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39.共同戦

「【暴風弾】!」

「【大水連弾】!」

「【百家・伍】、【百家・拾壱】、【百家・伍拾漆】」


 ロッシュが起こした大風があまりの密度に物理的な衝撃となって、フーシェが繰り出す打撃の雨が絶え間なく流れ続く大水のようになって、フェリルに逃げ場を与えずにまさに暴風雨の如く襲い掛かる。


 ―――それをフェリルは笑いながら炎の翼で、帯電して宙を舞う羽で受け、消し飛ばし、更に追撃まで行ってそれを何とか防ぐ彼らに今のは単なる目隠しだと肉体言語で伝える。


「ぐっ……」


 フェリルが強化した足から放たれる不可避の斬撃がロッシュを襲い、その直後にその攻撃の勢いを借りてそのまま別方向にいたフーシェに致命傷を与えに向かうフェリル。こちらも避け切ることは出来ない……


 がしかし、先に攻撃を受けていたロッシュが空気の大砲をフーシェに向けて放つことでフーシェは辛うじてフェリルの攻撃を受けることに成功する。結果として、フーシェはロッシュとフェリルから攻撃を貰うことになるが、何とか回復可能な程度のダメージで済ませ、戦線に留まることに成功した。


「ほぉー、今のを何とか戦闘継続可能なダメージで抑えるとは……いいコンビネーションじゃのぉ? あの小僧の時とは大違いじゃわい」

「……俺たちの付き合いの方が長いからな」

「と、当然だろ……? ぐっ……「おっと崩れた。【百家・漆拾弐】」がぁあっ!」


 先程の攻撃でこの場を制圧して奥で回復しているフミヤとココを蹂躙しようと思っていたフェリルが二人のしぶとさに感嘆し、その直後に痛みで僅かに緩んだと見えるフーシェを叩きのめした。


「【大斬風刃】!」


 しかし、それすらも彼ら二人の術中である。潰されたフーシェはフェリルの足をそのまま掴んでその場にとどまらせ、フェリルの動きが止まる前から何も言われずともこの事態を予期していたロッシュからの攻撃がフェリルを襲う。


 それでも、届かない。


「ほほ、我を害そうとして兄を傷つける気分はどうじゃ?」


 風の刃がフェリルを両断しようと直線最短で迫り来る中でフェリルは脚を掴んでいたフーシェを蹴り上げて盾にして笑う。対するフーシェは全身に力を入れて体勢を入れ替え、大車輪の要領でフェリルを軸として回り、連撃を入れた。


「っ……固ぇっ!」

「妾自慢の竜鱗じゃ。乙女の肌に直に触れたツケは払ってもらうぞ?」

「今更ッ!」


 熱が奪われるかのような感触を覚えたフーシェは思わず手を引っ込める。そして自身の魔力量が目に見えて減っていることを自覚した。


「……反則だろアイツ……」


 底が見え始めた自身の魔力量に対して相手の底はおろか殆どの力が未知である現状に抑えていた弱音が思わず零れるフーシェ。そして思わずこの場を打開する可能性のあるフミヤの方を見て……失策を覚った。


「む? そう言えば……そろそろ完治しそうな感じじゃの。その前に」

「フーシェ!」

「分かってる!」


 絶対に進ませない。その気迫でフェリルと対峙するが、目的を増やすことはやらなければならないことも増やすということだ。ただでさえフェリルに対して時間稼ぎを行うという現状で手一杯であった彼らはフミヤとココを守るという縛りも追加されることで限界を迎えた。


「【百家竜乱】」


 直後に繰り出される広範囲に放たれたフェリルの大技。二人は自分とフミヤ、それからココがいる方角を守ることは成し遂げた。しかしその防御の一瞬の隙を縫ってフェリルはフミヤの下へ到達する。


「来ないで!」

「ほほ。それは無理な相談じゃのぉ……」


 治療中のココがフミヤを抱き寄せて庇うようにフェリルを涙目で見上げる。それを嘲笑してフェリルは弾き飛ばそうとして……フェリルの腕が爆発した。


「あーあ。だから言ったのに」


 フェリルの腕の爆発は彼女の意思ではなかった。実行犯であるココは一瞬だけ訝し気に自身の腕を見て即座に何事もなかったかのように回復したフェリルを見て呆れたような顔をする。


