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謎のおっさんオンライン(改)  作者: 焼月 豕
Rising of the Tyrant
28/38

個性派だらけの強敵達!βテスター百人組手!

「それでは改めて、ルールの確認をいたしますわ」

 放送室のアンゼリカが、施設に居る全プレイヤーに聞こえるようにルールの説明を行ない、同時に巨大な電光掲示板や、施設内の各所にあるモニターに、その内容が表示される。

「これから、おっさんにはこの場に集まった選りすぐりの百名と、順番に一対一の決闘をしていただき、全員倒すか途中で敗北した時点で終了となります」

 そこまで言ったところで、アンゼリカが指を鳴らして合図をした。すると複数のNPCが、台車を押しながら闘技場内に入場してきたではないか。そして彼らが押している台車には、金貨(ゴールド)が入った袋や金塊が山積みになっていた。

「うおっ……!?」

「スゲッ……あれ一体全部で幾らになるんだ……?」

 黄金の放つ輝きに、観衆は思わず目を奪われた。また、彼らはこの山積みのゴールドは一体何なのかと疑問を持ったが、すぐにそれに対する回答が行なわれる。

「対戦相手の皆様には、ファイトマネーが支払われます。その額は敗北した場合は、一人につき十万ゴールド。そして、もしもおっさんに勝利する事が出来た場合の金額はなんと、五百万ゴールドが支払われます」

「「「「「おおおおおおおおおっ!?」」」」」

 途轍もない金額が提示された事で、驚愕と興奮が入り混じった声が上がる。

「ここでファイトマネーを提供して下さった、スポンサー様のご紹介をいたします。アルカディア情報局局長、アテナ様。同副局長、アナスタシア様。世威奇抹喪非漢頭リーダー、モヒカン皇帝様。アルカディア農業協同組合代表、チョコミント様。アルカディア漁業協同組合代表、うみキング様。アルカディア剣友会代表、ゲオルグ様。喫茶もふもふ店長、もふ太郎様。以上の方々および職人組合、そしてアルカディア運営チームの提供でお送りいたします」

 アンゼリカが紹介した者達の提供と運営チームの援助、そしておっさんのポケットマネーにより、前述した膨大な額のファイトマネーが実現していた。

 前回、おっさんがカズヤとアナスタシアを呼んで何か頼み事をしていたのを覚えているだろうか。おっさんが頼んでいた事の一つがこのスポンサー探しである。流石のおっさんと言えども、この闘技場を建築した上で、更に百人分のファイトマネーを用意するのは無理があった。その為、財布にある程度の余裕があり、なおかつ名前を売りたいスポンサーを募る必要があった。更に対戦相手となる百名に対して出場の依頼をしなければならず、また観客を集めるために、大々的な宣伝を行なう必要もあった。そこでおっさんは顔が広く、多くのプレイヤーに慕われているカズヤと、情報屋として広いネットワークと発信力を持つアナスタシアに白羽の矢を立てたのであった。

「それでは説明に戻りましょう。ルールは一対一での決闘であり、デスペナルティは無し。場外に出るかHPがゼロになった時点で敗北となります。また、ゲームの規約に反しない限り、ありとあらゆる行動が認められ、制限は一切ありませんわ。以上で、ルール説明を終わります。皆様、ご清聴いただきありがとうございました。……それではおっさん?開会宣言をお願い致しますわ」

 アンゼリカがそう促すと、おっさんが闘技場の中央で魔導マイクを取り出して注目を集める。おっさんは最初に、客席に視線を向けながら口を開く。

「あー、俺が謎のおっさんだ。まずは観客の皆、よく来てくれたな。今日は楽しんで行ってくれや。退屈はさせねぇ事を約束するぜ」

 おっさんの言葉に、ノリの良い観客達が歓声や口笛を送った。

「今日のイベントの様子は各大手動画サイトで生放送配信されてる他、後日アーカイブが投稿される予定だから、そっちも宜しく頼むぜ。さて、と……」

 次におっさんは、対戦相手として集まった百人のトッププレイヤー達を見回した。集まった全員が、一人の例外もなくギラついた視線をおっさんに送っている。

 彼らはがここに来た理由は様々だ。トッププレイヤー同士の横の繋がりもあり、βテストの頃からの知り合いで、世話になっているおっさんの頼みだから。強いヤツと戦いたいから。高額なファイトマネーが魅力的だったから。単純に目立ちたいから。等々……

 だが、一番の理由は全員が共有していた。それは、

「おっさんを倒して、自分が最強になる」

 であった。

 考えてみれば当たり前の話である。オンラインゲームのプレイヤーという者の多くは、

「俺のキャラクターが一番強い」

「俺の構成が一番優れている」

「俺のプレイングが一番効率的なんだ」

 等という、最強への渇望を心に秘めているものだ。トップを走るプレイヤーならば尚更である。

 多人数が同時にプレイすれば、そこには協力と同時に競争もまた発生する。そうなれば、他人よりも上に立ちたいという考えが生まれるのは、至極当然である。

 それはまったりプレイを標榜し、エンジョイ勢を自称する者達とて同じだ。

「俺のやり方が一番面白い」

「私のコーディネートが一番イカしてる」

「うちの子が一番かわいい」

 そんな事を一度たりとも考えた事が無い。そう胸を張って言える者だけが石を投げるといい。

 ナンバーワンよりオンリーワン?綺麗事をぬかすな!俺がオンリーワンでナンバーワンだ!

 二番じゃ駄目なんですか?ふざけるな、良い訳があるかっ!

 所詮この世は弱肉強食。勝つのは俺だ、てめえら全員負けて死ね!

