第三部
アスラは戸惑っていた。目の前の美少年、クレインに黒ローブの男達に追われていると言うことをとっさに口走ってしまったのだから...
「え..っと、その...」
「君は...アスラは何者かに追われているのか?その、さっき言っていた黒ローブの男達に..」
アスラが曖昧な様子で何を言っていいのか考えているのが気になったのか、クレインはそう尋ねた。
「うん...あ、でも本当になんで追ってくるのかな?ちょっと不思議で...」
「なぜって、それは君が古代種だからだよ?彼らは昔から強い魔力を持つ古代種の力を求めていたんだ...その力を得る事によってより強力な魔力が手に入るからね。」
「強力な魔力...そういえば、何で私が古代種だってわかったの?」
アスラは不思議に思いそう言うと、クレインは目を丸くして彼女のむき出しになった右腕を指し示した。そこには肩から手首にかけて長い刺青が刻まれている...
「それを見ればすぐにわかるよ。古代種特有の習性である特殊な刺青...今はもう絶滅してしまったと聞いていたけど、生き残っていたなんて...」
古代種は生まれつき強い魔力を持ち、心で直接精霊等に呼びかけ力を借りる事ができるといわれている。そして、右腕の長い刺青はその刻む人を守る言霊...古代種独特な文字を刻む事によって生涯幸せになれるようにという願いが込められたものだ。
「アスラの両親は?」
「え...私の両親は...」
アスラはそういわれると、十年前の事を思い出し顔を曇らせた...母親はあの後殺されたのだろう。そして、幼いころに旅立ったままの父親もきっと...
「殺されたの...さっきの黒ローブの男達によって...」
「...ハーバルと名乗る男じゃなかったか?アスラの母親を殺した黒ローブの男は...」
「え?名乗っていなかったからわからないけど...その人が何か?」
「殺されたんだ...僕の母も...その黒ローブの男、ハーバルによってね。」
クレインは手をきつく握ると、怒りを押し殺した...
「母上は...ハーバルによって操られていた父上に殺されたんだ。今思えば...あの時から既にあの男は計画していたのかもしれない...」
アスラは、クレインのマリンブルーの優しげな瞳が一瞬、怒りに染まったのを見たような気がした。
「アスラは...セイントダイアルを知っているか?」
「それくらいは...確かすごく綺麗で活気がある大きな都だって聞いた。村のおじさんが行ったとき話してくれたの...」
「そう...前はそうだった...けど、今は全く違ってしまったんだ。今から二ヶ月くらい前...あの男がいきなり現れたんだ。」
クレインはゆっくりとそう語り始め、言葉を切った...そして、しばらくすると口を開いた。
「ハーバルは、城に滞在したいと言った...僕や母上は反対したんだ。けど、父上は様子を見てみると言ってあの男の滞在を許可した...そして母上は知ってしまったんだ。ハーバルが何者なのかを...何が目的なのかも...」
アスラは黙って続きを待った。何を話して言いか全くわからなかったのだ...
「ディータス...破壊と混沌を祈る闇の教団..いや、組織といった方が正しい...」
この世界には各国所々に神を祭る習性があった。例えば、豊穣の女神であるラティアや平和の神ダグダそんなところが有名だ。それぞれ豊穣や平和を祈るために祭ってあるのだが...闇や破壊、ましてや混沌などもってのほかである。
「ハーバルはじゃあ...私のお母さんを殺した本人なの?」
再び脳裏によぎったのは、黒ローブの男達に囲まれた時の事であった...一人、確か不気味で恐ろしい雰囲気の男がいたかもしれない。アスラは、その男を見てその時怖いと...はっきりとそう思ったのだった。