新武器完成!荒れ狂う黒き双雷!
モヒカンとの決闘から一夜明けた次の日、戦利品として複数のダークメタルを入手したおっさんは、工房へと足を向けた。
その目的は当然、武器の製作だ。ようやく必要な材料が揃った事で、おっさんは遂に新たな武器の製作へと取り掛かろうとしていた。
モヒカンにダークメタル製武器の製作で先を越されたのは、彼を殴り飛ばした今でも正直腹立たしい物があったが、おっさんはそれを一先ず忘れる事にした。
何しろ、遂に理想の新素材で新しい武器を作れるのだ。倒した雑魚の事をいちいち気にするよりも、武器作りに集中するべきだとおっさんは意識を切り換える。
「よし……始めるとするか」
おっさんはアイテムストレージから図面を取り出した。この図面はおっさんが自ら書いた物だ。それを元に、おっさんはダークメタルで武器のパーツを作り始めた。
「あれ、おっさん魔導銃作ってんの?見てていい?」
おっさんの武器作りを目敏く見つけて寄ってきたのは、白衣を着て眼鏡をかけた痩せ型の男、魔導技師のジークだ。彼の言葉が示す通り、おっさんが作っていたのは銃身や銃把といった魔導銃の部品だった。
「うるせえぞ、あっち行ってろ」
おっさんはジークを冷たく追い払うと、次は鍛冶台と金槌を使って刃物を作り始めた。
「おっさんおっさん、何で銃作ってる途中で剣打ってんの?俺すげー気になるんだけど」
戻ってきてしつこく話しかけるジークをパワーボム(相手を抱えて肩の高さまで持ち上げた後、背中または頭から床に叩きつけるプロレス技)で強制的に静かにさせたおっさんは、出来上がった部品を組み合わせて新しい武器を作っていった。
この時、おっさんが使用したアビリティは【魔導銃製作】ではなかった。おっさんが使用したのは、【新武器製作】という別のアビリティだ。
新武器制作、それは既存のカテゴリに存在しない、全く別種の武器を一から作る物だ。それによってプレイヤーは、既存の概念に囚われずに、自由に新種の装備を作り出す事が可能になる。
だが言うのは簡単でも、それを成功するのは容易ではない。
既存のカテゴリに無い物を作ると言う事はつまり、一般的に武器と呼ばれる物から外れた物を作らねばならない。だがそれを目的に奇抜すぎる物を作れば、武器という枠組みからも外れてしまい、完成品が武器として成立しなくなってしまうというリスクを背負う事になる。
この新武器製作が、なかなか成功しない理由がそれだ。このアビリティによって作られた物は、完成後にゲームシステムを管理するAIによって審査が行われる。その審査によって新しい種類の武器として認められれば、晴れて新たな武器カテゴリとしてシステムに登録され、同時にAIがその武器を扱う為のスキルやアビリティ、アーツを自動的に生成してくれる。
だが逆にAIが「これは武器ではない」「新しいカテゴリを作るほどの価値は無い」「それって既存の武器と何か違うの?」「品質が低い。作り直して、どうぞ」「何この産廃。ふざけてんの?」等と判断した場合、作ったアイテムは容赦無く抹消され、素材も全て無駄になる。
おっさんが作った武器は、二挺一対の拳銃だった。それだけならば何の変哲も無い魔導銃だが、新武器製作を使って作成した以上、それには普通の二挺拳銃とは明らかに違う点が幾つかあった。
まず最大の特徴はその大きさだ。おっさんが元々使用していた魔導銃も、拳銃にしては明らかにおかしいレベルのサイズだったが、今回おっさんが作った物はそれを更に上回る。
12・7mmの大口径に80cmを超える異常な長さの銃身という、もはや拳銃とは呼べぬ代物だが、おかしい所はそれだけではない。長い銃身の上には更に長いブレードが取り付けてあり、銃口を通り越して大きく前に突き出ている。現実世界の拳銃であれば照門や撃鉄が存在する箇所には大型の魔導ジェネレータが設置され、こちらは後ろに大きく突き出していた。
拳銃と呼ぶにはあまりに大きく、長く、重く、しかも何故かクソ長いブレード付き。そんなバランスや使う人間への配慮といった言葉を何処かに置き忘れてきたような代物が、おっさんの手によって完成した。それも二つもだ。
