人形と少女
固まったまま見つめ合う三対の瞳のうち、真っ先に我に返ったのは姫愛だった。
「あの……ユーリ、勝手に入れてごめんなさい……その……この子は……」
「り、リーシャと申します。留守中にお邪魔してしまってごめんなさい」
姫愛の言葉を受けて立ち上がり、頭を下げるドールの姿を見、漸くユーリの意識が再起動した。一つ深呼吸をしてからゆっくりと後退り、退室して扉を閉める。
思わず仕事着のまま飛び込んでしまったため、自室で着替えようと思ったのだが、そういえば今し方二人から謝罪を受けたような気がして、せめて一言くらいは答えて退室するべきだったかと反省した。しかし下層で仕事をしてきた格好のままで寝室に居続けるのは、姫愛の体に悪い。
急いで体を清めてから着替えを済ませ、改めて姫愛の部屋の前に立つ。
「……大丈夫よ。ユーリはいつも、身を清めて着替えてからわたしに会いに来るの。それを思い出しただけで、あなたに怒ったわけじゃないわ」
「でも、わたし……」
啜り泣く声と、姫愛が慰める声がして、ユーリの胸に罪悪感の棘が刺さる。とても入りづらいが、このままでいても誤解が深まる一方でしかない。
意を決して扉をノックすると、中から細い声で「どうぞ」と応答があった。
「ごめん、フィーネ。まさか人がいるとは思わなくて、色々間違えた」
「いいのよ。わたしが勝手にしてしまったことだもの」
ユーリに答えてから、姫愛――フィーネはリーシャの背中を優しく撫でた。AIもある程度は感情表現が出来るように設定されている。とはいえ、これほどはっきりと喜怒哀楽を表現している機体を見たことは、少なくとも下層を職場とするユーリにはなかった。
「ね、言ったでしょう? ユーリは優しいのよ」
「はい……」
水色の瞳から涙が零れ落ちる様子は、人間の少女となにも変わらない。それが尚更ユーリの罪悪感を刺激して、いたたまれない気持ちになる。
「ところで、その……リーシャって……AIドールだよな?」
ユーリの問いに、リーシャは手の甲で涙を拭って立ち上がると、深く一礼してから話し始めた。その優雅な所作は、下層の労働者に紛れているユーリには眩しすぎて、何となく上げかけた行き場のない手が、宙で意味もなく彷徨った挙げ句に、そろりと下ろされた。
「わたしは護衛艦ベアトリーチェの管理AI、リーシャです。お父様……テオドール博士から、フィーネのことを聞いて、会いに来たのです」
「博士が……? それで、なんだって、わざわざフィーネに」
フィーネが、このソムニアでどういう存在とされているかを誰よりも痛感しているユーリの声が、堅く強ばる。リーシャは僅かに逡巡する素振りを見せつつも、小さく口を開いた。
「……フィーネと、お友達になりたかったのです」




