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謎のおっさんオンライン(改)  作者: 焼月 豕
Bigining of the Tyrant
17/38

謎のおっさんホームランダービー!

 世界初のVRMMORPG「アルカディア」の正式サービス開始から半月以上が経過した。この日はサーバーのメンテナンスと共に、記念すべき一回目の大型アップデートが実施された。

 そしてメンテナンスが明けると共に、その驚くべき内容が公式ホームページへと掲載される。


【大型アップデート第一弾 テーマは『お前を殺す』】


 プレイヤーの皆様、いつもアルカディアを楽しんでいただき、ありがとうございます。突然ですがお前を殺す。

 本日のお前を殺す為のアップデートの詳細内容を発表します。


 ①新たなスキルやアビリティ、アーツや魔法を実装しました。これを使ってお前を殺す。

 ②既存エリアに新しいモンスターを複数実装し配置しました。新しい敵がお前を殺す。

 ③新たなクエストや緊急ミッションを実装しました。これに挑むお前を殺す。

 ④インスタンスダンジョン【精霊窟】を実装しました。強力な敵と多数の罠がお前を殺す。

 ⑤開始条件が満たされた為、グランドクエストが開始されます。それはそれとしてお前を殺す。


 今後もアルカディアをよろしくお願いします。そしてお前を殺す。


「どんだけプレイヤーを殺したいんだよクソ運営ェ……」

 呆れながらもプレイヤー達は、我先にと新しく実装されたダンジョンへと詰めかけた。ある者は経験値稼ぎや、自身を鍛えるために。またある者はダンジョンに眠る財宝を狙って。そしてまたある者は、最難関のダンジョンを最初にクリアする栄誉を得るために。

 そうして数多くのプレイヤーが己の目的の為に、ダンジョンへと集結した。

【精霊窟】と名付けられたダンジョンは、城塞都市ダナンの東西南北にそれぞれ一箇所ずつ出現していた。【火霊窟】【水霊窟】【風霊窟】【地霊窟】の四つで、それぞれ異なる属性のモンスターが多数出現する。

 これらのダンジョンは入場するパーティー毎に別々のエリアが生成されるインスタンスダンジョン方式で、五段階の難易度を選択可能だ。

 難易度は簡単な方から順に、ノーマル・モード、ハード・モード、スーパー・ハード・モード、ヘル・モード、インフェルノ・モードの五段階だ。イージー・モードなどという甘っちょろい物は存在しない。

 多くのプレイヤーはまず、小手調べにとノーマル・モードから挑む事にした。そしてその先で、彼らは運営の「お前を殺す」発言が本気である事を悟ったのだった。

 一番簡単なノーマル・モードですら、既存エリアのモンスターよりも強力な物が多数出現し、それと同時に多数の罠がプレイヤーに襲いかかり、問答無用で殺しにかかって来ていた。

「難易度が高すぎる。調整しろ」

「まともに遊ばせる気があるのか。もっとユーザーに親切にしろ」

「そもそもユーザーに向かって殺すとかふざけてんの?」

 等といった苦情も多く寄せられたが、それに対する運営チームの対応は、

「難易度の低下は一切いたしません。このゲームはプレイヤーの皆様の成長に制限を設けておらず、無限に成長が可能である為、いずれはクリア出来る筈なので頑張って下さい」

「このゲームは究極の自由度を謳い文句にしており、ユーザーの行動を制限しない代わりに甘やかす事も一切しません。親切設計のゲームがお望みならば他のタイトルを遊ぶ事をお薦めします」

「うるせえ殺す」

 といった強気な物だった。

 流石はこのご時世にチュートリアルすら無し、大幅なデスペナルティ有り、ワールド全域でPK・犯罪行為が可能といったストロングスタイルの上に成長リソース無限という狂ったシステムを構築したクソ運営である。ヌルゲーマーは去れと言わんばかりの態度に一部の者達は去り、残った者達は喝采を送った。