 いささか極端な言い方かもしれないが、プレイヤー達の心の奥底にはそんな考えが根付いている。

「どいつもこいつも、待ちきれねぇってツラだ。なら、そろそろ始めるとするか」

 おっさんは対戦相手となる百人の視線を受け止めて、そう言った。

「それで、最初は誰が俺の相手をしてくれるんだ?」

 おっさんのその問いに答え、飛び出す者が一人いた。


「俺だ!一番槍はこの俺が貰ったッ!」

 そう叫び、一人の男が勢いよくおっさんの眼前に躍り出た。その男は青い長髪に赤い瞳を持ち、身長は一八〇センチと少し。なかなかの長身だ。そして彼は、その身長よりも長い一本の槍を手にしていた。

「最初はてめぇか、槍キン!」

 その男の名はスピアキング。元βテスターであり、アルカディアにおける槍の第一人者であり、槍使い達の希望の星だ。

「ふふふ、より進化した俺の槍を味わってもらおうか、おっさん」

 堂に入った構えで、スピアキングが槍の穂先をおっさんに向ける。

「面白れぇ。だったら見せてもらおうじゃねぇか」

 重心を低く保ち、どっしりとした構えを取るスピアキングに対し、おっさんは自然体だ。

「シィッ!」

 スピアキングの持つ槍の穂先が一瞬ブレたように見えた次の瞬間には、槍がおっさんの胸元に向かって突き出されていた。恐るべき速さと鋭さを持った突きだ。だがおっさんは、僅かに横に動いてそれを紙一重で回避した。余裕を持った動きだ。

「まだまだぁッ!」

 スピアキングが連続突きを繰り出す。アーツも何も使わない、ただの通常攻撃の連打ではあるものの、彼の連続突きは普通の槍使いが放つアーツ以上の速度と威力を持つ。

「無駄だ!」

 だがその攻撃も、おっさんには当たらない。おっさんは軽快なステップを踏み、スピアキングの突きを全て回避する。しかも、そのどれもが最低限の動きによる紙一重での回避だ。ほんの少しのミスで直撃を受けかねないハイリスクなやり方だが、おっさんは完璧に回避を成功させていた。

「甘ぇぞ槍キン、そんな攻撃が俺に当たると思ってんのか?」

「流石だなおっさん!ならば、そろそろ本気で行くぞ!」

 スピアキングがバックステップで一旦距離を取り、アーツを発動させようとするが、おっさんは易々とそれを許したりはしなかった。

「させるかよ!」

 【クイックチェンジ】によって一瞬でブラックライトニングを装備したおっさんが、両手の魔導銃剣から魔力弾を連射する。それらがスピアキングの眉間や心臓といった急所に放たれるが、スピアキングはそれに対して、手にした槍を風車のように高速で回転させて弾き飛ばした。

「見るがいい!これぞ、あらゆる遠距離攻撃を無力化する槍術の奥義!」

 おっさんが放った魔力弾を全て防ぎきったスピアキングは、回転の勢いをそのまま乗せて、槍を投擲する。それこそが、彼が最も得意とするアーツ。

「そして今、必殺のぉぉ!ジャベリィィィィィィン・スロォォォォォォウゥゥッ!」

 空気を切り裂く轟音と共に、必殺の槍が今放たれた。

「出たあああああ!槍キンのジャベリン・スロウだああああ!」

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 彼の代名詞とも言えるアーツ【ジャベリン・スロウ】が発動した事により、観客がにわかに沸き立つ。だが……

「無駄だ!」

 必殺の槍投げが命中すると誰もが思ったその瞬間、おっさんが発動した【円空掌】により、ダメージが完全無効化され、弾かれた槍が砕け散る。

「あああああ防がれたぁぁぁ……」

「ま、まあ円空切らせたと考えれば……うん」

「い つ も の」

 おっさんの得意技、ジャストガードに成功すればあらゆるダメージをゼロにする防御アビリティによってジャベリン・スロウが防がれたことで、観客が落胆の声を上げる。

 だが、当然そうなるであろう事はスピアキングも織り込み済みだ。最初におっさんと戦う以上、おっさんはクールタイム(一度使用したアビリティやアーツ、魔法を再度使用できるようになるまでの時間)を気にせず、自由に技を使う事が出来る。そういった意味では、最初に戦いを挑んだスピアキングは、自らを不利な状況に追い込んだとも言える。

(だが、それがどうした。相手にだけ不利な条件を押し付けて、それで勝って嬉しいものか。今なら状況は五分と五分。この状況で勝ってこそ、真におっさんに勝ったと言える)

 スピアキングはそう考えたからこそ、自ら一番槍に志願したのだ。まさに槍の王、男の中の男である。そして彼がそうしたのは、無論勝算あっての事だ。

 ジャベリン・スロウによって槍を失ったスピアキングとの距離を詰め、一気に勝負を決めようと魔導銃剣のブレードで斬りかかろうとするおっさんは、そこで急に足を止め、瞬時にサイドステップを踏んだ。

 そのおっさんの頬を掠めて、何かが高速で飛んでいき……そして、闘技場の壁にぶつかって大爆発を巻き起こした。

「……くっ、まさか今のを避けるとは」

「危ねぇなこの野郎。俺じゃなかったら今ので死んでたぜ」

 スピアキングは取っておきの一撃を回避された事で、おっさんは危うく初戦で敗退しかけた事で、互いに睨み合って舌打ちをする。

 スピアキングが放ったのは、二本目の槍であった。どこに隠し持っていたのかは不明だが、それを使って槍を失ったと思って攻勢に出たおっさんの隙を突き、先程のジャベリン・スロウよりも更に強力な技、彼のオリジナルアーツである【ジャベリン・キャノン】を放ったのだ。

 それにしても不思議なのは、スピアキングは一体どこに槍を隠していたのかという点だ。一発目のジャベリン・スロウによって、彼は確かに槍を失ったはず。

 だが更に驚くべき光景が、その場に居た者達の目に飛び込んでくる。何と次の瞬間には、スピアキングの手には先程投げて、失われたはずの槍が再び握られていたのだ。

「どういう事だ……?てめえ、それはさっき投げた奴と同じ槍だな?」

 おっさんが疑問を投げかける。彼が言う通り、それは槍投げに使用した槍と全く同じ物だった。同じ素材、同じ形状の別の品という意味ではない。仮にそうであったなら、おっさんの眼力で見抜けない筈がない。

