大したことのない基準
――何するんだろう?
興味深く枝木の間から見ていると、トンネルを覆う大木の根の隙間から、白い何かを蜘蛛の巣のように広げながら様々な所に挟み込むフィリーオ兄様の手が見えた。
「……綿?」
「少量なら問題ないですけど、あれだけの量があると、さすがに危険です。ルナさん、もう少し奥に避難した方がいいですね。それにしても……兄さん、いつの間に仕込んでたんだろう?」
「ってことは爆発物ですか!?」
「いえ、爆発物というほど大したことないです。ごく一般的な手品に使う材料ですから。今朝、フィリーオ兄さんに少し譲りました」
「そうですか、なら大したことないですね」と、緊張した気持ちを緩めた。「はい、見た目は派手ですけど、特に爆発音はしませんし、たまにトラップ系爆弾として使われているみたいですけどね」という後だしジャンケン的なカナルの解説に、「えっ?」と聞き返し、後ろにいるカナルの方へ振り向くと、
その瞬間――
『ボォッ!』という音とともに、枝木の壁の向こう側全体がオレンジ色に染まり、背後に熱量を感じた。
「…………」
無言でカナルを睨むと、「ほら、大したことなかったですよね? 爆発音はないし、燃えるのは一瞬でしたし」と、カナルが笑顔で私に同意を求める。
――大したことないって、いったい、この二人はどういう基準で判断してるのっ!?
ココロの中でツッコミを入れていると、背後でバキバキと細かい枝木を折る音がした。お兄様は焼いて脆くなった枝木を足で蹴りながら、穴を開けようとしているみたいだ。蹴り飛ばしながら、穴を広げていく。大人が入れるぐらいの大きさになったところで、ドサッと、お兄様が上からバックパックを下に落とし、続いて飛び降りて着地した。
「二人ともいいよ」
「お兄様!」
私が駆け寄ると、お兄様は跪いたまま抱き締めてくれた。私の髪についている葉を取りながら「二人ともヒドイ格好だ」と、苦笑いしている。穴を滑り落ちたのだから、確かに顔や服は土まみれだ。
「目にゴミが入ると傷がつくから」と、お兄様からペットボトルの水で濡らしたタオルを渡された。おかげで私もカナルも、さっきよりはだいぶマシな状態になった。
「ココの上って、大きな岩が重なっているんですね」
使ったタオルをお兄様に返しながら、穴がポッカリ空いた頭上を見上げた。大木の根と細かい枝木が大きな岩肌の表面に貼りついている。
「ココを探すのに手間取った。君たち、その場に止まってないから、位置情報から予測される合流地点がなかなか決まらなかったよ」
「『君たち』って……、ルナさんとセットにされるのは心外です」
カナルが迷惑そうに言いながら、拭き終わったタオルを丁寧に畳み、「ありがとうございます」と、お兄様に手渡した。フィリーオ兄様は笑いのツボに入ったらしく、笑っている。もう毎回のことで、「失礼な!」と腹立たしく思うこともバカバカしくなってきたため、私は聞かなかったことにした。




