第10話 探り合い
もう少しでテスト期間に入りそうなので、続きがまた遅れるかもしれません。
ご迷惑をおかけします。
『Rightning Attack!』
初めて次人種に勝った時、俺は何かを期待していた。報酬、名声、誰かからの尊敬の眼差し……。しかし、代わりに手に入ったのは次人種の煙だけ。俺は、この虚しさに対して『見返りを求めるのは正義じゃない』と言い聞かせた。誰かに何をされるからではなく、誰かのためになるからと考えることにした。
その日から、俺の考え事は増えた。この能力と俺の関係などの推測を重ね、色々な疑問に仮説を立てていった。1つ目の疑問は、なぜ俺の記憶が生まれた頃からあったのかだった。これに至っては『スプレーのおかげ』、これで決まりだ。5歳になるまで生まれてからの記憶を引き継いでいる。それも、言語を取得していない時に聞いた会話の内容すら鮮明に思い出せるというのは、もはや特殊では片付かない。十中八九このスプレーが関係している。
2つ目の疑問は、なぜ俺にこの能力が備わったのかだ。これは『何者かが意図的に俺の力とした』、この仮説しか無かった。自然にこんなものが出来るわけが無いし、かといって人間の業とは思えない。もし、この『何者』に入るのが次人種だったとして、それはそれで謎だ。そもそも自分達を危険にさらす行為だし、なによりメリットが無い。他にも人間では無い勢力がある…?それなら俺のところに情報があってもいいはずだし…。人間ではないものの仕業か、人間離れした人間の仕業なのか…。この件は保留となった。
そして3つ目の疑問は、このスプレーだった。なぜボタンの形が壊れたハートの右側なのだろうかと…。こんなに中途半端なマークを見るのは初めてだった。1個のハートにするだとか、もう片方も一緒にするとか、そうしても良かっただろうに。
『壊れたハートの左側はどこにいったんだろう…』
どうでもいいことかもしれないのだが、この疑問が一番気になった。
『Absorption』
ミストランスプレーの発射口を180度回転させて、鎧を吸い込む。戦い続けて約3ヵ月、5歳にして深夜に外を1人歩きをしているのは俺だけだろう。いつものように、帰って来た家のベッドに寝転がる。今日もすごい達成感だった。そんなことを思って眠りにつくのだ。明日は幼稚園も休み、新しい家族と過ごす時間が楽しみであった。
その翌日。母さんと鮎が買い物に行っている時だった。珍しく父さんに部屋に来るよう呼ばれた。
『どうしたのお父さん?』
父さんは自分の部屋の事務椅子に腰をかけ、コーヒーを飲んでいた。
『ちょっと聞きたいことがあってな。』
振り返ってこちらを見ると、父さんはコーヒーを机に置いた。
『昨日の夜、遥はなにしてた?』
俺は返答に困った。要は、夜いないことがバレたのだ。
『どうした?そんな道端で捨てられたチューインガムを踏んでしまったような顔をして。』
『……よく分かんない顔だね。』
『心配すんな、俺もよく分かってない。』
つかみどころのないようなこの台詞で、誤魔化すことが出来たならどれほど楽だっただろうか。
『昨日の夜、ベッドにいなかったな。それも午後11時、夜遊びはまだ早いと思うんだけど……』
ここで俺がとれる行動は2つに絞られた。夜の行動のことを話すか、どうにかして話さないか。だが、この時の俺には一択しかなかった。話さないを選んだ場合、その場ではどうにかなっても、十中八九2度としないことを要求される。そして何より、父さんなら話してもいいかと思えた。この俺を引き取り、育ててくれている両親に出来るだけ不安などは抱えてほしくはなかった。
『…夜起こすから、その時まで待って。』
『……夜?』
『うん…見せたいものがあるから…』
時間は午後7時30分、晩ご飯の最中。つまりそれは母さんが吐き気を催す時間である。
『うっ!』
『はいはい……』
父さんが母さんの状態を読み取り、迅速に対応する。あらかじめ用意されていた容器を、母さんの口元へ持っていく。そこへ母さんの嘔吐物が注がれる。
『オロロロロ……』
『ハイ吐いて、すっきりするまでストレスも愚痴も昔の罪も…』
『オロ、ゲホッゲホッ…オエッ…』
父さんのユーモア溢れるコメントは母さんにとっては面白く、ついえづいてしまうようで……その現場はとてもカオスになっていく……。
『ハイハイ、トイレ行こうね。前みたいにゲローテルしちゃ駄目だよ~』
『アハハッ……オエッ』
そんなに面白いかな…と思うところで笑う母さん。その隣で介抱する父さんは、まだユーモア発言を繰り返している。もしかしたら、この2人だからこそかみ合うなにかがあるのかもしれない。とはいえ、笑いながら吐くというのも中々苦しそうで、歩くのも困難に見える。その光景を見ている俺と鮎は、もちろん食欲が無くなっていく。トイレから父さんが戻ってくるのが見えた。
『あー……今日も駄目そうだったら大丈夫だよ…無理しなくて。』
『う…うん。』
鮎が自分の部屋へ戻る、その一瞬前だった。
『ああ、遥はこの後ね。』
父さんがそう口にした。
『ん、遥と何かするの?』
『ああ、ちょっと…吸血鬼になりにね。』
鮎にユーモアたっぷりの返しをした父さん。
『さあ、もう早めに寝るんだ。』
そう言って父さんは眠るよう促した。そうして一日の終わりは近づいていく。父さんがこの秘密を知った時、どうこたえるのか。そんな不安が頭の中で湧き出ていた。
【次回予告】
『こっち…』
『おいおいおい、うそだろ!?』
『じゃあ…ここで見てて。』
『こ、これか!』
『はぁ…はぁ…』
第11話 夜のお仕事