 先程投げ放たれた槍と、今スピアキングが装備している槍は、全く同じ個体である。

 そしてジャベリン・スロウというアーツの代償は、装備した槍の破損である。消滅と言い換えてもいい。ならば何故、消えたはずの槍が再び彼の手にあるのか。

「……幾つか可能性は考えつくが、一番可能性が高ぇのは……複製か」

 おっさんの導き出した答えに、スピアキングは満足げな笑みを浮かべた。

「流石はおっさん。バレちまったんじゃあ仕方がない」

 そう言って、スピアキングは両腕を大きく広げ、とあるアビリティを発動させる。

「【イリュージョン・スピア】!」

 彼が明かしたアビリティの効果。それは、装備している槍と全く同じ形状、同じ形、同じ能力の模造品を作り出すという物だった。ただしその模造品の耐久値は非常に低く、少し使えば壊れてしまう、使い捨ての品だ。だが、装備している槍を失う槍投げ系アーツのコストとして使用するならば、これほどうってつけの物はないだろう。

 そして複製する槍は、余分にMPを消費する事で更に増やす事ができる。それによって、スピアキングの周囲の地面に、十数本もの槍が突き刺さった。

「おっさん。今から俺は、この槍を一斉におっさんに放つ。その攻撃に耐える事が出来れば、おっさんの勝ちだ」

 スピアキングは右手の人差し指をおっさんに突き付けて、そう言い放った。

「おもしれぇ。受けて立とうじゃねぇか」

 おっさんはその挑戦を受け、【クイックリロード】によって魔力弾を再装填し、ブラックライトニングの銃口をスピアキングに向ける。

 これから始まる最後の攻防を前に、観客のボルテージは最高潮を迎えつつあった。

「ジャーベーリン!ジャーベーリン!」

「おっさあああああん!負けるなああああ!」

 巻き起こるジャベリンコールとおっさんへの声援が、観客席でぶつかり合う。それと同時に、闘技場の二人も奥義を発動させた。

「うおおおおおお!食らえ、我が最終奥義!【ジャベリン・ストーム】ッ!」

 両手で次々と槍を掴み、投げまくるスピアキング。投げ放たれる槍は、そのどれもが一撃必殺の威力を持つ。全てがクリーンヒットすれば、ボスモンスターが相手でも屠る事が出来るであろう。まさしく最終奥義と呼ぶに相応しい大技だ。

「全部撃ち落としてやらあッ!【バレットカーニバル】ッ!」

 それに対しておっさんが選択したのは、魔導銃の奥義【バレットカーニバル】だ。装填中の全ての弾を一気に撃ち尽くす、超火力のアーツである。

 それによって、スピアキングが放った槍が次々と、一方的に撃ち砕かれる。

「残念だったな!これで終わりだ!」

 おっさんが放った無数の銃弾は槍を全て破壊し尽くし、そのままスピアキングの体を次々と貫いた。それによって、スピアキングのHPが一瞬で削り取られ……遂には完全に消滅する。

「不覚……!俺の槍が敗れるとは……!」

 あまりにも呆気なく決着がついた事で、観客席から歓声と悲鳴が上がった。

「馬鹿な!?槍キンの槍があんなに簡単に!?」

 スピアキングの槍があっさりと砕かれる光景に、観客のみならず闘技場内に集まった元βテスター達からも、驚愕の声が上がる。だがその中に一人だけ冷静な者がいた。

「……成る程。そういう事か」

「どういう事だ、何かわかったのか!?説明してくれカズヤさん!」

 一人だけ冷静に頷き、呟いたカズヤに、近くにいたβテスターが説明を求める。

「推測混じりにはなるが」

 そう前置きをして解説を始めようとするカズヤに、集まった者達が耳を傾ける。

「スピアキングが使用した、槍を複製する技……【イリュージョン・スピア】だったか。あれは自分が装備している槍を複製する効果を持つが、複製した槍は耐久度が極端に低い物になるのだろう。そこまでは良いな?」

 カズヤがそう問うと、βテスター達は頷いた。

「複製した槍の耐久度の低さは、槍投げ系アーツのコストとして使うならば問題にならない。スピアキングはそう考えていたのだろう。だが、その耐久度こそが問題だったのだ」

「ハッ……!まさか……」

「そうだ……それこそがスピアキングの敗因。互いが放った奥義は、威力だけを見ればほぼ互角と言えるだろう。だがスピアキングの槍は、その耐久度の低さ……一発の魔力弾で破壊されるほどの脆さゆえに、おっさんの弾幕に敗れ去った。そういう事なのだろう」

 カズヤの解説を聞いた者達は、それぞれ納得した表情を見せた。

「成る程……おっさんはそれを見破っていたのか。やるな……」

「それを見ただけで看破するカズヤさんも流石と言うべきか……」

 対戦者達が警戒心を露わにする中で、通路に控えていた救護班が闘技場内に駆け付け、蘇生魔法【リザレクション】を使用して、死亡したスピアキングを助け起こす。

「まさか、こんな弱点があったとは……もう一度鍛え直しだな。良い経験になったよ、おっさん。ありがとうございました!」

「おう。お前の槍に懸ける情熱も大したモンだったぜ。ありがとよ」

 闘技場の中心で握手を交わすおっさんとスピアキングに、拍手が降り注いだ。

「負けちまったぜ!後は頼んだ!」

 スピアキングが待機している残り九九人の対戦者にそう言うと、彼らから暖かい声援が飛ぶ。

「惜しかったな槍キン!良い勝負だったぜ!」

「ナイスファイト!」

「いや、ナイスジャベリンだ!」

 そしてその中の一人が、我慢しきれないと言う様子で前に出た。

「よっしゃあ!次は俺だッ!槍キンの仇は俺様が討つ!」

 そのプレイヤーの名はゴンザレス。身長は二メートルにも届こうかという程の大男で、筋肉モリモリのマッチョマンである。素肌の上に毛皮のジャケットを羽織った原始的な服装で、そしてその手に持つのは長い柄に巨大で肉厚の刃を持つ、グレートアックスと呼ばれる大斧であった。左右の腰には片手用の斧、トマホークを吊るしている。まさに蛮族と呼ぶに相応しい恰好で、それが彼の屈強すぎる肉体とよく似合っていた。

