島の調査3
しばらく歩き続けると、空気の流れのようなものを感じた。
「風が吹いてるってことは……このトンネルって、もしかしたら空気孔でしょうか」
「ボクたちがギリギリ一人立って歩けるぐらいだから、その可能性はありますね。獣道にしては、動物の足跡がないですし」
「だんだん奥に行くにつれて孔の大きさが広くなってるようですね……ただ、大人はホフク前進しなくては通れなさそうですけど」
さらに広がるトンネルの先へ進むと、カナルが立ち止まり、静かにするように合図してきた。
風が大木の根が絡まってできたトンネルを通り抜ける音と、ツーという違和感のある細く長い超高音域の音がした。「この音は……」と独り言のように小さく呟くと、カナルが「『動物よけ』ですね、この先に発信源があります」と答えた。お互いに頷き、私達は無言で先へと急いだ。
風の流れが強くなり、キラキラとした光が綿毛のようにフワフワと飛び交っている場所が見える。その近くまで行くと、綿毛のような光は、揺らめき七色に光っていた。
「キメラの光?」
カナルに問いかけると、「いえ」と首を横に振った。
「……似ているけど、違いますね。光が安定してないし、スケールが小さいままで集光もしない」
「この光、こっちの横穴から移動してきたみたい。遠くの方で機械が動いてる音がするし、『動物よけ』の超音波も聞こえます」
私が横穴を塞ぐ壁がわりとなっている枝木に手をかけ、土のホコラとなっている横穴を覗きこむと、「ルナさん!」と咎める声と共に、カナルが焦って私の行動を阻止し、枝木を元に戻した。
「え? なんで?」
「『ナンデ?』じゃないですよ!? イキナリ、何をやってるんですか!?」
カナルが何を言いたいのか分からずに首を傾げていると、「ここからはフィリーオ兄さんがいた方がいいですよ」と言われた。
「いつ、お兄様が来るか分からないですから、先に軽く下調べをして報告した方がいいですよ? 時間がもったいないです」
「いないうちに行動してルナさんに何かあったら、許してもらえないですから!」
「ここは単なる空気孔ですから、大丈夫ですよ。それにケガさえしないように気をつければ、会ったときに『ごめんなさい、ゆるして』って上目づかいで可愛く言うと、大抵のことは許してくれます」
「……あざとい! そして、腹黒いっ!!」
いつものカナルの失礼な言葉に対し、「今は大変な状況なんですから、このぐらいじゃないとフィリーオ兄様と一緒に生きてはいけないです」と反論すると、カナルが唸るように「根拠がまったくないのに、説得力があるのはナゼだろう……」と、ブツブツ呟く。そして、なぜか堪えかねたように突然「クスクス」と聞き覚えのある笑い声が、私達の頭上から聴こえてきた。
――まさか、この声……
「お兄様!?」
「誰が聞いているか分かりない場所では自分の手の内は話さない方がいいよ?」
姿は見えないが、近くにいる。
「ルナ、それよりソコの横穴は陽圧になってる?」
「はい。風がかなり強く吹き出しているので、中は陽圧になってるみたいです」
「分かった。じゃあ、二人は横穴に避難して、僕が『いい』って言うまでソコから出ないように」
お兄様が何かをやるみたいだ。ガサゴソと頭上で音がする。私とカナルは急いで枝木の間を通り、土のホコラの中に入って枝木を元に戻した。




