奪う代償に
フィリーオ兄様に「2人が僕のことをどう思っているのか、よく分かった」と言われ、私とカナルが激しく落ち込んでいると、「冗談だよ」と笑って赦してくれた。お兄様曰く、涙目でじっと見る姿が、まるで捨てられた犬と猫のようだったらしい。カナルとセットにされるのは納得いかないが、反論できるワケがなく、「そうですか」とだけ相づちをうった。
「ルナ、拗ねてる?」
キャビンに戻り、面白そうに聞くお兄様と目を合わせるのが癪で、私はソッポを向いた。
「私もカナルも、お兄様のことが大好きなんですから、そういう反応になるのは仕方ないです」
ブツブツと文句のように言うと、背中でフッと笑う声がして「悪かったよ」と、頭を撫でられた。
「旅行も残り半分しかないし、こんなに一緒に長くいられるのは、しばらくないんだから、機嫌をなおしてくれないかな」
そうだった。お兄様の言う通りだ。あと数日で、この船旅も終わり、サバンナにあるロークス邸に着いてしまう。カナルのスカスカな未来の歴史書で得られた知識を使って行動した結果、奈月さんが撮影する予定の写真フラグはなくなったが、まだ桐谷さんの写真の件があるので安心できない。そもそも、フィリーオ兄様がキメラ研究に関わる研究をしなければ、こんなにチマチマと対策なんてしなくていいのに。
――お兄様が……研究をしない?
なぜ今までソコに気がつかなかったのだろうか。むしろ大学に入ること自体、阻止すれば良かったのではないだろうか。まぁ、お兄様の大学を見るまで記憶が流れて来なかったから、仕方がないのだが、今からでも転部させてしまうことは可能だ。お兄様とは頻繁に会うのだから、チャンスは山ほどある。
「そうですよね……お兄様。ところで、お兄様はこの旅が終わったら、大学に戻ってしまうんですか?」
「うん、休暇が終わるからね」
「確か、休暇明けには研究テーマを選んで研究室に入るっていう話でしたっけ? もう、お兄様は、どの研究か決めているのですか?」
「まだ漠然としか決めてないかなぁ。できれば、生命の根幹に関わる……」
「それは……ダメですよ? お兄様」
話を途中で遮り、ニッコリと否定した。そして、ゆっくりとフィリーオ兄様の首に両手をかけた。
「そうなると、数年後には、私のライバルになってしまいます。お兄様の研究成果を全て私に譲ってくださるなら良いですけど、そうではないなら、私の研究成果となる予定なんですから、そのテーマは選ばないで?」
「それは……」
「お願い、お兄様」
私はフィリーオ兄様の唇にチュッと軽く自分の唇を重ね、「約束です」と顔を近づけたまま呟いた。
「ルナ……今のはズルいよ。まったく、君みたいな女の子のこと、世間では何て言うか知ってる?」
フィリーオ兄様の両手に私の頬が包み込まれたが、お構いなしに首を傾げて「知らないです。なんでしょうか?」と、聞いてみた。
「昔から、そうやって表舞台に立たずに、男達の意思や信念を変えていった女性を『傾国の美女』とか、『傾城の美女』っていうんだ」
この日、10歳のイタイケな少女であるにも関わらず、お兄様によって悪役の代名詞の1つと言える「傾国の美女」と認定された。悪役になると決意したが、私が思い描いてた悪役の方向性と違うので、納得いかない。
――どうしてこうなった!?
そんな風に思いながらも、お兄様が私の掠めるぐらいのキスと引き換えに「ルナが言うなら、違う研究テーマにするしかないな」と、アッサリと研究テーマを変更したことが引っ掛かった。学校での研究は、お兄様にとって「重要、且つ、どうしても必要な研究ではない」ってことなのだろうか。
お兄様の核心に触れなければ、重要なことが引き出せないような気がしてきた。