「ゴンザレス……」

「へっ、後は俺様に任せておきな」

 退場するスピアキングと視線を交わすゴンザレス。彼らは普段こそ、

「槍こそ最強の武器!」

「いいや、斧こそ至高!」

 そんな風に言い合いながら毎日のように決闘をするライバル関係にあった。だが、いや……だからこそゴンザレスは、宿敵の仇は俺様が討つ!と燃え上がっていた。

 そんな彼の男気に感激しつつも、スピアキングは照れ隠しにこんな事を口にした。

「馬鹿言え。俺の槍が勝てなかった相手に、斧なんかが勝てる訳ねーだろ」

 ゴンザレスは彼の挑発に乗り、スピアキングを罵倒する。

「はっ、ほざきやがれ!しょせん、槍は数ある武器の中でも“敗北者”じゃけェ……!」

「ハァ……ハァ……“敗北者”……?取り消せよ、今の言葉……!」

 スピアキングは試合後、ゴンザレスはこれから試合だというのに、互いに胸倉を掴んで睨み合い、殴り合いを始めようとする二人を周囲の者達が慌てて止める。

「チッ、そこで見てやがれ!おっさんは俺様が倒すッ!」

「ああ、お前が負ける様をじっくり見ててやるよ!ま、せいぜい頑張れや!」

 憎まれ口を叩きながら、ゴンザレスがおっさんの前に立つ。

「待たせたな、おっさん!」

「おう、別に構わねぇぜ。丁度吸い終わったところだ」

 待っている間に煙草を吸っていたおっさんが、吸い殻を指で弾いて消滅させて構えを取った。第二試合の開幕だ。

「行くぜええええッ!うおおおおおおおおお!」

 ゴンザレスがグレートアックスを両手で握り、空高く跳躍する。ゴツい見た目に似合わぬ身軽さを見せるゴンザレスに、観客が瞠目する。

「おい、あいつは何者だ!?」

「あの男の名はゴンザレス。二つ名は【蛮族王(バーバリアン)】。圧倒的な筋力と耐久力が持ち味の、見た目通りのパワーファイターだ。その豪快な性格とファイトスタイルから、特に斧使いには奴を兄貴と慕う者が多い。βテスト終了時のランキングは、槍キンと並んで同率二十七位」

「知っているのかライディーン!?」

 その一角では、物知りなプレイヤーによる解説が行なわれていた。

「行くぜええ!【バスター・フォール】ッ!」

 跳躍したゴンザレスはおっさんに向かって降下しつつ、両手で大上段に構えた斧を叩き付ける。だがおっさんの姿が一瞬でかき消え、その攻撃は不発に終わった。

 そのゴンザレスの斧が叩き付けられた地面が大きく揺れ、大きく割れる。それだけで、その威力の程が知れるというものだろう。しかし……

「そんな攻撃が俺に当たると思ってんのか?」

 おっさんは既にその場にはおらず、跳躍しゴンザレスの頭上へと回り込んでいた。

「【鳳凰天翔】!」

 おっさんの四肢が炎を纏い、それらが連続でゴンザレスに叩き込まれる。空中に浮遊しつつ火炎属性付きの連続攻撃を行なう格闘アーツが全段直撃した。

 たまらずゴンザレスが吹き飛ばされるが、おっさんの攻撃はまだ終わらない。軽やかに着地したおっさんは、続けて別のアーツを発動させた。

「こいつも喰らいな!」

 次におっさんが発動させたのは、前に突き出した両掌からオーラの玉を放つ、【練気弾】というアーツだった。放たれた気弾はバスケットボール程の大きさで、それが時速百キロを超えるスピードでゴンザレスを追撃する。

 一方吹き飛ばされたゴンザレスは、受け身を取ってすぐさま立ち上がると、斧を構えておっさんが放った気弾を迎撃しようとする。

 そして次にゴンザレスが行なった行為は、その場にいた全ての者を驚愕させた。

「はああああああ!【アックスバリアー】!」

 何とゴンザレスは、斧を正面に構えた状態で魔力の壁を展開し、おっさんの練気弾を跳ね返したのだ。跳ね返された気弾がおっさん本人に向かって、更に高速で向かっていく。

「チッ!」

 予想外の対処法に流石におっさんも面食らったのか、僅かに対処が遅れたものの、おっさんは跳ね返された気弾をバックハンドブローで弾き飛ばした。それが観客席へと着弾し、一部の観客が吹き飛ばされて重傷を負った。

「えー、ご観覧中の皆様。流れ弾にご注意下さいませ」

「「「「「注意が遅ぇぇぇぇぇぇぇッ!」」」」」

 今更ながらに注意勧告をする放送席のアンゼリカに、観客席からツッコミとブーイングの嵐が巻き起こった。

 そんな中でゴンザレスは、斧を構えて再び魔法を詠唱し始める。

「やるなおっさん、なかなか痛かったぞ!というわけで【アックスヒール】!」

 ゴンザレスが使ったのは治癒魔法のようで、それによっておっさんの鳳凰天翔でダメージを受け、減少していた彼のHPが回復していく。

「おい待ててめぇ、さっきからアックスバリアだのアックスヒールだのと、何なんだ?その妙チキリンな魔法は?」

 おっさんが、もっともな疑問を口にする。

 また他の者達もおっさんと同じ気持ちなのか、気になって仕方が無い様子だった。

 ゴンザレスはおっさんの質問を受け、その答えを明かした。

「決まっているだろう!【斧魔法】だ!」

(だから斧魔法って何だよ……)

