表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/264

フルーツと真実の確認

 開けっ放しにしていたバルコニーとキャビンをつなぐ扉から、ドアの音が聞こえた。


 ――お兄様が戻ってきた!


 バルコニーの手すりから離れ、ベンチに慌てて座った。乱れたスカートを整えて帽子を被り直した後、気だるそうにベンチの手すりへ体を預ける。わざとらしい気もするが、私を探している様子の物音と共に、段々と近づくお兄様の足音が、やり直す時間がないことを知らせていた。


「ルナ、ここにいたんだ」


 バルコニーの扉から、お兄様が顔を出した。


「具合は?」


「だいぶ良くなりました。それより……フィリーオ兄様、かなり早く帰って来ましたが、ちゃんと食べたんですか?」


「食べたよ?」


 そう言いながら、フィリーオ兄様が笑う。


「一人で食べたら、こんなもんだよ」


「そうですか……」


「そんなことより、ルナ、フルーツなら食べられる?」


 ――フルーツ! 食べたい


 空腹すぎて頭がぼーっとしてきた。何も考えないで頷いてしまい、「しまった!」と思った。具合が本当に悪ければ、フルーツだって食べる気になれない。さっき、昼食まで我慢すると決意したハズなのに、これでは仮病だとバレバレだ。


「あ……」


「いいから、おいで。持ってきたから」


 きっと今の返答で、お兄様には分かってしまったに違いない。私が気まずそうに体を縮めると、フィリーオ兄様は私の腕をとり、バルコニーのベンチから立ち上がらせた。

 私をキャビンのソファーに座らせ、お兄様はソファーセットの横にあるカウンターテーブルに回り込み、マンゴーやライチ、ブドウやミニメロンのフルーツをのせた大皿とナイフを手にした。


「今朝、ドアーズヴィラで何かあった?」


「え?」


「迎えのリムジンを見て、焦ってただろ? それに……今は消えてるけど、浜辺で会ったとき、腕が少し赤くなってた」


「…………」


 ジンとのトラブルの内容を、当たり障りのない程度に話すことさえ、ウッカリ辻褄が合わないことを口にし、芋づる式に『私の前世の記憶』まで話をしなくてはならなくなりそうで、躊躇われた。

 結局、私もフィリーオ兄様と同じで、お兄様が私の真実を知り、私を避けるようになってしまうのがイヤなんだ。


 ――そして、お兄様に話せない秘密がドンドン増えていく


 まさにジレンマだ。苦しいし、お兄様との心の距離が離れていってるようで不安だ。


「お兄様……」


「まぁ……気になっただけだから。体に傷はなさそうだし、無事だから良いよ。これ以上は聞かない」


 お兄様はテーブルにフルーツ皿とナイフを置きながら、「そんな困った顔すると、気軽に聞けなくなる」と、苦笑いした。


「……その時が来たら、話します。今はまだ」


「前に話せないって言ってたことと繋がっているってワケか」


 鋭いお兄様の指摘に驚く。スカートの上に重ねる両手から視線を外し、見上げると、お兄様と目が合う。


「正解?」


「……はい」


 お兄様は「この話題は終わり」と言うように、抱き寄せて私の髪にキスをしてくれた。ホッとして、強ばっていた心を緩める。


「ルナ、食べたいフルーツは?」


「では、マンゴーをお願いします」


「了解」


 お兄様が、マンゴーとナイフを手にし、皮を剥き始める。私は、お兄様の手を不思議な想いで見ていた。


 ――今まで、お兄様は大人だから体の作りが違うんだと思ってたけど


 ――よく見ると、関節の位置とか、指先の形とか、手の節とか……少し違う?


「ルナ」


 フィリーオ兄様の指先が私の唇に触れた。マンゴーの甘い香りがする。口を開けると、お兄様の指先と一緒に、一口の大きさに切ったマンゴーが滑りこんできた。


「おいしいです」


 お兄様のマンゴーの香りが残る指先に、手を重ねた。


 ――ジンが言ってたこと


 ――本当にフィリーオ兄様が私と違う系統の人類なのか確認したい


 ――確認? 違う……お兄様がキメラじゃなくて、ヒトなんだっていう確信が欲しい


 ――まだ本格的にキメラの実験は始まってないから、ロークスの実験施設で産まれたとしても、お兄様はキメラじゃないハズ


 ――万が一、ヒトそのものの形じゃなくても、共通点を見つけて、安心したい



 指の腹で、お兄様の手の節をなぞり、手首の関節、腕へと辿る。それから肩や鎖骨、首筋に触れた。

 確かにジンが言ってた通り、個人差と思われるぐらいの差だと思う。服の上からだから少し曖昧になるが、骨の太さが多少違うだけで、形はだいたい同じなような気がする。



 ――肋骨の本数も同じ



「ルナ、ストップ」


 肋骨から腰骨まで確認したところで、私の手は掴まれ、確認作業を途中で止められた。


「え?」


「くすぐろうとしてるかもしれないけど、全然くすぐったくはないし、これ以上触るのはダメだ」


 フィリーオ兄様が顔を反対に背け、恥ずかしそうに言った。


「『くすぐったくない』……ですか?」


 そういうつもりはなかったので、私は首を傾げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