「……なるほど。演技派じゃのぉ? 次は食わんぞ!」

「【土蔵釜】!」


 ココとフミヤを支えている大地の形が変動し、フェリルとの間に壁が出来る。しかし、連続した爆裂音と共にフェリルが迫って来た。


「うっそ……えぇ……?」


 フェリルとの間に仕込んである爆裂音。その正体はココが仕込んだ魔具によるものだ。威力はこの頑丈な【竜の眠る地】の岩盤を砕くということからお墨付きであるはずなのだが……


 音はすぐそこまで迫っており、敵の姿が見えた。


「見つけたぞ小娘……さぁ、次はどうするつもりじゃ!」

「た、助けておにーちゃん!」

「もう遅い」


 周囲は土で覆われ、逃げる場所はなくフェリルの表情は影になって分からない。ここの二人の兄はフェリルによって引き離され、助けには来れない。


 だが、3人目の兄が、ここにいる。


「【大紅雷電】!」

「ッガ、つゥッ……」


 未だダメージから立ち直ることが出来ていないかに見えたフミヤが突如目を覚ましたかと思うと胸の辺りから猛るように出た紅の雷がフェリルを焼いた。これは確かに効いたようで、フェリルは後方に跳び下がることで逃げるスペースを確保してそれを避ける。


「お兄ちゃん!」

「悪い、助かった……」


 飛び下がったフェリルが作り出した穴の奥で激しい衝突音が響いており二人の兄が戦っている音が聞こえてくる。土蔵の中にいる二人もそれに続くために勢いよく外に出た。


「フミヤ!」

「……ふぅ。これで何とか……」


 炎翼と電を身に纏い、戦意の炎を目に灯しているフミヤと大地より続く幾つもの土の触手を周囲に侍らせて余裕の笑みを浮かべているココの無事な姿を見て安堵する兄二人。その瞬間にフェリルが背中から生えた白翼でロッシュに攻撃を叩き込んだ。


「甘いわ!」

「ホントだよ! もう!」


 しかし、その奇襲はココの土の触手で防がれて減速し、ロッシュに達す頃には軽く避けられるような攻撃に落ちてしまった。状況に余裕が生まれたロッシュは一つ息をつく。


「悪いな」

「まったくもう……ちゃんと戦ってよね?」

「ハッハー! 任せとけ!」


 ココの呆れた声に応じたのはフーシェだ。勢いよくフェリルに飛び掛かると四肢を使っての猛撃を続けざまに繰り出して軽く捕まる。


「ほほ、何がしたかったのかの?」

「ん? 注意を惹きたかったのさ! って、俺ごと焼く気か⁉」


 絶体絶命の状況に陥ったフーシェに獰猛な笑みを見せるフェリルだったが、フーシェの発言に後方よりすさまじい熱量が迫っていることに気付き、舌打ちして反転し、フーシェを前に出した。


 ……が、凄まじき熱量の主である紅電は突如軌道を変えてフェリルの頭上から降り注ぐ。


「ガッ、カカ……」

「うわ……フーシェの右手が変な方向に曲がってる……」


 フェリルの怪力で腕を掴まれていたフーシェの右腕が丸太ほどの大きさから掴まれた部分だけが小枝のように細くなり、関節でもないのにぷらぷらしている様子を見てココが引いた。同時にフェリルがいた場所に土の槍を生むことで引き剥がすことには成功し、フーシェの右腕も直に治る。


「尊い犠牲だ。忘れるな」

「いやいや……」


 風の魔術で伝導率を捻じ曲げてフェリルに電撃がぶつかるように変えたロッシュの冷静な声に回復するとはいえ酷いなと苦笑するフミヤ。因みに、直撃はしていない雷撃だが、ココがフーシェを救出するまでの間にフェリルのついでにフーシェにもフミヤの雷は通電している。

 尤も、フーシェ自身も全身に純粋な水で膜を張ることにより表面だけに雷撃が流れるように努力し、ダメージを可能な限り軽減している。一応、ここまで先読みしての彼らの行動だ。


「ぐ、ぐ……主ら、鬼か……?」


 しかし、そんな内情など知らないフェリルは電撃でそれなりのダメージを負ってからそう問いかける。そのついでにフーシェも文句を言った。


「マジで。俺死ぬかと思ったんだけど?」

「……あんたは死なんだろ」

「ギリギリだった。ギリギリ」


 確実に余裕が生まれたからこそ出来る軽口の応酬。しかし、その時だった。フェリルが、急激に魔力を高めたかと思うと地面が鳴動し始めたのだ。


 これ以上があるのかと緊張感を高め、ウエノ家の面々は覚悟を決める……




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