 *


「ノーマル周回PT、盾役と回復役を一人ずつ募集してまーす!」

「両手剣アタッカーです。拾ってくれる方いませんかー?」

「ハード挑戦PT、メンバー募集中です!ある程度戦える盗賊・罠スキル持ち歓迎!」

 ここは精霊窟の一つ、街の西方に位置する火霊窟だ。実装から数日が経過したが、ダンジョンの前には多くのプレイヤーが集まり、大いに賑わっていた。

 ダンジョンの手前にはモンスターが出現しない広場があり、彼らはこの場所でパーティーメンバーの募集や準備を行ない、迷宮へと挑むのだ。

 そしてその場には、この物語の主役であるおっさんの姿もあった。彼は一体ここで何をしているのだろう。一人で迷宮へと挑まんとしているのか?それとも、パーティーメンバーを探しているのか?いいや、その答えはどちらも否である。

 おっさんはダンジョン前の広場にて商売スキルのアビリティ【コール・カート】を使用してアイテムが満載された荷車を召喚し、それを屋台と変形させていた。これを使用する事で、プレイヤーは露店を開く事が出来る。

 おっさんが開く露店に並べられているのは、武器や防具、消耗品の類だ。そう、おっさんはこの場で商売をしていた。

 おっさんが作り出した高性能なアイテムは、ダンジョンに挑もうとするプレイヤー達に飛ぶように売れていった。また装備品の強化や修理、オーダーメイドも同時に行なっていた。

 そんな彼の隣には鍛冶師テツヲ、魔導技師ジーク、料理人クック、裁縫師アンゼリカ、木工職人ゲンジロウといった、おっさんの友人兼職人仲間の姿もあった。

 彼らもまた、おっさんと一緒に自分達が作ったアイテムを販売し、利益を上げているのだった。

 彼らはこう考えたのだ。

「焦って攻略するより、集まった連中を相手に金稼いだほうが美味くね?」

 と。その考えは正しかったようで、彼らの露店は大盛況だった。高品質な装備品や料理はただでさえ需要が多いし、また迷宮で得た素材を持ち込んで製作や強化を依頼する者や、傷付いた装備品の修理を依頼してくる者、料理を注文してそれを食べる者の姿も多くあった。

「ありがとよクック、おめぇの料理の匂いで人がよく集まってるぜ」

「いえいえ、おっさんには荷車の契約や改造等の初期投資資金でお世話になりましたから、これくらいはお安い御用ですよ。アンゼリカさんも目立つように露店に飾り付けをしてくれましたし」

「お礼を言われるほどの事ではありませんわ。人を集めるためには見た目の華やかさも必要ですもの」

 クックが迷宮の入口で料理を作り、販売する。すると迷宮に入る前に高級な料理を食べて英気を養いつつ、ステータス強化などの食事効果を得たい者達が飛びついた。そしてクックは客達に、さりげなく隣にあるおっさん達の露店を紹介した。

 プレイヤー達がそちらを見れば、そこにあるのは高価だが、それに見合う強力な付与効果付きの、品質6や7の装備品だった。

 これから難易度の高いダンジョンに挑むからには、それらがあれば非常に心強い。前述の通り、おっさん達は素材持ち込みのオーダーメイドや、装備の強化・修理も請け負うため、冒険を終えたプレイヤー達が戦利品の素材を持って訪れる。

 こうして彼等はこの数日間で、莫大な利益を得た。同時にに生産スキルや商売スキルのレベルも鰻上りであり、笑いが止まらない状態だ。

「最前線が一番物がよく売れるからな。特に装備品や料理、薬の類はな」

「いやはや全く、ダンジョン様々ですね。調合スキルも取るべきですかね」

「おう、取っとけ取っとけ」

 攻略などガン無視で金稼ぎに走る職人達であった。

 攻略は後からでも出来る。だが商売で最大限の利益を上げられるのは、未だに大半のプレイヤーがハード・モードすらクリア出来ておらず、人が大量に集まる今しかないのだ。ゆえに、今はこのまま順調に商売を続けようではないか。

