破滅の連鎖
アオが静かにハッチを押し開け、ドッキングベイの中へと足を踏み入れた。
そこは救難艇との連結区画であり、薄暗い広間に巨大な救命艇の輪郭が浮かんでいる。
格納庫には不気味な静けさが支配していた。
非常灯の赤い光が点滅し、壁面に長い影を投げかけている。
連結用の気密ハッチは開いたままになっていた。
床には液体が飛び散って黒く光っている。
――血だ。
その光景にリナは息を呑み、その視線を救難艇の乗降ハッチへ向ける。
無理やりこじ開けられたのか、半開きになった扉が火花を散らしていた。
「カイ……?」
リナが震える声で呼びかける。しかし応答はない。代わりに、格納庫の暗がりから低い
唸りが響いた。
ハッチの陰、救難艇の下、深い闇の中で、何かが蠢いた。
「カイさん……いるんですか……?」
リナが一歩踏み出した刹那、闇から巨大な影が飛び出した。
「ぐおおおおおっ!」
それはかつてカイだったものだった。
宇宙服の胸部は無惨に引き裂かれ、露わになった隆起する胸筋には漆黒の静脈が網の目のように浮き上がっている。
浅黒い顔には深い裂傷が走り、片目は血に濁って潰れていた。
血に塗れた口元から覗く歯は牙のように鋭く光り、顎から唾液と血液の混じった液体が糸を引いて滴り落ちている。
怪物と化したカイが、猛然と突進してくる。
「失礼ッ!」
アオはとっさにリナの肩を突き飛ばした。
リナの体が脇に倒れ込むと同時に、怪物カイの突進をまともに受け止めたアオは、その巨体もろとも床を転がった。
「ガァァッ!」
獣染みた絶叫を上げ、カイがアオに馬乗りになろうとする。
だが、アオは冷ややかに腕を伸ばし、悠々と間合いを保つと、怪物の拳を押し返しながら、一切表情を崩さない。
筋骨隆々たるパワーが圧しかかるが、アオはわずかに息を吐き、まるで些事のようにいなしていく。
刹那、カイの肩口に鋭い針が突き立った。
「離れて……ください……!」
リナが震える手で注射ガンを握りしめ、射出針を怪物に打ち込んだのだ。
カイは一瞬怯んだように動きを止め、アオはその隙にリナの傍へ駆け寄った。
「リナさん、お逃げなさい」
アオの助言も虚しく、カイの巨体が唸り声とともにリナを背後から壁際に押し付けた。
「……!」
リナは声にならない悲鳴を上げる。
宇宙服越しにも肋骨が軋む感覚が伝わってきた。
カイの瞳は狂気にぎらつき、その口元からは泡混じりの唾液が垂れている。牙のように尖った歯がリナの首を噛み砕こうと迫った。
その瞬間、アオの拳が闇夜を切り裂くように疾走し、強烈な一撃がカイの腹部に直撃した。
その衝撃はあまりにも強烈で、カイの体は一瞬宙に浮きあがる。
「あなたの獲物は私ですよ。」
すぐそばでリナの荒い呼吸が空気を揺らしていた。
そんなリナのことをもう襲う気はないのだろう、船の床に着地したカイはすぐさま大きく咆哮し、再びアオに食ってかかる。
アオは冷ややかな眼差しを崩さず、怪物の突撃を紙一重でかわす。横合いから懐へ鋭く踏み込み、止めの一撃をカイの胸に突き立てた。
「……終わりです。」
その拳は肋骨の間を裂いて深く刺さり、黒い血がどくどくと流れ落ちる。
カイは苦悶の叫びを上げ、断末魔の様相を浮かべてドサリと床に崩れ落ちた。
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