 その場にいた大半の者達の心が一つになった。

「そうだな、あれは一週間前の事だった……」

(何かいきなり回想始めやがったぞこいつ……)

 皆が心の中でツッコミを入れる中、ゴンザレスは過去の出来事を語り始めた。


  *


 ゴンザレスというキャラクターは、ステータス値は筋力(STR)耐久(VIT)に特化しており、またスキルも斧を軸に据え、近接戦闘のみに特化した構成(ビルド)である。

 そのため彼は、接近戦ではほぼ敵無しだったが、魔法に対してはとても弱かった。

 一週間前、ゴンザレスはダンジョン内にて、とあるプレイヤーと遭遇した。以前おっさんとカズヤが火霊窟の攻略中にレッドとエンジェの二人に遭遇した時と同じ、複数のパーティーが合流する階層での出来事である。

 そこで運悪くエンジェと遭遇したゴンザレスは、遠距離からの魔法攻撃により、最後に一矢報いはしたものの惨敗を喫してしまった。

「くそっ!このままでは俺様は、魔法使いに勝てねぇ!」

 悔しさに任せて、地面に拳を打ち付けて嘆くゴンザレス。

 彼の魔力(MAG)パラメーターは、MP確保のために少しだけ上げた最低限しか無い。当然のように魔法防御力も最低レベルであり、使用可能な武器は斧しか無いため遠距離攻撃の手段にも乏しい。魔法使いにとっては、これほど与し易い相手はいないだろう。

「だが、一体どうすりゃいいんだああああ!」

 俺も魔法を覚えればいいのだろうか。いいや、それはダメだ。俺には斧と魔法を同時に使いこなすような器用な真似はできそうにないし、それで斧が弱くなってしまっては本末転倒だ。

 ならば一体どうすればいい。思考が袋小路へと嵌ってしまい、ゴンザレスは悶えた。そこに現れたのは、特徴的な極彩色のモヒカン頭をした、棘付き肩パッドの付いた革ジャンを着た少年だった。その左右の手にはそれぞれ、漆黒の金属(ダークメタル)で作られた戦斧(バトルアックス)が握られている。

 その名はモヒカン皇帝。チーム世威奇抹喪非漢頭のリーダーであり、おっさんを目の仇にして付け狙う男。そしてゴンザレスにとっては大事な斧仲間(アックスメイト)であった。

「ようゴンザレスさん。アックス!」

「おう、モヒカン皇帝。アックス!俺の事はゴンザレスでいいぜ」

 ちなみに彼らにとっての「アックス!」は挨拶のような物であるらしい。筆者である私にもよくわからないのだが、どうやら斧使い同士にしか通じない何かがあるようだ。

「ならゴンザレス、一体どうしたんだ?何か悩んでるみてぇだが」

「うむ……聞いてくれるか、モヒカン皇帝」

 そうしてゴンザレスは、モヒカン皇帝に自らの悩みを吐露した。それを聞いたモヒカンは、

「この馬鹿野郎アックス!」

 そう叫び、ゴンザレスの右頬を全力で殴りつけた。

「な、何をする……!」

 突然の暴挙に、当然のように抗議するゴンザレスだったが、モヒカンは構わずに、今度は左拳でゴンザレスの左頬を殴り、そして言った。

「お前ほどの(おとこ)が、何をそんなくだらねぇ事で悩んでやがるッ!カンタンな事じゃねぇか!斧が魔法に弱いなら、斧を使った魔法を作ればいい!」

 熱のこもった口調で、かなり意味不明な台詞を叫ぶモヒカン皇帝。彼の言葉は一般人が聞けば支離滅裂で意味不明な物にしか聞こえないだろう。だがゴンザレスにとっては違ったようで、彼は全身に電撃が走ったかのような衝撃を受けていた。

「その手があったか……ッ!」

「わかってくれたか、ゴンザレス!」

「ああ。お前の想い、確かに受け取った!うおおおおおおおッ!俺はやるぜッ!」

 そしてゴンザレスは厳しい修行の末に、非正規(イリーガル)スキル【斧魔法】を発現させたのだった。


  *


「……そんな出来事があったのだッ!」

 回想を終えたゴンザレスは胸を張り、自信満々にそう言い放ったのだった。観客席ではそれを聞いていたモヒカン皇帝が感慨深そうに頷いていたり、他にも斧使い達が感動して滂沱の涙を流していたりしたが……

「つまり、どういう事だ?さっぱり意味がわからんぞ」

「なにいってだこいつ」

「こいつの言う事はよくわからんな。話半分に聞いておこう」

 その他の大多数のプレイヤーの反応は、そのような冷ややかな物だった。

「……で、話は終わりでいいんだな?」

 長い回想シーンの間に煙草を三本吸い終えていたおっさんが話しかけると、ゴンザレスは再び斧を構えて、おっさんと対峙した。

「うむッ、待たせたな!というわけで俺の斧魔法を存分に味わうがいい!」

 ゴンザレスが短い詠唱の後に魔法を発動させると、彼の手に持った斧が巨大化する。柄の長さは二倍以上に長くなり、刃の大きさもそれに比例して大きくなった。

「【ギガンティック・アックス】!」

 それは自らが装備する斧を巨大化させて、射程と攻撃力を大幅に上昇させる魔法だった。言うまでもなく斧を装備している時しか使えない、斧専用の魔法である。

「成る程、威力は凄そうだが、ただデカいだけじゃなぁ!」

 巨大な斧が振るわれると、それだけで凄まじい音と風圧が発生する。気の弱い者ならその威圧感により相当の重圧を感じてしまい、回避もままならずに直撃を受けて死にかねない。