 おっさんがそう思っていた時、周囲に集まるプレイヤー達が、突然にわかに騒ぎだした。おっさんが彼らの注目する方へと目を向けると、人だかりが二つに割れる。その間を歩いてくる、一人の男が居た。

 歳は二十台前半ほど。長身痩躯の、恐ろしく整った顔の美丈夫だ。灰色の髪に、眩しく輝く黄金色の瞳。背中に二振りの片手剣を交差させて背負い、そして全長50cmほどの大きさの、純白のドラゴンの子供を連れている。

 彼こそは【龍王(ドラゴンロード)】の二つ名を持つトッププレイヤー、カズヤ。元βテスターであり、七英傑の一人。そしてプレイヤーの中で誰が最強かという議論が起これば、おっさんと並んで真っ先に名前が上がる人物だ。

「おうカズ坊、ダンジョン探索か?」

 おっさんがその名を呼ぶとカズヤは頷き、おっさん達の前へと立った。

「ああ、久しぶりだなおっさん。最近はここで露店を開いていると聞いたが」

「そうだな。良い感じに稼がせて貰ってるぜ。それで?この俺に何の用だい」

「インフェルノ・モードに挑戦する。俺とパーティーを組んでくれ」

 おっさんの問いに、カズヤはそう答えた。

「ヘル・モードまでは攻略完了したが、インフェルノは流石に一人では厳しそうなのでな……」

 本人は至極あっさりと言うが、カズヤは超高難易度のヘル・モードを単独で攻略完了したと言う。だが、それを聞いたおっさん達は平然とした様子である。

(まあ、こいつならやるだろうな)

 その場に居た者達の感想は概ねそのようなものだ。

「……そんなに急いで攻略してどうするんだ?別に今すぐインフェルノに挑まなくても良いんじゃねえか?」

 カズヤは最高難易度のインフェルノ・モードに挑む為におっさんの力を借りたいと言ったが、わざわざそうしてまで挑む理由は何だろうかと気になったおっさんが尋ねる。

 同時におっさんは、カズヤが焦っているように感じた。その理由がカズヤの口から語られる。

「俺も最初はそう思っていたんだが……今やっているクエストの、次の進行条件がインフェルノ・モードをクリアする事でな。やらない訳にはいかないんだ」

「……ほう?何てクエストだ?」

「……グランドクエスト【女神の封印】だ」

 カズヤのその発言に、周囲で耳をすませて立ち聞きしていたプレイヤー達がざわめいた。

 クエストとは、プレイヤーが受注して、各クエスト毎に設定された条件を満たしてクリアする事で経験値やゴールド、アイテムといった報酬を入手出来る物だ。

 それには幾つか種類があり、プレイヤー一人につき一度しかクリア出来ない【メインクエスト】、一日に一回クリア可能で、毎日繰り返す事でコンスタントに報酬を獲得出来る【デイリークエスト】、プレイヤーが他のプレイヤーに依頼をする為に発行する【プレイヤークエスト】等と様々だ。

 そして【グランドクエスト】とは、ワールドの全プレイヤーの間で進行度が共有される、最大の規模と重要度を持つクエストである。

 それは一般的なRPGで言うところの「ドラゴンを倒して姫を助け出す」「魔王城への道を開く為にダンジョンに向かい、配下の四天王を倒す」というような、物語の根幹部分にしてプレイヤーの最大目的である、メインシナリオのような物だ。

 カズヤが言うには、既にグランドクエストは始まっており、彼と何人かのプレイヤーがある程度まで進行していたとの事だ。そして、その次の手順が最高難易度であるインフェルノ・モードのダンジョンを攻略し、あるユニークアイテムを入手する事らしい。