【神器級】と呼ばれる品質8以上のアイテムだった。その性能は品質7以下の物とは隔絶した物であり、それだけ品質7以下と8以上の差は大きいという事だ。
余談だが、この品質8以上の神器級アイテムの性能と製作難易度を指して、職人達は「7の壁」と呼んだ。大半のプレイヤーが品質7の品を作り出せた段階で長時間の足止めを食らうのが由来であり、別にナナ嬢の胸部がまるで壁のように平坦である事を指しているわけではない。
さて、そんな神器級の魔導銃剣を作り上げたおっさんだが、新武器製作はこれで終わりではなく、まだ重要なプロセスが残っていた。そう、AIによる審査である。
完成したそれを審査するべく、システムAIはそれを照査する。この時、複数のAIが同時にそれを行なって、各々の判断を元に相談し、最終結果を下すのだが……AI達の判断は大きく割れた。
「魔導銃であると同時にブレードによる近接攻撃も行なえる万能武器だ。採用」
「厳選された素材を使用しており、非常に精密な作りの傑作だ。承認するべき」
「素晴らしい浪漫兵器だすばらしい」
このように称賛する意見もあれば、批判の声も上がる。
「ざけんな。あんなデカくて重いのをまともに使えるか」
「何で拳銃に大型ブレード付けてんの?バランス狂ってまともに射撃できないでしょ?」
「なんで拳銃のくせに重さ10キロ以上あるの?馬鹿なの?死ぬの?」
賛否両論、喧々囂々。AI達はそれぞれの意見をぶつけ合った。
「そもそも何でブレード付ける必要があるわけ?無くていいだろ!」
「ブレード無かったら只のデカい拳銃だろ!それにあった方が恰好いいでしょ!」
「何で二個作ったん?両手持ちで一つ使うならまだわかるが……」
「いや、斧を二刀流で使うようなプレイヤーも居る以上、こういうのも認めるべきでは?」
「つーか最初にもう少しマトモなサイズで試作するくらいの可愛げがあってもいいだろうが!」
「あのプレイヤーにそんな良識がある訳ないだろ、いい加減にしろ!」
AI達は短い時間で意見をぶつけ合い、議論の末に結論を出し、おっさんに判定を下した。
『判定:とりあえず保留で』
「お、おう……」
そのシステムメッセージに、おっさんも思わず苦笑いである。
『管理AIはその武器の有用性を示す事を求めます。一時承認するのでよろしくお願いします』
どうやらAIは結論が出なかった為、実際におっさんに使って貰う事で判断材料にしようと考えたようだ。
「仕方ねぇな……」
おっさんはぼやきながら魔導銃剣ブラックライトニングを持ち、工房の地下へと向かった。
工房の地下には作った武器を試す為の訓練場がある。元々この場所にこんな物は無かったが、おっさん達職人プレイヤーが必要に駆られて作った物だ。無断で。
その際に工房の管理者である職人組合のNPC達は、無断で地下にこんな設備を作られた事に激怒してプレイヤー達を工房から追い出そうとしたのだが、おっさんが組合長と交渉を行なった事で、事後承諾の形になるが許可された。
その時にどうやって許可を得たのかを他のプレイヤーが尋ねたのだが、その際のおっさんの答えはと言うと、
「他人に言う事を聞かせたい時は、銃口を突き付けた後に札束で頬をビンタするんだよ」
これである。交渉の様子がどのような物だったかは察していただけるだろう。
ちなみにその後、工房の管理者がNPCからおっさんへと変更され、組合員NPC達が胃と毛髪にダメージを負っているのが発見されたが、その原因は明らかにされていない。
話を戻そう。地下訓練場へと足を踏み入れたおっさんは、入口のすぐ横の壁に設置してあるコントロール・パネルを操作し、訓練用のダミーを召喚した。
おっさんが召喚したのは【木人君2号】と【木人君3号】だ。以前から使っていた1号は何もせず、立ったままプレイヤーの攻撃を受けて練習台になるだけの動かない的だったが、この2号と3号は違う。彼等はそれぞれ近距離と遠距離の攻撃をプレイヤーに仕掛け、また防御行動も行なう、より実戦的な練習相手だった。