 だが幾ら斧が巨大化して威力が上がろうと、そのような単調な攻撃がおっさんに当たる筈がなかった。だが、そんな事はゴンザレスも当然わかっている。

「【アックス・アクセラレーション】!」

 続けてゴンザレスが発動させた斧魔法は、斧装備時の攻撃速度を大幅に上昇させるものだ。

「俺様の斧は今、音速(マッハ)を超えるッ!」

 実際に音速を超えているかは疑わしいが、それでも攻撃速度が普段の三倍ほどの速度まで上昇し、短剣や双剣並のスピードに達している事は確かである。射程距離がそこそこ長く、一撃の攻撃力が非常に高いグレートアックスが短剣並みの速さで振るわれ、連続攻撃を仕掛けてくるのがどれだけ恐ろしいかという点に関しては、わざわざ説明するまでもないだろう。

「速い上に重い。確かに厄介だが……所詮はそれだけだ!」

 おっさんはそう言うと、後方に大きく跳躍しつつ、魔導銃剣で射撃攻撃を行なった。

「どうした、ビビったかおっさん!」

「へっ、何とでも言いやがれ。わざわざ殴り合いに付き合う義理は無ぇ!」

 ゴンザレスが、戦闘スタイルを距離を取っての射撃に切り換えたおっさんを煽る。だがおっさんは挑発に乗る事なく冷静に対処し、ゴンザレスの急所に対して的確に魔力弾を撃ち込んでゆく。

「ああっ、ゴンザレスさん!」

「くそっ、あれをやられると流石に厳しいか……!」

 いかに速く強力な攻撃が出来ようと、おっさんほどの達人が本気で逃げに徹しつつ遠距離攻撃を行なえば、それを近接武器で捉えるのは非常に難しい。接近戦特化型のゴンザレスにとっては、非常に厳しい状況だと言えるだろう。

「いや、おっさんは普段なら、わざわざ相手のスタイルに合わせて戦うのを好む人だ。それは相手を甘く見て、油断・慢心する悪癖と言っても良いが……とにかく、そんなおっさんが殴り合いに付き合わず、距離を取っていると言う事は……」

「それだけ、ゴンザレスの斧を驚異だと感じているという事か!?あのおっさんが!」

 おっさん達の戦いを見て、目の肥えた観客がそのような予想を口にする。

 そんな彼らの予想は、半分だけ正解である。確かにおっさんは、ゴンザレスの攻撃を驚異だと感じていた。それは確かであるが、それが全てではない。

「おうゴンザレス!てめぇ、いつまで勿体ぶってるつもりだ?この俺相手に出し惜しみとは、良い度胸してんじゃねぇか。それとも……このまま削り殺されてぇのか?」

 おっさんが魔力弾を連射しながら、憮然とした表情でそう言った。そう、残るもう半分の理由は、ゴンザレスに対する挑発であった。おっさんはゴンザレスがまだ何か隠し玉を持っている事を見抜き、さっさとそれを出さなければ遠距離から一方的に削り殺すぞと恫喝していたのだ。

「おっさんには敵わねぇな。ああ、全くもってその通りだ。おっさん相手に出し惜しみするたぁ、俺様がバカだったぜ」

「おめぇがバカなのは、この場に居る全員が知ってらぁ」

 おっさんの台詞に、その場に居た者達が思わず吹き出しながら頷いた。

「ひっでぇなオイ。だがなおっさん、一つ教えてやるぜ……」

 そこで言葉を止めたゴンザレスは呼吸を整えた上で、斧を正眼に構え……

「俺様はバカだから、たった一つの事に全身全霊を懸けられるのさッ!大事なモンの為に本気(マジ)になったバカってのは、超怖ぇんだぜッ!!」

 吼えるゴンザレスの全身から、黄金の闘気が溢れ出す。

「ああ……そいつはよく知ってらぁ」

 おっさんは頷き、魔導銃剣を握る手に力を籠める。

「さあ来やがれ!てめぇの本気、俺が打ち砕いてやらぁッ!」

「おおおおおおおッ!【アルティメット・アックス】ッッ!」

 ゴンザレスが、彼の最終奥義とも呼べるアビリティを発動させた。その効果を以下に記そう。


 【アルティメット・アックス】

 斧を装備した状態でのみ発動できる。あなたは180秒間、以下の効果を得る。

 ①攻撃力が【斧】スキルのレベル×100上昇する。

 ②あなたが受けるダメージを【斧】スキルのレベル×100まで軽減する。

 ③斧のアーツが命中した時、必ずクリティカルヒットになり、クリティカルダメージが2倍になる。

 ④斧の攻撃範囲が、半径【斧】スキルのレベル×1メートル拡大される。

 ⑤斧で攻撃を行なう際に、衝撃波による遠距離攻撃が可能になる。

  その射程距離は【斧】スキルのレベル×2メートルである。


 ゴンザレスの斧スキルは、当然最大レベルの100である。

 すなわちこのアビリティの効果によって、ゴンザレスの攻撃力は10000上昇し、また敵の攻撃を受けた際にダメージを一発につき10000まで軽減する事ができる。

 そしてアーツによる攻撃が当たりさえすれば必ずクリティカルヒットになり、更にクリティカルダメージが2倍になり、攻撃範囲が半径100メートルも広くなり、更に衝撃波によって200メートル先までの相手に遠距離攻撃を行なう事が可能になったのだ。

