓輔裏切るようなことしたの。寂しさを埋めようとして・・・」


啓輔は明日香の口をふさいだ。


「もう、いいんだ。」

「啓輔・・・?」

「俺がいけないんだから。」


知ってる?



あの日、啓輔は空港から戻って、明日香の家に行った。

明日香の母に事情を聞きたくて。

その帰り、大地に引止められ突然謝られた。


「すまん!俺、明日香のグラついてる気持ちに付け込んで、明日香を抱いたんだ。明日香は責任感じて俺らから離れる決心したんだと思う・・・だからもう、戻ってこない気がするって思ったんだ。すまなかった。殴ってくれてもいい。だから、明日香を嫌いにならないでくれ。」


啓輔は大地の胸ぐらを掴んだ。

でも、殴れなかった。

大地が明日香を想ってることも、こうなったのも自分のせいだということもわかっていたから。


「俺こそ・・・すみませんでした。俺さえいなければ、明日香は大地さんと幸せになれたんだ。俺は、自分のことしか考えてなかった。明日香も仕事も両方ほしかった。」

「これからだよ。」

「え?」

「これから明日香を幸せにしてやればいいんだよ。掴まえたら今度は絶対離すなよ。」

「大地さん・・・」

「明日香をよろしくな。」

「はい!」




「もういいんだ・・・明日香がいてくれれば。」

「あたし・・・あっちには戻らないよ。」

「いいよ。俺がこっちに来る。」

「本気?」

「うん。だから、もうどこにも行くなよ。」

「うん。」


もう、僕達に境界線はない・・・


啓輔は、カバンから指輪を出した。


「結婚・・・しない?」


明日香は少し微笑んだ。


「いいよ。」



数ヵ月後。


「オラーイ、オラーイ」


啓輔の荷物を積んだトラックが、二人の新居に到着した。


「啓輔・・・荷物多すぎ。」

「そうか?お手伝いさん呼んでるんだ。」

「こんなとこまで?」

「喜んで来たぞ。」


遅れてワゴン車が入ってきた。

運転席から出てきたのは、


「よぉ!明日香。」


大地だった。


「大地っ!」

「おぅ!」


大地は両手を広げて駆け出す明日香を抱きとめた。


「元気してた?」

「お前こそ。痩せたんじゃないのか?」

「結婚したって。」

「そう!お前は啓輔くんに取られたからよ。代わりをな。」

「ひどっ。いいつけてやるぞ。」

「それはちょっと・・・」

「あのぉ・・・感動の再会はこの辺で、そろそろ離れてもらえませんか?」


抱き合ったままの明日香と大地は慌てて離れた。


明日香はこうしてまた大地とバカやれるとは思ってもいなかった。

とんだ啓輔のプレゼントだった。


啓輔は、明日香の喜ぶ顔が見たかった。

この二人は無二の親友なんだ。

恋愛感情を超えた、愛情とキズナがある。

大地は明日香の一番の理解者であり応援団長である。

だから、この二人を再会させてやりたかった。



「みんなぁ、引越しそばだよぉ〜!」

「いまどきあんの?」

「久しぶりに聞いた、引越しそば!」







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