教えと駆け引き
――気を使って損した!
カナルと話すと、『損をした』という気分になることが多々ある。ただ、私がカナルの取り巻く状況を深刻に取りすぎなのかもしれない。
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1階の奥の部屋の扉をノックすると、お兄様の返事が聞こえた。
「お兄様? 今、話しかけてもいいですか?」
扉を開いて、そう聞くと、「いいよ、何?」と返事が返ってきた。
「勉強を教えていただきたいのです。カナルさんに聞きましたが、教え方がヘタすぎて、余計に混乱してしまいましたので」
どさくさ紛れに愚痴を言うと、「教えるには別のスキルが必要だからね」と、お兄様が笑いながら、手招きする。
「ココ狭いし、イスもコレしかないから、膝に座って」
お兄様は実験テーブルにある道具を端に寄せ、私から受け取った電子端末とノートを置いた。私を抱き寄せて片方の足の上に座らせると、いつものように課題を分かりやすく教えてくれた。
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お兄様に教えて貰ったお礼を言って、そのまま部屋を出ようとしたところ、あることを思い出して立ち止まった。
「ルナ、どうした?」
「そういえば、お兄様、私が寝ぼけているときに質問するのはヤメテくださいね? 今度やったら添い寝禁止です」
島にいたジンのこともあり、これから色々とお兄様に知られてはイケナイことが増えそうなので、釘をさしておく。「それでは」と言って、再び部屋を出ようとしたところで、突然お兄様に腕を掴まれ、引き留められた。
「誰が入れ知恵した?」
キツイ口調で私に問うフィリーオ兄様の視線が鋭い。いつにないピリピリした雰囲気に私は閉口した。
「その意見は聞き入れないよ? 僕の知らない場所でルナが危ないことに巻き込まれるのは耐えられないからね」
「そんな……、私ばかりでズルいです」
「それならルナも僕に聞けばいい。話せることは話してる」
「嘘つき。ロークスに関わることは何も話してくれない。お兄様は、ロークスに縛られ過ぎです」
私の反論に、今度はフィリーオ兄様が黙りこんだ。
「お兄様は、自分のことを他人事のように思ってませんか? もっと心のままに自由に生きていいと思います。そんなにロークスのために動く必要はないのでは?」
「もともと……この体はロークスのものであって、僕のものじゃないからね」
「ロークスが生み出した体だからですか? そういうことなら、お兄様の体を自由にする権利を私が貰って、いつか『自分の体だ』って言えるようにしますから」
掴まれたままの腕にあるフィリーオ兄様の手の甲をそっと手のひらで包んだ。
「それに、お兄様は私のことを心配しすぎです。私が空想世界の動物やファンタジーの童話を好きになるように、小さい頃から刷り込みをしていたのは、お兄様が私と違う『消えたもうひとつの人類』って知ったときに怖がらないようにするためですよね?」
お兄様と目があうが、すぐに「知られてたか……失敗したな」と、諦めたような表情で気まずそうに呟き、お兄様は私から視線をはずした。
「失敗なんてしてないです。成功してますよ? 私はお兄様のこと、こんなに大好きですから」
すぐに否定したあと、横を向くお兄様の頬を両手で包み、私の方に顔を向かせた。お兄様の吐息を感じながら、ゆっくり唇を重ねる。そして、もう一度キスをしようと顔を近づけたところで、お兄様が私の唇を片手で覆い、キスを止めた。
「こういう誘惑は困るよ、ルナ。なし崩し的に流されて、もっとキスが欲しくなる」
「フフ……泣き言ですか?」
「弱点を見逃さず、容赦なく責めてくるね? 僕はルナに間違ったことを教えたかもしれない」
「『愛する恋人にだけ、口にキスしていい』って教えてくださったことが間違いですか? それなら、もうこういうことはしませんよ?」
拗ねるように言うと、お兄様は自分の額に手をあて、「……悩ましいことに『もうしない』と言われると、途端に惜しくなる」と首を振った。
「どっちなんですか!?」
頬を膨らませ、そう抗議すると、お兄様は深くため息をつき、「考えておく」と言って私の頭を撫で、軽く額にキスをした。
「それより明日も早くにココを出て島に行くから、もう寝たほうがいい」
「お兄様も」
「うん、終わったらルナのところに行くから、先に寝ててくれ」
笑顔で頷き、私は部屋を後にした。