「ひっ、ひでえっ!?何だあの無茶苦茶な効果!?」

「チートってレベルじゃねぇ!?」

「ダメージカット一万って、あんなの効果が切れるまで待つしか……だが耐えられるのか!?攻撃力もとんでもない事になってるぞ……!」

 解析班によって、すぐさま電光掲示板にアビリティの詳細が掲示され、そのとんでもない効果を見た観客から悲鳴が上がり、その後には期待の籠った声が上がり始める。

「斧魔法……凄まじい物だな。どうやったら習得できるんだ……?」

「クックック、斧の時代が始まったな……。いずれは俺も、あの力をこの手に……」

 ゴンザレスが見せた力と、その輝きに魅せられ、斧に手を出そうとする者、そして我らの時代が来たと喜ぶ斧使い達。

「ハッ……何もわかってねぇな、こいつら」

 だがその中に一人だけ、冷静な者が居た。その名はモヒカン皇帝。ゴンザレスの斧仲間であり、そして【斧魔法】が発現する原因となった男だ。

「モヒカン……?」

 彼の仲間達が訝しげにその名を呼ぶ中、彼は静かに語りだした。

「確かにあの斧魔法はとんでもねぇ効果さ。だが、あれだけのデケェ力を手に入れる事が出来たのはゴンザレスの信念と執念、そして斧への愛があったからだ」

 そう語るモヒカンの目には友への友情と、敬意と、ほんの少しの嫉妬があった。

「何せ……斧以外の武器スキルを習得したり、斧以外の武器を装備したり、斧への信頼や愛が失われた瞬間に……斧魔法は二度と使う事が出来なくなる……いや、もしそうなった場合、ゴンザレスのキャラクターデータはその瞬間に消滅し、二度とこのゲームをプレイする事が出来なくなるだろう。それくらいの重い制約を、あいつは背負っているんだぜ」

 そのモヒカンの言葉を聞いた、周囲の者達が驚愕し、開いた口が塞がらなくなる。

 そう……モヒカンが言った通り、ゴンザレスは斧魔法を習得する際、一つの誓いを立てた。それは生涯斧以外の武器を使わず、斧を信じ、愛し続けるという誓いだ。掲げた自らの斧にそれを宣言して念じた瞬間に、彼の意志にシステムが応え、斧魔法という新たな力を与えたのだった。

「頑張れ、ゴンザレス。お前こそが最高の斧使いだ」

 モヒカンはこの戦いの結果がどうなろうと、最後までゴンザレスを信じて見守ろうと、全神経を集中させた。その一方で、闘技場ではゴンザレスが黄金色の闘気をその身と斧に纏い、おっさんに向かって突進する。

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 小細工も何もない、ただ鍛えた肉体と、技と、そして斧に全てを委ねて、全身全霊の突撃を。そんなゴンザレスの攻撃を、おっさんは……

「オラァァァァァァッ!」

 両手に握った漆黒の魔導銃剣、ブラックライトニングを正面から叩きつけて迎撃した。金属同士がぶつかり合う激突音が発生し、そして……

「ぬぅぅぅぅぅぅっ!」

「ちぃぃぃぃぃぃっ!」

 闘技場の中心で、両者が一歩も退かずに鍔迫り合いを繰り広げていた。

「馬鹿なっ!?なぜ互角にっ!?」

「今のゴンザレスと正面から押し合っているだと!?一体どういう事だ!?」

 観客席にいる一般プレイヤーのみならず、闘技場内で待機している熟練のβテスターまでもが疑問の声を上げる中、カズヤがおっさんを指さして言う。

「おっさんの体を覆っているエフェクトを、よく見てみろ」

 その言葉に従い、おっさんを凝視した者達が驚きの声を上げる。

「あの赤いオーラは【修羅点穴】……だが、それだけじゃないな」

「小さい金貨のエフェクトが、おっさんの周りに浮かんでいる。あれは……」

「【ゴールドラッシュ】だ。決して少なくない額のゴールドを消費して、消費量に比例して全ステータスを上昇させる、商人プレイヤーの切り札……」

「それだけか?まだ何かあるんじゃ……」

「むっ……見ろ、おっさんの武器を!」

 一人のプレイヤーが、おっさんが持つブラックライトニングを指した。よく見れば、それが赤熱化しているのが確認できるだろう。

「……あれは【オーバーロード】」

 狙撃銃を背負った女性プレイヤーが、そのアビリティの名をぽつりと呟いた。彼女が口にした【オーバーロード】は魔導銃をはじめとする魔導兵器に対して使用可能な、【魔法工学】スキルに属するアビリティである。その効果は文字通り、指定した魔導兵器に過負荷(オーバーロード)を与えて、耐久値を著しく消耗させる代わりに限界を超えた性能を引き出すという物だ。

「修羅点穴にゴールドラッシュ、オーバーロード……他にも幾つか強化(バフ)乗せてるか。おっさんがそこまでやって、ようやく互角……」

「いや、見ろ!僅かにだがおっさんが押してるぞ!」

 そのプレイヤーが言った通り、一歩も退かずに武器をぶつけ合う両者の均衡が崩れ、ゴンザレスが徐々に押され始めていた。アルティメット・アックスの効果によってダメージは無いとは言えども、全力で自己強化をしたおっさんの猛攻によってゴンザレスの体勢が崩される。

「オラオラ、どうした!もう疲れたか!?」

「ちぃぃっ!この俺様が、正面からの殴り合いで打ち負けるだとぉッ!?」

 やがて、その様子をじっと見ていたカズヤが口を開いた。

「キャラクターの性能(スペック)自体は、ほぼ互角と言えるだろう。だがおっさんにあって、ゴンザレスに無い物が二つある。勝負を分けたのはそれだろう」

 彼の言葉に、その場にいたプレイヤー達が敏感に反応する。

「カズヤさん……それはいったい?」

「戦闘技術、そして実戦経験だ。ゴンザレスにそれが無いとは勿論言わないが……それでもおっさんの持つそれには、残念だが遠く及ばないだろう」

 そうカズヤが指摘した通り、おっさんには長年の経験により積み重ねた経験と、それに裏打ちされた確かな技術があった。

 そして何よりおっさんが優れているのは、先を読む能力である。相手の僅かな反応から思考を読み取り、行動を察知し、常に先手を打つ。本気になったおっさんのそれは、速度・精密性ともに人間の限界を超えており、もはや未来予知の域に達していた。そしてそれは、戦闘が長引けば長引くほどに、よりデータが蓄積されて精度が上がってゆく。

