↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きだから。  作者: ぽんこつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/78

愛されてるよ

昨日までの雨が止んで。

澄んだ空気の中には。

草木の青々とした匂いが立ち込めている。

渡り廊下の脇のまだ濡れた地面には。

所々桃色の花びらが点在していて。

ある意味、華やかさを醸し出している。

濃い青空に鳥の群れの黒い影が優雅に翼をはためかせていた。


無事、卒業式が終わって教室に戻ってきた。

「結衣ちょっと来て」

「ん?」

麻耶が私の腕を掴んで歩き出す。

「ちょっと荷物……」

「いいから、早く」

「もう、どうしたの」

私はリュックを手にして、ついて行く。

蓮くんは私を見て小さくウインクを飛ばしていた。

きゅんって。

見惚れながら、引っ張られ教室を後にする。

「どこ行くの?」

「いいから……」

廊下にいる生徒たちの合間をすり抜けて――

着いた先は。

チアの部室。

そこに、待っていたのは。

お父さんとお母さん。

それに、蓮くんのお父さん、お母さんに麻耶の家族まで。

あっ。

横山くんのお姉さんの奈緒さんもいる。

おどおど、みんなを見渡す私。

「結衣。私たちから贈り物があるの」

一歩前に出たお母さん。

私の肩にそっと手を乗せて。

「気に入ってもらえると嬉しいし。答えは後で聞かせて」

「なんの?」

フフって笑うお母さんは、私の頭を撫でた。

「さあ、こっち」

お母さんは私を更衣室に連れて行く。

着いてきたのは、麻耶と奈緒さん。


うーん。

意味が分からないまま中に入ると――

え……!?

視界に飛び込んできたものに。

唖然として立ち止まる。

目の前には。

白いドレスのような衣装をまとったマネキン。

「どうかな? 結衣ちゃん。チアをイメージして作ったウェディングドレス」

マネキンの隣に立つ奈緒さん。

「え……?」

確かにドレスの前部分はチアのスカートのように短くて。

後ろは長い。

フリルやレースがふんだんに、あしらわれていて。

デコルテのデザインで。

胸元にVの字を広げたようなロイヤルブルーのラインが入っている。

ロイヤルブルーはスカートの丈が長くなる境目の所にも鮮やかに縦にアクセントとして流れている。


「どう? 結衣?」

麻耶が私の顔を覗き込む。

「ん、ああ、素敵だと思うけど……どうして?」

「お祝いするって約束したでしょ? これから結婚式しない?」

「ん? え? 結婚式?」

「まあ、籍入れるより、フライングだけどさ」

「あの、蓮くんは知ってるの?」

「彼も今頃、直人たちが着替えさせてるよ」

奈緒さんは腕を伸ばして親指を突き立てた。

なんか。

ふわふわしてる私。

うれしいはずなのに。

嘘みたいな。

夢みたいな。

私は、ほっぺを両手で摘まむ。

「……っ!」

痛い。

痛い。

周りからこぼれる笑い声。

「とりあえず、着てみてよ結衣ちゃん」

「え? はい」

奈緒さんの一言で試着してみることに。

でも。

サイズ合うのかな。

制服を脱ぎながら。

首をひねる。

「あの。奈緒さん。サイズ合うかな?」

「心配ないよ結衣ちゃん。この私がちゃんと測ったでしょ? 覚えてない?」

「あっ……」

あの、買い物の時だ……

え?

でも、あれは去年だよ。

え?

もしかして……

ドレスに身を包む。

生地の冷たさや感触が馴染まなくて。

奈緒さんが背中のファスナーをあげてくれて。

ミニは履き慣れてるのに。

すーすー、そわそわする。

むき出しの肩を寄せる。

それから。

髪をセットし直して。

「結衣ちゃんのアイコンはツインテールだよね」

奈緒さんは、手際よく私の髪をセットしていく。

「あまり派手にならないようにするよ」

メイクも仕上げてくれて。

最後にベールの付いたティアラをセットしてくれた。

「うん。きれいだよ結衣ちゃん」

奈緒さんが、差し出してくれたブーケを受け取った。

「あ、へへ」

「じゃあ、お披露目しよ」

「はい」

仕切りのカーテンを開けて。

「わあ」

みんなが声を上げる。

奈緒さんが、鏡を私の前に持って来てくれた。

はにかむ女の子が映っている。

少し。

私じゃないみたい。

「よし! じゃあ、結衣行くよ」

私の手を引く麻耶。

身じろぐ私。

「なに?」

「いいから」

お母さんも奈緒さんもうなずいている。

蓮くんがここに来るんじゃないの?

