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教えること、教わること

 カナルの住居型トレーラーに戻った私達は、それぞれシャワーを浴びて泥だらけの服から着替えた。そして、自分たちのやりたいことをして過ごすことにした。

 カナルは、トレーラーの2階にある奥の部屋に閉じ籠り、特大の全身が見える鏡の前でマジックの練習をしている。1日でも練習を欠かすと腕が鈍る気がするらしい。お兄様は、1階の約半分を占めるマジックの道具を開発するための部屋の一角を借りて、テストプラントで入手したものを分析するために、カナルと同様、籠ってしまった。

 一人でリビングのソファに座った私は、基礎学習の問題集を解くことにした。お父様から教わった「知識があることで、初めて大切な人を守れる」というのが本当だったことを、ここ数日間で痛いほど感じたので、前よりも余計真剣に取り組む。

 テーブルいっぱいに、資料やノート、電子端末を広げて問題を解いていると、隣の部屋からカナルが出てきた。


「数学ですか?」


 私の手元を覗いて、懐かしそうに言っているので、「カナルさんは勉強しないんですか?」と聞いた。


「ボクは飛び級でサッサと大学まで卒業してしまいました」


「え? 冗談……ですよね?」


「全ての知識が記憶にあるままで転生してるんで、『初めから強くてニューゲーム』状態で、余裕です」


「……ズルいです」


「そうでもないです。転生して数回目までは自慢気に優秀な学生をしていましたが、何十回も転生すると、学校で過ごす時間すら惜しくなってきました。それで、世間的にやらなきゃいけないと言われていることは最短でやり遂げて、時間を別のことに費やすことにしたんです。ボクの場合、長く生きても15歳ぐらいで死ぬから」


「あと5年後……」


「はい」


 何としてでも回避したい。あの歴史書(ゲーム)のラストムービーを思い出し、震えた。


「あ! ルナさん、ココの解釈の仕方、間違ってますよ?」


 突然、カナルがノートに書いた計算の途中式を指摘する。


「イマイチ分からないのです。いつもなら家庭教師がいるので困らないのですが、こういうとき、独学だと困りますね……」


「良かったら、ボクが教えましょうか?」


 カナルの申し出に一言返事でお願いした。私は学校に行っていないので、同年代の子と比較したことはないし、比較された経験がないので、自分がどの分野で他のヒトより秀でているとか、劣っているとかは全然分からない。でも、転生者であっても同年代に教えて貰う勉強は楽しそうだ。



 ――そう期待したけど……、ぜんっぜんっわからない!



「カナルさん、教えるのヘタです!」


「ご自分の理解力を棚上げして、そういう言い方はないんじゃないですか? こんなに説明しているのに、ナンデ分かんないですか!?」


「そのヒトの理解力に合わせた説明をすることが真の教えるということです! カナルさんは、それを理解していないですよ?」


 カナルが私に教え始めて15分後、カナルの教え方に問題があって、ケンカになった。


「本当に転生しても、その性格は変わらない」


 私の言葉に拗ねたように、ぼそっと言ったカナルの言葉に「え?」と、反応した。


「前世の私……、もしかして、カナルさんの親友とか家族とか……身近なヒトでした?」


「……知りたいのですか?」


 カナルが重い口調で私に聞く。


「いえ、知りたくないです。今でも、前世の記憶で、今世で知ったことと混ざって錯覚して混乱したりすることがあるから」


 カナルの態度に、『何かあるかもしれない』と不安になり、慌てて拒否した。


「まぁ……、親友とか家族ではないですよ。キメラが蔓延るような危険な未来に、魂だけと言えども、ボクの大事な人達を連れてくるワケないじゃないですか」


「ヒドイです! 私はどうでもいいから連れてきたってことですよね!? 暗にそう言ってますよね!?」


「ルナさんは単に精神的に強そうだったから連れてきました」


「棒読みのような、取って付けた理由をありがとうございます。すっごくワザとらしいですが、お兄様に会えたので許してあげます」


 カナルの言い草にイラッときたが、カナルがそうしなければ、私はフィリーオ兄様に会えなかった。それは揺るぎようのない事実だ。


「ルナさん、どこへ?」


 カナルが、ノートと電子端末を持ってソファから立ち上がる私に聞いてきたので、「カナルさんではなく、お兄様に聞きます」と、カナルに『教えるのがヘタ』宣言をして、お兄様のいる1階の奥の部屋へと向かった。

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