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53.置いておく

「ネフィちゃん、大丈夫?」


 呪いを理由に退出し、別室に移ったネフィリスシアとココ。途中まではロッシュと共に行動していたが寝室までは踏み入らずに別れ、ココはネフィリスシアをベッドに安置する。そしてネフィが腰かけたまま項垂れるとココは気遣うよう声をかけるがネフィリスシアは俯いたまま力なく首を横に振った。


(……これは呪いって言うより……精神的なやつかなぁ……全く、フミ兄ぃには困ったものだよあのヘタレ……)


 初めて見るネフィリスシアの弱々しい姿。ココはどうするか思案しつつベッドに腰掛けているネフィリスシアを見下ろした。


「……ねぇ」

「うん?」


 しばらく無言の時間が流れた後にネフィリスシアは口を開いた。ココはそれに応じるもネフィリスシアの方は俯いたままで表情が窺えない。ココはネフィリスシアがいったい何を言い出すのかと彼女が言葉を続けるのを待つ。しかし、ネフィリスシアは中々語り出そうとはしなかった。


(難しいかなぁ……やっぱり。結構長い片想いだったし……でも切り替えてもらわないと。このままだと健康に影響が出そうだし)


 ココがそう考えていた時だった。ネフィリスシアは急に顔を上げ、ココを驚かせる。


「こうなれば既成事実しかないと思うのだけど、どうかしら……?」

「え? まだ諦めて……」


 予想外の言葉にココが驚きの声を漏らすがネフィリスシアに睨まれて言葉尻を濁した。ココが黙ったところでネフィリスシアは続ける。


「理性に則る決まりでは少し分が悪いみたいだから相手を黙らせる感情的な部分で戦うしかないと思ったのだけど」

「うん、ちょっと待って? ネフィちゃんは一体どうしちゃったの? 大丈夫?」

「どうかした?」

「どうかしてるのはネフィちゃんの方だよ……」


 ネフィリスシアの思考回路にココは驚き、呆れた。曲がり何も血の繋がった兄を襲うという考えを妹に話すだろうか? しかも、後に各方面に対して大量の遺恨を残しそうな考えだ。


「……流石にそれは止めるからね?」

「では、対案はないかしら?」

「諦め……」

「それはもうどうにも手が付けられなくなってから考えるわ。今はどうにか手を付けようとしてるのだから置いておいて」


(……もう詰んでるんだってば……手が付けられないのは今なんだよ……)


 諦めるように見えないネフィリスシアを見てココは徒労感を覚えた。だが、過去に散々焚きつけたのはココの方なので強くその想いを否定することも出来ずに一先ず考えてみることにする。


「……まぁ、順当に考えるなら同じステージに立つためにメディシス公爵にお願いして過去の話を蒸し返すとか?」

「難しいわね……あの人は私を30過ぎの勇者と結ぶのに御執心だから……」


 露骨な嫌悪感を滲ませるネフィリスシア。しかしココからすればフミヤも30近い年齢であるためネフィリスシアがどうして嫌がるのか分からなかった。


(まぁ、あばたもえくぼとか坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとは言うけど……)


 ココ個人としては勇者ミヤケもそんなに悪くはないと思う。尤も、彼女の個人的な趣味からすればミヤケの周囲にいる彼のハーレムの方が美味しそうだが。

 ふと、ミヤケのハーレムとそれにまつわるあれこれを考えたココはネフィリスシアはどうであるかと考えた。兄と結ばれそうだからという理由で彼女をそういう目では見てこなかったが、そういう目で見るとムラッと来るものがある。


(世の中の穢れを知らなさそうな白い肌、綺麗なものだけを見て来たからこそ生まれた美しい顔……改めてみるとやっぱり美人だなぁ……さっきここまで運んできた時の軽さと言ったらもう……それでいてちゃんとあるものはある……)


 真剣に考えこんでいるネフィリスシア。今、急にココが彼女に襲い掛かればどんな顔をするのだろうかと考えると顔に力を入れなければ表情を保つことが難しい。


(流石にそこまで本能のままに生きる獣じゃないけどね……あぁ~……でもどうしよっかなぁ? ちょっと失恋になりそうだし……このまま慰めて流れでってことも……形はどうであれ兄ぃと一緒にいられるっていうことは可能になるし、win-winでは……?)