 そうである以上、パワーやスピードが互角ならば、おっさんが負ける道理は無かった。

「こいつで終わりだ!」

 おっさんの連撃が遂にゴンザレスの斧を弾き飛ばし、ガラ空きのボディに魔導銃剣のブレードが二つ纏めて突き刺さる。

「【ベルセルクトリガー】ッ!」

 試練の塔の攻略やシャークギドラとの死闘によって【魔導銃剣】スキルのレベルが上がった事で、新たに習得した奥義アーツのひとつが発動する。全力で左右のブレードを突き刺した状態で、装填中のカートリッジ内に残った全ての魔力をブレードに集め、敵の体内に直接叩きつける大技だ。拳銃型の魔導銃や、その派生武器である魔導銃剣には連撃系のアーツが多いが、これはその中では珍しい、単発威力のみに特化した技であった。

 その一撃を受けて、ゴンザレスが倒れる。おっさんの勝利である。

 決着が付いた事で、すぐに待機していた救護班が駆け付け、蘇生魔法を使ってゴンザレスを復活させた。起き上がったゴンザレスは、おっさんにその巨体同様に大きな右手を差し出した。

「流石だぜ、おっさん。俺様もまだまだ修行と斧への愛が足りなかったようだ!」

 悔しさが無い筈がない。それでもゴンザレスは気持ちの良い笑顔を浮かべて、おっさんに握手を求めた。素晴らしい漢ぶりである。

 おっさんはそれに応え、その手を力強く握った。その瞬間に、会場全体から両者に惜しみない拍手が送られる。

「二人とも凄かったぞぉぉぉぉ!」

「よくやったぞゴンザレス!ナイスアックス!」

「「「「「アックス!アックス!アックス!」」」」」

 そして敗北し、舞台を降りるゴンザレスにアックスコールが送られる。そんな彼の背中を見送るおっさんの手の中で、ピシッ……という破壊音が鳴り響いた。

 見れば、おっさんが手にしている魔導銃剣、ブラックライトニングは銃身やブレードに罅が入り、破損状態になっているではないか。

『ブラックライトニング 耐久度:0/54』

 現在この武器は、耐久度がゼロになっており、修理するまで使用できない状態になっていた。おっさんが使用していたアビリティ【オーバーロード】のデメリットと、ゴンザレスの斧と正面から打ち合った事によるものだろう。

「ジィィィィィィィィィィク!」

 おっさんが知己の魔導技師、ジークの名を呼ぶと、観客席の最前列に居たジークが返事をする。おっさんは彼に、壊れたブラックライトニングを投げ渡した。

「うおっ危なっ!重っ!」

 ジークは化け物サイズの魔導銃剣二つを何とか受け取ると、おっさんに抗議の視線を向けた。おっさんはそれに構わず、ジークに向かって言う。

「修理頼むわ!金後払いで!」

「しゃーねぇな……報酬は弾んで貰うぜ、おっさん!」

 ジークはそう言って受け取ったブラックライトニングを床に置き、修理キットや工具を取り出し始めながら、周囲の者達に言う。

「はい、ちょっと場所開けてね。これから大急ぎで修理するんで、多少うるさくなるけど勘弁な。はいそこ、離れて離れて。危ないぞー」

「えぇ……」

「ここでやる気かこいつ……」

 周囲の者達が軽く引きつつ、ジークの巧みな修理の手際に見惚れた。

 そしておっさんは煙草を一本取り出して咥えると、残った九十八人のプレイヤーへと向き直り、再び挑戦者を募るのだった。

「さあ……次はどいつだ?」

 惜しくも敗れ去ったとは言え、おっさん相手に奮闘したスピアキングとゴンザレスの勇姿が、彼らの心に火をつけていた。もう待ちきれない、次は俺の出番だと言わんばかりに、彼らが一斉に武器を握っておっさんに向ける。


 戦いはまだ始まったばかりで、この後も数多の名勝負が繰り広げられるのだが、文字数やら話数やら書籍版のページ数やらの関係で、残念ながらその全てを語る事は出来ない。

 その詳細について、いずれ語る機会がある可能性はあるが、今この場では結果だけを語ろう。この後おっさんは残った対戦相手と深夜になり、日付が変わるまでぶっ続けで戦い続け、無敗のまま九十九人までを撃破した。

 そして今、おっさんは残った一人との、最後の戦いを始めようとしていた。

「最後はおめぇか、カズ坊」

「ああ。勝負だ、おっさん」

 最後に残った対戦者はカズヤだった。おっさんの依頼によってこの場に強者を集めた彼は、その頼みを聞く条件として、最後に自分と戦う事をおっさんに約束させた。

「おっさんとカズヤさんの戦いか……どっちが勝つか……」

「俺はカズヤさんに賭けるぜ。だってよぉ……いくらおっさんでも、九十九人抜きの後にカズヤさんと戦うのは、流石に厳しいだろ?」

「そうだな……疲れもあるだろうし、おっさんが不利……だよなぁ。常識的に考えれば」

 大一番を前に、勝敗予想をする観客達が囁く声を耳にして、おっさんは不敵に笑った。

「あいつら、何もわかっちゃいねぇな。今の俺は絶好調だ。誰が相手でも負ける気がしねぇ」

 おっさん自身がそう言った通り、今のおっさんはかつてない程に絶好調であった。確かに連戦による疲れはあるだろうが、おっさんはその程度の疲労で音を上げる程に柔ではない。若い頃は、何日もの間ほぼ休み無しで戦い続けるような事はざらにあったのだから。

「何せ、俺は尻上がりだからな。ようやく体が暖まってきたところだ」

「ふっ……スロースターターにも程があるだろう」

「バーロー、俺はジャンボジェット機なんだよ。てめぇらのような小型機と違って、離陸して最高速度に乗るまで時間がかかるのさ」

 自身を航空機に例えて、おっさんは自信満々にそう言った。その例えの通りならば、おっさんは今まさに最高速度に到達したところである。

 そしてそれは、カズヤも重々承知の上の事。

「それでこそ、倒し甲斐がある」

「ぬかしやがれ。お前が俺を倒すにゃ五年は早ぇ」

 両者の視線が交わり、火花を散らす。

 今ここに、最後の戦いが幕を上げようとしていた。

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