カナルの繰り返される時間
翌朝、私は早起きをして、フィリーオ兄様に内緒でコッソリとカナルが来ていると思われるスイートキャビン専用ラウンジへ向かった。ラウンジが開いたばかりの時間帯だと、人がかなり少ない。カナルは、朝食を食べながら会場の下見をすると予想して行ったら、やっぱりいた。
「相席して良いですか?」
カナルは私が来ることを想定していたらしく、驚くことなく、「どうぞ」と、テーブルを挟んだ反対側の席を勧めてくれた。ラウンジスタッフに席を引いてもらいながら座ると、飲み物だけ頼んで、どうしても聞きたかった話を切り出した。
「カナルさんは、この世界で何回転生してるのですか?」
「さぁ、30回を越えたところで数えるのを止めましたから、分からないです」
「そんなに?」
聞きづらいが、時間がないので遠慮なくズバッと聞き返した。すると、カナルは辛そうに頷く。
「正確に言えば、『未来での転生では』、ですね」
「それは、どういう意味?」
「未来での転生――つまり、今のことですが、必ず『カナル・ライナー』として生まれて、最期は常にキメラに追い詰められて死を迎えます。けれども、過去での転生では、固定されずに色んな人生を送っているんですよ」
「未来と過去に繰り返し転生して、行ったり来たりしているってことですか?」
カナルは、伏し目がちに無言で頷いた。
「前世の……未来と過去の人生の、すべての記憶を持って?」
再び、私の質問に無言で頷く。
「では……、今の世界にソックリな『フルフルちだまり☆』っていうゲームは知ってますか?」
重い空気になったが、カナルに気を使う余裕はない。お兄様に見つかる前にキャビンに戻らないとイケナイので、単刀直入に、知りたい情報を引き出すための質問をしていく。
「えぇ……あれは、ボクが今回のループに入る直前の過去の人生で作ったゲームで、ボクの知らないことや、変動する要因を全て除いた史実に基づいた内容になってます」
――ということは……やっぱり、あのゲームは未来に起こるノンフィクションの歴史書だったってこと?
「……なるほど、そうですか。だからフィリーオ兄様の重要な情報が抜けているスッカスカな内容のゲームだったのですね」
カナルが「グッ」と喉を鳴らした。
「ルナさんは、かなりフィリーオ兄さんのことになると容赦ないですね」
「フフ……気のせいですよ? カナルさんが前世で作ったゲームが、トラウマクソゲーなんて思っていません」
「さすが、前世で、ありとあらゆるゲームをやりつくした魂ですね。しかも開発者に直にクレーム的な感想をありがとうございます」
遠くから見た私とカナルは、穏やかに微笑んで楽しそうに会話をしているかのようだが、実際は殺伐とした会話が繰り広げられていた。