 一度浮かんできた考えは正当性を持とうと理屈を弄し始める。それを理性が押し留め、ココは煩悶し始める。そんなことになっているとは気づいていないネフィリスシアはココに告げた。


「ねぇ……どちらにせよ、時間が欲しいのだけど……ちょっとお願いできない……?」

「うん……ッ!」


 ベッドに腰掛けた状態から無意識で出来上がった上目遣い。これからのことで不安気に揺れる顔。ココはネフィリスシアの顔の脳内保存と彼女をどうしてやろうかという思考にリソースを取られて彼女の頼みをよく理解せずに即決で頷いてしまい己が失策を覚る。


(しまった……あぁ、でもこんなに一気に明るくなったネフィちゃんにダメとは言えない……)


 不覚を嘆く内心。だが、心のどこかでココは自己の野望がほくそ笑んでいるのを自覚しつつネフィリスシアと今後の話を開始するのだった。





 一方、ネフィリスシアとココと別れたロッシュの方は先程の部屋に戻る前に一度部屋の様子を魔力風で探ってどうやら話が終わっているらしいと判断して自室に移動していた。


「全く……フミヤめ、余計な手間をかけやがって……」


 ここのところ様々な難題が襲い掛かっているのに更に不得手な方面に対してまで手を出さなければならないという事態を引き起こした実弟に対して思わず悪態が漏れるロッシュ。


 そんな彼の下に更なる難題の素が扉をノックしてやって来る。


「ロッシュ様、アクィラでございまず」

「……どうぞ」


 入室して来たのは壮観な表情が似合う青年だった。彼はミヤモト・アクィラ。ウエノ家の初代より懐刀として暗躍し続けたミヤモト家の現当主であり、ロッシュの懐刀である。

 彼は入室すると臣下の礼を取った後にロッシュに頼まれていた報告書を手渡して下がって待機する。


「……やはり、こう来ていましたか」

「ギルド員のタチアナを呼びますか?」

「いや、必要ありませんね。思い当たる節は多量にありますので……」


 報告書の内容は魔族が人間領に侵攻しているという物だ。王国首脳部はこれを否定しており、ギルドに所属する者たちが仕事欲しさに流したフェイクニュースであるとして寧ろ弾圧しようとしている。


(……相当根深い場所に楔を打ち込んであるな……だが、誰もかれも疑っていたら連携が取れない。一番怪しいのは情報をコントロールできる郵政省だが……このタイミングでウエノを外に追い出し、軍部とウエノの連携を混乱させようとしているようにも見えるメディシスも怪しく見える……)


 王国の勢力図の中に疑わしい者が多数ある状態にロッシュは眉を顰める。何にせよ、情報が足りていない現状だ。


(郵政省……ベイリー卿のグループは保守層の集まりということで己が失策を認められないという可能性もある。メディシスのグループが勇者の敗北を重大なものではないと操作して情報を絞っている噂もある。軍部もウチが中央から離れてすぐに接触して来たと考えれば怪しい面もあるな……)


 疑心暗鬼に陥るロッシュ。そんな折に彼の【魔通話】が振動を始め、着信を伝える。ロッシュはアクィラに断って通話を開始した。


「ロッシュです。どちら様で?」

『ココだよー……で、早速だけど今いい?』

「……手短な用件であれば」


 挨拶も何もかもを省略して用件だけ話す兄妹。ココから告げられたのはメディシスご令嬢……つまり、ネフィリスシアの呪いの解明のために滞在期間を延ばすことは可能かどうかというものだった。


(……怪しい。が、逆に言えばチャンスでもある。仮にスパイであるとすればそれなりの情報を持っているはずであると考えるのが妥当。何か怪しいところがあれば……)


 短い時間でそう考えたロッシュはそんな思考をしていたと感じさせないスムーズな流れで即時その申し出を許可し、通話を終了した。


「……アクィラ、忙しくなりますよ」

「畏まりました」


 短く懐刀にそう告げるウエノ家当主。彼らの戦いもまた始まったばかりだった。



 

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