「と言うかだな、クエストウィンドウを開けば書いてあるぞ……?」

「え、マジか?……マジだったわ」

 おっさんがクエストウィンドウを開くと、その中には新たに「グランドクエスト」のタブが追加されており、そこにクエストの情報が記載されていた。

 それによると既に幾つかの目標は達成されており、次の目的は火霊窟の最高難易度を攻略する事で間違いが無いようだ。

「全然気付かなかったわ。普段クエストウィンドウとか開かねぇからな」

「おっさん、クエストに興味無い人だしな……」

 オンラインゲームにおいて、クエストは必ずやらなければならない物ではない。ゲームによっては普通にモンスター狩りをするよりも遥かに効率が良く、クエストの進行を強く推奨されている物もあるが、このアルカディアはそうではなかった。

 やりたい時にやればいいし、やりたくないなら一切やらなくても構わない。自由とはそういう物だと言うスタンスだ。故におっさんのように、クエストに興味を持たずに殆ど手を出さないプレイヤーも一定数居た。逆にカズヤのように積極的にクエストを攻略する者達も居る。

「そんな訳で、おっさんの力を借りたい。協力してくれ」

「うーん…………駄目だな。悪いがお断りだ」

 理由を告げ、カズヤが再度協力を要請するが、おっさんはその頼みを断った。

「……理由を聞いてもいいか?」

 カズヤの問いに、おっさんはこう答えた。

「当然、理由は色々とある。だがそれを言う必要は無ぇな」

 今は商売中で忙しい、攻略が終わってしまったら人が減って儲けが少なくなる恐れがある、今はダンジョンに潜る気分じゃない、そもそも面倒臭い等と、おっさんは挙げようと思えば幾つか理由を挙げられたが、それらを一切口にせず、挑発するような物言いをする。

「大体よ、そんな風に頼まれたところで俺は動かねぇって、お前は知ってる筈だぜ」

 そう、おっさんは幾ら頭を下げて頼まれようと、やりたくない事はやらない主義だ。そんな男を動かす方法は、誠意をもって頼み込む事ではない。

「前にも教えた筈だぜ。俺を動かしたかったら、頭の高さまで金を積むか、代わりに何か面白ぇ物を提供するか、殴り倒して無理矢理働かせるかの三つしか無ぇってな」

 まあ最後のは誰にも無理だから、実質二つだがなとおっさんは付け足した。

 おっさんはナナやアーニャ、シンクのような初心者プレイヤー、未成年の子供、そして女性といった者達には幾らか優しい所を見せる所はあるし、気分次第だが無償で頼みを聞く事もある。だが相手が成人男性であれば話は別であった。

 まして、このカズヤというプレイヤーは、おっさんが対等の好敵手と認める数少ない男だ。その頼みをおっさんが、そう簡単に聞くわけがない。

「さあ、どうする?」

「……そうだな。一応筋は通すべきだと思って事情を話したが、最初からこうするべきだったな」

 溜め息を一つ吐いて、カズヤは背負った二本の長剣を抜いた。それを見ておっさんも、アイテムストレージから魔導銃剣【ブラックライトニング】を取り出して装備した。

「「何事も暴力で解決するのが一番手っ取り早い」」

 同時に同じ言葉を口にし、彼らは向かい合った。

「……決闘だ!」

「おっさんとカズヤさんの決闘だ!場所を開けろ!」

 周囲のプレイヤー達がにわかに騒がしくなる中で、カズヤがメニューを操作して決闘(デュエル)の申請を行なう。するとおっさんの前にシステムメッセージと選択肢が表示された。

『カズヤさんから決闘の申請が行われました。決闘を行ないますか? Yes/No』

 決闘とは文字通り、プレイヤー同士が一対一で行なう対戦だ。通常のプレイヤーキルとは異なり、これによって対戦相手を殺害したとしても悪名値は上昇しない。また、デスペナルティの有無や決着方法などの細かいルールを設定する事も出来る。