何のことか分からないまま――


連れてこられたのは、式が終わった体育館。

私を見て。

顔をしわくちゃにして微笑む麻耶。


扉を開けたら――

三年生全員が真ん中に道を作るように立っていた。

「おおっ」

って上がる歓声。


舞台には手を振る七海ちゃんや千彩ちゃん。

真奈美もチアの後輩たちもいる。


あっ。

風夏さんや、樫村さん夫婦に、葛西さんまでいる。


胸が。

こころが。

震えている。


生徒たちが作った花道の先。

舞台の手前にタキシード姿の蓮くん。


ジャーン。

千彩ちゃんのギターが吠える。

紡がれたメロディは。

GReeeeNの『キセキ』

七海ちゃんの澄んだ声が心地よい波となって伝わってくる。


「さあ、結衣」

背中をそっと押す麻耶。


私は理解しているようで。

目の前の光景が追い付かないまま。


私の瞳の中にいる蓮くんの元へ。

一歩、一歩、進む。


サビになってみんなの歌声が。

シャワーのように降りしきる。


音楽が鎮まって。

蓮くんの前に来た私。


微笑みっぱなしの蓮くん。


ぐいーん。

またギターが鳴って。

後ろ手に持っていたマイクを口に歌い始める蓮くん。


『糸』


だった。


唇を結んで。

蓮くんの声に酔いしれる。


あっ。

歌詞を名前に変えている。

縦の糸は。

蓮で。

横の糸は。

結衣さ。

って。


曲が終わって。

喝采と口笛が飛び交う。


ゆくっりと。

ひざまずいた蓮くん。


そっと。

私に手を差しのべた。


「結婚してください」


ふわって。

こころに駆け抜けた風と声。


プロポーズしてくれたのに。


あっ。

指輪してないよ?


あっ。

返事しないと。

私は両手で蓮くんの手を包む。


「はい! 結婚します!」


蓮くんが吹き出して。

笑い声の吹雪が舞う。

駆け寄ってきた、みんなの笑顔の祝福が。

差し込む光を受け止めて。

ゆらゆらと滲んで。

蓮くんに抱きついた私。

ぎゅっとされる。

安堵のぬくもりの中で。


蓮くんに出逢えたことも。

みんながいてくれることも。

こころと体で嚙みしめる。


スマイル。

オーケー。


私は顔を上げる。

「ありがとう。蓮くん」

「俺の方こそ、ありがとう結衣」

微笑みを交わして。

息を大きく吸う。


「みんな! ありがとう!」


私に関わってくれた。

すべての人に届くように。

こころの底から声を張り上げた。


お読み頂きありがとうございます。

感謝しております。


~あとがき~

好きだから。

もし、連載を通して最後まで読んで下さいました方がいましたら。

作者の心からの感謝を込めて。

御礼申し上げます。

ありがとうございます。


この物語は当初、10話ほどの短編として2025年の夏頃、投稿しました。

その当時の物語では二人は付き合うけれども、蓮が病気のことを結衣に告げず、罵声を浴びせて別れるという優しい嘘のお話でした。


ただ、結衣という人物に、もっと寄り添い(憑依してみたい)たいという、作者の身勝手な振る舞いで、同年の9月頃から、改稿のつもりで綴り始めた物語です。


ところが執筆していくうちに、結衣や蓮が生き生きしだして。

お台場のデートで、蓮が結衣の言葉や行動に感極まって、病気のことを口にしてしまいました。

え?

どうなるの?

という作者困惑のもと。

いや、流石に言うにしても早いよね。

などといった、錯誤の結果。

お台場のデートで、蓮にはキスにとどめてもらいました。


そして、お家デートで、蓮が病気のことを告げ、結衣は全身全霊で受け止めて。

二人が心身共に結ばれて。


今を生きる物語へと変わっていきました。

本編はこれにて幕を閉じます。


けれど、結衣や蓮が「書いて」と言ってきたら、他のシリーズのように、いつか書き始めるかもしれません。


お付き合い下さいました皆様。

重ねて、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。