第64話 疲れている
大きめのバケツに掘った土石を入れ、火鳥が運んでいく。
大きな瓦礫の塊は、土木作業員がエアーブレイカーとかいう機械を使って、小さく砕いてバケツに入れている。
そんな重労働を女の子たちにさせて、デイビーは上の部屋でノンビリしているらしい。せめて鈴ちゃんの相手でもしていろよとも思うが、チビタイムが絵本を読んであげている。ありがたい。
でもごめんな、五月蠅くて。
しかし火鳥のお陰で明るいとはいえ、太陽が見えないと昼なのか夜なのか分からないな。
えーと? 視界の右上にある時計は[16:40]を表示している。もうそんな時間か。
「よし、今日はこの辺で終わりにして夕飯にしようか」
「終わり?」
「ふぃー、疲れたぁ」
「随分と汚れてしまったのでございます。シャワーを浴びたいのでございます」
「そうだな。汗と泥でグシャグシャだ」
とはいえ、タイムが用意してくれた服は防汚性能抜群で、見た目は汚れているように見えても洗濯要らず。服の中に泥が侵入するようなこともなく、汗だってよく吸って直ぐに乾く。だからグシャグシャなのは顔だけだ。
とはいえ汗をかいたから洗顔だけではなく、お風呂に入りたいという欲求があるのも事実。しかしここには風呂どころかシャワーすら無い。アトモス号まで戻らないとダメだ。
……戻るのか? 移動だけでも結構な時間が掛かるし、この疲れ切った身体で階段を上るのは酷というもの。とはいっても、少なくとも上の部屋まで昇らないと休むに休めない。
「とにかく、上の部屋まで戻るぞ」
「はぁーい」
「そうね」
「存じたのでございます」
みんな重い足取りで階段を上っていく。今日は階段部分の掘り起こしが終わり、部屋の入口まで終わった。この後は部屋の中だが、掘った穴が崩れて生き埋めなんて洒落にならないからな。天上を補強しながら掘った方がいいだろう。
ん? 時子、辛そうだな。息もかなり荒いし、足取りも重そうだ。もう少しゆっくり歩くか? それとも手で引っ張り上げ……いや。
「時子、背中に乗れよ」
「へ? ううん。はぁっ。大丈夫よ」
「そんなに息を切らして膝に手を突きながら登っているじゃないか」
「このくらい、なんてことないよ。はぁ、はぁ。それに、モナカだって、キツいで、しょ」
「ふっ、半年で大分体力が付いたからな。ほら」
といって右手で力こぶを作って見せた。中々立派なもんだとおもうぞ。
「右手は、義手でしょ」
バレたか。
「体力が付いたのは事実だ。いいから乗れ。ほら、早く」
「時子、なに遠慮してるの」
『お姉ちゃんまで』
「ほら、背中に乗ってその駄肉の塊を押しつけてやりなよ」
「お姉ちゃん?!」
「おまっ、なに言ってんだ。そんな下心は無いぞ」
「だって……その……汗……臭いから……さ」
「えっ?!」
クンクンと自分の腕の臭いを嗅いでみるが、自分じゃ分からない。
「タイム、そんなに臭うか?」
「違うの! その……私が……その……」
ああ、そういうことか。俺は気にしないって言っても時子は気にするだろうし、多分汗臭いというよりいい匂いだと思う。なんて言ったら気持ち悪いよな。うーん。
「俺は時子の匂い、好きだよ。フェロモンっていうんだろ? ほら、クンクン」
「やっ、嗅がないで」
……あれ? 殆ど匂わないぞ。微かに感じるだけで、でもなんか……心をくすぐる匂いだ。
「うん、臭くない」
「……本当?」
「ああ、臭わないって言っても過言じゃないぞ。微かに鼻の奥をくすぐるような、うん。嫌じゃない」
「でも……」
「なんだ。俺の匂いが臭いからイヤなのか? ならそうはっきり言っていいぞ」
「そんなこと無い!」
「なら問題ない。ほら」
「シャコが乗らないのでございましたら、わたくしがお乗りさせて頂くのでございますっ」
と言うが早いか、ナームコが背中に覆い被さってきた。
「おいっ!」
「わたくしだって疲れているのでございます」
それもそうか。
なんだかんだ言ってもナームコだって女の子だ。
でもそれとこれとは別だ。
「私はいいよ。ナームコさんを背負ってあげて」
「兄様! お許しが出たのでございますっ」
お許しって……
幾ら鍛えているからって、さすがに孫亀は無理だぞ。
かといって振り落とすのもな……
「今日だけだぞ」
「……兄様?」
俺はナームコを背負い直すと、階段を昇り始めた。
「よろしいのでございますか?」
「あ? 振り落としてほしかったのか?」
「そのようなことはございません。そうではないのでございます」
「ふーん。もっと喜ぶと思ったんだけど、意外と淡泊だな」
「そんなことはございません。喜びのあまり気を失いそうなのを必死で耐えているのでございます」
そういえば以前お姫様抱っこしたときは気を失って覚えていないと言っていたな。
「でございますが、それ以上に驚きが支配しているのでございます。やはり兄様はお優しくなられたのでございますね」
「またか。気のせいだ」
「ふふっ、では気のせいということにしておくのでございます」
「そうしておいてくれ。次は振り落とすからな」
「存じたのでございます」
と言いつつ、また機会があれば飛び乗ってくるんだろうな。こいつはそういうヤツだ。
でもナームコを背負ったことで時子と歩調が合うことになった。
時子は俺の左手首を掴んで昇ってきている。鈴ちゃんと違ってシッカリ背負わないと落とすことになるからな。手と手は繋げない。こんなときでも充電を気に掛けてくれている。そんな簡単にバッテリー切れは起こさないって。
今日だって、掘っている最中は手を繋げないからって、定期的にキスしてきたし。タイムに聞いても「普段より消費電力が多いから問題ないよ」とはぐらかされた気がする。聞きたいのはソコじゃない。
別に嫌じゃないし、むしろもっとしたいとも思うけど、義務でやらせている気がして素直に喜べない。なのにタイムは「充電を言い訳にしてるだけだから、むしろマスターからもっと小まめにしてあげたら」とかいう始末。先輩という存在が居なければ……などと考えてしまう。
タイムは、それでいいんだ……
次回、シャワーは欠かせないよね