「ルールデスマッチモード。デスペナルティ、アイテムドロップ有りで良いな」

「ああ構わねえ。おっ、そうだ。ダメージレートは300%にしようぜ」

「良いだろう」

 彼らは最も過酷なルールを選択した。どちらかが死亡するまで勝敗が付かないデスマッチモードに加え、敗者は経験値とアイテムを失うルール。更にお互いに受けるダメージが三倍になり、全ての攻撃が致命傷になりかねない過激なオプションをも追加する。


決闘開始(デュエルスタート)


 カウントダウンの後にそのメッセージが表示され、決闘が始まった。おっさんとカズヤが同時に動き出す。

 おっさんは二挺の魔導銃剣を、カズヤは二振りの長剣をそれぞれ振るい、それらがぶつかり合う。おっさんが斬りかかればカズヤがそれを剣で受け止め、カズヤの突きをおっさんが魔導銃剣のブレードで受け流す。互いに至近距離で無数の斬撃と刺突を繰り出しながら、その全てを完全に防ぎ、あるいは躱しながら反撃する両者。

「何だあいつら!?速すぎて何やってんのか全然わかんねえ!」

「なんか物凄い勢いでガーキャン&カウンター合戦して、お互い全部防いでる件について」

「あれ確反じゃねぇの?何でパリィ間に合ってんの?」

「先読みだろ?見てからじゃ間に合う訳ねぇし、事前に防御アビ入力してんだろうよ」

「そっちの方が恐ろしいわ!いったい何手先まで読んでるんだよ……」

 ギャラリーが彼らの動きに戦慄するが、驚くのはまだ早い。

「そろそろ準備運動は終わりにするか?」

「そうだな。では此方から仕掛けさせてもらう」

 彼らは驚くべき言葉を口にした。並のプレイヤーやモンスターならばとっくに細切れになっているであろう連続攻撃の応酬が、ただの準備運動だと言うのだ。

「行くぞ。【マジックエンチャント:アイスボルト】」

 カズヤが右手に握った剣でおっさんに斬りかかり、それをおっさんが防ぐ。そこまでは先程と同じ流れだが、その瞬間にカズヤの周囲に複数の氷の矢が現れ、それらが一斉におっさんに降り注いだ。

「チッ、魔法剣か……」

 魔力弾を放って氷の矢を撃ち落としながら、おっさんが呟く。

 そう、カズヤが使用したのは魔法剣スキルに属するアビリティ、マジックエンチャントだ。装備した武器に魔法を宿し、物理攻撃をトリガーに自動的に魔法を発動させる事が出来る。幾つかの制約やデメリットこそあるが、物理攻撃と魔法攻撃を同時に行なう事が可能だ。

 おっさんも負けじと、魔導銃剣を使った射撃と斬撃のコンビネーションで応戦するが……

「まずいぞ。この勝負……」

「ああ、おっさんが不利だ」

「うむ。このままではいずれ詰まされるのう」

 テツヲ、ジーク、ゲンジロウが口々にそう言うと、程なくして彼らの言葉通りに、おっさんが少しずつ押され始めた。

「さて、いつまで耐えられるかな」

「チッ、うざってぇ……!」

 戦況は徐々にカズヤに傾いていった。その理由は単純明快、手数の差だ。

 おっさんが使う魔導銃剣は非常に大型で、重く、バランスが悪く扱いにくい武器だ。おっさんはそれを卓越した技量で使いこなしてはいるが、武器の性質上、どうしても動きは鈍くなる。

 そのデメリットは並大抵の敵が相手ならば気にならないレベルの物だが、相手がこの男、カズヤであれば話は別だ。ましてやカズヤは二刀流と魔法剣の組み合わせにより、全プレイヤー中トップクラスの手数を誇る敵だ。

 その猛攻を前に、流石のおっさんも守勢に回らざるを得なくなる。このままではいずれ圧殺されるかと思われたが……

「オラァッ!」

 いつまでも好き勝手にさせたまま、黙ってやられるおっさんではない。おっさんはカズヤのごく僅かな隙を見逃さず、魔導銃剣を豪快に振るって狙いすましたカウンターを放った。