「目標ヲ発見。攻撃シマス」
「攻撃シマス」
「攻撃シマス」
片言の機械音声を発しながら、数体ずつ召喚された木人君2号および3号が動き出す。まず3号が手に持った弓を構え、矢を番えておっさんに狙いを付けた。その間に剣や槍、斧などを持った2号がおっさんに接近する。
「来やがれ!」
おっさんが左右の手に持った全長1メートルを超える魔導銃剣を豪快に振り回して、銃身に取り付けた長大なブレードで木人君2号に斬りかかる。
木人君2号は手に持った武器でそれを防御するべく【ウェポンガード】スキルを使用したが、おっさんは構わず斬りつけて、ガードの上から武器ごと木人君を両断した。
「射撃ヲオコナイマス」
「援護シマス」
「ヤロウ、ブッコロシテヤル」
残った木人君2号が攻撃を再開すると共に、木人君3号たちが援護射撃を開始した。おっさんはそれに対して素早くブラックライトニングを向けた。酷く重い上にバランスの悪い武器だが、その銃口は一切ブレていない。
おっさんが引鉄を引くと、二挺の魔導銃剣からは銃弾ではなく、電撃を纏った魔力の塊が射出された。
おっさんは以前、湖畔の緊急クエストで手配モンスターを倒した際に入手したレアアイテム、電撃属性を持つ魔石【雷光石】を動力に組み込み、更に通常の弾倉ではなく、純粋な魔力を込めたカートリッジを装填した。そのカートリッジ内の魔力を魔導ジェネレータで励起・増幅して射出するシステムをおっさんは採用した。
この純粋な魔力を弾丸として射出する【魔力弾】の仕組みは以前、先程おっさんにしつこく話しかけて哀れにもパワーボムで撃沈された魔導技師、ジークが開発した物だ。
これによってブラックライトニングからは電撃属性の魔力弾が発射され、更に素材のダークメタルの特性である、暗黒属性の追加ダメージも発生する。その射撃を受けた木人君3号の体が、無残に砕け散った。
「こいつで終わりだ!」
おっさんが更に二挺の魔導銃剣を振り回すと、おっさんを中心に斬撃と射撃の嵐が巻き起こる。近寄る木人君2号はブレードに切断されてバラバラになって床に転がり、遠くの木人君3号は魔力弾の一撃で爆散した。
遠近問わず、その場に居る者を全て巻き込んで粉砕する、まさに暴力の権化。その様を見て、システム管理AI達は決断を下した。
『新武器【魔導銃剣】を承認し、新規カテゴリとして登録します。また、【魔導銃剣】スキル及び、その関連アビリティ、魔導銃剣用アーツを作成し、登録します。実装まで少々お待ち下さい』
そのシステムメッセージから数分後、作業を終えたAIが再びアナウンスをする。
『お待たせしました。新スキル【魔導銃剣】の登録が完了しました。開発者の貴方は経験値を消費せずに、このスキルを習得する事が可能です』
『【魔導銃剣】スキル及び初期習得アビリティ・アーツを自動習得しました』
それにより、おっさんは新たな武器と、それを扱う為のスキルを手に入れた。続いて、今度はワールド全体に対してアナウンスが行なわれた。
『おめでとうございます。プレイヤー【謎のおっさん】さんによって、新規武器カテゴリ【魔導銃剣】及び同名スキルが登録されました』
それによって、おっさんが作った新たな武器は皆の知るところになった。今頃、地上の工房は大騒ぎだろう。
おっさんは地下訓練場を出て地上に戻ろうとする。だがその前に、訓練場の入口の扉が勢いよく開くと、白衣姿の男……ジークが入ってきて、息も荒くおっさんに詰め寄った。
「おっさん!それさっき作ってた奴だよな!うおーでっけぇ!成る程そういう作りになってたんだな!あ、これ俺が作った魔力弾を採用してんじゃん!おっ、何だこれ。この動力部ちょっとよく見せて貰っていい?つかバラしていい?」
早口でそう言って、興味津々といった顔で魔導銃剣をペタペタ触って観察し始め、挙句にドライバーを取り出して分解しようとするジークを渾身のジャーマン・スープレックスで抹殺し、おっさんは訓練場を後にするのだった。




