64.混乱と困惑
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ネフィリスシアに案内されるがままにフミヤが到着したのは王都の外れ、夢破れた王都の元民が集まるスラム街を一望できる場所に位置する古い屋敷だった。ウエノ家の初代勇者がまだ存命だったほどの大昔に問題が生じて、その責任のあまりに自殺した貴族たちがいた場所であり幽霊屋敷として近づく者がいなかった場所である。
「死ね」
屋敷の入り口に現れた亡霊に生前のトラウマと思われる暴言を吐き、実体化して襲い掛かって来たところを焼き殺すフミヤ。半日もすれば復活する亡霊だが、一時避難所としては問題ない。
「……フミヤ、覚えて……?」
「いや、思い出した……という方が正しいかと」
「そう……」
落胆するネフィリスシアだが、時間の問題であるという点に対して希望を抱く。しかし、そうも言っていられないのが現状だ。
(……ただ、どうしたものか。昔の記憶を取り戻しつつある今の俺だとこの状況が楽しいんだが……いや、でも今の俺ってそんなキャラじゃないし……)
英雄願望の大きかった過去の自分のことを思い出し、現状をピンチの勇者と結びつけて何となく笑ってしまうフミヤ。ただ、その記憶がない頃に築き上げて来た自分はそうじゃないと否定する。
(どうしたものか……いや、まずは【魔通話】でココに連絡とっておかないと……)
重要参考人として、最悪の場合問答無用で王国軍が動きかねないので連絡を取ってみるフミヤ。すると思いの他簡単に相手が通話状態になる。
『もしもーし、フミ兄ぃ? なんか大変なことになってるねー』
「ココ、そっちは大丈夫か? 何が起きてるのか分からないが多分、魔族に嵌められた。お前も軍に追われるだろうから領土に逃げろ」
『うんうん。分かってる範囲でいいから詳しい状況お願い』
ココの落ち着いた受け答えと言葉でフミヤはある程度ココの状況を計り、ある程度の範囲内にこの会話を聞いている者がいるという仮説を基に会話を試みた。
「先代のラッツケンプ様から魔族に関する協議を持ち掛けられ、向かった先に角付きの魔族がいた。一体は倒したが……二本角がある相手がいて、そちらを追っていたところ相手は呆気なく死んだ。ただ、その際に幻覚をかけていたらしい。周囲からベイリー卿を刺したという声がかけられ、その嫌疑で逃走中だ」
『んー……と? フミ兄ぃは魔族を倒したつもりが、みんな人間を刺したって言ってるの? で、それが幻術って? 幻術である根拠は?』
ココの発言にフミヤは発言を止めた。この口振り、相手は落ち着いた口調でこちらを落ち着かせるために発言しているわけではない。
「……王国検査技師団に」
『残念でした、嘘つきお兄ちゃん。検査結果は本人です。持ち物やベイリー卿の屋敷の状態から総合的に勘案しても本人であることが妥当であると認識しており、貴方の申告が虚偽であると判断します。
よって、ウエノ家代表として貴方を処罰すべく捕えに参ります。人質に手を出すことは許しませんよ。皆さん、相手の魔力は王都外れのスラム街周辺にあります。5人1組で捜索を、間違えても功を焦って突撃することがないように! 相手は若くして神童と呼ばれた相手です』
通話は強制的に終了させられた。フミヤは相手の発言の意図を噛み砕く。
(幻術じゃなくて、王都に紛れ込んだ魔族自体がベイリー卿だったか……とんだ大物だ。これはマズった。ウエノ家としては騒動が終わるまで俺を弁護する気はないが、捕えるらしいからすぐに殺すことはない。ネフィは俺の仲間ではなく人質として扱うからスラム街周辺で兵が時間潰してる間に置いて逃げろと)
機転の利く妹で助かると思いつつ相手の状況も少し気になるフミヤ。あまりペラペラ喋って立場を悪くしなければいいのだがと思うが、お前が言うな状態であることに気付いて苦笑する。
「終わったの?」
「ある意味な……ただ、俺が問題なだけでそっちは大丈夫だ。ネフィは俺の人質扱いになってるから」
フミヤの発言でネフィリスシアは多くのところを覚ったようだ。無表情ながら気に入らないという雰囲気を漂わせて冷たく告げる。
「そう……じゃあ人質として有効活用してくれるかしら?」
「有効活用……なら、捜査の目を攪乱してくれないか? 王国軍が動くとなって焦り、犯人はここに人質を残し、慌てて逃げだした。まだ近くに潜伏してるはずだって」
フミヤの発言はネフィリスシアにここに残って敵の誘導を頼むということだが、要するに危ないことに巻き込むわけにはいかないからここで降りてくれという物だ。当然、ネフィリスシアには受け入れ難い。
「最後まで……」
「ここが分水嶺なんだ。頼む……それに」
「それに?」
「誰だ!?」
幽霊屋敷の一室に急にネフィリスシアの声ではない声が響く。フミヤが異常に気付いて即座にそちらを振り向くとそこにいたのは……彼にとって予想だにしない人物だった。
「誰だ、か。この国で私のことを知らぬ者がいるとは思っておらなんだ……自惚れだったか?」
「へっ? お、王太子殿下……?」
「……ヘンゼル様? 何故ここに……?」
現れたのは王国第一王子、王位継承者であるヘンゼルだった。その彼が、護衛も何もつけずに目下テロリスト扱いを受けているフミヤの前に現れたのだ。驚きのあまり硬直しても仕方がない。
「ネフィ、久しいな。そしてフミヤはもっと久しいなぁ! えぇ? 最近、お盛んなそうだな?」
「いえ、そんな……」
ヘンゼルは笑顔で二人の下に歩み寄る。彼の目的が何か、また彼が本人であるかどうか分からないフミヤはどう対応したらよいのか分からずに立ったままだ。こんな無礼など王族以外にはヘンゼルの友人たるフーシェくらいしか行わない。
(くっ……本人なら王族に伝わる魔符の効果の1つで魔力が消されてるんだろうが……王族じゃない可能性もある。ただ、仮に本人だった場合、信じられないんで証拠をとか言ったら……消される…………後、魔力が外に漏れた瞬間、テロリストどころじゃなくなる……)
疑心暗鬼になるフミヤ。しかし、悩み自体は解決しそうだ。ヘンゼルはにこやかに笑うと懐から国民が一目見たらまず一言目に豪華と形容するであろう金の刺繍が施された護符を見せて手渡してきた。
「疑ってるみたいだから、ほら。一回外した」
「申し訳ございませんでした! あの、すぐにこれを……」
「んふふ、そなたはフーシェとは別方向で面白いな。まぁそんな戯け者でもなければ王族と公爵家で二股をかけたりはせぬか」
「いや、不幸な行き違いなんですよ……」
世間話を持ち掛けられているフミヤだが、次の一手をどうするかで頭をこれ以上ない程に稼働させている。ただ、王都までの移動における連日の疲れと先程までの頭痛、またそこから記憶が一気に戻るという条件ではフミヤの思考は正常にはなれない。
そんな彼にヘンゼルは告げた。
「それではそろそろ本題に入ろうか。若き革命戦士たち、覚悟はいいかな?」
まるで世間話をするかのような表情で、王子は二人の返事を待たずに行動を開始する。