 その一撃は剣で防御されるが、重い一撃によってカズヤが押し返される。同時におっさんはバックステップで距離を取ると、二挺の魔導銃剣を真上に放り投げた。

「フンッ!」

 そしておっさんは、自らの身体に指を突き入れた。これは生命力をコストに身体能力を大幅に強化するアビリティ【修羅点穴】だ。

 強化を終えると同時に、おっさんは落ちて来た魔導銃剣を掴み、猛然とカズヤに襲い掛かった。

「オラオラ、どうした!」

「くっ……まだまだ、これからだ!」

 手数と攻撃の多彩さでおっさんを追い詰めていたカズヤに対して、おっさんは圧倒的なパワーで押し返し、逆に押し潰そうとする。

 僅かな隙を見逃さない観察眼と、弱点を正確に狙う技巧。それに加えて防御の上からでも容赦なく体力を削るパワー。それによって、おっさんは不利だった戦況を五分以上に戻した。

 だがカズヤも負けじと回転を上げ、剣技と魔法剣の組み合わせに加えて、戦いながら魔法を高速詠唱して連続で放つ。

「やっぱりおっさんが最強だ!パワーとテクニックのハイレベルな融合!単純明快、誰でも分かる最強の組み合わせだ、負ける道理が無いぜ!」

「いいや、俺はカズヤさんを推すね!剣と魔法を完璧に組み合わせ、実戦で使いこなすセンスと技量!あの人ならきっとやってくれる!」

「なら賭けるか?」

「乗った!」

 ギャラリーの興奮も最高潮に達したところで、彼らは勝負に出た。先に動いたのはカズヤだ。【ハイジャンプ】を使用して跳躍し、おっさんの頭上を取ると同時に、彼は空中で滞空しながら魔法を詠唱する。

「させるか!」

 おっさんが上空のカズヤに向かって連続で魔力弾を放ち、詠唱を阻害しようとするが、カズヤは詠唱を続けながら、両手の剣を操り魔力弾を全て弾き飛ばす。

「【サンダーストーム】!」

 広範囲に雷を落とす電撃属性の魔法が放たれるが、おっさんは後方に跳んで範囲外に出る事でそれを回避するが、カズヤは既に次の魔法の詠唱を終えていた。

「【ファイアボルト】」

 合計八発の炎の矢を放つと同時に、カズヤが空中を蹴っておっさんに急接近する。魔法で牽制し、相手の体勢を崩して剣で仕留める、彼の最も得意とするパターンだ。

「【ミスディレクション】!」

 だがおっさんもカズヤのやり方は熟知している。飛来する炎の矢に対しておっさんは、対単体の魔法の対象を強制的に変更させるアビリティを使用した。それによってカズヤが使ったファイアボルトの対象が彼自身へと変更され、跳ね返される。

「【ファイアマジックシールド】!」

 己の魔法を逆利用されたカズヤだったが、それを冷静に防御魔法で防ぎながら剣を振り下ろす。

「まだまだ!」

 落下の勢いを乗せた重い振り下ろしの一撃を魔導銃剣のブレードでジャストパリィしつつ、おっさんは奥義アーツによるカウンターを狙う。

「【地龍昇天脚】!」

 かつてモヒカンを破った、跳躍しながら強烈な蹴りを放つ対空格闘アーツが放たれる。それに対してカズヤは、二本の剣を交差させてそれを受け止め……

「貰った!」

 カズヤはおっさんの蹴りを剣で止めると同時に、その反動を利用して空中で再び跳躍した。そのままおっさんの頭上で宙返りをしながら、カズヤは一瞬でおっさんの頭上へと回る。

