51、内政官登用
永見志摩守貞好が平伏する。ここは大高城。千代丸は降伏してきた知立城主の永見志摩守をじっと見た。
「永見志摩守にございまする。我ら永見一族、千代丸様に降伏いたします」
志摩守は強張った顔をしている。千代丸は志摩守を気遣って笑みを浮かべた。
「志摩守殿、そう畏まらずに良い。我らとともに松平を討とうではないか」
「はっ」
再び永見志摩守は平伏する。知立城の永見一族は知立一帯を治める一族だ。ここを手に入れれば安祥への攻撃の拠点にできる。
志摩守を下がらせると、千代丸は梶川平九郎を呼んだ。
「平九郎よ。今村城まで落とすのだ。安祥の松平内膳正に揺さぶりをかける。それと牛田の牛田玄蕃頭なのだが、こちらの調略に応じた。今村城まで楽に行けるだろう。岡田助右衛門はここに残す。精兵一万二千。そうだな……蜂屋兵庫、神谷助兵衛、水野下野守らをつける。今村城の松平康孝は殺してはならん。生け捕りにせよ」
「はっ……」
平九郎は総大将の大任に身を固くする。織田家の中で千代丸を警戒する声が強くなっている。岡田助右衛門らは大高城の守りのために残す。千代丸は一気に安祥包囲網を形成しようとしていた。
千代丸は平九郎を下がらせる。今度は目の前の書類の山を片付けないといけない。
「吉兵衛を呼べ」
今度は村井吉兵衛を呼ぶ。千代丸の前に美青年がやってきた。憂いを込めた目でじっと千代丸を見る。当年十三歳、近江の出身という。内政は得意とするようで千代丸と吉兵衛はすぐに意気投合した。
「常滑から相模・上総の物が運ばれて来ておりまする」
吉兵衛が笑みを浮かべると語り出す。常滑には港があり、関東からの船もやってくる。尾張では珍しい品が手に入るのだ。
千代丸は満足そうに何度も頷いた。常滑は知多の大名である佐治一族の統治下にある。それでも常滑の商人たちは千代丸とつながっている。千代丸の旺盛な領土拡大意欲が商人たちを刺激したのだ。
千代丸は交易を通じて上総国の千葉氏、原氏、高城氏にも贈り物を送ることにした。上総の職人の作ったモノは尾張では高く売れる。
「フフフ。良いのぅ。吉兵衛、常滑商人とのこと、そなたに任せたぞ」
「ははっ、万事お任せ下さりませ」
吉兵衛は笑顔で頭を下げる。村井吉兵衛……史実では内政官として信長を支えることになる村井貞勝の若い時の名である。




