声も文字も写真も
ベッドの上でスマホの画面を見つめている。
隠し撮りした蓮くんたち。
一番、新しいのは。
そう。
あの日の寂しそうな顔。
いま、その理由を知ったから。
愛おしく見える。
蓮くんの病気のことを家族以外で知っているのは、学校の先生と保育園からの幼馴染の横山くんの家族だけ。
蓮くんの病気は難病指定されているんだって。
月に一回。
大学病院で検診を受けているって。
内臓の何とかって説明してくれたけど。
ちょっと覚えられなかった。
ただ、完治することはなくて。
進行を遅らせることしかできないみたい。
それに、いつ急変するかもしれないってリスクがあるって。
熱が出たら、合併症?
の危険があるから学校休むんだって。
生活に支障はきたしていないけど。
徐々に食事とかに制限がかかるかもって。
口を結んで。
そっと指先で画面を撫でる。
蓮くん……
画面が切り替わって。
プルル……
「はい」
『わ、すぐ出た』
聞き慣れない声にきゅんってする私。
「だって、待ってたから」
『そっか、そ、その大丈夫か?』
「え? ああ、うん大丈夫だよ」
『そっか』
ホッとしたような吐息が一つ耳に届く。
「心配ありがとう。それで話があるんでしょう?」
『うん。あのさ、俺の両親が結衣に会いたいって言ってるんだ』
「ん?」
『彼女に、病気のこと話したって言って。ちゃんと受け止めてくれたって言ったらさ、会ってみたいって結衣に』
「うん。いいけど。緊張するかも」
無意識に髪を耳にかけていた。
『だよな……でさ、急で悪いんだけど明日の昼って空いてる?』
「ひぇ、あ、明日? うん。大丈夫……」
『ごめんな、なんかメンドクサイよな』
「ううん。そんなことないよ。あっ、そうしたらさ、うちの両親にも蓮くん紹介したい」
『え? ああ、そうか……そうだなちゃんとご挨拶しないとな……』
言葉尻がすぼんでいった声。
「どうしたの? 緊張してるの?」
『そりゃあ、だって、もし病気のことで反対されたら……』
そっか……
でも、私は――
「大丈夫。たとえ反対されても私は蓮くんと一緒にいるから」
『いや、それはダメだよ』
「え?」
反対されたら、ダメなの?
『ダメっていうか、俺のせいで結衣の家族がおかしくなるのは違うだろ。だからちゃんと俺を認めてもらえるように、自信はないけど……頑張るから』
「うん……」
ダメだ。
会いたいよ。
触れたいよ。
蓮くんの呼吸。
少し荒い。
不安だよね。
傍にいたい。
傍にいて欲しい。
一緒にいたいって。
蓮くんも想ってるよね?
今。
小さく息を吸う私。
「じゃあ、私から病気のこと話しておいてもいい?」
『いや、俺から言う』
強くて。
はっきりとした声。
「そっか。わかった。あ、明日はどうするの?」
『ああ、えーと午前中10時に家来れる? 駅まで迎えに行くけど』
「うん」
『お昼さ、一緒に食べよって言ってるから』
「うん」
ああ……
そっか……
帝釈寺で蓮くんのお母さんと会ったことがふとよぎった。
なんか哀しそうに思えたのは。
そう言うことだったんだ。
それにあのご祈祷も……
『どうした結衣? なんか元気ない』
「え? そんなことないよ」
『本当に?』
「うん。ちょっと緊張してるだけだよ」
『ならいいけど……』
「あ、そうだ、蓮くんの家の冷蔵庫にお漬物のタッパ入れっぱなしなの。一緒に食べようって思って忘れてた」
「え? そうなの。ありがとう。うれしい。結衣の浅漬けは宇宙一旨い」
「へへ。ありがとう。あ、私の両親に会う日は、また連絡する」
『はい。わかりました』
声が動いた。
しゃべりながら、お辞儀してるのかなって。
そんな姿が頭に浮かぶ。
「蓮くん?」
『ん? どした?』
「大好きだよ」
ふって吐かれた息の音。
フフ。
きっと笑ってる。
『ああ、俺も結衣が大好きだ』
こころに直通のこころの声。
「フフ。じゃあ、今日は寝るね。明日また」
『あ、ああ。じゃあ、おやすみ』
「うん、おやすみ」
ツー。
スマホを抱きしめる。
元気ないだって。
声でも分かるんだ。
元気ないんじゃないよ。
噛みしめてるんだよ。
電話口の声。
いつよりちょっと低い声。
初めて聞くし。
それに――
怖いけど。
満たされてるんだよ。
蓮くんに。
私の全部に触れてくれた蓮くんに。
ピコン。
ん?
蓮くんからメッセージ。
『おやすみ、結衣』
さっき声で聞いたよ。
かわいくて頬が緩む。
あっ。
画像が添付されている。
初めてのツーショット。
私の手作りパンケーキも一緒。
私も。
蓮くんも。
にこにこ大魔王。
「画像ありがとう。蓮くん。たからものだよ。おやすみなさい」
ピコン。
『俺もだよ。待ち受けにした。じゃあ、明日な』
「うん。明日ね」
唇をかみしめて。
さっそく私は待ち受けに設定する。
この写真みたいに。
笑顔の瞬間。
たくさん過ごそうね。
お読み頂きありがとうございます_(._.)_。
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