「おおっ……!」

「なんて華麗な……」

 そのカズヤの動きに、ギャラリーが目を奪われる。だがその見た目の華麗さとは裏腹に、カズヤが次の瞬間に放った技は、なかなかにえげつない物だった。

「【飛天絶影】!」

 空中で武器防御を行ないつつ、相手の攻撃の勢いを利用して跳び上がり、一瞬で頭上の死角を取る。そして必殺のカウンターを放つ攻防一体の奥義【飛天絶影】が放たれた。

「凄ェ!流石カズヤさん!あのおっさん相手に完璧なカウンターを!」

「これは決まったか!?」

 その超絶技巧にギャラリーが思わず喝采を上げ、彼の勝利を確信する。だが相手はおっさんである。当然そう簡単にやられる訳がない。

 おっさんはカズヤが放った必殺のカウンターに対して、更なるカウンターを重ねようとしていた。

「【破鳳拳】!」

 おっさんは右手の魔導銃剣を手放し、空いた拳を真上に突き上げる。一撃必殺の対空奥義を、おっさんはカズヤの飛天絶影に重ねた。

 互いに一撃必殺の奥義をぶつけ合った両者。その結果は……

「ぬぅっ……!」

「ちぃッ……!」

 二人が放った奥義が、全く同時に相手に命中した。そう、結果は相打ちだった。


【DRAW】


 二人のHPが同時に0になった事で、引き分けの判定が下された。ダメージレート300%のルールで、奥義のクロスカウンターが相打ちで急所に直撃したのだ。当然の結果と言えるだろう。

 二本の剣で頭から股下まで切り裂かれたおっさんと、顎を強打されて吹き飛んだ後に頭から地面に落下したカズヤが倒れる。

 だが次の瞬間、死んだ筈の二人が勢いよく立ち上がった。そのHPはどちらも全回復している。

「あ、あいつら課金アイテム使いやがった!」

 そう、彼らは死亡時にデスペナルティを打ち消し、その場で完全回復して復活する課金アイテム【復活の宝珠】を使用していたのだ。ちなみに復活の宝珠は一個百円で販売しており、十二個セットで買うと千円と少しお得になっている。アルカディアをプレイする際に難易度の高いエリアで狩りをする際は、買っておくのも良いだろう。

 立ち上がったおっさんとカズヤが鬼の形相で睨み合い、火花を散らす。

「引き分け……けど、あいつらまだやる気だぞ。この先どうなるんだ……?」

「わからん。だが、このまま終わるとは思えん……」

 周囲のプレイヤーが声を潜めて話す通り、決闘は引き分けに終わったが本人達はその結果を良しとしていなかった。

 始めた以上、決着は付けなければならない。相手を完膚なきまでに打ち倒し、勝利するまで彼らは止まるつもりは無かった。

 その時、おっさんがアイテムストレージから、あるアイテムを取り出した。

「ふん……決闘は互角か。どうする?引き分けで満足しておくか?」

「まさか。勝ち筋が見えているのに、退く馬鹿がどこにいる」

「言うじゃねえか。だが、このまま決闘の続きってのも芸が無ぇな」

「ならばどうする」

「そうだな……だったら、こいつで決着を付けようじゃねえか!」

 おっさんが取り出した物を掲げて言う。それは木製のバットであった。

「いいだろう……望むところだ!」

 おっさんの提案を受けて、カズヤもまたアイテムを実体化させる。その手には野球のグローブとボールが握られていた。

「おい、なんかあいつら野球をやり始めたぞ……?」

「どういう……ことだ……?」

 困惑する観衆達をよそに、おっさんとカズヤは勝負を始めた。プレイボール。

「行くぞ!」

 カズヤが大きく振りかぶってボールを投げ、おっさんがバットを構えてそれを迎え撃つ。神主打法と呼ばれる、神主がお祓いをする姿のように見える事が由来のバッティングフォームだ。

