第63話 通り抜けできません
扉の先へと進んでいく。
火鳥には周囲を照らす明かりとなってもらっている。かなり明るくユラユラと照らしている。でも熱くない。
「デイビー、調子はどうだ?」
「問題ありません。タイム様、ありがとうございます」
「ふふっ。……よかった。ちゃんと機能して」
タイムさん? それはどういう意味かな。ま、機能しなくて困るのはデイビーだからいいけど。
どうやらデイビーには聞こえていなかったらしい。特に気にした様子はない。
そんなことよりこのボロボロの階段で鈴ちゃんが転ばないかヒヤヒヤしている。ナームコと手を繋いで降りているから問題は無いだろうけど。
そう考えるとデイビーだけ独り者か。さすがに奥さんを連れてくることは出来ないからな。我慢してもらおう。
階段を降りきり、小部屋に到着した。特に誰かが居るような気配は無い。床の扉に気を取られて何処かから狙われている……なんてことも無さそうだ。
なので前回同様……
「タイム先生、お願いします」
「せ、先生って……タイムは用心棒じゃないんだけど」
いずれ出てきそうではあるけど。
タイムが肩からピョンと扉に飛び乗り、腕を扉に潜り込ませた。するとまるで裏から鍵でも開けたのではと思うくらいあっけなく開いた。
「さすがです、先生!」
「いやーまぁ……ね、うん。えへへへへ」
まんざらでもないらしい。でも照れが残っているところが可愛い。ふふっ。
後はこの繰り返し。下に降りるほど古く、補修の跡も増えていく。
そうしていくと変化が現れた。
「うわぁ」
「階段が泥と瓦礫まみれね」
「表面が乾ききってないから、きっと足跡の主が掘ったんだよ」
「追跡者が付いてこられないようにか?」
「それって……」
「俺たちが追ってくることを察していた。もしくは気づいて埋めた……とかか」
ここに泥猪は居ない。上のときのように掘ってもらうことは出来そうにないか。
「掘るしかありません。ここまで来て引き返すなんてことは有り得ません」
「掘るしかないって……それは勿論デイビーも掘るってことだよな」
「調査は僕の仕事ですが、現地までの移動・安全の確保などは――」
「分かった分かった。つまりやらないんだな」
「ご理解頂けて、恐悦至極で御座います」
こいつは……
「タイム、今度こそスコップを貸してくれ」
「うん。タイムも掘るね」
「タイムも? 無理しなくていいぞ」
「無理じゃないよ。タイム・オブ・ターイム! 土木作業員タイムちゃん!」
土木作業員?! そんな職業もタイムにはあるのかよ。
黄色いヘルメットに白い長袖シャツに茶色い長ズボンに長靴姿。手には軍手をはめ、ツルハシをクルクルクルッとバトンのように回したら右肩に担ぎ、左手でスコップを地面に刺したら足を乗せて御登場だ。
「はい、マスターの分」
「あ、ああ」
服装一式を渡された。これに着替えろということか。
「はい、時子の分」
「ありがとう」
「時子も掘るつもりか?!」
「そうだけど。お姉ちゃんだって掘るんでしょ」
「そうだけど……」
「仲間はずれは止めてよね」
「そうでございますわ。タイム様、わたくしの分もお貸し頂けないでございましょうか」
「勿論! はい、どうぞ」
「鈴も! すーずーもー!」
「鈴はダメだ。大人しくしていなさい」
「ひうっ」
拒絶したわけじゃないからね。そんな怖がらないで。脅えないで。
「鈴はまだ身体が小さいだろ。体力仕事は大人に任せておきなさい」
「……はい」
落ち込まないで! 役立たずだなんて思っていないから。
……そういえば今回は素直に引き下がったな。いつもなら〝要らない子〟判定して必死になるんだけど。少しは改善されたってことか。
「ふむ。ではワシは掘った土石が邪魔にならぬよう、上の部屋まで運ぶとしようかの」
「火鳥も手伝ってくれるのか」
「ふぉっふぉっふぉ。アニカ様なら手伝うのは当然じゃからのぉ。ワシが手を貸さぬわけにはいくまいて」
「いや、明るく照らしてくれるだけでも十分ありがたい」
「安心せい。明かりならばこれで十分じゃろ」
すると1人1人に小さな赤い点のような明かりがユラユラと揺らめくようになった。
「微精霊ってヤツか?」
「いやいや、ワシの羽根じゃよ」
「羽根?!」
左目を遮光モードにしてよく見ると、確かに羽根の形をしているのが分かる。
とても綺麗でほんのり温かく、触っても熱くない。そもそも触れない。実体は無いようだ。
タイムに仕切りを出してもらい、各々着替えを済ませた。
ん?
「タイム、なんだこれは?」
背中にデカデカと〝マスター土建〟と辛うじて読めるくらいの達筆過ぎる筆文字で書いてあった。
「ごめんなさい。本当は〝マスター土建〟って書きたかったんだけど、タイムはマスターのことを〝マスター〟としか呼べないから……」
あーいつものアレか。
「つまり、本当は〝モナカ土建〟と書きたかったと?」
「うん」
そんなにしょげるな。ギュッと抱き締めて頭を撫でてやると、ちょっとだけ微笑んでくれた。でもその奥底は悲しみがあるようだ。
それに関して俺はなにもしてやれないからな。ただ頭を撫でてやることしか出来ない自分が歯がゆい。
でも言いたいことはソコじゃない……けど、はぁ。そんな顔されたらなにも言えないし、誰も反対していないし、ナームコなんか抱き締めているからな。
「ナームコ! さっさと着ろ。それと着るまでその仕切りから出てくるな! デイビーが困っているぞ」
「着たら見えないのでございます」
「抱き締めていても見えないのは同じだろ。いいから俺の背中でも見ながら、その名前を背負って働け。いいな」
「兄様の名を背負って?! そのような大役、わたくし奴にやらせて頂けるのでございますね。ああ、わたくしはいつ死んでも本望なのでございます」
「死ーぬーな! 生きて働け」
まったく。
少し落ち着いたかと思ったんだが、全然そんなこと無かったようだ。
次回、背中は誰のもの?




