早朝のコドモ作戦会議
お兄様は典型的な夜型で、あまり早起きできない。私が起こしてあげないと寝続けるので、ヒミツの用事があるときは好都合だ。今朝もお兄様をワザと起こさずに、服に着替えて顔を洗い、3階の寝室から2階のソファのあるリビングに降りた。
「カナルさん、おはようございます」
「おはようございます。兄さんは?」
「まだ寝てます。昨日は遅くまで作業していたようですから」
カナルは「そうですか」と静かに言って、ワゴンから取り出した軽食を、私の前にあるローテーブルに並べていく。私もカナルからカトラリーを受け取り、セッティングしていった。
「お兄様が寝ているうちに話しておきたいのですが……」
「あぁ、ジン対策ですよね?」
「ええ。今日、『天使の虹』が出た島に入るなら、ジンとの遭遇を考えておく必要があります」
「あの島の上陸できる場所は限られています。そこさえ気をつけていれば、ジンとの遭遇はないですね」
「いえ、そうではなく……。カナルさんはヒトに気づかれないような小型の発信器は持ってないですか?」
「……まさか」
「ええ、その『まさか』です」
「無茶苦茶ですよ!! 何言ってるんですか!?」
「静かに! お兄様が起きてしまいます。守るばかりでは攻め込まれますし、私の性に合いません」
「合う、合わないってことじゃないですよ? ジンに発信器をつけてどうするんですか!」
私の注意を受けたカナルは、声のトーンを落としつつも、声を荒げて言う。
「ジンは必ずフィリーオ兄様に接触しようとしますから、ジンの居場所を事前に知ることができれば対策しやすくなります」
「ええ、わかりますよ? とってもシンプルで明快だけど、無茶苦茶だって分かってます? 相手は諜報員ですよ!?」
「諜報員ですが、人間です。油断を誘って攻めるんです!」
カナルは頭を抱えてソファに座り、「反対しても、言い出したら自分でやるって言いそうなので、これ以上言いません」と、ため息をつくだけだった。私はカナルの返事に満足し、「このことは、お兄様にはヒミツですよ?」と、念を押す。すると、カナルが顔をしかめながら、「ルナさんの方こそ、ウッカリ兄さんに話さないように気をつけてください。兄さんの添い寝は続いてますよね?」と言い出した。
「そのことですが、添い寝禁止は断固拒否されてしまいました。『自分が把握しなかった情報があったがために、私がトラブルに合って大ケガでもしたら』って恐れているみたいです」
「確かに、今はルナさんの保護者の役割もしてますからね。兄さんの性格を考えると、そんなことになったら一生自分を責め続けそうだ。兄さんは、ルナさんの状況を全て知っておきたいと?」
「ええ。そう言われしまったので、何も言えないです。根本的な解決にはならないけど、ジンの情報は流さないように気をつけます」
私はカナルと二人で少し早めの朝食をとり始めた。