カズヤが投げたボールは外角低めギリギリにズバッと決まる時速180kmの剛速球だったが、おっさんはそれをバットで掬い上げるように打つ。

打たれたボールは綺麗な放物線を描き、空の向こうへと消えていった。文句なしのホームランだ。

「初手アウトローギリギリに全力ストレートか。悪くはねぇが、ちと安直だったな」

「くっ……次だ!」

 悔しげな表情でカズヤが次のボールをアイテムストレージから取り出し、再び投げる。今度は逆に、先程投げた場所とは対角線上の、内角高めギリギリの際どいコースを攻める。

「甘ぇんだよ!」

 外の後に内側といった対角線の投球は打者にとっては打ちにくい物だ。それが顔の近くに来る内角高めの球ならば尚更である。だがおっさんはその程度で打ち取れるほど甘くはなかった。

 起用に腕を畳み、内角の球を捉えるおっさんのバット。だがそれが球に当たる寸前に、カズヤが放ったボールの軌道が変化する。

「何ぃっ!」

 内角ギリギリに投げたはずのボールが、外角のボールゾーンに外れるほどの、打者から見れば直角に曲がったように錯覚する程の変化量を誇る高速スライダーに、おっさんが屈辱の空振りを喫する。これこそがカズヤが持つ七種の魔球の一つ、【ギロチンスライダー】である。

「チッ……やってくれたな。だが、二度は通用しねえぞ!」

 おっさんが気を取り直してバットを構えなおす中、一人のプレイヤーが声を上げる。

「どこかで見た顔だと思ってたが、今の攻防を見てようやく思い出したンゴ!カズヤさん、あの人は横浜ファントムズのエースで四番打者だった人や!そしてあっちのおっさんは新宿ブラックデーモンズのキャプテン!どっちも三年前の草野球の世界大会で猛威を振るい、両者が戦った決勝戦は今なお語り草になっている程やでぇ!」

 たまたまその場に居た、妙に草野球に詳しいプレイヤーが衝撃の事実を明かした。

 それはさて置き、二人はその後も勝負を続行し、遂に五十球目を迎えた。

 これまでカズヤが投げた四十九球に対するおっさんの対戦成績は、ホームランが三十九本、ヒット性の当たりが三本、凡打が二本、空振りが五つだ。

 五十球目のボールがカズヤの手から放たれる。コースはド真ん中の剛速球だが、ボールはホームベースに到達する直前に、おっさんに向かって急激に変化する。

 七種の魔球の一つにしてカズヤのウィニングショット【ドラゴンシュート】がおっさんの内角を抉るが、おっさんはそれに綺麗にバットを合わせる。

「最後はそれが来ると思ってたぜ!」

 おっさんがバットを全力で振り抜き、ボールを弾き返した。その打球の結果はライト前に落ちるシングルヒットだ。

 これにて五十球勝負が終わった。最終的なおっさんの成績はホームラン三十九、ヒット四、凡打が三、空振り四。打率は何と驚きの八割六分であり、その大半がホームランという驚くべき成績だ。

 そして、その結果によって勝敗が分けられた。

「クソっ!俺の負けか……!」

 おっさんが膝を付き、悔しそうに項垂れて地面を殴る。

「ああ。俺の勝ちだ……!」

 悔しげなおっさんと対照的に、カズヤは小さくガッツポーズを取って勝ち誇る。そう、この勝負はおっさんの敗北であり、カズヤの勝利に終わった。

「ああ……惜しかったなぁ……」

「うん。だが、良い勝負だった。心情的にはおっさんの勝ちにしてやりたいところだが……」

「だがルールは絶対だからな。打者側は四十本のホームランを打たない限り敗北になる。これは絶対不変のルールだ」

「うむ。何かがおかしい気はするが、それがルールだからな……」

「ああ。それが森の掟」

 そう、彼らが言う通り、この五十球勝負は四十本以上のホームランを打たない限り、どれだけヒットを打とうと打者の敗北になるという過酷なゲームであった!

「ヒットに何の価値も無いじゃないか」とか「投手に有利すぎる」といった文句を言いたい気持ちは痛いほど分かるが、それがルールなので仕方が無いのだ。

 かくしておっさんは惜しくも敗北し、カズヤに協力してダンジョン探索に参加する事になるのだった。

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