エピローグ 新たなる勇者となる者
「勝ったぞ!!万歳!!万歳!!」
私は勝った。
魔王を打ち倒したのだ。
向こうが本気だったかどうかわからないが、確かにあそこまで本気を出さなければいけない相手は初めてだった。
率直な感想を言えば、かなりのイケメンだった。
この街では、どうも勇者として尊敬されるのはいいけど、どこか住民たちとの壁を感じる。
「まだ油断はできません。また、魔王軍は攻めて来るかもしれません。次に備えて準備をしましょう」
私が住民たちに向かってそういうと、彼らは口々に「そうだな」とか「今度はぶっころしてやる」だとかを言っている。
まあ、いいけど、でもこれからどうすればいいのだろうか?
「ナギ、よくやった」
「ああ、お父様ですか」
騎士である父も、もちろんこの街の防衛作戦には中心となって参加していた。
私一人が、いくら強大な力を持っているとしても、あれだけの人数で押しつぶされればやられるだろう。
それに飛び道具を死角から撃たれたら普通に死んでしまう。
「しかし、戦いはここからだ。魔王に奪われた我が国の土地を取り返す。その遠征にも、お前にはついてきてもらう」
私が遠くの街に一人で魔王を倒しに行っている間にも、この国は魔王軍による侵攻を受けていたらしい。
だから、土地を取り返しに行くのだ。
「お言葉ですがお父様、そこまで戦い続ける必要はあるのでしょうか?」
すると、お父様は私をたしなめるように顔をしかめてから「我が国の大切な領土を奪われて、そのままでいいのか?領土には領民もいるんだ。魔王軍の下で無法に働かされていたりもするんだ。お前はそれを見捨てるというのか?」と言ってきた。
それは最もだが、正直な話をすれば、魔王に対する落胆もあるのだ。
もう少し、楽しめれば私だって攻める気になれたさ。
それに、あそこの領土だって我が国が別の国から無理やり奪い取った土地ではなかったのか?たとえ、そこの地の発展に寄与していたとしても、これでは言い分が通じないではないか。
「しかし、それではこちらに犠牲が出ますよ。守ったこの土地を、これからも守り続ける、という手段はないのでしょうか?」
「何を言っているんだ。魔王に領土を奪われているのだ。この国の威厳に関わることだ」
威厳なんて、魔王軍に連戦連敗していた時点で十分に失われているではないか。
「すでにあるものを守っていけばいいんじゃないんですか?」
「ナギ、お前は確かに強いけれどな、国同士のあれこれとか、平和に国を運営していくためにとか、そういうのはまだわかっていない」
「そんなことはないです。私だって、もう十分大人ですよ。それに、お父様と違って、遠い砂漠の街に行ったこともあるんです」
「そういうことではない。とりあえず、お前はこれから魔王から領地を取り戻すために戦ってこい」
酷い話だ。
結局、この国は私頼みじゃないか。私が戻ってこなければ、この街なんていとも簡単に魔王軍に植民地にされていたでしょうに。
まあ、わかる。他の街が魔王軍の配下になったせいで食料が圧倒的に足りなくなった。職を失くす人も沢山でた。
だからって、一ヶ月こっちは戦っていたんだから少しくらいは休ませてもらいたいものだ。
「お前は俺の言ったことをそのまま住民に言っていればいい。実際に力があるのはお前なんだ。そうすれば、この街も、そしてこの国も平和になる」
平和か、
平和なんてつまらないものだ。
私は、平和というものにはあまり魅力を感じないな。
「とりあえず、お前は今日から勇者と名乗れ」
勇者か、どういう意味なんだろうな?
私には、なんの馴染みもないけどな。
「勇者ですか、」
「お前は、英雄として向こう50年はこの国を引っ張っていってもらわないと困る」
「それは、私が強いからなんですか?」
私がそういうと、お父様は黙って頷いた。
今までも、帰ってきた私は父に状況の報告をしたあと、すべて父の言うことを聞いてやってきた。
英雄になれば、普通の人なら嬉しいのかもな。
しかし、私はあまり興味が無い。
「とりあえず、お前は次の戦いに向けて準備をしておけ。あんまり、住民どもと関わるな。イメージダウンになるようなことはするなよ」
そういって、父はどこかに行ってしまった。
街を見渡せば、戦に勝って嬉しそうな人たちが広場に集まっていた。そして、さっき終わったばかりだというのにがやがやと騒いでいた。
これが、平和っていうものなのか?
私が勇者になるのか、
もうちょっと、砂漠の街でさっきミロに勇者の話を聞いておくべきだったな。
まさか、私が勇者になるなんて思っていなかったもの。皆はいいのか?そんなに、土地を取り返したいか?
まあ、ないとかなり困るのは事実だけどな。
父は、何を望んでいるのだろうか。私に色々と指示を出し、そして今回の戦を勝利に導いた本当の意味での、功労者なのだ。
父は、昔から厳しかったが、私にはその厳しさを問題なく乗り越えられる才能があった。だから、あまり父には好かれていなかったと思う。
まあ、私の過去なんて誰も興味は無いだろう。それに、父が言っていた通り、私も所詮はつまらない人間だ。平和と同じように、一時にとてつもない輝きを見せるけれども、その輝きがずっと続いていくことはない。
あくまで、本当の私ならばな。
そこに、明かりを灯し続ける物語があるかぎり、私という名を失くした勇者が、輝き続ける。
だからまあ、
どうせ私は死ぬまで勇者なんだ。




